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社長が死んだら会社はどうなる?中小企業が準備すべき社長の相続対策

社長が死んだら、会社はどうなってしまうのか。不安の種は尽きないかと思います。特に、創業社長が経営する会社では、社長が死んで交代するなど初めてのことで、どうしてよいか戸惑ってしまうでしょう。社長が全ての株式を保有するオーナー企業、家族経営の会社ほど、社長が死んでしうと立ち行かず、会社清算せざるを得ない例もあります。

業績不振で債務超過なのに、社長が死んだり、夜逃げしたりしたら、残された社員は困るでしょう。お金の管理をしていた社長がいないと給料も払われません。逆に、好調で利益が出ていても、オーナー社長の会社だと、生前からしっかり後継者に引き継ぐ準備をしておく必要があります。相続対策が不十分だと、社長の死後、会社を巡って家族間の争いが起こります。

社長が突然に死んだら、創業社長のみが抱えていた仕事の引き継ぎ、給料や会社の借金の行方など、すべきことは山積みです。万が一のケースに備え、中小企業ほど、生前から社長の相続対策を意識すべきです。

今回は、社長が死んだら会社がどうなるか、会社と家族のそれぞれの法律関係を知り、対策する方法について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 社長が死んでも会社は存続するが、社長所有の株式は相続の対象となり、散逸する
  • 社長が死んだら直ちに社内・社外に報告し、新たな経営体制を構築する必要がある
  • 社長が死んだ際の不都合を回避するために、生前に相続対策しておくことが重要

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目次(クリックで移動)

社長が死んだら会社はどうなる?

まず、社長が死んだら、会社がどうなるのか、様々な観点で結論をまとめます。

社長というのは、会社内で最も重要な役割を担っていることでしょう。その職務は会社によって異なるものの、最も優秀な営業マンだったり、企業秘密のノウハウを受け継ぐ職人だったりと、ビジネスの根幹を担う存在であるケースがほとんど。死亡してしまうと会社にとって重大な損失です。

社長の地位は失われる

社長は、会社から経営を委任される存在であり、委任契約は、一方当事者の死亡によって終了します(民法653条)。委任は、その当事者を信頼して業務を任せることを意味しており、死亡すれば責任をもって遂行できないからです。その個人への信頼を基礎としているので、契約上の地位が相続されることもありません。

したがって、社長が死亡すれば、当然ながら社長の地位は失われます。

対策として速やかな説明を要する。「社長が死んだらすぐに関係者に説明する」参照。

社長が死んでも会社は存続する

まず、社長が死んでも、会社は存続します。会社は「法人」といって、自然人ではないけれども法律上は人と同じに扱われる組織。そのため、社長個人と、会社とは、人格が異なるのです。

厳密には、会社は「社長のもの」ではなく「株主のもの」(法律用語で「所有と経営の分離」といいます)。会社の所有権は株主にあり、社長(代表取締役)はあくまで経営権を任されるに過ぎません。とはいえ、多くの中小企業はオーナー経営であり、社長が全株式を保有しています。このような会社では、社長の一存によって企業経営をコントロールできます。

社長が死亡した悲しみに暮れる間もなく、社内体制を整備し直し、社長抜きでも業務を進めねばなりません。

対策として速やかな体制整備を要する。「社長が死んだ後の社内体制を立て直す」参照。

社長の所有する株式は相続される

一方で、多くの中小企業は、オーナー経営で、社長が全ての株式を保有しています。この場合は、社長の所有する株式は、相続の対象となります。株式は、会社の所有権を意味し、株主には企業経営の重要事項を決める権利があります。

相続対策を万全にせず、株式が相続されると、最悪は、会社の所有権が社外に流出します。社長の所有した株式が複数名に分割され、無関係の親族に相続される危険があるのです。つまり、親族による会社の乗っ取りの危険です。社長が死んでもなお相続人が企業経営に協力的ならよいですが、社長の妻子が会社に敵対的であるケースなどでは、経営方針の違いが、会社運営の大きな支障となります。

