経営が行き詰まり、資金繰りが苦しくなると、会社をたたむ判断を迫られます。
債務から逃れるための最終手段となるのが「会社の破産手続き」です。破産手続きは、破産法という法律に基づいて裁判所で行うもので、その手続きは複雑です。かかる費用や期間についても具体的なイメージを持てず、不安を抱える経営者も多いのではないでしょうか。
一方で、経営が困難な場面において、会社の破産手続きを有効活用することは、再出発のための重要な選択肢の一つとなります。
今回は、法人破産の基本的な流れから、実際にかかる費用や期間の目安までを、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 会社の破産手続きは複雑で、専門的知見を要するため、弁護士に相談すべき
- 破産手続きの流れは、開始決定、破産管財人の選任、換価、配当と進む
- 会社の破産手続きにかかる期間は6ヶ月〜1年間が目安となる
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会社の破産手続きとは
はじめに、会社の破産手続きについての基本を解説します。
会社の破産手続きとは、債務超過や資金繰りの悪化で経営に行き詰まった法人を、裁判所を通じて整理し、清算する法的手続きです。破産法に基づいて進められ、終了すると会社の法人格は消滅します。破産手続きの目的は、会社の財産を公平・適正に管理し、債権者に平等に分配することです。合わせて、経営者の再出発を支援する役割も担います。
「破産」と聞くとネガティブなイメージを抱く人も多いですが、実際は「終わり」ではなく「整理と再出発」の手段です。たとえ経営に失敗しても、正しい手続きを踏めば、生活の再建や事業の再起を図ることができます。
破産と倒産の違い
「破産」と「倒産」は、似た意味で使われますが、厳密には区別されます。
倒産とは、経営に行き詰まり、事業の継続が困難な状態の総称であり、法律用語ではありません。これに対し、破産とは、法的に定められた破産手続きに基づく債務整理であり、破産法の定めるルールに従って裁判所に申立てをして行うものです。
「債務整理の種類」の解説

破産手続開始の要件
裁判所が破産手続きを開始する要件は、次の2つのいずれかを満たすことです。
- 支払不能
会社の資産や事業の将来性などを総合的に考慮して、継続的に債務の履行(返済)ができない状態にあること - 債務超過
資産よりも負債が上回り、経済的に破綻している状態にあること
これらの状態が明らかになった場合、裁判所に申立てることで破産手続きが開始されます。現時点では支払いができても、いわば自転車操業の状態だと、いずれは倒れてしまうでしょう。手元の財産では借金を返しきれないなら、破産を検討する余地があります。
自社が、破産手続開始の条件を満たすかどうかは、早めに弁護士に相談すべきです。
「法人破産のデメリット」の解説

