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月60時間超残業の特別割増率、「中小企業主の猶予措置」が廃止!

1か月あたり60時間を超える法定時間外労働があったときの残業代の割増率について、特別割増率(50%以上)が適用される労働基準法(労基法)の規定があります。

中小事業主については、これまで、この規定の適用は猶予されてきました。

しかし、「働き方改革関連法」の施行を受け、2013年4月1日より、改正労働基準法により、この猶予が廃止されます。

今回は、月60時間を超える残業の割増率について、中小事業主の猶予措置の廃止と、廃止後の対応方法について、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。

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月60時間を超える残業の「特別割増率」とは?

労働基準法では、長時間労働を防止し、労働者の健康を確保するための安全弁として、一定の労働時間を超えて労働者を働かせた場合に、「割増賃金」が発生することとなっています。

「割増賃金」は、わかりやすい言葉になおすと「残業代」です。

労働基準法に定められた、「割増賃金」および「割増率」は、次のとおりです。

割増賃金の種類 内容 割増率
法定時間外労働 「1日8時間・1週40時間」を超える労働 25%以上
(1.25倍以上)
月60時間超 「月60時間」を超える時間外労働 50%以上
(1.5倍以上)
深夜労働 「午後10時から午前5時まで」の労働 25%以上
(1.25倍以上)
法定休日労働 「1週1日」の法定休日の労働 35%以上
(1.35倍以上)

これらのうち、複数の時間外労働が組み合わさった場合には、割増率も加算されます。例えば、「法定時間外労働」かつ「深夜労働」の場合、割増率は「50%以上(1.5倍以上)」です。

以上のうち、「月60時間を超える時間外労働」に支払われる割増賃金の乗率を、「特別割増率」といいます。

月80時間残業を「過労死ライン」といい、また、月100時間を超える残業時間は、労災認定をするかどうかの労働基準監督署(労基署)の判断においても、業務による負荷が「強」として、重く評価されます。

このような長時間労働を未然に防止するため、残業時間が月60時間を超えたときには、より高額の残業代を要求するのが、労働基準法のルールです(労働基準法37条1項但書き)。

1か月60時間を超える法定時間外労働の「50%以上」の特別割増率は、平成20年労基法改正(平成22年4月1日施行)によって導入されました。

適用猶予の廃止(2023年4月1日~)

さきほど解説した、「月60時間を超える時間外労働」に対する「特別割増率」は、平成20年労基法改正から当分の間は、中小事業主の事業には適用しないこととされていました。

しかし、「働き方改革関連法」による労働基準法(労基法)の改正によって、この度、適用猶予が廃止されることとなりました。

適用猶予が廃止された結果、2023年4月1日の施行日以降は、中小事業主であっても、1か月60時間を超える残業をさせた場合、「50%以上」の特別割増率による割増賃金(残業代)を支払う必要があります。

2018年(平成30年)6月29日に成立した労働基準法改正は、原則として2019年(平成31年)4月1日を施行日としていますが、中小事業主の財政状況に照らし、この部分の改正は例外的に、2023年4月1日施行です。

「中小事業主」とは?

労働基準法(労基法)にいう、特別割増率の猶予されていた「中小事業主」の定義について解説します。俗称として使われている「中小企業」とは違い、定義が定められています。

「中小事業主」とは、中小規模の会社(使用者)のことをいい、次のとおり、業種の分類ごとの資本金額・出資総額・常時使用する労働者数によって、企業単位で決められています(働き方改革関連法附則3条)。

業種 資本金額または出資総額 常時使用する労働者数
小売業 5000万円以下 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

「資本金額または出資総額」と「常時使用する労働者数」は、いずれかの要件を満たせば、「中小事業主」に該当するとされています。

適用猶予の趣旨

中小企業主に対する特別割増率が適用猶予されている理由は、平成20年労基法改正の際の通達に、次のように説明されています。

「経営体力が必ずしも強くない中小企業においては、時間外労働抑制のための業務処理体制の見直し、新規雇入れ、省力化投資等の速やかな対応が困難であり、やむを得ず時間外労働を行わせた場合の経済的負担が大きい」

つまり、中小企業の経済的、人的余裕などに配慮をして、金銭的負担の大きい制度の適用を見送ったというわけです。このことは、中小企業の「人手不足倒産」が増えていることと、決して無関係ではありません。

中小事業主への猶予措置は、その後、平成20年労基法改正、平成27年労基法改正の際にも、それぞれ猶予措置が延長されてきました。

適用猶予の廃止の理由は?

