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年功序列から成果主義へ変更する方法と、メリット・注意点

「働き方改革」をはじめとする昨今の流れは、旧来の日本的雇用慣行の変革にあります。

日本的雇用慣行の根底にあるのが「年功序列」の考え方です。会社に勤続している年数に応じて賃金を評価する制度であり、わかりやすくいえば、「長く会社に勤め続けるほど、賃金が高くなる」のです。

しかし、1つの会社に新卒から定年まで勤め続ける、という人はむしろ少なくなり、転職をしてキャリアアップを目指す人のほうが多くなった結果、「年功序列」は、機能しづらくなりました。

「年功序列」から「成果主義」へと賃金体系を変更する企業も増えていますが、古くから続く慣行を切り替えることは容易ではなく、注意点が多く存在します。

そこで今回は、会社が賃金制度を見直すにあたって考えるべき「年功序列」から「成果主義」へと変更する方法と、メリット、特に「法的な」注意点について、弁護士が解説します。

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目次(クリックで移動)

年功序列とは?

「年功序列」とは、勤続年数と年齢が上がるにつれて、賃金水準が上昇していくという賃金体系のことをいいます。日本的な雇用慣行として、古くから継続してきたルールが「年功序列」です。

「年功序列」では、賃金の決め方を、「職能等級」と「職位」により序列化して、勤続年数に応じて昇格させていきます。このルールは、就業規則、賃金規程などに定めておきます。

「年功序列」の考え方は、「年齢があがり、会社に勤め続けるほど、業務遂行能力は上がり続ける」という考え方が基本にあります。

社員が将来の人生設計をしやすく、安定して働くことができ、会社としても中長期的な教育ができるメリットがありますが、デメリットも多くあり、変革を迫られています。

【デメリット①】社員の高齢化

「年功序列」が想定していなかったデメリットの1つ目が、社員の高齢化です。

「勤続年数と年齢が上がれば、能力も上がり続ける」という仮定に疑問があり、かつ、仮に能力が上がり続けたとしても、その社員の生み出す利益も増大し続けるわけではありません。

そのため、高齢化し、「年功序列」のルールに基づいて給与が高額化した社員が会社に残り続けると、人件費のコストが増大し、会社が負担しきれなくなります。

「年功序列」のはじまった高度経済成長期で、会社が継続的に成長し続けていればよいですが、会社の業績が悪化しはじめると、給与が割高になった高齢な社員ほど、会社から解雇(リストラ)されるようになります。

【デメリット②】転職の増加

「年功序列」のデメリットの2つ目は、転職の増加です。

「年功序列」は、年齢と勤続年数が上がるにつれて給与が上がっていく一方で、若い新入社員の給与は、その職務遂行能力に比べて安く買いたたかれがちです。

そのため、転職が増加すると、「勤続年数が長くなればたくさんの給与がもらえるから、今は我慢」という会社への忠誠心が薄れ、労働者側から「年功序列」の賃金体系への不満が生まれます。

また、転職をして中途入社してきた社員は、勤続年数は短いけれども年齢は高く、新卒から貢献してきた社員と比べてどのように処遇したら不公平にならないか、会社は頭を悩ませることになります。

【デメリット③】会社自体の不安定さ

「年功序列」には、会社が安定して長く継続すれば、労働者としても人生設計が立てやすく、長く勤続し続ければその分だけ高額の給与をもらうことができます。

しかし、新しいサービスの広がるスピードが速くなり、経済のグローバル化が進展するにつれて、会社の継続性自体が、そもそも信頼に足るものではなくなりました。

中小企業、ベンチャー企業、スタートアップなどの小規模な会社はもちろんのこと、大企業ですら、長期にわたって生き残ることができるかどうか疑問であることは、大企業の破綻や不祥事のニュースを見れば明らかです。

「会社に長く貢献すれば、給与が高くなる」という「年功序列」の発想も、会社自体がそもそも破産などによりなくなってしまえば、根底から覆されてしまいます。

成果主義とは?

高額になりすぎた高齢の社員の人件費が、慢性的な課題となっている中で、「成果主義」への転換を図る会社が増えています。

「成果主義」とは、成果や業績に基づいて賃金額や昇格・昇進を決定する方法のことです。「能力主義」と言い換えることもでき、海外において、ごく一般的な制度です。

「年功序列」の考え方から「成果主義」による賃金体系に改めることによって、人件費を、業績や成果に応じた金額にすることができ、固定的に経営を圧迫してきた費用を、変動的に考えることができるようになります。

次に、なぜ「成果主義」に変更すべきなのか、すなわち、「成果主義」のメリットについて、弁護士がご紹介します。

【メリット①】労働者のモチベーション向上

契約獲得件数など、社員個人の業績との相関性の高い「成果主義」の賃金体系を導入した場合、「成果を上げれば、給与が高くなる」関係にあるため、労働者のモチベーションを向上させやすくなります。

給与が「時間」ではなく「成果」で決まることを理解すれば、長時間労働に走ることなく、生産性を向上させて効率的に成果をあげる努力を、労働者が率先して行ってくれます。

一方で、高い成果をあげる社員と、成果の低い問題社員との格差がますます開く一方であり、社員間の不公平感が、会社内の不和を招き、離職率が上がってしまう危険があります。

【メリット②】コスト管理のしやすさ

人件費という、会社においてとても大きな費用が、業績と成果に連動することによって、会社経営をする側にとって、コスト管理がしやすくなることが「成果主義」のメリットです。

