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【書式】債権回収には「債権譲渡」を受ける方法も!ポイントを弁護士が解説

訴訟や支払督促など、裁判所を利用するとなると費用と時間が多くかかりますが、これらを利用しない債権回収方法のひとつに、「債権譲渡による債権回収」という方法があります。

「債権譲渡」とは、取引先企業に対する債権を回収するために、支払能力のありそうな別の企業に対して有している債権をもらい受けることをいいます。

つまり、新たに別の企業の債権者になり、その企業から直接取立てをするのです。

新たに債務者となる企業に十分な支払能力があれば、かなり効果的な債権回収となります。ただし、御社と取引先との間で勝手に債権譲渡契約を締結するだけでは、債権回収の効果が得られません。

債務者に対する通知や、債務者からの承諾などの対抗要件を得ることによって初めて債権回収が可能なのです。

「債権譲渡」に関するチェックポイントを理解することが債権回収の成功には不可欠です。

今回は、債権回収の方法のひとつとして考えられる「債権譲渡」について企業法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 債権譲渡とは?

債権譲渡は、企業間における債権回収のひとつとして近年多く用いられる手法です。

譲受人(債権者)が未回収の売掛金や貸付金などの債権を、債権の同一性を保ったまま、譲渡人(債務者)から譲り受けることをいいます。

譲渡される債権の内容が変わらないところに特色があります。

したがって、債権譲渡の対象となる債権の債務者に、本当に弁済能力があるのか、可能な限り事前に調査しておくことが大切です。

具体的な調査方法としては、当該債権に関しての取引内容の精査等が挙げられます。

2. 債権譲渡の事前の3つのポイント

債権譲渡を受ける際、慎重にチェックしておかなければならないポイントを解説します。

既に解説したとおり、債権が同一性を保ったまま譲渡されます。つまり、債権の内容は変わらないため、債権譲渡を受けるより「事前に」調査しなければ、思わぬ不利益を被る危険があります。

2.1. 債権が時効にかかっていませんか?

一般的に、債権には「消滅時効」が存在します。

債権というものは、一定の期間、権利を行使しないと、消滅してしまうのです。

特に、企業間の取引により生じた債権については、商事消滅時効(商法522条)といって、民法に定められた消滅時効よりも、短期の消滅時効期間が設定されていますので、要注意です。

「時効の中断」を行うことで、時効期間の経過を一旦ストップできますが、残念ながら債権譲渡によっては債権の消滅時効は中断しません。

そのため、仮に、譲渡債権の消滅時効が迫っている場合には、債権譲渡を受ける前にいつ時効期間が到来するかを調査し、時効中断の手続きをとることが必要です。

2.2. 二重に譲渡されていませんか?

譲受を検討している対象の債権が、他の別の債権者に対して二重に譲渡されていないかどうかを確認することは必須です。

なぜなら、他の企業が先に債権譲渡の第三者対抗要件を取得したときは、自社は、他社に劣後する譲受人として、当該債権について権利主張をすることができないからです。

 重要 

ちなみに、債権譲渡には、債権譲渡登記という公示制度が存在します。

登記事項概要証明書を入手することで、債権譲渡登記がなされているかを調査し、対象とする債権についてすでに優先する譲受人がいるかどうかをある程度確認しておくことができます。

なお、債権譲渡の登記事項概要証明書は、譲渡人の本店所在地を管轄している法務局からを取り寄せることができます。

2.3. 債権は有効ですか?