何度も繰り返し猶予が続けられてきた、中小事業主への月60時間超残業の「特別割増率」の適用猶予が、廃止された理由について説明します。

中小事業主についての適用猶予措置が廃止された理由は、長時間労働による労働者への健康被害による事件など、社会問題による影響が考えられます。

1か月60時間を超える残業に、特別割増率による負担を課しているのは、労働者の健康維持、過重労働の防止が目的です。

決して、中小企業の置かれている状況は、以前と比べて楽なものではなく、依然として「人手不足」「採用難」は続いています。

「中小企業に余裕が出てきたから、適用猶予が廃止された。」ということではないだけに、特別割増率が廃止された後、中小事業主としては、今まで以上に労働時間管理、労働者の健康管理に注力しなければなりません。

廃止後の中小事業主の対応方法

では、「中小事業主」にあたる中小企業、ベンチャー企業やスタートアップ企業では、猶予が廃止された後、どのように対応していけばよいのでしょうか。

適切な対応を行わなければ、思わぬ高額な残業代請求を受けてしまったり、労働者が健康を害せば、労災、安全配慮義務違反などの会社の責任を追及されかねません。

労働時間を適正に把握する

「月間の残業時間が、60時間を超えるかどうか」によって残業代を支払う際の「割増率」が変わることから、今までにも増して、労働時間を適正に把握する必要があります。

「労働時間を把握していなかった」という会社は論外ですが、これまできちんとやってきたつもりの会社でも、次のような点を今一度見直してみてください。

  • 労働時間を1分単位で把握する方法を整備しているかどうか。
  • 管理監督者であっても深夜労働・健康確保のため労働時間を把握しているかどうか。
  • 「会社内の滞在時間」と「労働時間」を区別して把握しているかどうか

労働内容の多様化、企業のサービスの進歩にともない、労働者の労働時間を正しく把握することは、年々難しくなっています。

一方で、労働時間把握のためのサービスも進歩しており、GPSやクラウドサービスを活用し、より正確に労働者の労働時間を、手間なく把握することも可能です。

残業代の計算方法を正しく理解する

労働時間を把握した後、その労働時間に応じて残業代を計算することとなりますが、残業代の計算方法を正しく理解することも、適切な対応のために必要となります。

特に、現時点で、「固定残業手当」、「みなし残業代」や、「事業場外労働」、「裁量労働制」などの理由で、残業代を支払っていない会社は、それぞれの制度を正しく理解し、要件を満たしているかどうか、再確認してください。

特別割増率だけでは解決できない

「中小事業主」にあたる中小企業、ベンチャー企業、スタートアップ企業ほど、人材が恒常的に不足し、長時間労働が起こりやすい状態にあります。

このような中小事業主が継続的に抱えている問題は、残業代を高くしたからといって、すぐに解決できるものではありません。

月60時間を超える残業に対する特別割増率の猶予が廃止され、中小事業主に適用されるようになった後も、特別割増率だけでは解決できない、中小企業の労働者の健康問題は依然として残ります。

「適用猶予が廃止された。」、「2023年4月以降、残業代の負担が重くなる。」というだけに左右されることなく、適切な健康管理を、現時点から実践していくことが、中小事業主には求められています。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、これまで中小事業主に対する適用が猶予されていた、月60時間を超える残業に対する「特別割増率」(1.5倍)について、猶予廃止がいよいよ決まったことについて、弁護士が解説しました。

猶予廃止が施行される2023年4月以降、適切な労働時間管理と、法令を遵守した残業代支払が必要であることは当然、労働者の健康確保は、現時点からよく検討してください。

あわせて、高額な残業代が必要となるような長時間労働が発生しないよう、業務効率の改善も重要です。

会社内の人事労務管理にお悩みの会社は、ぜひ一度、企業法務を得意とする弁護士にご相談ください。

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