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労働審判手続きの流れと、会社側(使用者側)の対応まとめ

労働審判の申立てを受けてしまった会社が、できる限り会社側(使用者側)に有利に労働審判を進めていくためには、まず労働審判手続の流れについて理解しなければなりません。

労働審判手続きの流れは、「調停」、「審判」、「訴訟へ移行」など、いずれの解決策を目指すかによって、場合分けが必要であり、ケースバイケースの対応となります。

手続の流れをあらかじめ把握しておかなければ、全体を見据えた対処が難しくなってしまうため、「全体の流れ」を把握するようにしてください。

今回は、労働審判手続の流れを、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

「労働審判」の法律知識まとめ

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労働問題(トラブル)の発生

労働審判申立の原因となる、会社内での労働問題(労働トラブル)の発生が、「全体の流れ」の発端となります。

そのため、まずは、労働トラブルが起こらないよう、就業規則や雇用契約書のリーガルチェックから、適切な労務管理にいたるまで、弁護士の指導を受けながら「予防法務」を徹底することが重要です。

労働問題が起こってしまった場合、その問題が「労働審判での解決に向いているか。」については、様々な考え方があります。

ただ、最近では、労働審判による解決が、最もスピーディでスムーズであることから、労働者側の代理人となる弁護士も、労働審判申立を積極的に活用してきます。

期日前の流れ

労働審判は、後に解説するとおり、第1回期日が決定的に重要です。

そのため、第1回期日に、十分な主張立証をできるようにするためには、期日前から、十分な準備をする必要があります。そこで、期日前の手続きの流れについて、きちんと理解しておいてください。

特に、会社側で労働審判への対応を行う際には、申立まで十分な時間を確保できる労働者側と異なり、準備にかけられる時間が非常に短いことが特徴です。

労働審判の申立て

労働審判の申立ては、労働者側から行われることが一般的です。

会社側から労働審判を申し立てることができないわけではないですが、会社側からの労働審判申立を有効に活用できるのは、ごく例外的なケースに限られます。

なお、事前に労使間で話し合い(交渉)が行われていた場合、会社側から話し合い(交渉)を決裂させるときには、労働審判の申立てが高確率で予想できます。その際は、早めに準備を開始しましょう。

会社側(使用者側)の準備

労働者側から裁判所に対して労働審判の申立てがあると、裁判所は会社に対して、「呼出状」を送付するとともに、申立書と証拠の写しを送付します。

この送付は、会社の登記簿上の本店所在地に対して行われるのが原則です。

呼出状には、労働審判の第1回期日の予定日と、答弁書の提出期限が記載されています。

会社側が、呼出状を受け取って労働審判申立を知った時点で、すぐに行わなければならない準備は非常に多く、スピード重視で進めていく必要があります。詳しくは、次の解説をご覧ください。

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労働審判期日の流れ

会社側が答弁書と証拠を提出すると、いよいよ、労働審判の期日が開かれます。労働審判の期日は、原則として「3回まで」です。

弁護士に労働審判への対応を任せた場合であっても、会社側は、必ず労働審判に事情のわかる方(社長もしくは担当者)を出席させる必要があります。

労働審判では、期日でのやり取りが非常に重要であることから、実際に労働問題を経験した当事者が、労働審判の期日に証言していただく必要があるためです。

注意ポイント

労働審判の期日は、原則として3回までしか開かれません。労働者保護のため、解決スピードが重視される制度だからです。

会社側として労働審判に対応するとき、「後から主張すればいい。」「証拠は後日収集する。」といった態度では、会社にとって有利な解決は望めません。

第1回期日

労働審判の第1回期日は、だいたい2時間~4時間程度と、長時間かかることが一般的です。

この長い時間は、2つの部に区分されており、主に次のような進行となります。

  • 前半部分
    :両当事者に対する事実関係の確認
  • 後半部分
    :各当事者の考えを聞きながら、調停(話し合い)の調整

前半部分の事情聴取は、事実関係の確認が第1回期日でしか行われないことが一般的であることから、労働審判の手続きの流れの中でも、最重要とお考えください。

ここで確認をした事実をもとに、労働審判委員会が評議をし、ある程度決定した心証を開示しながら、後半部分で話し合いを進めます。

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第2回期日~第3回期日

第2回、第3回の期日は、基本的には、第1回期日の後半部分と同様、すなわち、調停(話し合い)の調整がされます。

各当事者が、交代で労働審判廷に入室し、労働審判委員会(裁判官)に話を聞いてもらいながら、話し合いによる解決を目指します。

注意ポイント

事実関係の確認は、第1回期日で終了させておくのが原則であり、第2回期日、第3回期日には行われないことが一般的です。

仮に、「主張し忘れた。」、「証拠の収集が遅れた。」といった事情によって、例外的に第2回期日以降でも事実関係の確認をしてもらえたとしても、労働審判委員会(裁判所)に重視してもらうことは難しい場合があります。

