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妊娠中の労働者には、絶対に退職勧奨してはいけない?

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最近では、妊娠中の労働者に対して、会社が不利益な処分をして問題となった事件が増えています。妊娠した労働者に対する不利益な処分は「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」として社会問題化しています。

企業においても、妊娠している労働者への不利益処分をしてはいけないという意識が広がっています。

一方で、妊娠している立場を利用して、悪態をついたり、会社に不合理な要求をしたりする労働者や、そもそも妊娠の有無にかかわらず解雇としたい社員なども、少なからずいるのではないでしょうか。

妊娠中の労働者に対して、不利益な処分をするとき「マタハラ」の責任追及をされる危険はとても大きいものの、妊娠中の労働者を過剰に保護し、会社が遠慮しすぎることは、業務への支障を招くおそれもあります。

そこで今回は、企業が、妊娠している労働者に対して退職勧奨をするときの注意点、退職勧奨の具体的な進め方などについて、弁護士が解説します。

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妊娠中の労働者に対する法的保護

労働法においては、会社に比べて弱い地位にある労働者に対する保護が定められていますが、その中でも、特に、妊娠中の労働者に対しては、特別な法的保護の制度が数多くあります。

妊娠中の労働者は、長時間労働、過度な肉体労働を行うことができず、肉体的な負担を抑える必要があるためです。

妊娠中の労働者を保護する主な法律には、次のものがあります。

  • 労働基準法
  • 男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)
  • 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)

妊娠中の労働者に対する退職勧奨を行う際にも、これらの妊婦を保護するための法律に抵触する場合には、会社の退職勧奨行為が違法と判断されるおそれが非常に高いです。

そこで、まずは、退職勧奨を行う前に会社が理解しておくべき、妊娠中の労働者に対する法的保護について、弁護士が解説します。

注意ポイント

企業が、下記の労基法の各規定に違反した場合「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰が科せられます。

また、男女雇用機会均等法の各規定に違反した場合、厚生労働大臣から、勧告を受ける可能性があり、更に勧告に従わなかった場合には社名公表を受ける可能性があります(男女雇用機会均等法29条、30条)。

産前産後休業(産休)

産前産後休業は、「産休」とも呼びます。出産の前後は、特に妊婦の身体への負担を控える必要があるために、労働基準法(労基法)に定められた休業制度です。

具体的には、会社は、6週間以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求した場合には、その女性労働者を就業させてはなりません(労基法65条1項)。また、産後8週間を経過しない女性労働者は、その請求があるかどうかによらず、就業させてはなりません。

産前の休業は、妊婦本人の請求を待って与えられる休業であるのに対し、産後の休業は、本人の請求の有無を問わず与えられなければならない強制休業であるという違いがあります。

もっとも、出産後6週間を経過して、女性側から請求があった場合には、医師が、支障なしと認めた業務に就業させることができます。

妊娠中の軽易業務への転換

会社は、妊娠中の女性から請求があった場合には、他の軽易な業務に転換させなければなりません(労基法65条3項)

妊婦の負担は一律ではなく、人によって、どの程度の業務を負担に感じるかはそれぞれ違うため、妊娠中の女性社員からの請求によって、会社側(使用者側)が、業務の負担を軽減しなければならないことを定めた規定です。

また、妊娠中の女性従業員が求める場合には、「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)以上の労働をさせてはならず、深夜残業、休日労働をさせることもできません(労基法66条)。

妊娠中の不利益取扱の禁止

会社は、産前産後の女性が休業している期間と、その後の30日間は、原則として妊娠した女性労働者を解雇することができません(労基法19条)。

男女雇用機会均等法においても、妊娠・出産などを理由として、不利益な取扱いをすることが禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項)。

具体的には、妊娠・出産、つわり、切迫流産などで仕事ができない、労働能力が低下した、時間外労働や深夜残業をしないなどの事由を理由として解雇、雇止め、降格、賞与等における不利益な算定、不利益な自宅待機命令などの不利益な取り扱いをしてはいけません。

育児休業(育休)

育児休業は、「育休」ともいい、労働者の育児時間の負担に配慮して与えられる休業制度であり、育児・介護休業法によって定められています。

原則として、1歳未満の子を養育する労働者に対して、子が1歳になるまでの期間、休業することを申し出ることができます(育児・介護休業法5条)。

育児休業(育休)は、女性労働者だけでなく、男性労働者も取得することができますが、「育児休業中に賃金を支払うかどうか。」は、会社が労働契約の内容によって決めることができ、無給でも構いません。

会社は、労働者からの育児休業の申請を拒むことは原則としてできませんが、労使協定に定めることによって、次の労働者からの育休申請を拒むことができます。

  • 引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

妊娠中の女性に対する退職勧奨は許される?

