法的手段により債権回収をしたいけれども、費用はそこまでかけたくないといったケースがあります。
債権額が小さい場合には、自社での債権回収を行うこととし、複雑な手続きを避けたいというケースもあるのではないでしょうか。
悩む企業経営者にオススメなのが「民事調停」による債権回収です。
調停による債権回収の一番のメリットは、なんといってもコストが低額で、手続きが比較的簡易であることです。
しかしメリットがある反面、債権者と債務者双方が、お互いに全く譲歩しない場合や、そもそも相手方が話合いに応じない場合には利用することが困難、というデメリットもあります。
御社が抱える未払債権を回収するとき、「調停」が最良の方法といえるかどうか、メリットとデメリットをよく吟味した上で決定する必要があります。
今回は、債権回収において調停を用いるメリット・デメリット、そして調停の申立てと手続きの流れについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
1. 債権回収における調停とは?
債権回収における調停とは、裁判官の他に、裁判所から選ばれた「調停委員」という人たちが、債権者(「申立人」と言います。)と債務者(「相手方」と言います。)双方の言い分を聞きながら、それぞれに対して、助言をして、債権回収に関する問題を解決に導く、という制度です。
調停はあくまで当事者間の話合いで解決することを前提としているので、申立手続きや調停の流れは訴訟のように厳格ではありません。
「法律の知識・経験が十分ではない。」という経営者の方にとっても、着手しやすい債権回収手段です。
ところで、「調停委員」とはどういう人かご存知ですか?
調停に関与する重要人物である「調停委員」とは、最高裁判所から任命された民間人で、弁護士資格や、法律の専門的知識や経験をもっている人のことをいいます。
なお、調停においては、調停委員は2人一組、というのが通常です。
調停委員の役割は、申立人と相手方との間をとりもち、調停成立に向けて助言することです。調停委員が行う助言は、法的アドバイスにとどまらず、円満な解決のために両者の譲歩を促すこともあります。
2. 調停による債権回収のメリット
調停による債権回収には、多くのメリットがあります。
これらのメリットはいずれも、少額の債権回収について、大きなトラブルとはせず、自社でできる限りの回収を行う際に、非常に役に立ちます。
2.1. 強制執行ができる
債権回収を目指す企業として最も関心が高いのが、調停を成立させた場合、一体どのような法的効果を得られるのか、ということではないでしょうか。
これはすなわち、調停にどれほどの問題解決力があるか、債権回収力があるかという問題と言い換えてもよいでしょう。
専門的にいえば、調停調書は「債務名義」となります。これは簡単にいえば、調停によって調書を作成した場合には、強制執行が可能であるということです。
相手方が調停調書に記載された合意内容を履行しないときには、相手方の財産に強制執行をし、強制的に債権回収をすることができます。
このように、調停調書には、裁判で取得する判決(確定判決)と同様の効果があるのです。
2.2. 費用を安く抑えられ、手続きが比較的簡単
訴訟を提起する場合には、どうしても多くの費用と手間がかかります。そのため、訴訟を提起するとすれば、当然のように法律の専門家である弁護士に多くの報酬を支払う必要もあります。
債権額が高額で、弁護士報酬を支払ったとしても確実に回収したい場合は訴訟を選択すべきですが、債権額が少額な場合、この費用と手間が、債権回収の大きなハードルとして立ちはだかります。
調停は申立費用が高額となる一般の民事訴訟と異なり、申立手数料が訴訟の「半額」ですみます。
また、訴訟よりも短期間で終了することが一般的であるため、弁護士費用も、訴訟に比べて低額におさえることができる場合が多いのではないでしょうか。
裁判にかける費用を用意するまでの余裕はない企業にとっても、着手しやすい債権回収方法です。また、申立手続も基本的には裁判所の書式に従っえばよいので、それほど複雑ではない点もメリットです。
2.3. 柔軟な解決が可能
調停において、各当事者は自由にそれぞれの主張を述べることができます。なぜなら、調停の手続きは、主張や立証の点において、訴訟と比較して厳格ではないからです。
そのため、法律の専門的知識が豊富あるわけではないとしても、当日の対応をある程度行うことが可能です。