譲受を検討している譲渡債権の効力が有効かどうか、確認しましょう。

例えば、次のような債権については、債権譲渡の効力が無効となったり、既に債権が存在しないものとされてしまったりする場合があります。

2.3.1. 譲渡禁止特約

譲渡人と債務者との間であらかじめ、債権譲渡禁止特約が交わされていないか、ということを確認します。

譲渡禁止特約とは、当事者企業間において、他の企業に債権を譲渡しないことを取り決める契約であり、この特約に反する譲渡は原則的には効力が生じないからです。

2.3.2. 既に弁済済み

債権がすでに弁済済みの債権でないか、ということも確認しておいてください。

譲渡の対象となる債権が、既に弁済されている場合には、債務者は、自己の支払債務を果たしているため、たとえ譲受人から取立てを受けても支払いに応じる必要はありません。

よって、譲受人は、既に債権が弁財されてしまっている場合には、債務者に対して支払請求することができないからです。

2.3.3. 公序良俗違反

債権の原因、内容を確認し、公序良俗に違反するものでないかどうかを確認しましょう。

債権の内容が公序良俗に反する場合には、債権自体が無効となってしまい、譲渡を受けたとしても、支払の請求ができないおそれがあります。

3. 債権譲渡の具体的な手続き

以上で解説したとおり、債権譲渡を受けることによる債権回収を考えた場合に、事前にチェックしておいてほしいポイントは非常に多いといえます。

これらの事前のチェックポイントを理解していただいた上で、次に、債権譲渡の具体的な手続きをどのように進めればよいかについて解説します。

3.1. 債権譲渡契約の締結

譲渡人と譲受人が債権譲渡契約を締結しましたら、早速、債権譲渡契約書を作成します。

会社の本店所在地の住所・代表者の署名・押印が必要です。

また、仮に自社の債務額全額の弁済が受けられなかった場合でも、残額について弁済を受けることができるような条項を盛り込むことを忘れないようにしましょう。

債権譲渡契約書の書式例を記載しておきますので、参考にしてみてください。

債権譲渡契約書



 ○○株式会社(以下「甲」という)と△△株式会社(以下「乙」という)は、以下のとおり債権譲渡契約を締結する。


第1条 
乙は、甲に対する甲・乙間の平成○○年○○月○○日付けの○○売買契約に基づく売掛金○○万円の弁済のため、乙が丙に対して有する下記債権を甲に譲渡する(以下「本件債権譲渡」という)。

乙が、株式会社□□(以下「丙」という)に対して有する乙・丙間の平成○○年○○月○○日付売買契約に基づく売掛債権金○○万円


第2条 
乙は丙に対し、遅滞なく確定日付ある証書をもって本件債権譲渡の通知をなし、またはそ
の確定日付ある証書による承諾を得なければならない。


第3条 
乙は甲に対し、本件譲渡債権につき丙から乙に対抗事由がないことを保証する。


第4条
1 甲は、乙への弁済額の全額について、その支払期日に丙から弁済を受けるものとする。
2 乙が丙から受けた譲渡債権の支払総額が、本条第1項の期日において、本件債務の総額にみたなかった場合、甲は乙に対し不足額を支払わなければならいない。


第5条 
乙は、甲の承諾なく、譲渡債権を取立て、譲渡し、その他甲の権利行使を妨げてはならない。


第6条 
乙は甲に対し、別紙のとおり債権譲渡通知書を作成し押印の上交付し、丙に対して内容証明郵便にて発送する権限を与える。

平成  年  月  日

(甲)住所
   ○○株式会社
   代表取締役           印


(乙)住所
   △△株式会社
   代表取締役          印

               