退職勧奨は、会社(使用者)が労働者に、自発的な退職を促す行為です。

あくまでも、自発的な退職を促すだけであって、これに応じて退職するも、応じずに在職し続けるも、退職勧奨を受けた労働者の自由な意思に任されています。

そのため、妊娠中の女性労働者に対して退職勧奨を行うことも、それ自体が直ちに違法となるわけではありません。

もっとも、以下で解説するように、退職勧奨を行う理由や方法などによっては違法行為となる危険がありますので、注意が必要です。

「妊娠」を直接の理由とする退職勧奨は?

妊娠したことを直接の理由として退職勧奨をすることは、妊娠が女性のみ生じる生理現象であることから労働者の「性別を理由として」差別的取扱いをしたと評価され、違法になる可能性があります(男女雇用機会均等法6条4号)。

実際、妊娠したことで、働き方が変わってしまったり、今まで行っていた業務の種類によっては、今後は担当できない可能性もありますが、妊娠を理由とした不利益取扱は、「マタハラ」として社会問題化しています。

そのため、企業としては、退職勧奨をする際の理由が妊娠したことや出産したことなど性別を直接の理由としていないか、事前にチェックする必要があります。

「妊娠」以外の理由による退職勧奨は?

「妊娠」以外、例えば、能力不足を理由に退職勧奨をする場合は違法でしょうか。

「性別を理由として」(男女雇用機会均等法6条4号)とは、労働者が男性であること又は女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において、男性労働者と女性労働者の間に一般的又は平均的に、能力、勤続年数、主たる生計の維持者である者の割合等に格差があることを理由とすること、という意味であるとされており、個々の労働者の意欲、能力等を理由とすることはこれに該当しないとされています(平成18年10月11日 雇児発第1011002号)。

そのため、退職勧奨を実施する理由が能力不足である場合には、一般に性別とは無関係な事由ですので、退職勧奨を実施することも適法となる可能性が高いです。

もっとも、退職勧奨の一般的にあてはまる問題として、退職勧奨の手段や方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱すると、退職勧奨が不法行為に該当し、使用者が損害賠償責任を負う場合もありますのでその点にも配慮が必要です(最高裁昭和55年7月10日判決)。
 

妊娠中の労働者に対する退職勧奨の進め方

妊娠中の女性労働者に対して退職勧奨を行う場合、退職勧奨の手段や方法について社会通念上相当と認められる範囲が、通常よりも狭く解釈される可能性があるため、注意が必要です。

例えば、通常であれば社会通念上相当と認められる退職勧奨でも、妊娠により体調がすぐれない時期に退職勧奨を実施すると、退職勧奨の方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱すると判断される可能性があります。

そのため、企業としては退職勧奨をする場合には、対象者の健康状態や出産時期に、特に配慮が必要です。

妊娠だけを理由とするのでなく、能力不足や勤怠不良など、その他の理由によって、やむを得ず妊娠した労働者に対する退職勧奨をしなければならないとき、会社側(使用者側)の注意点を弁護士が解説します。

妊娠以外の理由付けを精査する

妊娠を直接の理由として退職勧奨を行うことは、違法となる可能性が高いため、企業としては、それ以外の理由(例えば、能力不足等を基礎づける具体的な事情)をしっかりと精査することが大切です。

万が一、労働者側が「退職強要を受けた」、「解雇された」といって裁判などで争ったときにも戦えるよう、客観的な証拠が必要となります。

退職勧奨の理由を書面で説明する

退職勧奨の理由を口頭で説明してしまうと、後日、言った、言わないの水掛け論になり退職勧奨を円滑に進めることができなくなる可能性があります。

事後の紛争を防止するためにも、きちんと書面で退職勧奨の理由を説明することが大切です。書面で退職勧奨の理由を説明することは、労働者の納得を得ることにもつながります。

女性労働者が、退職するのではなく、産後に復帰することを前提として休職に入るだけだと誤解しないよう明確な説明を行うことを意識しましょう。

退職以外の手段を提案する

企業としては、退職以外の措置(たとえば、配転や降格など)も選択肢として提示できるのであれば、複数の選択肢を提示したうえで、その中から労働者に選択をさせることも退職以外の手段として有効です。