株式以外にも、業務に使用する不動産や機械などが社長個人の所有となっていると、それらの財産も相続されてしまいます。相続の対象となると、これまでは社長の持ち物として自由に使えたのが、社長の親族に渡ります。

相続は、法律の定めた割合(法定相続分)で分割するのが原則。遺言を作成し、会社経営に必要な財産は社内に確保する、生前贈与しておくといった対策をしないと、争いの種となります。

対策として生前の相続対策を要する。「社長の相続対策をすべき」参照。

社長が死んだらすぐに関係者に説明する

社長が死んだら、会社として、社内・社外への説明を欠かさず行わなければなりません。

会社が行うべき説明先と、説明の内容について、解説します。

まず訃報を出す

社長が死んだら、まずは訃報を出すようにしましょう。全く連絡しないのは周囲を不安にさせ、会社の信用を落としてしまうリスクもあります。訃報は、次のような形で発表するようにしましょう。

  • ホームページへの掲載
  • 広報サイトへの掲載
  • 重要な取引先への郵送

会社の業務中に死亡した場合などには、速やかに家族に連絡しましょう。社葬として会社関係者にも出席してもらうのか、それとも家族葬とするのか、社長の家族とも話して事前に決めておく必要があります。取引先などにも参列してもらう場合は、訃報とともに、葬儀などの日時・場所を案内し、葬儀の細かなフローを決めなければなりません。

社員への説明

小規模な会社ほど、社長の存在感は大きいもの。社長のカリスマ性がビジネスの根幹であった場合など、社長を慕う社員にとっては大変なショックでしょう。不安を払拭するため、速やかに社員への説明を行う必要があります。社内の従業員にはいずれわかることであり、長く隠しておくのは不適切です。

今後の新たな経営体制を伝え、業務に支障が生じないよう、社長に代わる報告先となる上司を指定します。それとともに、現実問題として「給与の支払いは遅滞なくできること」を伝え、社員を安心させるようにしてください。社長が死んだことを理由に、離職が増えると、緊急事態なのに業務を遂行する人手が不足してしまいます。

社外の関係者への説明

社外の関係者への説明も必須です。顧客や取引先、仕入先など、全ての関係者に通知をする必要があります。なかでも最重要なのが、資金調達先への説明です。

なお、社外に説明するためには、社長が死んだらすぐに、会社の財務状況を把握する必要があります。社長が会社の通帳を保管している場合、入出金明細などを金融機関から入手してください。

借入先への説明

会社が、借入による資金調達をしている場合、法人が債務者なので借金はなくなりませんが、借入先には速やかに伝えなければなりません。真っ先にメインバンクには連絡するようにしましょう。社長が死んだという重大事の報告が遅れると、借入先が不信感を持ち、早期の返済を求められる危険があります。社長が死んでも返済は滞りなく行えると、誠意をもって説明し、危機を乗り切るべきです。

中小企業は、法人の借入について社長個人が連帯保証人となるケースが多いもの。社長個人の所有する不動産に抵当権を設定しているケースもあります。

連帯保証人の地位は相続されるため、社長の死後は相続人が連帯保証債務を負います。相続対策が十分でなく、連帯保証人となった親族の資力が不十分だったりすると、借入先から債務の返済を迫られる危険があります。親族以外が社長となる場合には、連帯保証人の変更など、借入先との協議をする必要があります。

出資者への説明

ベンチャー企業やスタートアップなど、投資家からの出資によって資金調達をしているとき、社長の活躍が前提となっているケースがほとんどです。この場合、社長が死んだら経営方針に大きな影響が出るため、直ちに出資者に説明する必要があります。

(参考;資金調達のデットとエクイティの違い

重要な取引先への説明

継続的な取引をし、売上に占める割合が高いなど、重要な取引先を失うわけにはいきません。このような重要な取引先に対しても、社長が死んだらすぐに、丁寧に説明する必要があります。

通知すべき先に漏れのないよう、リスト化して管理するようにしてください。

社長が死んだ後の社内体制を立て直す

社長が死んだら、速やかに次期社長を決めなければなりません。社長がいない空白期間が長いと、業務が進まなくなってしまいます。前述の通り、亡くなった社長は、自動的に外れることとなります。社会保険や税務の手続きから、サブスクの名義に至るまで、新たな社長の名義に変更しなければなりません。

