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テレワーク・在宅勤務中のケガ・病気は「労災」が認められる?

近年、働き方改革や新型コロナウイルスの影響で、急速な勢いでテレワーク・在宅勤務などのリモートワークが増加しています。

テレワーク・在宅勤務をしている会社では、会社外で社員がはたらいている間にケガをしたり、病気にかかってしまったりすることがあります。

原則として、会社は社員の健康と安全に配慮する義務(安全配慮義務)があることから、社員が「業務によって」ケガや病気になったときには「労働災害(労災)」となり、会社が一定の責任を負うこととなります。そして、ケガをしたり、病気にかかったりした場所がたとえ会社内ではなくても、労災にあたる場合があります。

ただし、テレワークや在宅勤務中の社員については、会社で働いてケガをしたといった場合に比べて、そのケガや病気が業務上の災害にあたるのかどうかの判断が難しいケースもあります。

そこで今回は、テレワーク・在宅勤務中のケガや病気が労災になるケースと、会社側(企業側)の適切な対応について、企業法務に詳しい弁護士が解説します

「リモートワーク」の法律知識まとめ

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テレワーク・在宅勤務中の「労災」

テレワーク、在宅勤務中といえども、社員がケガをしたり、病気にかかってしまったりすることが当然ながらあります。

会社が社員に対して負う安全配慮義務は、テレワーク、在宅勤務中であっても変わりありません。社員の健康が害されてしまったときに、それが業務によるものであるのかどうかを理解するために、まずは一般的な労災認定についての基礎知識を解説していきます。

テレワーク・在宅勤務とは

テレワークとは、情報通信技術を活用するなどして、はたらく場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。

テレワークには、次のとおり、いくつかの種類があります。

  • 在宅勤務
    :自宅にいて、会社とはパソコンとインターネット、電話、ファクスで連絡を取る働き方
  • モバイルワーク
    :外出先、訪問先などへの移動中にパソコンや携帯電話を使う働き方
  • サテライトオフィス勤務
    :レンタルオフィスなど、勤務先以外のオフィススペースでパソコンなどを利用した働き方

従来、テレワークや在宅勤務などのリモートワークを推奨すべき人は、妊娠・育児・介護などの家庭の事情がある人、身体障害やケガによって通勤が難しい人、バックオフィスや管理部門など、かならずしも出社しなくても業務をおこなうことができる人などといわれてきました。

しかし、現在では新型コロナウイルスの感染予防のため、その他の業種の人であっても、急速な勢いでテレワーク・在宅勤務が増加しています。従来の考え方にとらわれることなく、テレワーク・在宅勤務の実施に踏み切った、または実施を検討している会社や事業所も多いです。

このように、これまで必ずしもテレワークや在宅勤務が活用されてこなかった会社で、導入の緊急の必要性がある場合にこそ、とくにテレワーク・在宅勤務中のケガ・病気について労災が認められるかどうかをよく考えておく必要があります。

労災(業務上災害・通勤災害)とは

「労災」とは、業務上の負傷、疾病、障害または死亡のことをいいます(労働者災害補償保険法7条1項1号)。

労災に該当しますと、労働基準法、労働者災害補償保険法などに基づき、ケガ・病気をした労働者や(死亡した場合には)その遺族は、労災補償(療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付など)を受けとることができます。

職場と自宅との通勤途中に偶然事故にあった場合も労災(通勤災害)にあたります。

出張中や、会社外で労働をしていたときにおこった災害であっても、会社の支配下・管理したにある場合には業務中のものということができ、往復や宿泊の時間中であっても労災にあたる可能性があるものとされています(大分労基署長事件:福岡高裁平成5年4月28日判決)。

労災認定の要件

労災(業務上災害)にあたり会社が責任を負うのは、社員のケガや病気、死亡が「業務によって」起こった場合です。

このことを、専門用語で「業務起因性」といいます。「業務起因性」とは「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したこと」、平たく言えば、「業務に内在する危険が現実化したこと」です。

そして、業務起因性が認められるためには、その前提として「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること」が必要です。このことを専門用語で「業務遂行性」といいます。

テレワーク・在宅勤務などのリモートワークでも、この「業務起因性」「業務遂行性」があるかどうかという観点で、労災にあたるかどうかが判断されます。

リモートワークのなかでも、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務など、通勤をともなう類型がありますから、通勤がまったくなくなるわけではありません。モバイルワーク、サテライトオフィス勤務の移動中、通勤中に社員が偶然事故にあった場合は労災にあたる可能性があります。

テレワーク・在宅勤務でも、労災認定される場合

テレワーク・在宅勤務などのリモートワーク中でも、社員のケガや病気、死亡が「労災」となる可能性があることを解説しました。

労災の判断基準は、リモートワークであっても会社内での業務であっても変わりませんが、在宅勤務の場合には家では仕事以外のこともしますし、その他のテレワークでも社員の行動をすべて監視しておくには一定の限界があります。

