4月に新卒社員が入社し、例年、5月の大型連休明けには、新社会人などの若手が、新しい環境に適応できずうつ病のような症状を発症してしまう「5月病」の時季です。
特に、ゴールデンウィークが長期連休となる場合には、せっかく少しは仕事に慣れてきた新卒社会人にとって、退職を考えるきっかけになってしまうことがあります。
新卒採用者に、早期離職をされてしまったり、大型連休中に転職活動をされてしまったりしないよう、会社としてはどのような対策をすればよいのでしょうか。
特に、新卒入社3年以内の早期離職を防止するための方法について、人事労務に強い弁護士が解説します。
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新卒採用者の離職率は上昇中?
厚生労働省が発表する「新規学卒者の離職状況」によれば、新規学卒就職者の3年以内に離職する割合は、2018年で31.8%でした。
この割合を、高いと感じるか、低いと感じるかは、会社によってまちまちかと思いますが、過去30年間で比較すると、割合の最も低いのは2002年の23.7%、最も高いのは2014年の36.6%であり、近年は、平均的な割合に落ち着いていると考えることができます。
また、新社員の離職率を、いかに抑えようと考えたとしても、3,4人に1人の割合では、離職する可能性が高い、ということを念頭に置いておく必要があります。
GW明けの「5月病」
4月を区切りに、卒業、新卒入社、転職などにより新しい環境になる人が多くいます。新しい環境に適応しようとする緊張、ストレスと、5月のゴールデンウィークの倦怠感により、心身の不調を訴える5月病が増えています。
会社側がこれらの労働者に対する心身の不調への対応を誤ると、特に新卒入社の社員はストレス耐性がまだ十分ではないことが多く、会社と仕事への諦めとともに、早期離職を誘発することになります。
実は多い「6月病」
5月病の増加だけでなく、近年では、社会人の間で、6月頃に心身の不調を訴える症状の人も増えています。これを「6月病」ともいいます。
新入社員に限らない話ですが、6月頃には、異動のタイミングがひと段落したり、あわせて梅雨のシーズンで天候が不安定になったりして、労働者にとってのストレスを加速させます。
疲れの反動が、心身の不調として、勤務態度に出てしまい、遅刻、欠勤などが増えるわけです。緊張やストレスの増加から来る「6月病」の時期、新卒社員の早期離職を出してしまわないためにも、規則正しい生活とリフレッシュのための休日を適度にとらせることが重要です。
心身の不調や、これをあらわす遅刻、欠勤などが長期化する場合には、離職を防止するために、産業医に面談させたり、場合によっては休職期間を与えたりといった対処法が必要となります。
新入社員が早期離職する理由
まず、会社が、新入社員の早期離職を予防するためには、新入社員が早期離職する理由を理解しなければなりません。
新入社員が早期離職する理由には、大きく分けて、新入社員(労働者)側の理由と、会社(経営者)側の理由とがあります。
新入社員が早期離職するときの理由として、よくあるものは、例えば次の理由です。
新入社員(労働者)側の理由
- 熱しやすく冷めやすい、飽きやすい性格
- 結婚、出産、育児、介護などの家庭内の事情
- 思っていたより仕事がつまらない等、高すぎる期待感・やる気とのギャップ
会社(使用者)側の理由
- 長時間労働、低賃金など、最初に説明したときの労働条件とのギャップ
- 厳しすぎる指導、パワハラ、暴力、職場いじめ
- 指導、教育などの社内体制の不備
【理由別】新卒採用者の離職を防止する方法
新卒社員が、新卒数年で離職してしまう理由には、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
新卒採用者の離職を防止するためには、新卒社員側の離職理由を理解し、その理由ごとに、会社側が適切な対策を講じておく必要があります。
仕事が自分に合わなかった
人生はじめての社会人経験となる新卒社員の退職理由で、最も多い理由が、「仕事が自分に合わなかった」というものです。
「仕事が合わなかった」といっても、新卒社員であれば、少しは仕事に合わせる努力も必要ではないか、と感じる会社も多いのではないでしょうか。
しかし、このような理由での早期離職を防止するためには、会社側が、社員の募集時、採用時、入社時に、仕事内容を詳細に説明する努力が必要となります。
労働基準法15条では、会社は、労働契約の締結時に、労働条件を明示しなければならず、特に、賃金などの重要な労働条件については書面で明示すべきことを義務付けています。この法律上の義務を守るだけでなく、仕事内容の説明まですることが、早期離職の予防に効果的です。
特に、新卒社会人の場合、仕事をするのが初めてですから、会社にとって当然のことであっても、「どのような仕事をしなければならないのか」について具体的にイメージできない人も少なくありません。