労働審判の解決の流れ

労働審判の期日の流れを理解していただきましたら、次に、労働審判の解決へ向かう手続きの流れについて、弁護士が解説します。

労働審判の期日は、さきほど解説したとおり「3回まで」ですが、そのうち、どの期日で解決するかはケースバイケースです。第1回期日で、次のいずれかの解決方法によってすぐに解決する案件もあります。

労働審判の解決は、「調停」によるケースが大半であり、「調停」によって会社側に有利な解決を勝ち取れるよう努力するのが一番です。

調停の成立

「調停」とは、労働審判の場における「話し合い」、「和解」だとお考えいただくと、イメージしやすいかと思います。

さきほど解説しましたとおり、労働審判は「話し合い(交渉)」の場であることから、「調停」による解決を目指すのが原則です。

「調停」が成立した場合には、「裁判上の和解」と同じ効力であるため、破れば、強制執行をされてしまいます。

「調停」では、必ずしも法律だけによる解決ではないため、会社に有利な「調停」とするため、期日の手続きの流れをうまく進めるようにしてください。

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労働審判

「調停」での話し合いが成立しない(合意に至らない)場合には、「労働審判」という、裁判所からの強制的な解決が下されることとなります。

裁判でいう「判決」と同じだとお考えいただくと、イメージしやすいかと思います。

ただし、労働審判委員会(裁判官)からの心証開示があった場合、下される労働審判の内容は、調停と同程度の内容となるケースがほとんどです。

そのため「労働審判」による最終的な解決はむしろ例外であって、解決の見込みを予想しながら、「調停」を目指して話し合いを進めるのが原則です。

労働審判の受諾(確定)

労働審判が下された場合には、「2週間以内」に異議申立を行わなければ、労働審判を受諾したこととなり、労働審判が確定します。

確定した労働審判は債務名義となるため、これに従わなければ、会社側としては強制執行をされてしまうおそれがあります。

異議申立(訴訟へ移行)

これに対して、下された労働審判に、どうしても納得がいかないという場合には「異議申立」をして訴訟に移行することとなります。

「2週間以内」に異議申立を行うと、労働審判申立のときに訴訟提起をしたものとされ、訴訟に移行します。

労働審判は、労働者保護のためにスピードを優先した手続きであって、「丁寧な証拠の精査」などを、ある程度犠牲にした手続きであるともいえます。

そのため、労働審判委員会の心証、判断が、明らかに間違っているとお考えの場合には、会社側としては異議申立をして争わざるを得ないケースもあります。

24条終了

労働審判で審理をし、解決をすることに向いていない事案の場合には、例外的に「24条終了」という解決があります。

これは、労働審判の期日における審理などをすることなく、労働審判委員会が、労働審判の終了を宣言することです。

「24条終了」となった場合には、労働審判を申し立てた時点で訴訟を申し立てたものと擬制され、訴訟に移行することとなります。

24条修了になる例

  • 「管理監督者性」など、法的に難しい論点についての争いが大きいとき
  • 労働時間を日ごとに集計すべき残業代請求など、証拠の精査に時間がかかるとき

ただし、24条終了が予想される場合であっても、話し合いによって「調停」による解決が可能なこともあるため、一旦は労働審判を申し立てて来る場合が多く、会社側としても労働審判に対応する必要があります。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、労働審判の手続きの流れについて、全体を俯瞰してまとめて解説しました。

労働審判のそれぞれの段階で、会社側としてどのように対応していけばよいのかを理解するためには、まずは手続き全体の流れを理解することが重要です。

労働者から労働審判を申し立てられてお悩みの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早目にご相談ください。

「労働審判」の法律知識まとめ

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