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会社の信用・イメージ低下を防ぐ、「風評」トラブルの対応

インターネットが一般に普及した現代において、オンライン上で会社の信用を毀損する書込みをされることは、企業のイメージを大きく低下させ、経営に悪影響を与えます。

「2ちゃんねる」、「爆サイ」などの有名な匿名掲示板、「食べログ」、「Amazon」などの口コミサイトに、御社や、サービスに対する悪評を書き込まれると、売上が大きく低下することは容易に予想できます。

御社のイメージ、信用を守り、名誉棄損、風評の書込みによって負った損害を回復するためにも、書込みの削除が急務となりますが、これらの対策は法律、ITの知識、経験が必要となります。

今回は、会社の信用・イメージを守るための、風評トラブルの対応を、IT法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 増加する風評被害

インターネットが一般に普及した現代では、企業といえどもインターネット上の風評によって損害を被ることが多くなってきており、経営者からの法律相談ケースも増加しています。

インターネット利用者の中には、オンライン上の匿名性を盾にして、会社の信用を棄損する書込みをするケースが少なくありません。

しかし、インターネットは完全なる匿名ではないことから、投稿の削除、書込み者の特定といった方法によって、会社が自衛することが重要です。

インターネット上の情報は、不特定多数の人が閲覧することができ、コピーが容易であることから、少しでも放置しておけば、すぐに広く拡散されてしまいます。

あっという間に会社の信用が低下し、経営に大きな影響を与える事態ともなりかねません。したがって、インターネット風評被害には、スピーディな対応が原則です。

2. 削除請求

インターネット上で誹謗中傷、名誉棄損、信用棄損された会社は、情報の拡散を防ぐために、その情報を素早く削除するよう努めてください。したがって、まずは「削除請求」を行うこととなります。

弁護士に依頼した場合に、「削除請求」が容易に可能かどうかは、書き込まれた掲示板、サイトの種類、運営者、サーバーの場所などによっても大きくことなります。

「削除請求」の経験豊富な弁護士に相談すれば、過去に同じサイトに対する「削除請求」を経験したことがある可能性が高いです。

なお、投稿者が明らかな場合、直接削除の依頼も考えられます。ただ、自分の名前を明らかにして風評・誹謗中傷している場合、感情的なシコリが大きく、当事者同士で直接交渉をすると、炎上の原因となるおそれがあります。

弁護士に依頼して、風評・誹謗中傷の書込みを削除する流れについて、弁護士が解説します。

2.1. 任意交渉による削除請求

まずは、任意交渉による「削除請求」が可能であるかを検討します。

サイト管理会社が明らかな場合や、問い合わせフォームがホームページ上に設置されている場合には、サイト管理者に連絡をし、削除の依頼をします。

ただ、あくまでも、削除を「お願いする」に過ぎないため、サイト管理者に対する強制力はありません。したがって、任意交渉による「削除請求」では、功を奏しないことも少なくありません。

この際、任意交渉による削除請求の相手方とすべきは、サイト管理者だけでなく、次のような個人、法人も相手方として、通知を送るべきです。

  • 匿名掲示板の管理者
  • ウェブサイトの管理者
  • サーバーの管理者
  • 接続プロバイダの管理者

サイト管理者としても、投稿者の表現の自由に配慮する必要があることから、権利侵害でない書込みを、クレームが来たからといって安易な判断で削除することが適切でないからです。

任意交渉による「削除請求」をする場合にも、次に説明する裁判の場合と同様、その書込みが御社のどのような権利を侵害しているか、法的に説得的な説明をするのがよいでしょう。

 注意! 

有名な匿名掲示板の場合、たいていの場合は、削除に関する管理者のポリシーが、サイト上に表示されています。

「削除ガイドライン」「削除ポリシー」「削除マニュアル」といったページを探してみましょう。

独自のルールが明確に記載されているのに、これに明らかに従っていないような「削除請求」を行うと、炎上の危険が高まります。

2.2. 削除の仮処分

サイト管理者が交渉に応じて削除してくれないとなると、強制的に削除を実現するためには、裁判手続によるほかありません。

「削除請求」を裁判で行う場合、インターネット上の情報の拡散スピードが非常に速いことから、迅速に対応できる「仮処分」によって行うこととなります。

仮処分は、あくまでも「仮」ですが、インターネット上の情報削除の場合、仮処分のみで決着がつくことも多くあります。早ければ、1~2週間以内には、情報を削除することが可能です。