新たな経営体制を構築するにあたり、後継者を決め、社長(代表取締役)に選任する必要があります。

取締役会設置会社の場合は、取締役会を招集して、取締役から代表取締役を選任します。招集の手続きは、いずれの取締役もすることができ、取締役会の日の1週間前までに各取締役に通知する必要があります。代表取締役の選任は、議決に参加する取締役の過半数の賛成を要します。

これに対し、取締役会非設置会社では、株主総会を招集して、取締役の選任決議をしなければなりません。この議決は、普通決議であり、議決権の過半数を有する株主が参加し、議決権の過半数の賛成を要します。

取締役の選任の手続きは、次に解説します。

なお、いずれの方法でも、代表取締役の選任が終わったら、2週間以内に商業登記をしなければなりません。法務局にて、法人登記の変更を行います。

ただし、株式が相続の対象となるため、大部分を社長が所有していた場合、相続されてしまうと、代表取締役の選任の際など、株主の決議を思い通りにできないリスクがあります。親族が役員に入っていて、取締役会の決議が思い通りにならないケースでも、同様の問題が生じます。

社長の相続対策をすべき

次に、社長が生前にすべき相続対策を解説します。親族による会社の乗っ取りの危険を回避しなければなりません。

社長が死んだら、社長の所有する株式は相続されると解説しました。このことから生じる不都合を避けるために、社長の生前において、相続対策が重要となります。社長の財産のなかには、経営する会社にどうしても必要なものが多く含まれ、相続対策なしには、社長の死後、会社を守れなくなってしまいます。

法人と個人の財産を区別する

オーナー社長とは、会社の株式を全て保有する社長のこと。中小企業の多くは、オーナー経営です。このとき、法人と個人の財産の区別が曖昧になり、社長個人の財産を、会社の事業に利用していることが多くあります。「社長所有の土地上に、会社の本社が建っている」のが典型例です。

社長が死んで相続が発生し、「社長=会社」と言える状態でなくなると、所有権の帰属が異なるのが問題となります。これまで会社が利用してきた社長個人の財産は、経営とは無関係の親族に相続され、これまで通りに自由には利用できなくなります。そのため、初めに着手すべきは、法人と個人の財産を区別し、相続の対象を明らかにすることです。

相続の対象となる財産のうち、特に注意を要するのは次のものです。

  • 株式
    株式会社の株式、有限会社の出資持分などは財産的価値を有し、相続の対象となります。株式は、会社の所有権ないし議決権を意味し、企業経営の重要事項を決める権利。相続によって社長の持つ株式が分散すると、無関係の親族に経営権が渡ってしまいます。
  • 社長の個人資産
    社長の個人資産が問題となるのは、それを会社の事業に利用していることがあるからです。例えば、会社の事業所として使用する不動産の所有権が社長にあるケース、社長所有の自動車を社用車としているケースなどです。
  • 社長からの貸付金(役員貸付)
    社長が行う役員貸付もまた、取り立てる権利のある債権として財産的価値があり、相続の対象となります。業績不振の中小企業では、社長が役員貸付をしている消すが多くあります。相続されると、会社は、社長の親族に対し、法定相続分に応じて貸付金を返済する義務を負うこととなります。

これに対し、会社所有の財産は、相続の対象とはなりません。事業を進めるのに必須の重要な財産などは、社長から会社へ譲渡するなり現物出資するなりして、所有権を移転させておく手が有効です。

法人と代表者個人の違いは、次の解説を参考にしてください。

遺言を作成する

社長が死んだときに、企業経営に影響する不都合を回避するため、遺言を作成するという相続対策が有効。遺言は、死亡時の相続のルールを、ある程度自由に決めることができます。遺言には、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類ありますが、死後に無効となりづらい公正証書遺言がお勧めです。

