起業を決意しても、すぐに退職するのは大きなリスクがあります。起業が成功すればよいですが、起業には失敗するケースも多いからです。立ち上げた会社がうまく軌道に乗らないのに、既に退職していると無収入になってしまいます。
リスク少なく起業するには、在職中に起業し、副業からはじめて少しずつ軌道に乗せ、売上が上昇し始めたところで退職し、本格的に専念するという計画が良いでしょう。ただ、そのためには在職中に起業しなければならず、多くの会社で副業が禁止されている点がネックとなります(厳密に禁止でなくても、事実上制限される会社も多いです)。
会社に内緒で起業できるなら、それに越したことはありません。起業準備に精を出すあまり、本業に手が付かないと、最悪は目をつけられ、解雇される危険があります。中途半端な状況で解雇されれば、退職後に起業できても、周囲からの評価は下がってしまうでしょう。退職前の起業準備は、内緒で進める必要があります。
今回は、会社に内緒で起業する方法と、在職中に起業し、会社設立するときの注意点を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 会社に内緒で起業するには、副業禁止のルールが明確にされているか確認すべき
- 会社に起業をバレないため、登記や税金といった会社設立に伴うポイントを押えておく
- 会社に内緒でした起業がバレても解雇などの不利益を避けるため、本業もおろそかにしない
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会社に内緒で起業できる?
起業のリスクを回避するため、生活に必要な収入は本業から確保するという対策があります。このとき、本業が副業OKの会社であればよいですが、副業禁止の会社の場合、隠れてこっそり起業することとなります。また、本業の給料が少なく、それとは別に、収入を確保したい方も少なくないでしょう。
思い浮かんだ起業アイディアも、必ず成功するとは限りません。頭で考えるだけでは将来の予測は難しく、起業してうまくいくビジネスモデルかどうか、実際のマーケットで試したい気持ちもあるでしょう。スモールスタートするなら、当初の売上は少ない可能性もあり、現実問題として生活を立ち行かせるため、副業で起業せざるを得ないこともあります。
会社に内緒で起業するなら、バレない努力をしなければなりません。業務時間中の副業が発覚すれば、職務専念義務違反として懲戒処分されたり、最悪は解雇され、結局は収入を失うことにもなりかねません。
リスクを減らすため、起業前後から、顧問弁護士の活用がお勧めです。
会社にバレずに起業する方法
内緒で起業していたのが、会社にバレると、大きな問題に発展してしまうケースもあります。そのため、会社にバレずに起業する方法を知り、細心の注意を払って進める必要があります。
アフィリエイトや不動産投資といった副業なら、会社にバレずにできますが、これでは起業とはいえません。そのため、会社を設立するなど、本格的に起業する方法があるのか、順に解説していきます。
副業禁止のルールを理解する
まず、在職中に起業できるかどうかは、会社ごとの副業のルールによって異なります。副業のルールについてどのような定めになっているか、就業規則を確認してください。伝統的な終身雇用文化では、1つの会社に一生専念する必要があり、副業を禁止する会社は多くあります。
副業を禁止とする会社や、許可制、届出制とする会社では、在職中の起業がリスクにならないよう規定を遵守して進める必要があります。会社の許可を要するとき、準備している起業の内容に照らし、許される範囲のものか、事前に検討しましょう。憲法は営業の自由を定めており、副業は自由にできるのが原則です。そのため、次のような副業に限り、禁止することが例外的に許されています。
- 会社の信用を低下させる
違法なビジネス、品位を損なう業種など - 本業に支障を生じさせる
心身を疲弊させる深夜の肉体労働など - 会社の重要な秘密を漏えいさせる
ライバル企業での副業など
また、少子高齢化により労働力人口が減少し、多様な労働力を活用する必要に迫られていることから、以前よりは副業を許す会社が増えています。許される範囲の副業ならば、在職中でも問題なく起業することができます。
副業に関する就業規則の定め方は、次に解説します。
業務時間中は本業に専念する
労働契約を結び、給料をもらっている代償として、業務時間中は会社の仕事に専念しなければなりません。このことを法律用語で「職務専念義務」と呼びます。職務専念義務の及ぶ範囲は、あくまで業務時間中に限られるので、それ以外のプライベートの時間までは制約できないのが原則です。
そのため、会社に内緒で、バレないよう起業するなら、少なくとも、業務時間中は本業に専念しなければなりません。また、許可制や届出制で、許される副業であっても、本業での成果が悪いと「副業をしているせいで本業がおろそかになっている」と責められ、低い評価をされてしまいます。