そこで次に、テレワーク・在宅勤務中の社員が勤務中にケガ、病気をしたという場合、労災に該当する場合があるか、どのような場合に労災にあたるかについて解説します。

労災認定されるケース

労災に該当するかどうかは、在宅勤務の場合であっても、オフィス内で働いている場合と異なる原則が適用されるわけではありません。つまり、在宅勤務やテレワークjなどでも、労災認定にはさきほど解説した「業務起因性」「業務遂行性」が判断基準となります。

個別の事情におうじた判断となりますが、ケガをした経緯や状況、ケガの程度やその理由などを総合的に考慮して判断をすることとなります。

たとえば、在宅勤務を行うために必要な資料(仕事に必要な本など)が自宅内の高い所に置いてあったので、それを取ろうとして椅子の上に昇ったところ、椅子が倒れて落下しケガをしたというケースを考えてみてください

このような場合、仕事に必要な本がたくさんあってとても重く、それが落ちてきてケガをしてしまったのであれば、業務起因性、業務遂行性があり、労災にあたると考えることができます。

労災認定されないケース(私的行為)

これに対し、在宅勤務・テレワークなどのリモートワークの場合、業務中の時間と業務外の時間の区別が難しくなります。勤務時間の合間におこなっていた職務とは関連しない行為中のケガや病気は、労災にはあたりません。

例えば、在宅勤務中に外出して趣味のジョギングを楽しんでいたところ転倒しケガをしたという場合には、労災にはあたりません。「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること」(業務遂行性)の要件を満たさないからです。

このような明白な例はさておき、実際のところは在宅勤務・テレワーク時、私的行為と業務上の行為との区別があいまいとなりがちです。そのため、労災にあたるかの判断が難しいケースがでてくることが予想されます。

オフィス内で発生した事故と比較すると目撃者の協力も得られないことが多いため、できる限り事故状況、病気の状況を詳しく報告させたうえで、過去の裁判例などに照らした専門的な判断をおこなわなければリスク管理が困難です。

テレワーク・在宅勤務中の労災を申請し、認定を得る方法

次に、テレワーク・在宅勤務中の労災を申請し、認定を得る方法について解説します。

労災保険は、労働者保護のための制度ですが、通常は会社が社員に協力して、会社主導で労災認定を得るように進めていくことが一般的ですから、会社側が十分な理解をしておく必要があります。

所轄の労働基準監督署長に申請を提出して支給認定を得れば、労災保険からの給付を得ることができます。不支給決定となった場合には、これに不服の労働者は、各都道府県の労災保険審査官、さらに、労働保険審査会へ再審査請求をすることができます。さらにその決定にも不服の場合には、訴訟をおこなうこととなります。

ここでは、このような一般的な労災申請の手続きの流れに加えて、テレワーク・在宅勤務などのリモートワーク中の難点と、これを克服するための会社側の注意点について弁護士が解説します。

テレワーク・在宅勤務中の労災は、証拠が社員側にある

さきほど解説したとおり、労災認定を受けるためには「業務によってケガ・病気をしたこと」についての「客観的な証拠」が必要となります。

しかし、テレワーク・在宅勤務などのリモートワークの場合には、会社の支配下で業務をおこなっているといえども、会社内ではたらいているときのように常に注意して監視できるわけではありません。そのため、労災申請に必要な証拠は社員側だけしか用意できないことが多いのが実情です。

会社内で事故が発生すれば、会社は事故発生の事実を速やかに認識し事後的な対応を取り、社員の保護のため労災申請をおこなうことが可能ですが、テレワーク・在宅勤務の場合、勝手がちがいます。在宅勤務・テレワーク中の社員からの会社への報告が遅れたり、事故状況が正確に伝えられていなかったり、証拠保全が適切になされていなかった場合、労災認定に影響がでてしまうおそれがあります。

テレワーク・在宅勤務中に労災事故が発生してしまったときは、まず第一次的な対応を社員自身でおこなう必要があります。想定外の事故にあい精神的に動揺しているときに労災申請に関する証拠の保全を考えなければならないというのはかなり難しいことです。

そこで、会社はこれをサポートし、適切な指示をしたり、教育したりしなければなりません。会社の社員に対する教育が非常に重要となってきます。

会社として、労災認定への協力が重要

会社としては、在宅勤務・テレワークを導入するならば、労災認定にできるだけ協力して、社員に対し必要な配慮を行うべきです。

それが、従業員に対し安全配慮義務を負担している会社に期待されており、会社と社員との間の信頼関係を維持するためにも重要なことです。くれぐれも「労災隠し」などの疑いが持たれないように注意してください。

労災認定の過程では、労使間に事実認識の差がないときには、「事業主」である会社は労災保険給付のために「事業主証明」をおこない労災事故の状況を証明することとなります。