仕事のミスマッチを起こさないために、インターンシップなどの活用も効果的です。
人間関係がよくない
新卒入社の社員が、早期に離職するとき、次に多い離職理由が、「人間関係がよくない」というものです。
「人間関係がよくない」といっても、社長や上司からパワハラ、セクハラなどのハラスメント行為があってはならないことは当然であり、この点は、会社側としても十分に教育、指導が必要です。
特に、新卒の社会人の場合、これまで仕事上の指導を厳しく受けた経験のない人もいます。少しのことでも「ハラスメント」と過剰反応されてしまうことがあります。
人間関係を理由とした早期離職を予防するためにも、上司からの積極的な指導とコミュニケーションが必要です。
長時間労働・劣悪な労働条件
最後に、新卒社員が早期離職する理由の3つ目が、「長時間労働などの劣悪な労働環境」です。
新卒社会人にとって、これまで学校で勉強していたよりもはるかに長い時間を、仕事のために使わなければならないことも多いはずです。
長時間労働が続き、健康に悪影響を与えるほどであったり、残業をさせたのに残業代を支払わなかったりすれば、新卒社員からの責任追及を受けることは免れません。
労働環境を理由とする早期離職の多い会社では、離職を予防するため、労働時間、休日、休暇などの条件を、労働法を遵守した形になるよう、再度見直すことをお勧めします。
新卒採用者を定着させる方法
少子高齢化と、労働力人口の減少によって「人手不足」がますます恒常化しています。
「人手不足」状況を打開するために、中途採用を強化するのもよいですが、中途採用市場もまた売り手市場が続いています。
中途採用をしても「「良い人からの応募がない。」、「そもそも応募数自体が少ない。」という声も多く、中途採用に期待するのではなく、一から育てることが重要となります。そのため、新卒採用者の定着率を上げることが急務です。
そこで最後に、新卒採用者が定着しやすくなる方法について、弁護士が解説します。
上司との定期面談
たとえ良い人材を採用できても、たとえ人材の教育、育成に成功しても、離職率が高ければ、企業の人手不足問題の改善は見込めません。
定着率向上のために行える1つ目の手法が、上司との定期面談です。
1年に1回、あるいは、半期に1回、賃金評価を目的として社長などの経営層や人事部との面談を行う、という会社は多くありますが、離職率防止のためには、より高い頻度での意見聴取が求められます。
特に、直属の上司とは、仕事上よく顔を合わせるため、「1on1」の面談は軽視されがちです。「飲みニケーション」の文化が無くなりつつある中、日頃言いづらい意見を吸い上げるためにも、上司との定期面談の実施が効果的です。
歓迎会などの交流
新卒社員の定着率を向上させるための、2つ目の手法が、歓迎会などの交流を深める手法です。
日頃の「飲みニケーション」は、下手をすれば、「パワハラ」と言われかねない時代にもなりましたが、歓迎会、送別会などは、効果的に活用をすることもできます。
ただし、お酒の強要がご法度なのはもちろん、強制参加のルールとする場合には、「労働時間」と評価され、賃金が発生することとなる点に注意が必要です。
メンター制度によるフォロー
定期的に行う面談だけでなく、仕事のしかたを教え、常に相談しやすい環境を作ることもまた、会社側(使用者側)が離職を防止するために行うことのできる方策です。
「メンター制度」を活用し、新卒社員に対して、担当の上司をメンターとして用意することによって、手厚いフォローが実現可能です。
これにより、「仕事がイメージと違った。」、「教えてもらえなくて、仕事のギャップについていけない。」といった、新卒社員にありがちな会社への不満を解消することができ、早期離職を防止できます。
新卒社員の体調管理
新卒社員は、環境の変化からくる緊張やストレスにより、体調を崩しがちです。
欠勤や遅刻、体調を崩すことによる業務の遅れといった、客観的に判明する症状を見逃さないことが、新卒社員の体調を管理するために重要となります。
特にこれまで社会人として働いたことのない人には、新しいリズムになれる期間が必要となります。
身体の健康とともに、メンタル面の健康にも配慮が必要であり、うつ病などの精神疾患にり患してしまう前に、早期にケアしなければなりません。
早期離職防止のための会社側の注意点
早期離職を防止することは、採用コストの低下につながり、経営にもよい影響を与えます。
新入社員の離職は、GW明けたころから徐々に進んでいきますが、あきらめず、経営者として行っておくべき、「早期離職」防止のポイントを理解しておきましょう。
絶対やらなければならないことから、やっておいた方が良いことまで、さまざまありますが、重要な順に弁護士が解説していきます。
新入社員を違法行為から守る
新入社員に対して、会社内で違法行為が行われるようでは、早期離職されても仕方ありません。
この場合、早期離職だけではなく、会社に対する損害賠償請求、慰謝料請求を、訴訟、労働審判などによって行うおそれがあります。
