「ソーハラ」という言葉をご存じの経営者の方は、まだまだ少ないのではないでしょうか。
最近になって、「ソーハラ」という、新たなハラスメントが、問題視されつつあります。
権利意識の高い労働者から、「ソーハラ」について、会社の責任を問われてしまったとき、「ソーハラ」について十分な理解がないと、会社としての対応を誤るおそれがあります。
FacebookやTwitter、インスタグラムなど、SNS、ソーシャルメディアが流行している現代特有のハラスメント(嫌がらせ)である「ソーハラ」について、対処法を理解し、人的トラブルが大事になるのを回避しましょう。
今回は、企業の人事労務を得意とする弁護士が、最近話題の「ソーハラ」と、会社の適切な対応について解説します。
1. そもそも「ソーハラ」とは?
まずは、この耳慣れない「ソーハラ」という単語について解説します。
「ソーハラ」は、「ソーシャルメディアハラスメント」の略称です。直訳すると、「ソーシャルメディアでの嫌がらせ」というところでしょう。
Facebook、Twitterなど、現実と密接に結びついたインターネットメディアである「ソーシャルメディア」が流行しています。
職場の力関係を利用した嫌がらせは、いろいろなところで起こりますが、「ソーシャルメディア」で起こるのが、「ソーハラ」です。そのため、基本的な考え方は、「パワハラ」と変わりません。
2. どこからが「ソーハラ」?
「ソーハラ」は、その行為自体が、最近利用されるようになったSNSなどのソーシャルメディアを介したものであるため、果たしてどこからが「ソーハラ」なのか、という判断が非常に難しいです。
昔から問題となっていた「セクハラ」や「パワハラ」であれば、先例となる裁判例などが多くあるため、ある程度予想がつきますが、「ソーハラ」の場合、先例がないため、参考にできません。
そこで、どこからが「ソーハラ」なのか、慎重な検討をし、無自覚に「ソーハラ」加害者とならないようにしなければなりません。
2.1. 相手が不快に思ったら
相手が不快に思ったら、「ソーハラ」であると考えて思いとどまった方がよいでしょう。
特に、FacebookやTwitterなどのSNSは、プライベートで利用するものですから、「公私混同」をしてしまうことは、原則として「不快」と思われていると考えた方が安全です。
直接、被害者となる部下に対して尋ねても、「嫌です!」ときっぱりと言わない場合もありますので、適度な距離感は、会社、上司の側からとるようにしなければなりません。
2.2. 私生活に踏み込まない
たとえ会社が労働者を雇っているとはいっても、命令をできるのは、業務時間中だけです。そして、その命令も、業務に必要なものに限られます。
そのため、ソーシャルメディア、SNSでの行為について、労働者に命令をするようなことがあっては、「ソーハラ」とされても仕方ありません。
従業員(社員)の私生活には、会社は一切踏み込んではいけません。
これに対して、最近、従業員(社員)のソーシャルメディア上での行為によって、会社が、企業イメージの低下など、大きな損失を被る例が社会問題化しました。
Twitterなどで、業務中に問題行為を起こしている姿を拡散してしまったようなケースです。
「私生活に踏み込んだら『ソーハラ』だ。」と解説しましたが、業務に関するFacebook、TwitterなどのSNSの使い方については、むしろ経営者が労働者に対して、厳しく注意指導しなければいけません。
3. 「ソーハラ」による会社、経営者のリスク
どのような行為が「ソーハラ」となるかを理解していただいたところで、次に、経営者が、会社内で起こる「ソーハラ」に対応しないことにより、どのようなリスクがあるかを、弁護士が解説します。
経営者が「ソーハラ」を放置するリスクを理解していただいた上で、次の章で解説する対処法、予防策をそれぞれ行うようにしてください。
3.1. 安全配慮義務違反による慰謝料請求
会社は、雇っている労働者を、安全は環境ではたらけるように配慮する義務があります。これを、労働法の専門用語で「安全配慮義務」といいます。
「ソーハラ」が起こって精神的なダメージを食らうような職場は、「安全」とは言い難いことは容易にご理解いただけるでしょう。
そのため、「ソーハラ」が起こったまま放置していては、会社、経営者は、「安全配慮義務」に違反しているとして、労働審判や訴訟などで、慰謝料請求を受けることとなります。
また、経営者自身が、自分の気付かないうちに「ソーハラ」の加害者になってしまっている場合も同様です。
3.2. 従業員の士気の低下
「ソーハラ」が起こる職場では、従業員の士気が低下します。
プライベートと仕事の境目が、インターネット上のソーシャルメディアを介して曖昧になりますから、従業員は、常に上司や会社と関わっていなければならない気持ちになります。
