近年、「リベンジ退職」が、企業経営の新たなリスクとして注目されています。
リベンジ退職は、単に離職するのではなく、職場への不満や怒りを抱えた従業員が、それを意図的に形にして企業にダメージを与える報復行為です。繁忙期に突然退職を申し出たり、社外にネガティブな発信をしたりなど、時には違法行為を伴い、企業の信頼を大きく揺るがします。
リベンジ退職を行う労働者にも問題はあります。しかし、企業側も、不満の原因が職場環境やマネジメント体制にあることを見逃すと、知らぬ間に大きなリスクを抱え込んでしまいます。
今回は、リベンジ退職の意味や原因、企業が取るべき対応策を解説します。
- リベンジ退職が起こる原因と背景を知り、労働者の不満を軽減する
- リベンジ退職が起こったら、冷静な初動対応で被害の拡大を防ぐ
- リベンジ退職の再発防止のため、弁護士と連携し、社員の信頼を回復する
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リベンジ退職とは
はじめに、リベンジ退職の基本について解説します。
リベンジ退職の定義と意味
リベンジ退職とは、職場や上司への強い不満や不信感を背景に、意図的に組織にダメージを与えることを目的とした退職時の行動を指します。
通常は、転職やキャリアアップなどが理由とするのに対し、リベンジ退職は、報復や復讐、抗議の意味合いがあります。SNS上や転職口コミサイトでも「辞めてやった」「ブラック企業に仕返し」といった投稿が注目を集め、社会問題になっています。
会社への抗議という点で、「退職代行」や「静かなる退職」と似た側面がありますが、リベンジ退職とは区別して理解すべきです。
退職代行との違い
退職代行は、直接の連絡を取らずに会社を辞めるための手段です。
退職代行を使う社員も、会社に不満がある人が多いですが、「連絡を取りたくない」というのが主目的で、必ずしも報復の意図があるとは限りません。一方でリベンジ退職は、会社に痛手を与えるのが目的であり、攻撃的な動機があります。
静かなる退職との違い
会社への不満から、「静かなる退職」を選択する人もいます。
静かなる退職は、必要以上の熱意や時間をかけず、最低限の仕事しかしない働き方です。貢献は少なくなるものの、ダメージを与える意図まではない点が、より能動的な行動を伴うリベンジ退職との違いです。
よくあるリベンジ退職の具体例
リベンジ退職の代表的な行動は、例えば次のようなものです。
繁忙期に突然退職する
具体例の1つ目が、繁忙期にあえて退職し、組織を混乱させるケースです。
業務を放棄して退職されれば、仕事に支障が出るのは当然で、残された社員の負担は増え、士気も低下します。欠員補充のための追加の採用コストを要しますし、納期遅れが生じれば取引先の信用も喪失します。悪質な場合、重要な顧客や取引先についての引き継ぎを拒否する例もあり、会社の損失は更に拡大してしまいます。
一人のリベンジ退職を機に、他の社員の離職が連鎖する事例もあります。
「退職時の引き継ぎは義務?」の解説

内部告発で企業イメージを失墜させる
具体例の2つ目が、内部告発で企業イメージを失墜させるケースです。
例えば、パワハラ、残業代の未払い、有給休暇の取得制限といった違法な実態を暴露するケースです。労働問題が実在することは許されず、企業が防止策を講じるべきは当然です。しかし中には、虚偽や誇張の告発でダメージを与えようとするリベンジ退職もあります。顧客や取引先にも嘘の悪評を伝え、信頼関係を壊そうとする事例もあります。
SNSや転職口コミサイトなどで発信すれば、投稿内容は瞬く間に拡散され、企業名を特定されて炎上に発展しかねません。
「SNS上で情報発信するときの注意点」の解説

重要データを削除して業務を妨害する
具体例の3つ目が、社内の機密情報を漏洩するケースです。
会社側の扱いに問題があったとしても、企業秘密の漏洩は許されません。重要な情報をデータで保存することの多い昨今は、単に持ち出すだけでなく、社内システムや共有フォルダ上で、重要なデータを意図的に削除して業務を妨害する事案も見受けられます。
社員がリベンジ退職に踏み切る背景
次に、リベンジ退職が起こる原因と背景を解説します。
リベンジ退職は、突発的な感情によるものにも見えます。しかし実際は、長期に渡る不満や無力感が蓄積し、解消されなかった結果としての最後の手段です。
職場環境に対する不満の蓄積
リベンジ退職の原因の1つ目が、職場環境への不満の蓄積です。