新人は、まだ仕事を行うための能力が十分にないことが当然ですから、上司からの職場いじめ、パワハラにあたるような厳しすぎる指導がないよう、経営者が監督しておかなければなりません。
次のような違法行為が会社内で日常的に行われていると、早期離職の大きな原因となります。
- 社長・上司からのパワハラ、セクハラ行為
- 残業代の不払い(サービス残業)
- 有給休暇がとれない
- 退職の強要
新入社員の健康、生命を守る
違法な長時間労働や、職場におけるストレスは、新入社員の健康、生命を傷つけることとなります。
新入社員は、特に、社会人としての仕事のストレスに慣れていないため、経営者にとってはそれほど強いストレスとは気づかなくても、早期離職の原因となることが少なくありません。
また、これとは逆に、最初からやる気がありすぎて空回りしている社員の中には、自分の限界がわからず、働き過ぎて過労死、過労自殺など、重大な問題となってしまうケースもあります。
早期離職はもちろんのこと、新人社員の「過労死」という最悪のケースに至らないためにも注意が必要です。
約束した労働条件を守る
採用時に聞いた労働条件と、実際の労働条件とが異なることもまた、早期離職の理由として多く聞くものの1つです。
会社としては、労働者を雇用するときに労働条件を明示しなければならない義務があり、本来の労働条件と異なれば、労働基準法違反となります。
これに加えて、経営者は無自覚であっても、採用面接などのときに口頭で約束をしたことを守っていない場合、会社に対する不信感につながり、早期離職の原因となります。
社会人の基礎を教育する
大学を卒業したばかりの新卒社員の場合、いかにいい大学であっても、有能な人材であっても、「社会人」としては初心者です。
「こんなこと常識だろう。」と経営者が考えるマナーであっても、「知らなかった。」ということも多いものです。
特に、次のようなことは、経営者と新卒社会人との間に、大きなギャップがある部分ですので、自分が新人だったときを思い出して、丁寧な教育、指導をすることが、早期離職防止に役立ちます。
- 社会人としての心構え
- 仕事に向かう姿勢
- ビジネスマナー
- メールや文書の基本的な書き方
- 上司との付き合い方、敬語の使い方
- 会社の仕組み、秩序、ルール
基本的な事項ではあるものの、「当然だろう。」「常識だろう。」という態度で頭ごなしに叱れば、新人の早期離職を、より一層早めることとなります。
適切なタイミングでフォローする
新入社員に対する教育、指導は「教えっぱなし。」「命令して放置。」ではいけません。
適切なタイミングでフォローし、新人の疑問、不安を解消してあげるという姿勢でなければ、早期離職を早める原因となります。
特に、入社後3か月程度して、GWも明けて夏になると、職場への不満が具体化してきたり、「中だるみ」になったりする新人が少なからず出てきます。
この時期には、フォロー研修等、新入社員を放置したままにせず、しっかり会社内で解決していくための経営者の取り組みが、早期離職を防止します。
会社の文化を浸透させる
会社は、第1次的には「仕事をする場所」ですが、1日のうちの多くの時間を職場で過ごすため、「仕事だけの付き合い」では終わりません。
そのため、新人が「居心地が悪い」と感じてしまえば、早期離職は避けられません。
新人の、このような感情的な早期離職を避けるための経営者の対応として、懇親会、歓迎会をひらいたり、他部署の人を紹介して交流を深めたりといった対策が重要です。
会社には、それぞれの企業風土、文化、慣習がありますから、新人に早く慣れてもらうことが、早期離職防止につながります。
コミュニケーションをとる
最後に、社員間のコミュニケーションが重要となります。
「会社に全く不満がない。」という社員は、むしろ少ないのではないでしょうか。新人が最初のうちに抱く不満、不安は、会社内で解消できるようケアし、「退職」という結論に飛びつくことを防止しましょう。
経営者(社長)が直接聞きづらい場合には、上司や先輩を通じてコミュニケーションをとってもらったり、アンケートを活用したりする方法でコミュニケーションの機会を増やしてください。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、新卒社員の早期離職を防止するための方策について、弁護士が解説しました。
なんとなく採用を強化していただけでは解消することのできない「人手不足」問題は、新卒社員の早期離職が大きな原因の1つとなっている可能性があります。求人コストをあまりかけられない中小企業にとって、非常に重要な課題です。
特に、5月、6月の時期は、4月に入社した新入社員が、環境の変化に堪えかねて、ゴールデンウィークの大型連休の影響もあって離職をしやすくなる時期です。
従業員の離職率の高さをはじめ、人事労務管理にお悩みの方は、ぜひ一度、企業の労働問題を得意とする弁護士にご相談ください。
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