会社の業績と人件費の連動について、より相関性の高い「成果主義」の制度とすれば、会社の業績が悪ければ、人件費も低くなり、万が一の破産なども起きづらくなります。

【メリット③】公正な評価制度

「年齢」は、自由に変えることができない所与のものであり、「勤続年数」も、後から入ってきた人が上司を追い抜くことはできません。

そのため、「年功序列」は、評価の硬直化を招き、「年功序列」の考えのもとで低い評価を受けざるを得ない社員から、「不公平だ」という批判を招き、やる気を失わせる原因となります。

中には、勤続年数が長い社員同士の暗黙の了解で、不公正な評価が行われる可能性も否定できません。

「成果主義」は、「成果」によって評価して賃金を増減することから、「頑張れば給与を上げることができる」と考えることができ、より公正で、公平な評価制度であることをアピールできます。

年功序列から成果主義への変更の注意点

「成果主義」による賃金体系は、欧米では一般的なものですが、日本では、最近になってようやく導入する企業が増えてきた制度です。

そのため、特にこれまでは「年功序列」の考え方によって賃金を決めてきた会社にとっては、変更には「痛み」を伴う場合があります。

「年功序列」から「成果主義」への変更が大きなリスクを生んでしまったり、労使トラブルの原因となってしまわないよう、変更の際の注意点について、弁護士が解説します。

具体的な賃金体系の設計

「成果主義」と一言でいっても、具体的な賃金体系の設計方法には、さまざまなパターンがあります。「成果主義」による賃金の決め方の実際の例は、次のとおりです。

  • 「年俸制」として、1年の成果・業績を反映して来期の給与額を決定する制度
  • 成果・業績を反映した「賞与」を年2回支給する制度
  • 基本給と歩合給を設定し、成果・業績に応じて歩合給の割合が高くなる制度
  • 成果・業績に応じたインセンティブ給、出来高給を支払う制度

そして、賃金の金額や決定方法は、労働者の生活を守るとても重要な労働条件の1つであるため、雇用契約書のほか、労働条件通知書に記載し、入社時に明示しておく必要があります。

評価制度を明確化する

「年功序列」の場合には、「勤続年数」という基準は客観的に明らかですが、「成果主義」の評価の軸となる「成果」は、抽象的であり、曖昧です。

「契約数」のみによって評価する、というのであれば明確ですが、会社側(使用者側)が、何を「成果」と考えるかを事前に労働者に明示しておかないと、不公正な評価が蔓延する危険があります。

賃金制度が具体的に決まったら、評価制度が一目して明らかにわかるように、就業規則、賃金規程にも、体系的に整理しておきましょう。

合わせて、評価者である上司が、会社の作った評価制度を正しく運用することができるよう、評価者である管理職に対する教育、研修も重要です。

「人件費の削減」ではなく「人件費の再分配」

「成果主義」の導入を、「人件費を減らすことができる手段」と考えている会社がありますが、これは誤りです。「年功序列」も「成果主義」も、給与を決定する考え方の1つに過ぎず、「どちらのほうが『お得』」ということはありません。

そのため、「年功序列」から「成果主義」に変更するにあたり、「人件費を減らす」という発想ではなく「人件費を再分配する」というイメージで考えるべきです。

要は、これまでは年齢が高く、勤続年数の長い社員に集中していた人件費を、より成果を出して会社に貢献した社員に対して再分配する、ということです。

「労働条件の不利益変更」にならない?

人件費を再分配して、総額の人件費を変えることなく「成果主義」を導入するよう注意をしたとしても、各社員単位で見れば、やはり「成果主義」の導入によって不利益を被る人がいます。

勤続年数が高く、これまでは高給取りだったのに、給与に見合う成果を出していなかった社員が、これに当たります。

たとえ成果を満足に出せていない社員であっても、これまでの長年の勤続による貢献を評価する必要があり、急に労働条件を不利益変更することは、違法と評価される可能性が高いです。

できる限り、不利益の幅を小さくし、急激な変化により労働者の生活を崩してしまわないよう、「経過措置」、「激変緩和措置」を設け、社員の不利益に配慮することが重要です。

成果主義の過信は禁物

成果主義には多くのメリットがありますが、過信は禁物です。

雇用をしている労働者に対しては、「最低賃金」をはじめ、最低限の生活保障が必要となるため、いわゆる「完全成果主義」、「完全歩合制」(成果をあげなければ、給与はゼロになる。)は適用できません。

また、成果主義には、次のデメリットがあります。

  • 社員が目先の成果を追い求め、中長期的な会社の成長を考えなくなる
  • 会社側も、転職リスクを考え、将来性を見越した教育ができなくなる
  • 個人の成果を追求し、社内の協力、コミュニケーションが枯渇する
  • 優秀な社員の離職率が上昇する

そのため、「年功序列」から「成果主義」に転換するといっても、完全に「成果主義」だけに依拠するのではなく、「年功序列」的な部分も残し、徐々に移行していくことがお勧めです。

「雇用」ではなく、「請負」契約をしたフリーランス(個人事業主)であれば、完全成果連動型の報酬体系とすることも可能です。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、日本的雇用慣行の根底を支える「年功序列」から、「成果主義」の賃金体系に変更するときのポイント、注意点を、弁護士が解説しました。

「成果主義」は、現代の労働者の価値観に合っており、その考え方を取り入れていくことが、会社経営の成功にとって非常に重要です。しかし、「成果主義」も万能ではありません。

「成果主義」をどの程度取り入れるか、「年功序列」をどの程度残すか、また、「成果主義」から「年功序列」に変更する際に、法的に注意すべき「不利益変更」などにも配慮が必要です。

会社内の賃金制度の設計にご不安、ご疑問をお持ちの会社は、ぜひ一度、人事労務に強い弁護士にご相談ください。

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