人事労務

「就活セクハラ」で慰謝料請求されるリスクと、企業がとるべき対策

毎年4月になると「就活セクハラ」が話題になります。

例えば、2017年4月26日、プロ野球でお馴染みの「DeNA(ディー・エヌ・エー)」の採用担当者が、入社試験を受けた女性をホテルに連れ込んみ「週刊文春」に報じられました。

採用活動は多様化しており、従来の採用面接だけでなく、社外で食事を交えて面接がおこなわれたり、OB訪問があったり、さらにはこれをサポートするアプリなども開発されています。人手不足の加速で、企業側もあの手この手で採用手法を増やしています。

一方で、採用担当者と就活生のコミュニケーションの増加にともなって「就活セクハラ」が横行するようになりました。企業側として「就活セクハラ」を放置すれば、企業イメージの低下による思わぬ損失を受けることとなります。

今回は、「就活セクハラ」で慰謝料請求される会社側のリスクと対策について、企業の労働問題(人事労務)に強い弁護士が解説します。

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就活セクハラとは?

「就活セクハラ」とは、会社側(企業側)の採用担当者やリクルーターが、就活生に対しておこなうセクハラ行為です。採用面接で性的な質問をしたり、採用担当者という強い立場を利用して性的関係を要求したりする行為が典型例です。

つまり、採用をする会社側の関係者が、応募をする求職者側に対して、その立場を利用しておこなうセクハラが「就活セクハラ」です。

社内でおこるセクハラ問題と同様、「性的な嫌がらせ」であり、採用という特殊な場面における力関係を利用しておこなわれる悪質な行為です。

就活セクハラの具体例は、例えば次のとおりです。

  • 面接会場で、「なぜ独身なのか」「子どもは欲しくないのか」「彼氏はいるのか」「スカートが短い」など、性的なことがらについての質問や指摘をしてしまう。
  • エントリーしてきた女子学生に目を付け、「セックスしてくれなければ採用しない」などと言って、性的関係を迫る。
  • 就活生を夕食に呼び出し、酒に酔わせてホテルに連れ込む。

会社の社長が就活セクハラを行ってしまうことは論外ですが、採用担当者・面接担当者が、採用選考をおこなっているうちに自分が偉くなったと勘違いをして就活セクハラをしてしまうこともあります。

採用担当者・面接担当者が就活セクハラをおこなった場合、これを監督せず、予防策を十分に講じなかった会社の責任も問われることとなります。

就活セクハラのリスク【会社側】

就活セクハラは、その名の通り「セクハラ」の一種です。

つまり、性的な嫌がらせ行為ですから、社内のセクハラと同様、嫌がらせを受けた被害者が精神的な苦痛を負った場合には、慰謝料を支払わなければなりません。

自社の社員が就活セクハラの加害者となったとき、会社側(企業側)のリスクは慰謝料請求だけにとどまりません。就活セクハラ予防の重要性を理解していただくため、まずは就活セクハラが会社側(企業側)に与えるリスクの大きさについて、弁護士が解説します。

就活セクハラの民事責任(慰謝料請求)

会社は、男女雇用機会均等法によって、社内のセクハラを防ぐことを義務づけられています。このことは社員間のセクハラだけでなく、社外の第三者に対するセクハラでも同様です。

「採用担当者のおこなった個人的な行為であり、会社は責任を負わない」という考えは甘いといわざるを得ません。

会社の「事業の執行」において、社員が第三者にあたえた損害について、会社は賠償する義務があります。これを「使用者責任」といい、民法にも次のとおり定められています。

民法715条(使用者等の責任)

1. ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2. 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3. 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

採用活動は、会社の事業活動を継続するために不可欠な活動ですから、会社の「事業の執行」に含まれることが明らかです。

そのため、採用担当者から就活セクハラ被害を受けた就活生に「使用者責任」を追及されれば、会社は社員に代わって慰謝料などの損害賠償をおこなわなければなりません。

就活セクハラの刑事責任(刑事罰)

就活セクハラによるリスクは、民事責任だけにとどまらず、刑事責任を追及される場合があります。つまり、就活セクハラにより、刑事罰を受けてしまうリスクがあるということです。

特に、性的関係(性交渉)を強要するようなセクハラは、「強制性交等罪(旧強姦罪)」「強制わいせつ罪」などの重大な犯罪行為にあたります。

社員が「就活セクハラ」で犯罪を犯して逮捕されたなどの事態になれば、ニュース報道による会社の信用低下も、ますます深刻なものとなります。

就活セクハラの社会的責任(企業イメージの低下)

「働き方改革」にともない、女性の社会進出はますます推進されています。その中で、セクハラだけでなく、妊娠・育休・産休などを理由とした嫌がらせである「マタハラ」など、性的差別を理由とするハラスメントが社会問題化しています。