長時間労働、ハラスメント、不公平な評価、業務過多といった組織の課題が放置されると、社員の心身は疲弊し、不満を募らせます。限界を迎えて退職する頃には、対策を講じなかった組織に対する報復的な態度として表れます。
SNSの普及により、個人でも企業の内情を暴露しやすくなったことも一因です。情報を拡散させやすい環境の整った現代では、退職時にSNSで企業への不満を爆発させる人が増えています。不満を可視化し、共有できる環境が、リベンジ退職を可能にしているのです。
「SNS投稿監視サービス」の解説

退職に関する価値観の転換
リベンジ退職の原因の2つ目が、労働者の価値観の転換です。
終身雇用の慣行が根強く残っていた過去は、「理不尽でも我慢するのが当然」「耐えるのが美徳だ」と考えられていました。
しかし、転職が一般化した現代は、会社に一生を捧げる時代ではなくなりました。Z世代を中心に「我慢して働き続ける」より「自分らしく生きる」ことを優先する風潮も強まっています。退職の心理的ハードルは下がり、「不満なら、無理に留まる必要はない」と判断する人が増えていることも、リベンジ退職をしやすくなっている一因です。
労使間のコミュニケーションギャップ
リベンジ退職の原因の3つ目は、労使間のコミュニケーションギャップです。
上司や経営層との間で価値観や期待にズレがあると、「話しても無駄」「改善を求めても理解されない」といった不満が蓄積します。訴えを軽視された社員は孤立感を強め、退職時に過激な行動に出る傾向があります。入社前の企業イメージ、抱いていた理想像と、実際の職場環境にギャップを感じると、「裏切られた」という思いからリベンジ的な辞め方をすることがあります。
特に、正義感が強く真面目な人ほど、組織の不正や不公平に黙っていられず、退職時に抗議行動を取るケースが見られます。
リベンジ退職による企業のリスク
リベンジ退職は、企業に大きなリスクや損失をもたらします。
リベンジ退職した社員が抱えていた業務の停滞、人員不足といった直接の影響はもちろん、社内全体の士気が低下したり、企業の評判が傷ついたりといった間接的な影響も見逃せません。
業務の停滞・人員不足
リベンジ退職が起こると、業務に支障が生じ、人員が不足しがちです。
繁忙期や重要なプロジェクトの最中に突然辞められると、引き継ぎが不十分なまま業務が滞り、現場が混乱します。専門性の高い社員は、代替要員の確保が特に難しく、サービス品質の低下を招き、取引先からの信用を失墜させかねません。急な離職は、残された社員の負荷を増やし、更なる離職の連鎖を生む危険もあります(ドミノ退職)。
社内の士気の低下
リベンジ退職は、一社員だけの問題でなく、社内の士気低下にも繋がります。
リベンジ退職の背景に、違法な労働環境、不当な扱いがある場合、他の従業員も「自分も同じ扱いを受けるかも」「社員を大切にしない会社だ」という印象を抱きかねません。従業員と企業の信頼関係が損なわれれば、心理的安全性性が低下し、業務への貢献も消極的になっていきます。
労働問題の発生
リベンジ退職の背景に違法な労働問題がある場合、退職後に争われる危険もあります。
リベンジ退職をした社員が、退職後に未払い残業代やハラスメントの慰謝料を請求し、労働審判や訴訟といった法的手続きに出ることがあります。在職中は「居づらくなるから」と我慢してきた権利侵害でも、退職してしまえばもはや請求を躊躇う理由がなくなります。
企業の信用低下
最後に、リベンジ退職の結果として、企業の信用が低下することもあります。
リベンジ退職者がSNSや転職口コミサイトに不満やトラブルを公開すると、企業の信用に深刻なダメージを与えます。「ブラック企業」のレッテルを貼られれば、事実かどうかにかかわらずイメージが先行し、信用失墜に発展することもあります。
評判の悪化は、採用活動にも悪影響です。応募数の減少や、優秀層からの敬遠によって、採用コストが増加したり、人材確保に時間がかかったりといったデメリットがあります。また、在職中の社員の意欲も低下し、人材流出に歯止めが効かなくなるおそれもあります。
社外に悪評が拡散されれば、顧客や取引先からの信用も低下してしまいます。
リベンジ退職を防ぐための対策
次に、リベンジ退職を未然に防ぐための対策を解説します。
リベンジ退職が「突然の裏切り」だと思っているのは企業側だけで、労働者にとっては蓄積した不満についての最後の訴えです。日頃から、労使の誠実な対話を心がけ、公平な仕組みを整えることが、リベンジ退職のリスクを回避する役に立ちます。
