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退職代行の連絡を受けた会社側の適切な対応方法!【弁護士解説】

「退職代行」というビジネスが、テレビやインターネットのニュースで報道され、世間の注目を集めています。これに伴い、「退職代行」を利用して仕事を辞める人が増えています。

「退職代行」とは、その名の通り、従業員の退職を代行する業務のことです。これを行うのは、専門の退職代行業者の場合もあれば、弁護士等の専門士業の場合もあります。

新しいビジネスモデルであるがゆえに、会社側(使用者側)としても、突然退職代行業者から連絡がきたとき、どう対応したらよいか、迷うこともあるでしょう。しかし、退職代行業者から連絡が来るということは、会社内に潜在的な労働問題が眠っている可能性を示唆しており、対応に注意しなければ労使対立が顕在化するおそれがあります。

間違った対応をしてリスクを負わないためにも、退職代行への正しい対応方法の知識をつけておく必要があります。

今回は、退職代行業者や弁護士から退職代行の連絡を受けたとき、会社側の適切な対応について、弁護士が解説します。

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「退職代行」の基礎知識

退職代行とは、労働者が会社に対して行う「退職の意思表示」を、労働者に代わって会社に伝える業務のことです。退職代行業務を行う者を、退職代行業者といいます。

退職代行の業務は、退職代行業務を専門で行う会社もありますが、弁護士等の専門士業が行っていることも少なくありません。

退職代行を依頼する流れ

労働者側が退職代行を依頼するときには、次のような流れで進めています。

step
1
退職代行の相談

初めに、退職代行は「無料相談」から始まることが一般的です。退職代行の相談方法には、電話・メールのほか、最近では、新規参入の業者がより相談のハードルを下げるため、LINEなどの方法で相談を受け付けていることがあります。

退職代行サービスに着手するまでは、何度でも無料で話を聞いてくれる退職代行業者、弁護士が多いです。

step
2
退職代行サービスの申込み

相談後、退職代行サービスを実際に依頼したい場合には、退職代行サービスの申込を行います。弁護士がおこなう退職代行サービスの場合、弁護士倫理の観点から「委任契約書」が締結されます。

申込を行った後、退職代行にかかる費用を支払うと、退職代行サービスが開始されます。支払方法は、銀行振込、クレジット決済等が通常です。

step
3
退職代行の実行

退職代行サービスが開始すると、退職代行業者や弁護士が、会社に実際に連絡をして、社員の「退職の意思」を伝え、退職手続を早く進めるよう迫ります。会社側(企業側)では、この段階になってはじめて、退職代行を使われていたことを知ります。

弁護士が窓口となる場合には、離職票・源泉徴収票の発行、各種保険の資格喪失手続のほか、未払賃金・未払残業代の問題など、すべての問題について弁護士を窓口として進めることとなります。

step
3
退職の完了

退職が完了すると、退職代行サービスは終了します。

ただし、弁護士などの行う退職代行では、退職が完了した後の事後手続や、退職にともなう新たな労働問題についても、追加で依頼を受けていることがあります。

退職代行はどんなサービス?

退職代行のサービス内容は、退職の意思表示を労働者に代わって伝える、ということです。法律の専門用語でいうと、「代理」もしくは「使者」という扱いとなります。

退職代行のサービス内容は、意思表示を伝えるだけに留まるものから、退職の際に発生する関連資料や貸与物の授受を代わりに行うサービス、更には、未払残業代問題、セクハラ、パワハラ等の労働問題の一括解決も行ってくれるサービスまで、様々な種類があります。

会社側(使用者側)で、退職代行に対応する際には、その退職代行業者が、どこまでのサービスを行っているのか、また、そのサービスを行う正当な権限を持っているのか、という点の確認が必要です。

退職代行が利用される理由

本来、退職をすることは労働者の自由であり、退職代行を利用しなくても労働者は自由に退職できるはずです。退職代行サービスの利用が広がっている原因は、不当な引き留め、在職強要をする違法な会社が増えていることを意味しています。

少子高齢化、労働力人口の減少を原因とする人手不足によって、優秀な人材ほど強い引き留めに遭いやすく、「空気を読む」と退職がしづらい、という状況にあります。

会社側(使用者側)が、退職届を受理しなかったり、「退職するなら損害賠償請求をする」等の違法な脅し、強引な引き留めや嫌がらせをすると、退職代行を利用されてしまうおそれがあります。