労働者にとって、職場と関わり続けなければならないことはプレッシャーとなり、離職率も高くなるおそれがあります。
常にソーシャルメディアでのつながりを強要されるような「ソーハラ」の場合には、その時間が「労働時間」と認定され、多額の残業代請求をされたり、メンタルヘルスにり患してしまったりするおそれがあります。
ソーシャルメディア上での行為を強要してしまったときには、それが「労働時間」「残業時間」と評価される可能性についても検討しておいた方がよいでしょう。
3.3. 企業イメージの低下
「ソーハラ」は、最近出現した新たな問題です。
そのため、話題性があり、「ソーハラ」が常に横行している会社だと評判になると、企業イメージは大きく低下します。
インターネット上の行為は、拡散スピードが早く、コピーが容易であるため情報が広がるのも簡単です。御社の企業イメージが低下する前に、「ソーハラ」にスピーディに対処しましょう。
4. 「ソーハラ」被害への会社の対応方法
ここまでお読み頂ければ、「ソーハラ」への適切な対処は、会社として、経営者として必須であることがご理解いただけたことでしょう。
そこで、「ソーハラ」被害に対し、会社としての適切な対応方法について、弁護士が解説します。
4.1. 被害申告にはすぐ対応
「ソーハラを受けた!」という被害申告があったとき、会社として、経営者としては、スピードを最優先に対応してください。
というのも、「ソーハラ」被害に気付かなかった場合には、事後対応をするしかないわけですが、長期間対応をせず「会社に放置された。」という印象を抱かれては、「ソーハラ」被害者にとって、二次被害となるためです。
「ソーハラ」被害者が、「会社の対応が悪い。」と考えれば、会社に対する「安全配慮義務」違反の慰謝料請求は避けられません。
4.2. 正確に事情聴取する
「ソーハラ」への会社の対応方針を決めるにあたって、被害状況を、正確に把握しなければなりません。
スピードを重視しながら、かつ、正確性も必要となるため、IT法務に強い弁護士の助力が有益です。
事情聴取をするときには、「ソーハラ」の被害者側、加害者側いずれからも事情聴取するとともに、客観的な事実、証拠に照らして、事実関係を判断するようにしてください。
4.3. 「ソーハラ」加害者には制裁
「ソーハラ」が存在することが明らかになったときは、「ソーハラ」加害者に対しては、何らかの制裁を、会社として下すべきでしょう。
特に、故意で(わざと)、嫌がらせ目的で「ソーハラ」をした従業員がいる場合、悪質なケースでは、厳しい制裁が必要です。
企業秩序に違反したものとして、懲戒処分をすべきです。どの種類の懲戒処分をするかは、次の要素を考慮して決めてください。
- ソーハラ行為の種類、程度(悪質性)
- ソーハラ行為の回数
- ソーハラ行為の意図、目的
- 被害者側の処罰感情
- 加害者側の反省、謝罪
- ソーハラ加害者の地位、役職、職責
- ソーハラ当事者の上下関係の有無
5. 事前の「ソーハラ」予防法
前章では、「ソーハラ」被害が起こってしまったときの対策を解説しましたが、事前予防に越したことはありません。
「ソーハラ」被害が起こってしまえば、それが業務に関することであると、会社として、経営者として、「知らなかった」では済まされません。そこで、まずは事前予防を徹底しましょう。
5.1. SNS、インターネットについての教育
インターネットやSNSは、最近利用されはじめたものです。年配の社員の中には、「SNSってよくわからない。」という人もいるでしょう。
FacebookやTwitterを利用したことのない社員も、会社によっては多くいるかもしれません。
そこで、SNSやインターネットの基礎知識を持ってもらうとともに、やってはいけない禁止行為について、会社が教育をする必要があります。
5.2. ソーハラ事例の共有
特に、「ソーハラ」については、個人の考えによっても、プライベートに踏み込まれたくないという気持ちは違ってきます。
そのため、「問題になる可能性がある行為は行わない。」という対応を原則としなければ、事前予防として十分とはいえません。
そこで、「ソーハラ」として問題となった事例を、IT法務に強い弁護士など、社外の講師に依頼して、事例の共有を進めることが、予防策として有益です。
6. まとめ
今回は、SNSの流行によって新たに生まれた問題である「ソーハラ」について、その基礎知識と対処法を解説しました。
社内で「ソーハラ」被害が起こり、対応にお困りの会社の方、経営者の方は、IT法務を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。