また、訴訟の場合は、証拠の有無が判決を左右する、と言っても過言ではありません。これに対し、調停の場合は決定的な証拠がない場合であっても話合いによって柔軟な解決を図ることが可能です。
例えば、当事者の取引事情等に応じた返済方法や、金銭以外についての条件の定め等も合意内容に含めることができます。
2.4. 公開されない
調停手続きは、あくまで非公開です。
したがって、企業側の内部情報や取引事情等、企業として知られたくない情報について、秘密を守ることができます。
通常の裁判では傍聴席が用意されており、公開が原則です。営業秘密を守るための訴訟制度は多く用意されていますが、非常に専門的な訴訟の知識が必要となり、弁護士の助けなしには活用することは困難です。
調停では傍聴ができないので、当事者間の問題が無関係の第三者に知られてしまう、ということがありません。
従前の企業間の取引状況や今後の取引予定に鑑み、相手方との関係を壊したくない、良好な関係を維持したい、という場合に、非公開で話合うことができる点は大きなメリットです。
2.5. 時効を中断できる
調停の申立てをすることによって時効を中断させることができます(民法147条1号)。
ただし、調停が不成立等により終了したときは、「1か月以内」に訴えを提起しなければ、時効中断の効力は生じません(民法151条)ので注意しましょう。
調停が不調によって終了してしまった場合には、ただちに訴訟提起を行うことが原則です。
3. 調停による債権回収のデメリット
以上の通り、調停による債権回収には、メリットが多く存在するものの、その一方でデメリットもあります。
調停による債権回収のデメリットを理解しなければ、御社の未払い債権が、調停による債権回収に向いているかどうか、判断を誤る可能性がありますので、充分な注意が必要です。
3.1. 調停が不調に終わることも少なくない
調停では、調停委員が、当事者の話合いの間には入り、円滑な話し合いをうながしてくれます。しかしながら、調停委員はあくまでも、第三者の立場から意見をするだけです。
何が言いたいのかというと、「調停委員の意見には強制力がない。」ということです。
債権回収を訴訟で争うケースであれば、裁判官は最終的に判決を書くことによって強制的な決定ができますから、裁判官のいうことは「単なる意見」ではなく、非常に強い力を持ちますが、調停委員の意見はそうではありません。
したがって、結局話合いがまとまらず、調停が成立しないケースも多くあります。調停は申立人と相手方の双方が納得した上でなければ成立しないことは覚えておいてください。
相手方との合意が成立しない場合は、裁判所から何らの判断もなされず、調停不成立となってしまうのです。
したがって、調停を行う前から、事前に争いが大きく調停が不成立となる見込みが高い場合には、調停を利用することは適切ではありません。
3.2. 相手方会社の出頭が必要
調停による債権回収を行う場合、たとえ相手方が出頭しなくても、罰則等のペナルティはありません。
つまり、相手方に申立てを無視されても、申立人も裁判所も何もできないのです。
したがって、これまで、何度も、弁済の催促をしたが、相手方が一向に払う素振りさえ見せないような場合には、出頭すら拒否される可能性があり、調停自体が進まない、というデメリットがあります。
3.3. 相手方会社の所在地等が不明な場合は難しい
調停を行うにあたっては、「債務者」の本店や営業所の所在地を管轄する裁判所に調停の申し立てをする必要があります。
訴訟であれば、相手方の居場所が特定できなくても、「公示送達」を利用して訴訟ができるのですが、調停の場合には「公示送達」が利用できません。
「公示送達」とは、相手方の居所や所在地が不明で法的文書を送達することはできない場合、送達されたものと扱うための制度です。
「公示送達」を利用できない、ということは、すなわち、相手方会社の所在地等が不明の場合、調停の申立ができないことを意味します。
ただ、真っ当に企業経営を行っている会社が債務者である場合には、商業登記簿謄本を取得することによって、本店所在地が判明するため、調停によって解決できる可能性が高いといえます。
3.4. 管轄が遠隔地の場合、時間・費用の負担が大きい
調停は、既にご説明しましたように、債務者の本店や営業所等を管轄する簡易裁判所に申し立てる必要があります(民事調停法3条)。