退職代行にかかる費用

退職代行にかかる労働者側の費用は、行うサービス内容の範囲にもよりますが、一般的に、5万円から10万円程度が多いです。

正社員と、パート・アルバイト等の非正規社員との料金の差を設け、正社員は5万円、パート・アルバイト等は3万円程度の料金を設定している退職代行業者も増えています。

退職代行サービスを提供する弁護士の中には、未払残業代請求等、退職に伴って発生する労働問題を「着手金無料」で受けるサービスも増えています。

会社側(使用者側)で退職代行に対応する際に、労働者側がどの程度の費用を払っているかは、解決の難易度に影響してきます。

退職代行は違法?

サービス内容によっては、退職代行が違法となる場合があります。

弁護士法という法律によって、労使対立が紛争化した場合の当事者の代理業務は、弁護士でないと担当できないこととなっています。そのため「退職の意思表示を代わりに伝える」という範囲を超えて紛争解決をサービス内容としている場合には、その運営主体が弁護士でない限りは、その退職代行サービスは違法の可能性が高いということです。

例えば、「退職条件(退職金、退職日等)を交渉する。」、「退職に伴いその他の労働問題を一括解決する。」といった退職代行サービスは、弁護士しか行えないと考えてよいでしょう。

会社側(使用者側)で退職代行に対応するとき、その退職代行サービスが違法なものであり、対応、回答すべきでない可能性があることに注意が必要です。

会社側で退職代行に対応する際の課題と、解決方法

退職代行サービスを社員が利用してしまったとき、会社側(使用者側)としては困る点、不都合な点が多くあります。

本来であれば、労使関係は、労働者と会社の話し合いによって円満解決するのが理想ではありますが、退職代行業者や弁護士のサービスを利用されてしまっているということは、もはや当事者間での解決が難しい状態にあることを意味するからです。

そこで、退職代行に対応する際に、会社側(使用者側)で困ってしまう点ごとに、弁護士が解決方法を紹介します。

会社所定の退職手続を進められない

会社の中で、就業規則等によって所定の退職手続や、退職時に徴求する書類を準備している会社が多いのではないでしょうか。

しかし、退職代行サービスを利用されると、退職する社員との直接の交渉ができなくなってしまうため、会社が必要とする所定の退職手続きをとれないおそれがあります。

特に、会社が準備している退職書類の中に、法的に作成が義務でない書類や、本来違法となるおそれのある書類の強要が含まれるとき、退職代行を担当する弁護士が作成を拒否する可能性があります。特に問題となるのが、退職時の誓約書、秘密保持誓約書、競業避止義務誓約書等です。

社員に退職代行を利用されてしまう前に、今一度、会社所定の退職手続に違法な点がないか、退職時に書かせている書類に違法なものがないかどうか、事前チェックが必要です。

退職手続に時間がかかる

退職代行は、労働者側にとってスムーズに退職するために利用するサービスですが、これを利用することによって逆に退職に時間がかかってしまうことがあります。

退職代行を担当する会社や弁護士は、本人ではないため、退職の意思表示を代わりに伝えることができても、離職票等必要な書類に代わりに署名(サイン)をすることまではできません。

そのため、退職代行業者や法律事務所へ、会社から必要書類を送付し、これを労働者に更に送付してもらってからしか必要書類の作成が進まないことが原因です。

退職代行サービスを利用する主要な目的が、会社の引き留め等にあると考えられていた場合、違法な引き留めは行わないことを明示し、事務的な書面のやり取りは当事者間で行うことを提案することもできます。

貸与物返還・私物返還に時間を要する

退職手続がどのように進んだとしても、会社としては労働者に貸与した備品の返還を受ける必要がありますし、逆に、オフィス内に残した私物を労働者に返還する必要があります。

退職代行サービスの内容によってはこれらの返還物の授受についても退職代行業者を窓口として行うよう求めてくる場合があります。

備品に大きな物、重い物があるときなど、この手続きにとても時間がかかってしまうおそれもあります。

退職手続と同様、会社側に違法行為を行う意思がないことを示し、貸与物返還・私物返還に限って当事者間で事務的なやり取りをすることを許容してもらえないか、交渉することが可能です。