ただし、「削除の仮処分」を認めてもらうためには、次の要件が必要となります。

  • 権利侵害
    :法的権利の侵害をしている投稿であることが必要です。
  • 保全の必要性
    :インターネット上の情報拡散のスピードが速いことから、保全の必要性が認められます。
  • 担保金の供託
    :仮処分を認めてもらうためには、裁判所へ担保金の供託をする必要があります。事案によって幅がありますが、10万円~50万円程度が一般的です。

裁判所の判断によって「権利侵害である。」と判断してもらえれば、「仮処分」であっても、サイト管理者やプロバイダが裁判所の判断に従って削除するケースが多いため、「仮処分」での解決が実現できます。

3. 投稿者の特定(発信者情報開示)

インターネット上の風評、誹謗中傷行為の中には、同一人物が繰り返し、同じ会社に対する悪評を書き続けているといったケースもあります。

御社のサービスや、顧客対応が気に入らなかった、といった理由で、インターネット上のストーカーのような被害に遭うケースも、少なくありません。

そのため、同一人物による繰り返しの誹謗中傷行為の場合、1つの書込みの削除に成功しても、同様の投稿を継続的に行われるだけで、根本的な解決にはなりません。

風評被害、誹謗中傷を受けた会社としては、書込み者の特定を行うと共に、差止請求、損害賠償請求などの責任追及が必要となる場合があります。

風評被害にあった経営者が、弁護士に依頼して発信者を特定する流れについて、弁護士が解説していきます。

3.1. 発信者情報開示請求の目的

インターネット上の書込みの投稿者を特定することを、「発信者情報開示請求」といいます。

投稿者が誰であるのかを特定することによって、次のような責任追及を行うことが可能です。

特に、同一人物による繰り返される誹謗中傷、名誉棄損行為に対しては、投稿者の特定が必須となります。

  • 差止請求
  • 損害賠償請求
  • 刑事告訴(名誉棄損罪)

次で解説する2段階の「発信者情報開示請求」によって投稿者を特定するためには、各プロバイダのログが保存されている期間内に行わなければならないため、スピードが最優先です。

実務的には、「削除請求」と同時に、「発信者情報開示請求」も行うことが一般的です。

3.2. 2段階の発信者情報開示請求

インターネット上の風評被害、誹謗中傷について、書き込んだ者を完全に特定するまでには、2つの情報保有者に対して、2回の開示請求が必要となります。

3.2.1. 【第1段階目】

まず、第1段階目が、サイト管理会社に対する「発信者情報開示請求」です。

これによって、IPアドレスとタイムスタンプ(問題となる投稿が行われた日時)を取得することができます。

第1段階目の「発信者情報開示請求」は、「仮処分」によって行います。

なお、例外的に、サイト管理会社が、投稿者の個人情報を保有している場合には、1段階目で投稿者を完全に特定することが可能なケースもあります。

3.2.2. 【第2段階目】

次に、第2段階目が、アクセスプロバイダに対する「発信者情報開示請求」]です。

これによって、投稿者がインターネット接続に利用しているプロバイダから、投稿者の氏名、住所といった個人情報を得ることが可能となります。

なお、アクセスプロバイダの情報保存期間に注意してください。というのも、プロバイダによって取扱いは異なりますが、一般的に、約3か月程度しか、ログを保存していない会社が多いためです。

そのため、任意請求によって、アクセスログの保存をお願いすれば応じてくれる会社が多いため、まずは任意請求によって削除をしないよう依頼し、万が一これに応じてくれない会社の場合は、「情報削除禁止の仮処分」を先行して行う必要があります。

3.3. 発信者情報開示請求の要件

以上で解説した2段階の「発信者情報開示請求」を行うためには、いずれの段階においても、法律で決められた要件が必要となります。

「発信者情報開示請求」の要件は、プロバイダ責任制限法4条に、次の通り規定されています。

 「発信者情報開示請求」の要件 
  • その情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことが明らかであること
  • 発信者情報の開示を受けることについて正当な理由があること

したがって、2段階の「発信者情報開示」のいずれの段階においても、この2つの要件があることを法的に適切に主張していかなければなりません。

4. まとめ

顧客、ユーザーが皆インターネットを利用できる現代において、インターネット上の企業の評判は非常に重要です。

商品・サービスの購入を検討する際には、あらかじめインターネット上の評判を確認するという人も非常に多くなっています。

そのため、御社がインターネット上の風評被害、誹謗中傷の被害に遭った場合には、情報が拡散する前に、スピーディな対応が必須となります。

「削除請求」、投稿者の特定(発信者情報開示)に必要となる法律知識は、今回解説したとおりですが、実際にインターネット上の情報を削除することができるかどうかは、管理者やプロバイダの対応によってケースバイケースであり、ITと法律に関する知識、経験をもっている弁護士の手助けが必要となります。

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