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自社でもできる簡単な少額訴訟のやり方を、弁護士が解説

債権回収を行う企業経営者の方の中には、取引先に対して何度請求をしても、支払ってもらえず、途方に暮れている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

内容証明郵便で催告書を送ったにもかかわらず、相手方から何の反応もないケースも少なくありません。

しかし、訴訟を起こすとなりますと、費用と時間、そして手間が予想以上にかかります。債権額が小さい場合、債権額を超える費用がかかることも稀ではありません。

この不都合を回避するための債権回収手段として、「少額訴訟」という簡易な訴訟制度があります。60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を図る裁判手続です。

例えば、取引先に対して自社商品を販売したにもかかわらず代金を支払わない場合、金銭を貸し付けたのに返済しない場合、委託された業務を行ったのに業務委託料を支払わない場合などが例として挙げられます。

今回は、債権回収手段として少額訴訟を利用する際に、企業が知っておきたいポイントについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 少額訴訟の意義と、活用ケース

少額訴訟が簡易で迅速に債権回収を実現できる裁判制度であるといっても、どのようなケースでも活用できるわけではなく、使い勝手のよさに比例してデメリットも多く存在します。

少額訴訟の意義をきちんと理解し、有効なケースに適切に少額訴訟を活用しましょう。

債権回収で、少額訴訟の利用が有効なケースについて解説します

1.1. 少額訴訟の意義

少額訴訟手続とは、「60万円以下」の「金銭」の支払を請求する場合に、簡易裁判所において利用できる訴訟手続です(民訴368条1項)。

通常の裁判と比較して面倒な手続きが不要で、原則として、審理は「1回」で終了し、すぐに判決が出る手続です。

少額の債権を回収する場合、通常の裁判では時間も費用も手間もかかる割には、獲得できる金額が少なくなってしまいます。

そこで、コスト倒れを防ぐために設けられた、民事訴訟法上の制度です。

1.2. 少額訴訟の利用が有効なケース

少額訴訟の利用が可能な債権は、法律上、限定されています。

例えば、訴額(相手方に対して支払いを求める価額)が60万円以下であっても、「不動産の明渡請求訴訟」や「動産の引渡請求訴訟」、「債務不存在確認訴訟」などといった、金銭支払を請求としない訴訟は、少額訴訟の対象とはなりませんので注意しましょう。

少額訴訟は、以下のようなケースで利用するのが有効的です。

  • 請求する金銭の価額が60万円以下
  • 支払期日が経過し、書面や口頭で催促をしているが、未だに支払いがない
  • 証拠が揃っていて立証が困難でない

以上の要件を満たす場合には、少額訴訟の利用を積極的に検討しましょう。

少額訴訟による債権回収を行う場合には、契約書や請求書、納品書といった、基本的な書証がそろっているかどうか、事前に検討しておいてください。

2. 少額訴訟の8つの特徴

少額訴訟による債権回収には主に、以下のような8つの特徴があります。

少額訴訟の場合、代理人として弁護士を依頼することなく、自社だけでも利用するケースも少なくありません。この際、顧問弁護士に後方支援してもらうことも検討しましょう。

まずは少額訴訟による債権回収のイメージをつかんでいただくためにも、少額訴訟の特徴的な点を解説します。

  1. 回数制限がある:少額訴訟は、同一の簡易裁判所において、「年10回」までしか提起できません。
  2. 会社の従業員が訴訟代理人となれる。
  3. 相手方が希望すれば通常訴訟へ移行:相手方には通常訴訟か少額訴訟かを選択する権利があるためです。
  4. 一期日審理の原則:簡易・迅速な審理が必要とされる少額訴訟では、特別の事情がある場合を除いて、 最初にすべき口頭弁論期日においてその審理を完了しなければなりません。
  5. 証拠等は、1回の審理ですぐに調べることができるもののみ。
  6. 判決書又は和解調書(債務名義)に基づき、強制執行が可能。
  7. 反訴の禁止:「反訴」とは、すでに進行中の訴訟手続(本訴)の中で、被告が原告を相手方として、提起する訴えのことをいいます。審理が複雑になるのを避けるため、反訴は禁止です。
  8. 判決に対する不服申立ては異議の申立てのみ:控訴不可