社員の声を拾う仕組みを整える
社員の不満や違和感は、日常的に蓄積されています。その兆候を早い段階で拾うことで、リベンジ退職に至るほどの大きな不平・不満を貯めない努力が必要です。
例えば、社員の声を拾う仕組みとして、次の対策を講じましょう。
- 匿名アンケートを実施する。
- 定期的な1on1ミーティングを実施する。
- 評価面談を行い、改善点をフィードバックする。
- ハラスメントの相談窓口を設置する。
- 就業規則などの規程類を整備する。
- 管理職研修を実施し、正しい対処法を教育する。
社員の本音を吸い上げ、不満を可視化すれば、早期の対応が可能です。日常的に部下と対話する機会を設け、業務負荷や人間関係の悩みなどを早期に把握できれば、信頼関係が決定的に決裂するより前に手を打つことができます。
リベンジ退職を考える社員は、発言が減ったり、残業や休日出勤といった貢献を拒むようになったりといった変化が見られます。小さな前兆を放置せず、上司や人事が早めに声掛けをすることが、深刻な事態を防ぐ第一歩です。
公平な評価とフィードバックを行う
「努力が報われない」「評価が恣意的だ」と感じるほど、社員の意欲を奪います。
一方で、評価というのはプラスだけでなく、マイナス面もあるのが当然です。「報われていない」「不当だ」という思いを抱かせるとリベンジ退職に発展してしまうため、透明性の高い公平な評価制度を設け、基準を明確にすることが大切です。
評価面談では、定期的なフィードバックを行います。納得いかない評価だとしても、努力や成長を認めることが重要です。また、どのように改善すれば良い評価を受けられるのかを具体的に指摘し、不満の蓄積を防ぎましょう。
若年層は特に、「成長実感」や「対話による納得感」を重視する傾向があることを、世代の異なる管理職ほど、よく理解しなければなりません。
「パワハラにならない注意の仕方」の解説

管理職の意識改革を行う
リベンジ退職の多くは、職場環境への不満がきっかけです。そのため、管理職の意識改革を行うことで、リベンジ退職を減らすことができます。
例えば、次のような心構えで信頼関係を構築しなければなりません。
- 「リベンジ退職なんてうちでは起きない」は危険。
- 誰しも潜在的には不満があると心がけ、解消に努める。
- 感情的なサイン(発言・態度の変化)を見逃さない。
- 部下の「報われていない感情」を定期的にヒアリングする。
- 「我慢している人ほど危ない」という意識を持つ。
- 「あの人は辞めないだろう」という思い込みを捨てる。
一度の対応ミスや失言が、信頼関係を決定的に壊してしまうと理解すべきです。間違っても、次のような対応はしてはいけません。
- 「嫌なら辞めれば?」と発言する。
- 従業員の不満を軽視する(例:「甘えだ」「若い奴は根性がない」など)。
- 不満を述べた部下に報復する。
- 退職を「裏切り」と捉え、人格否定を行う。
このような対応では、社員は「この会社に居続けると損をする」という不信感を抱き、リベンジ退職を助長してしまいます。
退職者には誠実に対応する
退職を申し出た社員に誠実に対応することも重要です。
退職が近いからといって冷たい対応をしたり、無理に引き留めしたりするのは逆効果です。退職時の対応こそ、最後の企業イメージを基礎づける重要な局面です。次のポイントを押さえて、退職後に問題が残らないようにしてください。
- 引き継ぎしやすい環境を整える。
- 退職者に感謝を伝え、敬意をもって送り出す。
- 退職者の悪口を言わない。
- 転職の妨害をしない。
- 退職後も連絡可能な関係性を維持する(アルムナイ制度など)。
以上のことを徹底し、社員が「辞めても悪く言いたくならない」関係性を心がけましょう。また、退職者の面談やアンケートを実施することで離職の理由を真摯に受け止め、同じ理由で退職する人が増えないよう改善することも重要です。
リベンジ退職が起こった場合の対処法
最後に、万が一リベンジ退職が起こった場合の対処法を解説します。
事実関係を整理する
まず、リベンジ退職の経緯を整理しましょう。
退職者の言動(SNS投稿・口コミ・取引先への発言など)について、事実を客観的に調査することが最優先です。企業が憶測で反論すれば、火に油を注ぐおそれがあります。
次の点を速やかに調査するようにしてください。
- 問題となった発言・行為の内容は?