そのため、相手方が遠隔地の場合、申立人は遠隔の裁判所に赴かなければなりませんので、時間や交通費の負担が重くなる、というデメリットがあります。
4. 調停を申し立てるための具体的手続き
調停を申し立てるための具体的な手続きについて解説していきます。
相手方の本店や営業所等を管轄とする簡易裁判所へ、調停の申立てを行います。
なお、申立ての際には下記の申立書・添付書類・印紙代(請求金額により金額は変わります。)・郵便切手代を準備する必要があります。
4.1. 調停の申立書に記載する内容
調停の申立書に関しては、裁判所にある申立書に記載された通りに記入します。
主な記載内容は、「当事者(債権者・債務者)の住所・氏名」、「申立の趣旨」、「紛争の原因」、「署名・押印」、「管轄する裁判所の名称」です。
裁判所に調停の申立書が備え置いてありますが、御社自身で調停の申し立てをする場合には、裁判所の職員が記載方法を教えてくれる場合もありますので、尋ねてみるとよいでしょう。
4.2. 調停の申立書の添付書類
申立をするためには、申立書に添付する書類を集める必要があります。具体的には以下の書類です。
- 債権者と債務者の各登記簿謄本(法務局で取り寄せ可)
- 債権者と債務者の各資格証明書(法務局で取り寄せ可)
- 証拠書類 (契約書、領収書、請求書、手形等)
5. 調停当日の審理の流れ
御社自身で調停による債権回収を進める場合、御社の社長が、調停の期日当日に出席するわけですが、その際の対応に不安があるのではないでしょうか。
調停当日の審理の流れを事前に理解しておくことによって、調停当日に予定外のことが起こって焦ることのないようにしておきましょう。
ちなみに、弁護士に調停による債権回収を依頼する場合には、弁護士が調停当日の審理に同行することが通常で、審理中にも法的なアドバイスを受けながら調停を進めることが可能です。
5.1. 1回目の調停期日
調停の申立書が裁判所に受理されると、第1回調停期日が決定され、相手方へ呼出状が送達されます。
調停当日は、申立人・相手方の双方が出頭しなければなりませんが、弁護士を代理人として依頼することも可能です。また、弁護士以外を代理人に立てる場合には、裁判所の許可が必要です。
調停委員が双方の言い分を交互に聞きながら、どこまでなら譲歩することができるのか、具体的な妥協点を探っていきます。
調停はあくまで双方が合意することが必要です。
したがって、申立人側としては、債権額の免除や、弁済期間の延長や支払方法についてどこまでなら相手方に譲歩することができるか、事前に準備しておくことが、調停を円滑に進めるため重要です。
5.2. 2回目以降の調停期日
申立人と相手方双方の債権・債務に対する認識や主張を聞きながら、両者の認識の食い違いや隔たりを埋めながら、2回目以降の調停が繰り返されます。
「調停はどの程度の期間続くのでしょうか?」と質問を受けることがありますが、ケースバイケースと言わざるを得ません。調停はあくまでも話合いの延長であるためです。
5.3. 調停成立の場合
調停で話し合った結果、当事者双方が合意することができた場合、調停調書が裁判所により作成されます。
調停調書が完成すれば、調停は完了となります。仮に、相手方が調書の内容に従わなかった場合、強制執行の申立てを行います。
5.4. 調停不成立の場合
調停で話し合った結果、当事者双方が合意に至らなかった場合、調停は不成立となり、終了します。
不成立の場合、調停終了後、「2週間以内」に訴えを提起すれば、調停の申立てで利用した収入印紙を流用して、民事訴訟へ移行させることができます。
6. まとめ
以上、ご説明してきましたとおり、調停による債権回収は、費用や手続きの面で、債権者にとっては利用しやすい債権回収方法です。
しかしながら、調停は申立人と相手方との間の話合いと合意が必要です。とくに、債権回収のように金銭を巡る話し合いは、感情論となり、合意に至らないケースも多くみられます。
初期段階から相手方が強気な姿勢を崩さないような場合には、たとえ、合意に至った場合でも、大幅な債権額の免除を要求してくる可能性も低くはありません。
そこで、御社にとって不利な結論とならないよう、債権回収の調停を多く取り扱う、交渉に長けた顧問弁護士に、ぜひ法律相談ください。
民事調停は、単に法律の知識だけでなく、経験に基づいた交渉、話し合いの流れを把握することが重要となります。