3. 訴訟提起前にチェックするポイント

少額訴訟による債権回収についての、以上の基礎知識をもとに、少額訴訟を利用することを決めた場合に、訴訟提起前にチェックしておいてほしいポイントを順番に解説していきます。

少額訴訟による債権回収をスムーズに行うためにも、訴訟提起より前に、事前にチェックしておいてください。

3.1. 利用回数制限は超えていませんか?

少額訴訟には「同一の裁判所では10回を超えて少額訴訟を利用できない。」、という制限があります。

債権の取立てを主たる業務とする取立業者などに、少額訴訟の制度を独占されてしまうのを防止するために設けられた制限です。

仮に無制限に少額訴訟を利用することができるとしたら、ごく少額の債権を大量に少額訴訟で請求することによる嫌がらせなどのデメリットも生じかねません。

なお、次のケースであっても、少額訴訟を1回利用したこととされますので覚えておきましょう。

  • 少額訴訟を提起し、その後に訴えを「取下げ」た場合
  • 少額訴訟が通常訴訟に「移行」した場合

少額訴訟による債権回収の際には、少額訴訟の利用制限を超えていないことを示すため、少額訴訟を提起する際に過去の利用回数を記載する必要があります。

10回を超えて少額訴訟による審理及び裁判を求めたり、利用回数の届出をせず、裁判所からの利用回数届出の命令にも応じないような場合には 、訴訟は通常訴訟に移行します。

また、利用回数について虚偽の届出をした場合、10万円以下の過料という制裁があります(民訴381条)。

3.2. 債務者の本店所在地や営業所は分かりますか?

少額訴訟は、「被告」の本店所在地や営業所を管轄する簡易裁判所で行うのが原則です。

よって、被告の所在地等が明確でないと、少額訴訟が成立しない可能性があります。

もっとも、貸金返還請求や売掛金支払請求など、一定の種類の債権回収の場合には、「原告」の住所地を管轄する簡易裁判所へ、少額訴訟を提起することができます。

また、被告の同意を得ることが出来れば、「合意管轄」といって、両者が合意した裁判所に提起することもできます。

3.3. 証拠は揃っていますか?

少額訴訟は原則として一度だけの審理を経て、判決が下されます。

そのため、原告・被告の両当事者は、最初にすべき口頭弁論期日「前」またはその「期日」において、 あらゆる証拠や証人等を提出しなければなりません。

少額訴訟の審理は、約30分~1時間半ほどで終了することが多いです。したがって、自社の主張を十分に整理し、提出すべき証拠をできる限り精査し、用意した上で、万全の状態で期日にのぞむことが重要です。

4. 少額訴訟の提起と流れ

最後に、実際に少額訴訟を提起して債権回収を行う際の、訴訟提起の方法と、その後のスケジュールの流れについて解説します。

4.1. 訴訟提起

少額訴訟による債権回収を提起する場合、まず、被告の本店所在地や営業所を管轄する簡易裁判所に、訴状を提出します。

何より、忘れてはならないのが「証拠」です。御社にとって、より有利な証拠を集めておきましょう。

特に、少額訴訟のように短期決戦の場合、最も重要となってくるのは客観的な書証です。具体的には、以下のような証拠が考えられます。

  • 契約書
  • 見積書
  • 領収書
  • 請求書
  • メール(自社と相手方とのやり取りがわかるもの)