法人代表者には就任しない
法人代表者になると、法人登記に氏名が記載されます。そのため、内緒で起業しているのに、法人登記の記載によって発覚しやすくなってしまいます。事業の広報サイトを開設したり、販売用のECサイトを立ち上げたりするときも、信用を得るため、代表者名を記載するのが通例です。
したがって、会社に隠れて起業するなら、法人代表者には就任できません。
内緒で会社を設立するのに、妻などの親族を代表者とするケースもよくあります。確かに、発覚しづらくはあるものの、代表者となった妻の仕事に影響がないか、妻に報酬が生じると納税が必要となるといった点に配慮が必要です。
法人代表者の意味や責任について、次に詳しく解説します。
副業の収入を会社に知られないようにする
給料は、会社が源泉徴収してくれますが、副業で得た収入は、確定申告して納税しなければなりません。起業すれば全て自己責任なので、その準備としてしっかり取り組みましょう。
会社に内緒で起業したら、納税によって会社に収入がバレないように隠さなければなりません。
起業した事実が、収入面で発覚するきっかけは、住民税の特別徴収にあります。住民税は特別徴収と普通徴収がありますが、自分で納付する普通徴収に比べ、特別徴収は会社の給料から天引きされる利点がある反面、税額が増えることによって起業が発覚してしまうリスクがあります。
バレても支障のないようにすべき
在職中に、内緒で起業したのがバレてしまうと、会社から厳しい処分が予想されます。発覚を避けたいのはやまやまですが、最悪のケースを想定して動くため、バレても支障のないようにする工夫も必要となります。
在職中の起業がなぜ許されないのか、それは、本業に支障を生じるおそれがあるからです。逆に言えば、本業と無関係であり、本業の利益を奪うこともなければ、いざ発覚しても厳しい処分までされない可能性もあります。
懲戒解雇など、大きな不利益を避けられれば、起業が順調ならば本業を辞めてしまってもよいでしょう。
まだ継続して働きたい場合は、起業していたのがバレても許されるほど、価値の高い人材を目指すのも対策の1つです。許されない副業をすべきではないものの、いざ発覚したとき、あなたがいなければ本業のビジネスが回らないならば、社内のルールを変更し、一定の範囲で副業を許可してもらうよう要求することもできます。このような交渉は、本業で十分な成果を上げていることが前提となります。
有給消化中に会社設立してもよいか
起業のために退職するときに、有給休暇が残っていれば、消化してから辞めないと損してしまいます。このとき、退職後に起業するケースだと、少し前倒しして有給休暇中から動くことができないか、疑問が生じるでしょう。
有給休暇は、労働基準法において労働者に与えられた権利。6ヶ月以上、全労働日の8割以上出勤すれば、その勤続に応じた日数の有給休暇が付与されます。有給休暇を取得すれば、給料をもらいながら休むことのできる休暇が与えられます。
継続勤務 | 付与日数 |
---|---|
6ヶ月 | 10日 |
1年6ヶ月 | 11日 |
2年6ヶ月 | 12日 |
3年6ヶ月 | 14日 |
4年6ヶ月 | 16日 |
5年6ヶ月 | 18日 |
6年6ヶ月以上 | 20日 |
有給休暇は、会社の時季変更権によってとる時期を変更されることはあるものの、退職時の消化では、他に変更できるタイミングがないため、原則として取得を拒否されることはありません。
有給休暇は、自由に利用することができます。そのため、起業するために退職するとき、その前にとる有給休暇では、起業の準備をしても差し支えありません。もちろん、まだ在職し続ける場合でも、有給休暇をとって起業の準備を進めることができます。このとき、使用者に対し、有給休暇の利用目的を告げる必要はなく、当然ながら会社の許可や承諾も不要です。
ただ、有給消化中でも、退職日までは労働者として雇用されている点に配慮が必要です。会社を設立し、代表者に選任される、ホームページを公開する、営業活動をするといった対外的な行動は、雇用されている状態では制限があるのが通常。退職が完了するまでは控えるべきです。
発覚しても、退職前に懲戒解雇されるといったことは、よほどの場合でない限り行われないでしょうが、有給休暇分の給料が払われない、といったトラブルになる可能性があります。
退職して起業するときの注意点
最後に、起業するための退職時、法的に注意すべきポイントを解説します。退職時につまづけば、順風満帆で起業のスタートを切る支障となってしまいます。
在籍中に起業準備を完了したら、あとは退職するのみ。しかし、退職時も気が抜けません。退職し、起業しようと決断したならば、退職時とはまさにそのスタート地点。起業後に前職との間で起こるトラブルの多くは、退職時の対応のミスが原因となっています。
円満退社が鉄則となる