会社の破産手続きの流れ
次に、会社の破産手続きの基本的な流れについて解説します。
専門的な手続きなので、多くの場合は弁護士に依頼しますが、経営者も全体の流れを把握すべきです。「破産したらどうなるのか」を理解すれば、スムーズに準備を進められます。
財務状況を確認する
まず、破産手続きを検討する段階で、現在の財務状況を把握しましょう。
これにより、「そもそも破産が必要か」「いつ破産手続きを開始すべきか」を見極める必要があります。具体的には、以下の点を整理します。
- 法人の債務の総額
- 法人の返済能力、将来見込まれる売上
- 現在の資産(現金、売掛金、不動産など)
- 税金・社会保険料の滞納の有無
- 事業を継続した場合に予想される人件費
- 連帯保証人の有無(特に、代表者の個人保証)
弁護士に相談する
状況を把握し、破産が現実味を帯びてきたら、弁護士に相談しましょう。
破産手続きは、書類作成や債権者との対応、裁判所への申立てなど、専門知識が求められる局面が多いです。弁護士に任せれば、手続きを一任でき、債権者対応も弁護士が代理で進めてくれるので、精神的負担を軽減できます。少額管財制度を利用できれば、予納金も軽減される可能性があります。
相談が遅れると、準備の時間が十分に確保できず、資産が目減りして費用の捻出すら困難になりかねません。自己判断や先送りはリスクを拡大するので、「破産すべきか迷っている」という段階でも早期に初回相談を受けるのがお勧めです。
法人破産は、個人破産にもまして注意すべきポイントが多くあります。そのため、企業法務や法人破産の実績が豊富な弁護士に相談すべきです。
受任通知を送って取り立てを止める
次に、弁護士から受任通知を送付します。受任通知は、債権者に「破産の準備に入ったこと」「今後の連絡窓口を弁護士とすること」を伝える文書です。
受任通知の最大の効果は、取り立てを止めることです。その結果、債権者対応による負担から解放されると共に、返済を止めて費用を捻出しやすくします。
なお、受任通知を送ったとしても必ず破産するとは限らず、債権調査の結果、他の手段(任意整理や民事再生など)を選ぶケースもあります。破産を回避できることもあるので、早期に受任通知を出すのが基本ですが、債権者が過激な対応を取るおそれがある場合などは秘密裏に破産準備を進めることもあります。
破産申立ての準備(資料収集と書類作成)
専門家の指導のもと、破産申立てに必要な資料を収集します。
主な必要書類は、次の通りです。
【法人に関する資料】
- 法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 定款
- 取締役会議事録
- 決算書(直近2期分)
【負債に関する資料】
- 債権者一覧表
- 従業員の情報(社員名簿・賃金台帳・就業規則・雇用契約書など)
- 債権者からの請求書
- リース物件の契約書
- オフィスの賃貸借契約書
【資産に関する資料】
- 財産目録
- 預貯金通帳
- 不動産の登記全部事項証明書
- 保険証券
- 有価証券
収集した資料に基づいて、破産申立書を作成します。
必要書類では、債権者一覧表が最重要です。調査漏れがあって配当を受けられない債権者がいると、最悪は免責が認められないおそれがあるからです。
裁判所への破産申立て
破産を裁判所に申し立てることによって、破産手続きを開始します。
申立て後、裁判所が内容を審査し、破産手続きの開始の可否を判断します。この際、「支払不能」「債務超過」のいずれかの要件を満たす必要があります。書類が不足する場合は提出を指示されます。合わせて、申立手数料、郵便切手、官報公告費を予納します。
即日面接
破産申立て後、裁判所と申立代理人(弁護士)の間で面談を行い、申立要件を満たすか、破産手続きを進める上で問題となる点はないかを話し合います。
東京地方裁判所などの一部の裁判所では、弁護士が代理人となっている場合、破産申立当日に面談を実施する「即日面接」が実務的な運用となっています。これにより、手続きの進行がスムーズになり、破産手続開始決定が早期に下される傾向があります。
この面談は、あくまで代理人弁護士と裁判所とのやり取りなので、会社の代表者が出席する必要は基本的にありません。
破産手続開始決定
裁判所が要件を満たすと判断した場合、「破産手続開始決定」が出されます。
破産の開始は、債権者に対しては裁判所または管財人から通知されると共に、官報にも公告されます。なお、破産手続開始決定がされないケースには、「手続費用の予納が困難なとき」「不当な目的で破産申立をしたとき」といった申立棄却事由に該当する場合が挙げられます。
破産管財人が選任される
裁判所は、破産手続開始決定と同時に、破産管財人を選任します。
破産管財人とは、破産手続きの公正かつ円滑な進行を図るために裁判所が選任する者であり、通常は破産・倒産分野に精通した弁護士が就任します。選任されると、財産の管理処分権は管財人に移り、勝手な処分は禁じられます。管財人は不当な財産移転を調査し、否認権を行使することで破産財団を維持します。
申立て後、管財人の事務所で、申立代理人(弁護士)、法人代表者の三者で面談し、進行について協議するのが通例です。この際、資産や負債の状況を説明し、免責の必要性を主張します。また、破産管財人の口座に引き継ぎ予納金を振り込みます。
財産の調査・換価・配当(管財人の業務)
破産管財人が行う主な業務は、次の通りです。
- 会社の財産・負債状況の詳細な調査
- 財産の保全
- 財産の換価(処分)
- 債権者への情報開示
- 債権調査
- 債権者への配当の実施
- 不当な財産移転の調査
- 否認権の行使
代表者といえど資産は自由に動かせず、全て管財人の管理下に置かれます。現金や預貯金、売掛金、不動産、在庫など、全ての資産が調査されるほか、帳簿に記載のない隠し財産や、不正な資金移動がないかも調べられます。
把握した財産は、全て現金化され、配当の原資となるのが原則です。そして、破産手続き中で債権届出を行った債権者に対して公平に配当されます。一定範囲の労働債権(未払の給料・退職金など)や税金が優先され、他の債権については按分配当となります。
なお、資産が少ない場合には配当がゼロの場合もあります。
債権者集会が開かれる
破産手続開始決定の後、2ヶ月〜4ヶ月程度で、債権者集会が開催されます。
債権者集会は、破産する会社が、債権者と裁判所に対し、破産せざるを得なくなった事情、資産と負債の状況を説明して免責を求める手続きであり、申立代理人(弁護士)と協力して、事情を整理し、わかりやすく説明する必要があります。質疑応答が行われるほか、破産管財人からは財産の換価と配当の状況について報告が行われます。
1回で終了するのが通例ですが、不十分と判断されると2回目以降を開催するケースもあります。実務的には、よほど関心がない限り、参加しない債権者も多いです。
破産手続きの終了と法人格の消滅
全ての換価・配当が完了すると、裁判所により破産手続きの「終結決定」が出されます。また、破産管財人の調査の結果、換価できる財産がないことが明らかになれば「廃止決定」が出されます。これにより破産手続きは終了し、法人格が消滅します。
なお、代表者などが法人の債務を個人保証している場合、個人の債務整理(自己破産など)を検討する必要があります。
「自己破産から再起する方法」の解説