退職代行サービスの適法性チェック

先ほど解説した通り、退職代行サービスの中には、残念ながら、違法性の疑いのあるサービスも存在しています。

特に、弁護士以外の企業が担当するにもかかわらず、弁護士法上、弁護士しか行うことができないとされる「法律事務」に該当するサービス内容を行っている会社は、違法なサービス提供を行っていることとなります。

会社側(使用者側)として退職代行サービスに対応するにあたっての難点は、「そのサービスが違法であるかどうか」について会社が判断しなければならない点です。違法なサービス提供を行う業者の中には、自身が違法行為を行っている認識のない業者も多いため、会社側が自身で判断し、対応しなければなりません。

従業員が利用した退職代行サービスの適法性チェックに自信の無い場合には、弁護士にご相談ください。

会社の社会的信用が低下する

退職代行サービスを社員に利用されてしまうことは、その会社の社会的信用が低下するおそれのあることを意味しています。

弁護士は、法律上厳しい守秘義務を負っているため、退職代行の依頼を受けたことを口外することは禁止されていますが、退職代行業者から、退職代行の対象となったことが広まらないとも限りません。

また、退職代行を利用することによって退職に成功した社員が、他の社員に対してそのことを触れ回り、他の労働者に「退職の波」が波及してしまうおそれもあります。

退職代行への適切な対応の流れ

退職代行の連絡を受けたとき、会社の検討順序、対応方法を、弁護士が順番に解説してきます。

特に、退職代行サービスの連絡をしてきたのが、弁護士ではない業者の場合には、労働法に関する法律知識が相手方にとっても十分ではないおそれがあります。退職代行業者の言いなりになることなく、会社側(使用者側)にとって有利となる適切な対応を理解する必要があります。

適法性を検討する

先ほど解説した通り、退職代行サービスの内容がそもそも違法な場合には、退職代行業者に対して連絡をすることは適切ではありません。

とはいえ、労働者側に退職の意思がある可能性が高いにもかかわらず放置しておくことも適切ではないため、その場合には、労働者本人に確認の上、退職の意思が本当に存在するかどうかチェックしてください。

ただし、退職代行サービスが違法であったとしても、労働者には確かに退職の意思が存在する場合に、労働者を威圧、強迫して退職を押しとどめるべきではありません。

適切な退職日を決定する

退職代行の連絡を受けたとき、「将来にわたって退職自体をさせない。」という希望は実現できませんが、退職代行による意思表示で伝えられた退職日をそのまま認めなければならないかどうかは、ケースバイケースの判断が必要です。

特に、「即日退職」の意思表示を受けたとき、会社側(使用者側)としてこれに応じなくても良い場合もあります。

退職日のルールは、法律で次の通り定められています。これよりも労働者に不利な内容を就業規則に定めていたとしても無効であり、法律のルールに従わなければなりません。

雇用契約に期間の定めがない場合(無期雇用)

  • 原則:2週間前に退職の意思表示が必要(民法627条1項)
  • 一定の期間を定めて給料を支給する雇用契約(月給制等)の場合、使用者からの解約の申入れについては、期間の前半までに退職の意思表示をした場合には同期間の末に退職、期間の後半に退職の意思表示をした場合には次期の末に退職(民法627条2項)
  • 6ヶ月以上の期間によって報酬を定めた場合(年俸制等)、3か月前に退職の意思表示が必要(民法627条3項)

雇用契約に期間の定めがある場合(有期雇用)

  • 原則:契約期間の満了もしくは合意によってしか退職できない。
  • やむを得ない事由のある場合、直ちに退職が可能(民法628条)

回答書を作成する

退職代行の意思表示について、弁護士からの内容証明郵便等、書面による連絡を受けたときは、会社側(使用者側)においても書面による回答を行っておくことがお勧めです。

会社側(使用者側)が書面によって回答するのは、会社として適切な対応を行っていることを、客観的な証拠に残しておく意味があります。

退職代行サービスを介して退職の手続を行うことの、会社側におけるデメリット、リスクを考えると、できるだけ誠意を持った対応をすることを示し、事務的、形式的な手続は当事者間で行ったほうが簡便であることを相手方にも理解してもらうことが、手間の削減につながります。

退職手続を進める

以上の通りに、退職代行業者や労働者側弁護士との間での連絡が整ったら、粛々と退職手続を進めていきます。

ただし、退職に伴う労働問題が、労働審判、訴訟等の手続に移行する場合には、そちらに対応しなければなりません。

退職手続のように、大きな問題にならないものの細々とした疑問点、不安点が多く存在する場合には、顧問弁護士を依頼して、メール、チャット等によって手軽に逐一相談できる体制を作っておくことがお勧めです。

退職代行を利用されたら、潜在的労働問題に注意!