3.2. 「債務者」への対抗要件を備えること

ただ債権譲渡を契約するだけでは、債権回収のメリットを得ることはできません。

というのも、対抗要件を備えておかなければ、債権の支払請求をすることができないためです。

対抗要件とは、簡単にいうと、当事者以外の人に、法的な権利義務関係を認めてもらうための条件をいいます。

債権譲渡のケースでいう対抗要件には、「債務者」への対抗要件と、「第三者」への対抗要件の2種類があります。

まず、債権の支払を債務者に対して請求し、債権回収の実益を図るためには、「債務者」への対抗要件を備えておくことが必要となります。

3.2.1. 具体的方法

債権譲渡の場面において、「対抗要件」とは、債権の譲受人が債務者・第三者へ債権の効力を主張するために必要な条件のことをさします。

債権譲渡契約が締結されたことを知らない債務者にとっては、元の債権者と新たな債権者の両方から取立てを受け、二重払いをしなければならない危険性はなくなりません。

そこで、このような二重弁済の危険を防止し、債務者を保護するための制度が、この債務者への対抗要件なのです。

すなわち、譲受人は、この対抗要件を満たさない限り、債務者に対して、自社が新たな債権者であることを主張することができない、ということです。

民法467条1項により、以下のいずれかの対抗要件を備えることが必要です。

  • 債務者に対する通知
  • 債務者からの承諾

なお、債権譲渡の対象となる債権の債務者の数が、少数であればよいのですが、債務者企業の数が多くなるにつれ、一社一社から個別に「承諾」を得るのは煩雑です。

したがって、実務上は債務者へ債権譲渡した旨を知らせるための「通知」のみを行うケースが多くみられます。

3.2.2. 譲受人が債権譲渡の「通知」をする方法

権譲譲渡における債務者への通知は、原則的には、譲渡人から行ってもらう必要があります。

では、譲渡人がなかなか通知をしない場合にはどうすればよいでしょうか。譲受人が譲渡人に「代位」して「通知」することはできません。「代位」とは、債務者が有する権利を代わりに行使することです。

ただし、譲受人が譲渡人の代理人として債務者へ通知することは可能です。

「譲受人が通知を行う。」ことはできないものの、「譲渡人の代理人として譲受人が通知する。」ことは可能なわけです。

譲受人が「代理人として通知する。」という場合には、代理権授与の手続きが必要となるため、「譲渡人のあずかり知らぬところで勝手に通知が行われてしまった。」、というおそれが低下するからです。

債権譲渡の通知を行う場合には、通知の有無が争いとならないよう、次の通り、債権譲渡通知書という書面によって行うことが一般的です。

債権譲渡通知書


 譲渡人は、債務者に対して有する下記債権並びにこれに対する利息及び遅延損害金その他一切の債権(以下「譲渡債権」といいます。)を譲受人に対し、平成○○年○○月○○日付債権譲渡契約に基づき、同日をもって譲渡しましたので通知いたします。

(譲渡債権の表示)
原契約日:        
原債権者:        
発生原因:        
売掛金金額:      

以 上


平成  年  月  日

(通知人)
(甲)住所
   ○○株式会社
   代表取締役           印


(被通知人)
(乙)住所
   △△株式会社
   代表取締役          印

債権譲渡通知書には、上記の書式例のように、譲渡債権の原契約日、発生原因、債権の種類、金額等を明記し、債権の内容を特定しましょう。

3.2.3. 譲渡債権に連帯保証人等の担保が付されている場合

保証が付された債権を譲渡の対象とする場合であっても、保証債務自体が消滅するわけではありません。

したがって、保証人に対して債権譲渡通知を怠った場合、保証人の債権者は譲渡人のままです。

譲受人としては、債権を行使することを可能にするため、保証人に対しても「通知」の方法等により、対抗要件を備えることを忘れないようにしましょう。

3.3. 「第三者」への対抗要件を備えること

既に解説したとおり、対抗要件とは、当事者同士の権利義務関係を、第三者に対しても主張するための条件であるところ、債権回収のために債権の支払を債務者に請求をするため、債務者に対する対抗要件が最も重要であることはご理解いただけたのではないでしょうか。

しかし、債務者に対する対抗要件だけでは、債権が二重に譲渡されていた場合に、第三者に対して権利を主張できず、結果、債権回収の目的を達成できないおそれがあります。

そこで、次に、「第三者」への対抗要件を備えておくことを検討してください。

3.3.1. 具体的方法

債権譲渡の効力を、債務者「以外の第三者」に主張するためには、債権譲渡の第三者対抗要件を備える必要があります。

その目的は、二重弁済の危険から債務者を保護することだけでなく、譲渡人の債権の二重譲渡を防止し、債権の取引の安全を図ることにあります。

民法467条2項により、以下のいずれかの対抗要件を備えることが必要です。

  • 「確定日付のある証書」による債務者に対する通知
  • 「確定日付のある証書」による債務者からの承諾/li>

3.3.2. 「確定日付のある証書」とは

既に解説しました、債務者に対する対抗要件との違いは、「確定日付のある証書」によるか否か、という一点にあります。

平成○○年○月○日に、債権譲渡が行われた、という「事実」と「日付」を公的に示すものを確定日付といいます。変更や改ざんを防止することに目的があります。

「確定日付のある証書」には、2つの種類、すなわち、内容証明郵便による方法と、公証人役場で確定日付印をもらう証書による方法があります。

なお、内容証明郵便により債務者へ通知を行えば、「債務者」への対抗要件と「第三者」への対抗要件を同時に満たすことができるため、内容証明郵便による通知方法がオススメです。