会社の破産手続きにかかる期間
会社の破産手続きを進めるのにかかる期間は、6ヶ月〜1年程度が目安です。ただし、ケースによっては、より長期間となることもあります。
- 債権者の数
→ 多いほど債権調査や配当の手続きに時間がかかる。 - 財産の種類や規模
→ 不動産や在庫、売掛金など、現金化に手間がかかる財産があると長期化する。
一般には、弁護士に初回の法律相談をしてから準備、申し立てまでに3ヶ月〜6ヶ月程度、そして、その後に破産手続開始決定から手続き終了までに3ヶ月〜6ヶ月程度を見ておきましょう。
破産は「申立てさえすればすぐ終わる」というものではありません。事前準備をしっかりと行い、手続き中も適切に管理し続けることが、スムーズな進行の助けとなります。逆に、資料や準備が不足していたり、財産隠しや不正な取引が疑われたりすると、調査に時間がかかり、手続きが遅れるおそれがあります。
かかる期間を少しでも短縮するには、早めに弁護士に相談しておき、事前準備をスピーディに進めるのが重要なポイントです。
会社の破産手続きにかかる費用
会社の破産手続きかかる費用は、主に「裁判費用」「弁護士費用」の2つです。会社の規模や債権者数、負債額によって異なりますが、例えば次の目安を参考にしてください。
- 弁護士費用
60万円〜100万円程度(業務量に応じて見積もるのが通例) - 裁判費用
引継予納金(最低20万円〜)、官報公告費(裁判所や、利用する手続きによって異なる)
破産手続きが管財事件となった場合、管財人の報酬も申立人(会社側)が負担する予納金に含まれます。通常管財の場合は50万円以上、少額管財だと20万円前後となり、少額管財を利用するには弁護士が申立代理人となって準備を進める必要があります。
なお、費用が準備できない場合でも、弁護士の受任通知を先行させることで返済を一時停止し、その分を費用に充当するといった調整が可能です。
「会社破産の費用が払えないとき」の解説

まとめ

今回は、会社の破産手続きについて、基本的な流れを解説しました。
会社の破産は、経営に行き詰まったときの最終手段です。破産手続きには一定の費用や期間がかかり、代表者が連帯保証している場合は個人への影響も避けられません。それでもなお、早期に検討して法的に整理することが、新たなスタートに役立つケースも少なくありません。
大切なのは、現状を把握し、できるだけ早い段階で専門家に相談することです。破産手続きは専門的で複雑なので、弁護士に依頼するケースが多いです。また、業績悪化の初期段階で相談しておけば、任意整理や民事再生など、破産以外の方法で立て直せるケースもあります。
経営状況に応じた最善の選択を行うためにも、弁護士に相談して冷静に対応してください。
- 会社の破産手続きは複雑で、専門的知見を要するため、弁護士に相談すべき
- 破産手続きの流れは、開始決定、破産管財人の選任、換価、配当と進む
- 会社の破産手続きにかかる期間は6ヶ月〜1年間が目安となる
\お気軽に問い合わせください/