- いつ・どこで・誰に対して行われたか?
- 社内でも関連するトラブルがあったか?
- 既に外部に影響が及んでいるか(SNS拡散・取引先への波及など)?
法的なトラブルに発展するおそれもあるので、証拠を保存しておきましょう(SNS投稿のスクリーンショット、社内の報告メモ、面談記録、貸与PCのログなど)。同時に、他の社員が動揺しないよう、情報共有は必要最小限に留めることも大切です。
被害拡大を防止する
次に、リベンジ退職による被害を抑制する努力をします。
例えば、リベンジ退職者がSNSで企業批判を行うケースの場合、感情的になって反論するのは逆効果であり、冷静な対処が求められます。
- 事実と異なる点は冷静に訂正する。
- 公式サイトで、企業の見解を示す。
- 企業側に非のある部分は認め、謝罪と改善を伝える。
- 感情的な表現は避け、事実に基づいた発表を心がける。
- 他の社員が個人的に反論しないよう注意喚起する。
- 違法性のある発信については責任追及を検討する(削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求など)。
誠実で冷静な対応こそ、企業の信用を守る重要なポイントです。
リベンジ退職によって顧客や取引先にも影響が出る場合は、早期に事情を説明しなければなりません。例えば、リベンジ退職者が社外に悪評を拡散させているなら、会社は誠実で透明性ある説明を徹底しましょう。
法的リスクへの対応を検討する
リベンジ退職が違法行為に及ぶ場合、法的な対応が必要です。
例えば、退職者が企業機密や顧客情報をSNSで公開したケースは、不正競争防止法違反や、秘密保持契約書違反に該当する可能性があります。会社の誹謗中傷を行うケースだと、名誉毀損や業務妨害の責任が生じることもあります。この場合、発信者情報開示請求や損害賠償請求といった対応が可能です。ただし、訴訟に踏み切るかは、企業イメージへの影響や社会的な反発、コストなども踏まえ、冷静に見極めるべきです。
労働審判や訴訟を起こされた場合、労働問題としての対処が必要です。これらの法的対応は、弁護士に相談しながら進めるのが最善です。
なお、労働者には退職の自由があります。
具体的には、期間の定めのない労働者なら、退職の意思を表示してから2週間が経過すれば、雇用契約を終了させることができます。
したがって、退職そのものを止めることはできないため、会社に不都合な時期に退職したからといって、そのことだけで損害賠償を請求したり、責任を追及したりすることはできません。
「人事労務を弁護士に依頼するメリット」の解説

社内の信頼を回復して再発を防止する
リベンジ退職が起きてしまうと、社内にも動揺が広がります。
このとき、リベンジ退職者を悪者扱いすると、かえって在職中の社員の信頼を損なうおそれがあります。組織として何を改善すべきかに焦点を当て、再発防止策を共有することが大切です。ハラスメント対策の強化、相談窓口や体制の整備、規則やマニュアルの作成、職場風土の見直しなどに経営者が本気で向き合う姿勢を示すことが大切です。
残された社員が「次は自分がターゲットになるかも」と感じると、組織は崩壊に向かいます。経営層や管理職が率先して「社員を大切にする姿勢」をメッセージとして発信し、心理的安全性を再構築すべきです。
まとめ

今回は、リベンジ退職についての法律知識を、企業側の立場で解説しました。
リベンジ退職は、単なる感情的な離職ではなく、組織への「報復」「抗議」を意味します。在職中の納得いかない扱いへの最後の抵抗であることも少なくありません。その背景には、不公平な評価、劣悪な労働環境や、異議を述べても変わらなかった無力感などがあります。
企業として重要なのは、リベンジ退職を、単なる一社員の問題と片付けるのでなく、組織全体の課題として真摯に向き合うことです。リベンジ退職は、社内で不満が蓄積していることを意味します。環境を改善し、リスクの芽を早めに摘まないと、離職の連鎖が止められなくなるでしょう。
退職の自由があるので、辞めること自体は止められません。しかし、辞める社員に誠実に向き合えば、リベンジ退職によって予想外の損失を負う事態は避けられます。
- リベンジ退職が起こる原因と背景を知り、労働者の不満を軽減する
- リベンジ退職が起こったら、冷静な初動対応で被害の拡大を防ぐ
- リベンジ退職の再発防止のため、弁護士と連携し、社員の信頼を回復する
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