取締役(役員)が代表取締役1名のみである場合、すなわち、社長だけが役員の会社では、社長が経営についての重要事項をすべて自分1人で決定することができます。
これに対して、取締役が複数いる場合には、経営についての決定には、一定の手続きが必要となります。
経営についての意思決定は、スピードが重要で、このことは、特にスピードが重視されるベンチャーの経営では当然です。
「取締役会」を設置した場合には、「取締役会」を招集し、「取締役会」の決議によって経営についての重要事項の意思決定をする必要があることから、「機動性」、「スピード」が失われがちです。
今回は、取締役の決定と、取締役会の招集・決議のポイントを、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
1. 取締役会非設置会社における、取締役の決定
「取締役会」を設置していない会社を「取締役会非設置会社」といいます。
「取締役会非設置会社」の場合、会社法などで要求される「取締役の決定」を、どのように行えばよいのでしょうか。
取締役の決定について、会社法の定めは、次の通りです。
会社法348条2項取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
法律ではこれ以外に、取締役の決定についてのルールは特に定められていないことから、「取締役会」のように、招集が必要であったり、決議にルールがあったりするわけではありません。
したがって、次に説明する通り、「取締役会」が設置されていない場合の「取締役の決定」は、非常に柔軟に、かつ、機動的に行うことが可能です。
- 対面で集まって会議をする必要がない。
- 電話で取締役の決定を行うことが可能
- 議事録を作成する必要はない。
ただし、会社法においてルールがないとしても、後に「取締役の決定が存在したか?」という点が訴訟などで争点となるケースに備え、書類を備えることによって証拠化をしておく必要はあります。
会社法に記載事項などのルールが定められているわけではないので、任意の形式で議事録に残しておきましょう。
2. 取締役会設置会社のルール
「取締役会」を設置している会社を、「取締役会設置会社」といいます。
「取締役会非設置会社」における決定について、あまり細かいルールが存在しないのに対して、「取締役会設置会社」の場合には、招集手続や決議について、会社法に細かいルールが定められています。
取締役会は、会社法に定められた招集、決議のルールにしたがって運営する必要があります。
そのため、「取締役会設置会社」は、取締役会を設置していない会社に比べ、意思決定のスピード、機動性が落ちるといわれています。
ただし、取締役会を設置すると、すべての重要事項についてスピードが失われるわけではありません。
むしろ、取締役の利益相反取引など、一定の事項については、取締役会を設置すれば、株主総会を開催することが不要となり、機動力が上がります。
3. 取締役会の手続
では、「取締役会設置会社」が、会社法に定められた招集・決議のルールにしたがって「取締役会」を運営しなければならないことを理解して頂いたところで、次に、取締役会の手続について、弁護士が解説します。
3.1. 取締役会の招集
「取締役会」は、原則として、各取締役が招集できます。
ただし、取締役会を招集する取締役を、定款または取締役会で定めた場合には、その取締役が取締役会を招集します。
取締役会を招集する取締役は、取締役会の「1週間前」までに、各取締役と各監査役に対して、「招集通知」を発送します。なお、この「1週間」の期間は、定款で短縮できます。
株主総会と同様に、すべての取締役、監査役の同意があれば、招集手続を省略できます。
ただし、社内の取締役はともかく、社外取締役、社外監査役に、当日に招集をするということのないよう、前もって予定調整をしておくのが一般的です。
3.2. 取締役会の決議
取締役会の決議は、過半数の取締役が出席する会議で、出席者の過半数の賛成によって行われます。
このとき、「半数」ではなく「過半数」であることによく注意しておくようにしてください。
そして、「取締役会」の場合、取締役がそれぞれの専門的知見を活かし、自ら経営を行い、経営を監督することを期待されていることから、本人の出席が必要とされます。
株主総会の場合に、委任状、議決権の代理行使といった方法によって、必ずしも株主本人が出席していることまでは要求されていないこととは異なりますので、注意が必要です。
どうしても取締役会の場に取締役が会することが難しい場合であっても、テレビ電話、Skype会議などによって取締役会を行うことが可能です。
3.3. 議事録の作成
取締役会を開催したら、取締役会議事録を作成する必要があります。
取締役会議事録に記載しなければならない事項は、会社法施行規則101条3項の通りです。
取締役会議事録の場合、株主総会議事録とは異なり、出席した取締役、監査役は、取締役会議事録に署名し、または記名押印することを会社法上義務付けられています。
そして、このように議事録に署名、記名押印をしたことにより、取締役は一定の責任を負うことになります。
4. 取締役会の書面決議は?
「取締役会」を開催するとき、参加して議決権を行使することのできない場合に備え、株主総会と同様、「書面決議」を行うことが可能なのでしょうか。
株主総会と同じく、取締役会でも、取締役全員が書面によって同意の意思表示をすれば、取締役会を開催せずに、「書面決議」を行うことが可能です。
ただし、実際には、オンラインチャットによる取締役会などが可能であることから、書面決議の手続を行う必要性は薄れています。
取締役会の「書面決議」を行う場合には、株主総会の書面決議と同様、次の方法で進めていきます。
- 取締役会で決議する事項を提案
- 提案に対し、取締役全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示
- 議事録作成
書面決議であっても、取締役会議事録の作成は必要です。
なお、監査役が異議を述べた場合には書面決議が認められないこととなっています。取締役の同意と共に、監査役の同意も確認しておきましょう。
5. まとめ
今回は、「取締役会非設置会社」の「取締役の決定」の方法と、「取締役会設置会社」の取締役会決議のルール、すなわち、招集・決議についての手続を解説しました。
取締役や取締役会が決定することは、経営に関する重要事項ですが、経営判断のスピードは、企業の死活を左右する重要な要素となります。
特にスピードの重視されるベンチャー経営や、小規模な会社では尚更です。
御社に適切な組織構成(「取締役会」が必要であるかどうか。)や、取締役会の手続きについて不安がある経営者の方は、企業法務に強い弁護士にご相談ください。