訴状提出と同時に、訴額に応じた手数料を収入印紙で納付します。

郵送等の手続きに必要な郵便切手も納付します。郵便切手の価額は、裁判所により異なりますが、3千円から5千円というのが通常です。

4.2. 期日の連絡と事前聴取

簡易裁判所に訴状が受理されると、審理をする日、すなわち「期日」の連絡があります。

そして、期日を迎える事前準備として、裁判所書記官から、事実関係の確認や追加で証拠書類の提出等が求められることがあります。

4.3. 法廷での審理へ

法廷で、裁判官の指揮のもと、審理が行われます。事案により、審理にかかる時間は異なります。

原則としては、1回の審理で、提出された証拠書類や証人尋問など、すべての証拠調べを行います。なお、この場で判決ではなく、和解が成立することもあります。

4.3.1.(書証)証拠調べ

少額訴訟での証拠調べは、即時に取り調べることができる証拠に限りすることができます (民訴371条)。

「即時に取り調べることができる証拠」とは、1回目の口頭弁論期日中に、法廷の場ですぐに取り調べることができる証拠のことです。

簡易裁判所の裁判官が、原告や被告双方が持参した書証や検証物に対する取り調べを行います。

4.3.2. (人証)証人尋問

裁判期日に出頭している証人や、電話会議システムの利用が可能な場所にいる証人に対する証人尋問を行います。

まず、少額訴訟では、証人の尋問は「宣誓をさせないで」することができます(民訴372条1項)。

また、尋問の順番が決まっている通常訴訟とは異なり、少額訴訟では、どのような順序で尋問を行うかは裁判官の「裁量」によります。

これらは、柔軟な証人尋問ができるようにするための制度です。

 参考 

なお、電話会議システムによる当事者尋問といって、裁判所・当事者双方と証人とが音声の送受信により同時に通話をすることができる方法もありますが、少額訴訟ではそれほど利用されるケースは多くありません。

4.4. 判決

4.4.1. 判決の言渡し

迅速な解決が求められる少額訴訟では、判決の言渡しは、相当でないと認められない限り、原則として審理終了後「直ちに」なされます(民訴374条1項)。

このように、少額訴訟では 直ちに判決を言渡す必要があるため、判決の言渡しは判決原本に基づかないでも行うことができます(同条2項)。

そして、判決原本に基づかないで判決の言渡しをした場合には、 裁判所書記官が、「主文、請求並びに理由の要旨」等を口頭弁論期日の調書に記載し、その調書判決の謄本を当事者に送達する、というのが実務上の運用です。

4.4.2. 支払猶予等の判決

裁判所は、仮に原告の請求を認容する判決をする場合でも、被告の資力その他の事情を考慮して、 特に必要があると認めるときは、判決の言渡しの日から3年を超えない範囲内において、「支払いの猶予」や、「分割払いの定め」を付した判決を下すことができます。

そればかりか、この判決の内容を被告が履行した場合には、訴え提起後の遅延損害金の支払い義務を免除する旨の定めをすることもできるのです(民訴375条1項)。

少額債権において強制執行は困難であることが少なくありません。そこで、このような支払の動機づけを定めることにより、被告による任意の履行を期待しよう、という狙いがあります。

4.4.3. 不服・強制執行

被告側は、言渡された判決に不服があっても「控訴」することはできません。

その代わりに、「異議申立て」を行うことは認められています。

仮に、被告側が判決に従わなかった場合には、相手方の有する債権・不動産・動産等を差し押さえるなど、強制執行の手段をとる必要があります。

5. まとめ

少額訴訟とは、これまで解説してきましたとおり、一般市民が利用しやすいように、との考えのもとつくられた制度です。

しかし、やはり法律が関わってきますので、事案の内容によっては一概に簡単な手続きとは言い切れません。通常訴訟に移行する可能性も十分にあります。

少額訴訟の提起を検討する際には、債権回収の実効性も踏まえ慎重に吟味しましょう。

「少額訴訟は勝訴率が高い」と一般的には言われていますが、法的知識や証拠が不十分な場合には、敗訴する恐れも十分にあります。

少額訴訟提起の際には、顧問弁護士から法的助言を得る、場合によっては訴訟代理人として依頼することを、ぜひご検討ください。

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