まず、退職時の基本的な姿勢として、円満退職が鉄則だと心得ましょう。前職とトラブルになっても、起業後のマイナスになることはあれど、プラスになることは全くありません。退職して起業するなら、今勤める会社ともできる限り揉めないようにするのが大切。円満退社には次のメリットがあります。
- 会社で得たノウハウを、起業に活かせる
- 前職が担当できない小口の顧客を紹介してもらえる
- 前職が将来の取引先となる
一方で、円満退社できないと、起業後に、在職中のトラブルなどについての損害賠償請求を受ける危険があります。また、前職の顧客との連絡や、社員の引き抜きといった理由で責任追及を受けるおそれもあります。
退職までは労働者として様々な権利を保障されていますが、権利だからとて全て行使してよい場面ばかりではありません。過大な要求をして恨みを買うのは、退職後に起業するなら避けるべき。起業後も、円満退社なら助け合える可能性があります。
違法な引き抜きはしない
起業のために退職するタイミングでは、担当していた取引先に挨拶回りをすることがあります。しかし、前職から訴えられるケースの多くが、顧客の引き抜きを争点としていることから、過度な宣伝や前職の誹謗中傷など、トラブルにつながるおそれのある行為は避け、慎重に対応しなければなりません。
競合する会社を設立するときで、かつ、顧客の引き継ぎを認めてくれないケースでは、顧客の判断に委ねる姿勢が適切です。競合する事業をするときに、顧客が引き続き前職との取引を継続するか、あなたが起業した会社と取引をするかは、資本主義における自由競争に任されます。
過度な働きかけが発覚すれば、不法行為(民法709条)にあたり損害賠償請求されたり、不正競争防止法違反の責任を追及されたりするおそれがあります。目先の小さな利益を追って、長期的な信頼を失うのは残念なことです。
社員の引き抜きも、方法によっては違法となり、損害賠償請求される危険があります。
起業準備にかかる費用を計算する
会社設立して起業するには、多くの費用がかかります。いつまで雇用されて働くのか、退職して起業するタイミングを図るのにも、どれほどの費用を貯めればよいか逆算する必要があり、起業準備にかかる費用は計算しておかねばなりません。
また、起業準備にかかった費用は、退職後に起業したら、経費に計上できることを知っておいてください。起業後、会社を設立するなら、次の創立費、開業費の2種類を経費計上できます(個人事業主の場合、開業費のみしか経費計上できないものの、開業前後を問わず経費となります)。
- 創立費
法人設立に要した費用
(例:オフィス賃料、設立登記に要する費用、設立準備をしたスタッフの給料など) - 開業費
法人設立後、起業準備のために支出した費用
(例:法人設立後の印鑑代、名刺代、挨拶状の費用など)
したがって、起業準備中でも、支出した費用はすべて領収証を保管しておきましょう(領収証が発行されない経費も、支払伝票に記載すれば経費計上できます)。
退職時の誓約書に注意する
退職時に、会社から誓約書を書くよう求められることがあります。これら誓約書には、秘密保持義務、競業避止義務といった、退職後も労働者に一定の制約を課す内容が記載されます。言う通りにサインをすれば、退職後の起業の支障となるおそれがあり、注意しなければなりません。
秘密保持義務は、在職中に知った企業秘密を漏らしてはならないという一般的な内容なら、さほど重い義務とはなりません。それでもなお不利な記載がないかチェックしてください。
問題は、競業避止義務であり、その制約が厳しいと、競業での起業ができなくなってしまいます。ただ、本来どのような仕事をするかは自由であり、厳しすぎる競業避止義務は、憲法における営業の自由を侵害し、違法です。退職後に、制限される業種で起業することを検討しているなら、断固としてサインを拒否する必要があります。
退職時の競業避止義務について、次の解説を参考にしてください。
まとめ
今回は、在職中に、会社に内緒で起業するときのポイントについて解説しました。
起業初期ほど、資金が必要。いざ起業を思い立っても、すぐに退職するのは経済的に難しい場面もあります。できる限りリスクを軽減するために、まずは会社に勤めながらの副業からはじめ、本業との比率をコントロールし、専業へと移行する流れで進めるとき、途中で会社にバレてしまわないように進める必要があります。
副業のルールを正しく理解するとともに、在職中に起業の準備をするにせよ、発覚しづらくするのが大切です。新しくビジネスをスタートするならば、退職して起業するより前でも弁護士に相談するのが、起業後の経営を順調に進めるのに大切です。
- 会社に内緒で起業するには、副業禁止のルールが明確にされているか確認すべき
- 会社に起業をバレないため、登記や税金といった会社設立に伴うポイントを押えておく
- 会社に内緒でした起業がバレても解雇などの不利益を避けるため、本業もおろそかにしない
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