このとき、テレワーク・在宅勤務中の労災事故だと、証拠が社員側にかたよっていることから、社員との信頼関係が欠如していたり、リモートワークの労務管理をしっかりおこなっていなかったりする場合には、事業主としての適切な証明ができず、労使間対立がおきてしまうおそれがあります。

在宅勤務・テレワーク中に労災事故が発生した場合には、、まず事実を直接体験した社員に、事故に関する証拠(事故に関する報告書や写真など)を提出させ、会社は必要な確認作業を行い、社員が提出してきた証拠をもとに事業主証明を作成します。

導入時の社員研修・教育が重要

いざテレワーク・在宅勤務中のケガ・病気について労災申請、労災認定がなされたとき、証拠がないので、本来は労災に認定されるはずであったのに労災に認定されないという事態になってしまうおそれがあります。

万が一の事態にあわてないよう、リモートワークの制度を導入するにあたって、会社側としては社員に対し、労災事故等が起きた場合に取るべき行動などについて十分な情報提供、教育を行っていくことが必要です。

会社による十分な教育が行われていないと、事故が起きた場合、会社は事後的な対応で無用な負担を強いられ、さらに、会社が社員に対して負担する安全配慮義務に違反することにもなりかねません。

このことは、「労災保険がもらえない可能性がある」という社員側のデメリットだけでなく、社員の会社への信頼を低下させることとなり、安全配慮義務違反の損害賠償請求を起こされやすいなど、会社側にとっても大きなデメリットにつながります。

さらに、テレワーク・在宅勤務中において勤務時間の適切な管理がなされることが重要です。労災の要件である業務遂行性の判断を適切に行うためにも、始業、終業、休憩などの定め、社員によるそれらの確実な遵守、会社による上記遵守の確認方法などが課題となります。

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テレワーク・在宅勤務中の労災事故は、事前予防が必要

テレワーク・在宅勤務などのリモートワーク中に労災事故がおきてしまったときの対応方法について解説してきたとおり、事故がおきたあとの対処は、会社内でおこった労災事故にもまして手間と時間がかかります。

そのため、テレワーク・在宅勤務中に労災事故が起きてしまわないよう、事前予防が重要となります。そこで最後に、リモートワーク導入時にできる、労災予防のための会社の施策について、弁護士が解説します。

テレワーク規程・マニュアルを作成する

まず、テレワークや在宅勤務などのリモートワークを、会社の制度として導入するときには、「テレワーク規程」という特別な就業規則を作成することが一般的です。この規程の中に、テレワーク中の病気やケガに関する責任や、社員が守るべき行為規範を記載しておきましょう。

「家で仕事をしてもケガをするな」「病気にはかかるな」といっても、家の中の事情は社員ごとに異なりますから一般化は困難です。

社員が、リモートワーク中に、ケガをしてしまいかねないような危険行為をしないよう、禁止行為や行為規範を定めます。特に、移動をともなうリモートワークでは、移動中にケガをしてしまうことが多いため、移動中の注意事項や禁止行為を、できる限り詳しく記載します。

就業規則は、会社の規定であり、社員の過半数代表の意見を聴取して作成し、労働基準監督署(労基署)に届け出なければなりません。そのため、変更には一定の手間がかかるため、日々更新したいこまかな順守事項については、別にマニュアルを作成しておくことがお勧めです。

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長時間労働を回避する

テレワークや在宅勤務などのリモートワーク中の「病気」で多いケースは、「長時間労働」を原因とするものです。うつ病や適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)や腰痛、ヘルニアなどが代表例です。

テレワーク・在宅勤務などのリモートワークであっても、社員の労働時間を適切に管理し、長時間労働とならないよう会社側で抑制することが重要です。プライベートの時間との区別のつきにくいリモートワークでは、社員任せにして放置していると知らず知らずのうちに労働時間が長くなってしまいがちです。

なお、リモートワークであっても、労働時間を把握する義務が会社にあり、把握した労働時間に応じた残業代の支払いが必要となります。

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「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、「テレワーク・在宅勤務中のケガ・病気は『労災(業務上災害)』と認められるのか」という疑問について弁護士が解説しました。働き方改革・新型コロナウイルスの影響で急速な勢いで増加しているテレワーク・在宅勤務中に、社員がケガ・病気をした場合にそなえ、あらかじめ適切な対応を理解しておかなければなりません。

会社は、業務上の災害である労災事故が起きないように社員の安全を守る義務を負っています。この義務は、働き方によって守り方が異なりますから、テレワーク・在宅勤務を導入するのであれば、それに適した対応が必要です。

平時、会社内ではっせいした 労災事故であればすみやかに事実を把握して対応できる会社でも、在宅勤務・テレワークの導入、さらには新型コロナウイルス(COVID-19)などの未知の事態などともなれば、今まで経験のしたことがない事態への対処をしなければなりません。

テレワーク・在宅勤務にまつわる法律問題や、会社としての適切な対応方法にお悩みの際は、企業法務に詳しい弁護士にぜひお早めにご相談ください。

「リモートワーク」の法律知識まとめ

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