4. 対抗要件を備えるの2つの方法

以上の通り、対抗要件は、債権回収を債権譲渡の方法によって行うにあたって、決定的に重要です。そのため、「具体的には、どのように対抗要件を備えたらよいのか?」について、弁護士が解説します。

対抗要件を備えるための具体的方法には、次の2つのお勧めの方法があります。

4.1. 「確定日付のある証書」による債務者への具体的通知方法

既に解説したとおり、確定日付のある証書による通知もしくは承諾を得ることが、民法における、債権譲渡の対抗要件の大原則です。

「確定日付のある証書」による通知方法として、よく利用されるのが、内容証明郵便を送付する方法です。

内容証明郵便とは、債務者に対し、通知した事実を証明するための郵便方法であり、郵便局で押印される「局印」の日付が確定日付となります。

内容証明郵便を利用すれば「債務者」と「第三者」への対抗要件を同時に備えることができる点が最大のメリットです。

内容証明郵便を利用する際の主な注意点は、次の通りです。

  • 内容証明郵便を取扱える郵便局は限られている
  • 文字数や行数に関して一定の制限がある
  • 同一の通知書を3通 (自社用・郵便局の保管用・債務者用)と封筒1通を用意する

なお、電子内容証明によって、オンライン上で内容証明を送付できるサービスを利用することができ、こちらの方法によると、上記3つの注意点をある程度回避することが可能で、手間が少なくて済みます。

4.2. 債権譲渡登記制度の利用

債権譲渡登記制度とは、法人の柔軟な資金調達を可能にするため、約10年前に新設された制度です。

というのも、債権を担保に入れて資金調達をするためには、出資者の確実な担保のために、債権という目に見えないものを、登記制度によって確実なものにしておく必要があったためです。

「債権譲渡登記ファイル」というものに債権の情報を記録することにより、公的に債権の存在を示し、第三者対抗要件を具備したものとみなす、

すなわち、「確定日付のある証書」による通知や承諾があったのと同様の効果があるものとする制度です。

債権譲渡登記制度を利用するには以下のような一定の条件があります。

  • 譲渡人と譲受人、双方が法務局で申請すること
  • 譲渡人が法人であること
  • 譲渡債権が、指名債権(債権者が特定されている債権)かつ金銭債権であること
  • 債権譲渡登記の後、譲渡人か譲受人のいずれかが、債務者に対して登記事項証明書を交付して通知をするか、承諾を得ること

企業同士で債権譲渡を行う場合には、債務者が多いケースがあり、全ての企業に対して内容証明郵便により債権譲渡の通知をしますと、費用が膨大になります。

そこで、通知の手間や費用を抑えるために、この「債権譲渡登記制度」を活用することを検討してみましょう。なお、登記された日付が「確定日付」になります。

債権譲渡登記の効力が存続する期間は、債務者が全て特定されている場合には50年以内、債務者が特定されていない場合には10年以内で定めなければならないものとされています。

ただし、特別な事由がある場合には、その旨を証する書面を添付する場合には、これ以上の期間を定めることも可能となります。

5. まとめ

取引先に対する未回収の債権を回収するための1つの手段として、債権譲渡という方法を活用することを検討してみてください。

しかし、債権譲渡をするには対抗要件具備という法的手続きを経なければなりません。

債権譲渡契約書や債権譲渡通知書の作成には専門的知識が必要です。そこで、債権回収を得意とする顧問弁護士に、事前にご相談することをおすすめします。

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