就活セクハラによって、会社で生じるハラスメント問題に対する社会の目は厳しくなっています。

新たなハラスメントが次々と生まれており、特に「性」に関する差別的取り扱いが社会問題となる中、就活セクハラが報道されてしまうことが、どれほど会社の社会的信用を低下させるかはご理解いただけるでしょう。

顧客の減少や取引先の喪失にとどまらず、就活生から敬遠されて良い人材を確保できないなど、採用活動に支障が出るおそれもあります。

就活セクハラ発覚後の適切な対応【会社側】

就活セクハラが会社にあたえる大きな悪影響を理解していただけたことでしょう。

しかし、十分な就活セクハラ対策をし、社員を指導・教育したとしても、残念ながら就活セクハラが起こってしまうことがあります。そこで次に、万が一にも就活セクハラが起こってしまったときの、会社側(企業側)の適切な対応について、弁護士が解説します。

被害者には誠実に対応する

就活セクハラの重大なリスクを理解すればするほど、「隠蔽したい」「なかったことにしたい」「バレないのではないか」という誘惑にかられるかもしれません。しかし、もみ消しや隠ぺいはお勧めできません。

就活セクハラの事実が判明したら、はじめに、すぐに被害者に謝罪をし、お話し合いをおこなうべきです。

会社の対応が十分でなかったことが原因で、被害者が法的措置をおこなったとき、会社はこれに対応するコストがかかります。更に、就活セクハラの事実が証明されたら、報道によって社会的信用が低下することにもつながります。

就活セクハラの被害者への対応は、まずは謝罪の意向を示し、誠実かつ真摯におこなってください。早期の対応をおこたったり、真摯な姿勢を欠けば、それだけ社会的な避難をうけるリスクが高まり、命取りです。

就活セクハラ加害者の異動

採用責任者、面接担当者など、採用活動をまかせていた社員が就活セクハラをおこしたときには、ただちに責任あるポジションから異動させるようにします。

就活セクハラが発覚したあとも採用活動をまかせていては、会社が就活セクハラ問題を放置していたといわれてもしかたありません。

就活セクハラの被害を発生させてしまう社員は、採用活動という業務に適切とはいえません。どれほど軽度な行為であるとしても、「再発防止」の観点から、今後の採用活動をまかせることはやめましょう。

就活セクハラ加害者の懲戒処分

会社としては、就活セクハラの加害者となった採用担当者や面接担当者、リクルーターに対しての処遇も考えていく必要があります。

就活セクハラの加害者をまったく処分せず放置すれば、「擁護」と受け取られることもあります。あらたな就活セクハラの被害者が生まれれば、会社の信用はますます低下します。

就活セクハラに厳罰をあたえることで、就活セクハラの加害者となった社員はもちろん、他の社員に対しても、就活セクハラがいかに悪質な行為かを知らしめることができます。

会社が社員に与える制裁(ペナルティ)である「懲戒処分」には、けん責・戒告のように軽度のものから、出勤停止・降格のような中程度のもの、諭旨解雇・懲戒解雇のような重度のものがあります。以下の事情を考慮して、相当な懲戒処分を選択する必要があります。

  • 就活セクハラの回数・頻度
  • 就活セクハラの行為態様・程度
  • 就活セクハラのおこなわれた期間
  • 加害者の役職の高さ・責任の重さ
  • 加害者の動機
  • 就活セクハラ発覚後の反省の態度・謝罪の有無

就活セクハラ加害者の懲戒解雇

会社が社員に与える制裁(ペナルティ)の中で、もっとも重いのが「懲戒解雇」です。

しかし、就活セクハラはとても重大な行為であるものの、懲戒解雇が適切であるかどうかは、ケースにしたがって判断しなければなりません。というのも、日本の労働法では、会社の解雇権は厳しく制限されているからです。

解雇権を制限する「解雇権濫用法理」というルールにしたがえば、就活セクハラの加害者を懲戒処分とするときには、次の2つの要件を満たしている必要があります。

  • 懲戒解雇をするに足りる「客観的に合理的な理由」があること
  • 懲戒解雇が「社会通念上相当」であること

就活セクハラは違法な行為であり、「合理的な理由」があることは明らかですが、就活セクハラの内容、程度によっては、軽度のセクハラでは懲戒解雇に足りるだけの「社会通念上の相当性」は認められないこともあります。

刑事責任を負うような企業秩序への影響が重度なもの、報道によって会社の信用低下がいちじるしいものといった重大な就活セクハラの場合には、懲戒解雇を検討することとなります。

就活セクハラの事前予防

以上の解説は、就活セクハラが起こってしまったあと、会社側(企業側)が、どのような対応をしたらよいかについての解説でした。

一方で、就活セクハラが起こらないに越したことはありませんから、会社としては就活セクハラが起こる前から、未然に防止するための対策をしっかり行うべきです。

そこで最後に、就活セクハラを予防するために、企業が行っておくべき対策を、弁護士が解説します。

採用担当者に教育・周知徹底する

残念ながら就活セクハラが起きてしまう一番の原因は、採用活動をする社員の意識の低さにあります。

採用責任者、採用担当者、面接担当者、リクルーターなど、採用活動を担当する社員において「どのような行為が就活セクハラにあたるのか」という認識が不足している場合が多いです。