この対応は、妊娠を機に、現在の業務を担当することが難しいけれども、他の業務に異動させ、労働条件を変更させる余地が、会社に残っている場合に役立ちます。

もっとも、一方的に降格をさせ、以前の役職に復帰させないなどの措置は妊娠を契機とした不当な扱いと判断される可能性があるため、慎重な判断が必要です。

不利益緩和措置の提案をする

可能な限り不利益緩和措置を講じることも、退職勧奨を適法とさせる重要な要素です。

例えば、退職日までの間に一定の期間を空けることで転職活動の機会を付与したり、就業規則に規定されている退職金とは別に、特別退職金を用意するなど退職をした後の不利益を緩和できる措置を個別具体的に検討・提案することが大切です。

退職の「強要」はしない

妊娠中の労働者を合意退職させた場合でも、当該労働者が自由な意思に基づいて退職に同意したと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在しないと、退職の効力が否定されてしまう可能性があります。

そのため、退職を強要する言動は、絶対に控えましょう。

また、退職勧奨をする面談の場面で即断を迫るなどの圧力をかける行為や退職をせざるを得ない状況を作出することは避けましょう。

労働者の自由な意思に基づく同意を取得する

労働者の自由な意思に基づかない退職は、有効性が争われる可能性がありますので、自由な意思による同意を取得する方法をきちんと検討しましょう。

具体的には、まず、正当な権利(例えば、労働基準法65条3項に基づく軽易業務への転換請求権など)が存在することを伝え、退職勧奨中といえども正当な権利行使は制約されない旨を説明します。

同意が得られた場合には、権利告知をした事実及びその権利行使を労働者の選択に委ねる説明を行ったことなどを同意書の内容に記載することも有益です。

特別退職金、退職日までの就労義務免除、転職活動期間への考慮など、労働者に有利な取り決めをすることは、労働者の自由な意思に基づいていることの証明とります。このような配慮を会社が可能な場合には、次に示すとおり、退職時の合意書に明記しておきます。

妊娠中の労働者から取得すべき同意書(書式・ひな形)

以上のことから、妊娠直前直後の、産前産後休業中と、その後の30日間は解雇が禁止されているものの、退職勧奨は禁止されているわけではありません。

妊娠した女性従業員の中には、「会社に迷惑をかけるのではないか。」、「条件によっては、妊娠をきっかけに、退職してもよいのではないか。」と感じている社員も少なくありません。

ただ、会社側(使用者側)が適切に退職勧奨を行っていると思っていても、これを受けた女性従業員側は、「退職を強要された。」、「違法な『マタハラ』を受けた。」と感じることもあります。

適切な進め方で退職勧奨を行い、妊娠している女性従業員の同意を得て退職してもらったことを証明するために、次のような同意書を取得することが効果的です。

合意書

株式会社○○○○(以下「甲」という。)と○○(以下「乙」という。)は、甲乙間の労働契約及び乙の退職に関して、以下のとおり合意する。

第○条 甲と乙は、当事者間の労働契約を、○○年○月○日付で、合意解約することを相互に確認する。

第○条 甲は、乙が妊娠中に退職することを考慮し、本同意書締結時から前条の退職日までの期間、乙に出勤を命じないものとする。

第○条 甲は乙に対し、乙が妊娠中に退職することを考慮し、就業規則○条に記載された退職金の他、特別退職金として金○○万円を、本年○月○日限り、乙の指定した口座に振込の方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。

第○条 甲及び乙は、甲と乙の間に、本合意書に定める他、一切の債権債務関係のないことを確認する。

本合意書記載の合意が成立したことを証するため、本合意書2通を作成し、甲乙双方が署名押印の上、各1通を保管する。

○○年○月○日

(甲) 住所
    氏名

(乙) 住所
    氏名

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、裁判例などで社会問題となった「マタハラ」に関連して、妊娠した労働者に対して退職勧奨をするときの注意点と、具体的な進め方について、弁護士が解説しました。

労働基準法、男女雇用機会均等法などの労働法で、妊娠・出産・育児中の女性は強く保護されていますが、退職勧奨をすることが絶対に禁止されているわけではありません。

今回解説した退職勧奨の進め方は、あくまでも一例にすぎません。

妊娠中の女性社員の処遇には、特に注意が必要であり、不適切な対応をすれば「マタハラ」の責任追及をされる危険があります。

労働法についての専門的な知識・経験に基づく個別具体的な判断が求められる「妊娠中の労働者に対する退職勧奨」については、ぜひ一度、人事労務に強い弁護士にご相談ください。

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