遺言に納得感を持たせ、社長が死んだ後に争いを残さないのも大切です。相続人には、会社の関連する相続の方針を、生前によく説明し、協力を求めておいてください。会社の状況をよく理解させ、経営とは無関係の財産を十分に相続できる遺言なら、争いを生まないようにできます。「会社に資産を隠したのでは」と疑念を持たれると、相続人から争いを起こされる危険が増してしまいます。相続人に財産を残すため、退職慰労金(死亡退職金)を設けるのも有効です。

遺言によって真っ先に定めるべきが、株式の相続割合。事業承継に資するよう、後継者が決定しているのであればその人に帰属するよう定めてくおいてください。遺言書は、死亡する前なら何度でも修正できるので、会社や家族の状況の変化に応じて変更することもできます。

なお、遺言書を作成しても、相続する財産を遺留分以下にはできない点に注意を要します。

遺留分は、民法に定められた最低限相続できることを保障された財産であり、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権によって、財産を請求することができます。

相続放棄させる

社長が死んだときに、相続人を説得し、相続放棄させる方法もあります。相続放棄は、全ての相続を放棄するという相続人の意思表示であり、相続人の死亡を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述して手続きするのが原則です。

社長が、会社債務の連帯保証人となる例は、中小企業ほど多いもの。このとき、社長の個人資産を合わせても、連帯保証している会社の債務に満たないなど、相続人の負担が過大になるときには、相続放棄してもらうのも1つの手です。ただし、全ての相続財産を放棄する必要があるため、他に相続したい財産があるときには、相続放棄を選択することはできません。

株式を相続人から取得する

万が一、相続によって株式が相続人の手に渡ってしまったときにも、強制的に売り渡すよう請求できる旨を定款に定めておくことができます。ただし、この定めをすることができるのは、譲渡制限付きの株式に限られます。また、定款に新たに定めを置く場合には、定款変更の株主総会決議を得なければなりません。

会社法174条は、次の通り定めています。

会社法174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)

株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

会社法(e-Gov法令検索)

実際に社長が死んだときに、定款に定めた制度を利用するには、株主総会の特別決議にて売渡請求権の内容を議決し(会社法175条)、相続人に通知しなければなりません(会社法176条)。相続人への通知は、相続関係を不安定にしないよう、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内にしなければならないという制限があります。

また、相続人が協力的ならば、話し合いによって、合意で株式を取得することもできます。ただし、会社が自己株式を取得するときには、財源規制による制限があるため注意が必要です。

自己株式取得の制限の解説も参考にしてください。

後継者に事業承継する

生前から事業承継を進めておけば、スムーズに経営権を継承できます。社長が高齢であるなど、社長の死後を考えなければならない会社では、特に事業承継の対策が重要となります。

事業承継には、親族内承継、社内承継、M&Aの3つの方法があります。親族や社内に後継者がいるならば、遺言や生前贈与によって、後継者に株式や財産を承継させ、社長が死んでも企業経営を円滑に続けることができます。後継者が、次期社長にふさわしい能力を備え、社内の信頼を勝ち取るには一定の期間を要するので、事業承継の着手は早めにすべきです。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、社長が死んだら会社がどうなるか、様々な場面に分けて解説しました。社長の死後の法律問題は、中小企業によくあるオーナー経営、家族経営なほど、深刻なトラブルを招きます。旧法下から残る有限会社がまさに典型例。

社長が大半の株式を所有しているとき、必ず相続対策を要します。業績が悪い場合には、突然の死亡によって会社が倒産を余儀なくされるケースも。業績が良好でも油断できず、その場合には株式の価値が高いため、社長の相続対策を生前にしておかなければ、会社の経営権が社長の身内に分散してしまいます。

いずれにせよ、社長も、残された家族も、社員も幸せにはなりません。少子高齢化による後継者不足が社会問題化する昨今、小規模な企業ほど、事業承継が経営課題となっています。お悩みの経営者は、ぜひ早めに弁護士へ相談ください。

この解説のポイント
  • 社長が死んでも会社は存続するが、社長所有の株式は相続の対象となり、散逸する
  • 社長が死んだら直ちに社内・社外に報告し、新たな経営体制を構築する必要がある
  • 社長が死んだ際の不都合を回避するために、生前に相続対策しておくことが重要

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