社員の軽い気持ちが、就活セクハラの被害者をうまないよう、「どのような行為が就活セクハラにあたるのは」について、採用活動にかかわる社員全員に教育し、啓発し、周知徹底をすることは会社の役割です。

最近ではOB・OG訪問が一般化し、これをサポートするアプリなども開発されています。「社員全員が採用担当」といってもよい状態です。そのため、採用活動を担当する社員への教育はもちろんのこと、全社的に、就活セクハラをおこなわないよう啓発が必要です。

採用面接のマニュアルをつくる

採用面接の場面で、性的発言をおこなったり、プライバシーにかかわる質問をしたりすることが、就活セクハラの被害につながります。

採用にかかわる法律やルールは複雑で、わかりにくいものですが、採用面接を複数回おこなう場合には、誰しもが面接官となる可能性があります。

そこで、採用面接を担当するときに気を付けるべきことについてマニュアルを作成することがお勧めです。特に、「採用面接でしてはいけない質問」をまとめて、面接担当者に配布し、面接前に必ずチェックさせるようにしましょう。

「採用面接でしてはいけない質問」については次の解説も参考にしてください。

参 考
採用面接で聞いてはいけない不適切・違法な質問【弁護士解説】

採用面接のときには会社に「採用の自由」があるため、原則として、どの求職者を採用するか(もしくは採用しないか)は会社側(企業側)が自由に決めることができます。 「採用の自由」の前提として、会社が採否の判 ...

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参 考
採用面接で、うつ病・精神疾患の既往歴を質問できますか?【会社側】

うつ病を始めとした精神疾患(メンタルヘルス)に従業員がり患してしまうと、生産性・業務効率が低下したり、休職を余儀なくされたりして、業務に大きな支障を与えます。 うつ病・精神疾患(メンタルヘルス)にかか ...

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採用活動を報告させ、管理する

就活セクハラの中でも、とりわけ悪質なのが性的関係(性行為)を迫るものです。

しかし、このような悪質な就活セクハラは、OB・OG訪問の場や、社外での食事、相談などに乗じて秘密裡に行われることがほとんどです。そのため、会社の監視が十分でないことによって、このような悪質な就活セクハラの被害が増加してしまっています。

こっそりおこなわれる悪質な就活セクハラを防ぐには、採用担当者はもちろんのこと、そうでなくても採用にかかわる行為については、すべて報告させ、管理しておく必要があります。

採用にかかわる行為をおこなったとき、会社が報告を命じるべき事項には、次のようなものがあります。

  • 面談の時間・場所
  • 面談相手となる採用候補者の氏名・性別
  • 面談相手となる採用候補者との連絡手段
  • 採用の可能性、採用までのスケジュールの見通し

会社としても、報告を受けた内容を十分に吟味し、「遅い時間の面談」「居酒屋・ホテル・カラオケなど不適切な場所での面談」など、就活セクハラを疑わせるような不審な行為がないか、しっかりチェックしてください。

就活生の相談窓口を設置する

対策を徹底しても、隠れた就活セクハラをすべて防ぐことはできません。悪意をもって、こっそりとおこなわれる就活セクハラをすべて把握するのは至難の業です。

そこで、就活セクハラを早期に発見し、被害を食い止めるためには、被害者の協力が不可欠です。

しかし、就活セクハラに苦しむ就活生の中には、「内定がかかっているため、思い切って被害を申し出ることができない」「内定が出るならと思って我慢してしまった」「セクハラ被害をいえば採用してもらえない」という悩みを持っている人も多くいます。

就活生からの被害申告をうけやすくするためにも、就活生向けのセクハラ相談窓口を設置し、就活生に周知することが必要です。

窓口の設置とあわせて、「セクハラ相談窓口に就活セクハラの申出をしたとしても、会社として不利益に取り扱うことはない」ことを周知してください。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、「就活セクハラ」が会社側(企業側)にもたらす慰謝料請求のリスクと、適切な対策・予防法について弁護士が解説しました。

セクハラ問題は、決して会社内でおこる「社員に対するセクハラ」だけではありません。就活などでは社外の人に対する行為であってもセクハラが問題となります。企業イメージの低下など、会社全体に大きな影響がある以上、「就活セクハラ」の問題を放置しておくことはできません。

採用担当者のみに任せて放置するのではなく、会社全体として「就活セクハラ」が起こらないよう対策が必要です。

採用の場面における労働問題に不安のある会社は、企業の労働問題(人事労務)に強い弁護士にお気軽にご相談ください。

「採用内定・試用期間」の法律知識まとめ

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