退職代行のサービスを利用されてしまうということは、会社内に、潜在的な労働問題が眠っているということです。

少なくとも、労働者側から見て、「退職しづらい会社だ。」と思われたことは間違いありません。

退職代行のサービスを社員に利用されてしまった場合のリスク、デメリットを説明しましたが、これ以外にも、「退職しづらい会社」には、他の労働問題が多く隠れている可能性があります。

未払残業代、不当解雇、セクハラ、パワハラ等の労働問題について、労働審判、訴訟、団体交渉等、責任追及をする方法が多く存在しており、これらのトラブルが拡大した結果社会問題となっている例や、労働基準監督署(労基署)の調査、是正勧告の対象となっている例も数多くあります。

経営者に自覚がなくても、また、経営者が気づかなくても、社内に労働問題が眠っていることも多くありますので、退職代行の連絡を受けてしまったら、これを機に、会社内の労働環境が労働者にとって適切なものとなっているかどうか、再チェックする機会にしてください。

退職代行への対応を考えると同時に、「なぜ退職代行を利用されてしまったのか。」の理由・原因を掘り下げ、「今後退職代行を利用されないために、どう改善したらよいのか。」という再発防止策を練ることが肝心です。

やってはいけない間違った対応

突然、退職代行の連絡を受けると、「退職したいなら、なぜ、直接連絡をしてこないのか」「退職代行の方法で、勝手にいなくなるのは失礼だ」と怒り出す人もいます。

しかし、退職代行を受けてしまった会社側の立場では、やってはいけない間違った対応がいくつかあります。中には、上記のように、会社側の担当者がやってしまいがちだが、実際にはリスクの高い「最悪の対応」であるものもあるため、注意が必要です。

最後に、やってはいけない間違った対応について、弁護士が解説します。

「退職させない」と圧力をかける

退職代行を利用する社員は、長い時間をかけて悩み続け、その結果として「退職代行を利用して会社をやめよう」という決断に至っています。そのため「退職させない」と圧力をかけても、結局、思いとどまってくれることは期待できません。

むしろ、「辞めさせない」という強固な姿勢をとったことで問題が更に大きくなり、労働基準監督署に相談されたり、未払残業代、パワハラ、セクハラなどその他の労働問題についての責任追及を受けてしまったり、といったケースもあります。

不満を爆発させて怒鳴るなどの感情的な対応も禁物です。

損害賠償を請求する

退職代行の連絡を受けたとき、会社がやってはいけない間違った対応として「損害賠償請求をする」というものがあります。「迷惑をかけられたから、お金を請求したい」という気持ちはわかります。

しかし、実際に損害を負っており、その損害を証拠によって正確に証明できるという場合でない限り、「迷惑」という曖昧な根拠で、社員に対して不満をぶつけるべきではありません。

転職サイトや口コミサイトで「ブラック企業だ」と書かれたり、SNSで拡散されてしまったりしたとき、会社の信用・評判がいちじるしく落ちることにつながります。

退職する社員に直接連絡する

弁護士が窓口となって退職代行の連絡をしてきたときは、社員に対して直接連絡をとってはいけません。

「会わないと絶対に辞めさせない」「最後の給与は、会社に取りに来ないと支払わない」などの嫌がらせも、問題を悪化させることが多いため、やめたほうがよいでしょう。

ただし、退職代行業者が、違法な「非弁業者」である場合、退職代行業者に支払ってしまった給与が社員に直接支払われるかどうか不安なケースもあります。そのようなケースでは、退職代行業者への支払は拒絶したほうがよい場合もあります。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、最近増加している退職代行サービスについて、会社側(使用者側)の立場に立って、対応方法を弁護士が解説しました。

「退職の自由」という労働者の権利を侵害してしまっていたことに気づいた場合には、その他の労働問題が内在している可能性も含めて、再発防止策を大至急検討する必要があります。

ただし、退職代行サービスに対して、できる限り適切な対応をし、正しい時期まで退職を遅らせたり、会社側(使用者側)のリスクを低減したりする努力は必要となります。対応方法に不安がある場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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