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ホームページ保守契約で、IT企業が注意すべき業務委託契約書のポイント

ホームページの保守契約の、発注者・保守業者のそれぞれの立場から、保守契約を作成するときのポイントを、弁護士が解説します。

保守契約とは、IT企業が提供したホームページやソフトウェアなどを、期間を定めた保守契約を締結することによって、修理したり、修正、アップデートしたりする契約をいいます。

保守契約は、制作契約と異なり、長期的な取引関係となりますから、信頼関係を築くことが重要となります。

とはいえ、信頼していれば契約書はいらないかというと、そうではありません。信頼関係を築かなければならないからこそ無用なトラブルを避けるため、保守契約書を作成し、保守契約の詳細な内容について当事者間でルール作りを進めなければなりません。

今回は、ホームページの保守契約書を締結して保守契約を行うときに注意すべきポイントを、IT法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 保守契約の必要性

ホームページは、制作したらそれで終了というわけではありません。

むしろ、ホームページを集客ツールとして有効活用するためには、更新やバージョンアップ、修正を継続して、新しい状態に保っておくことが必要となります。

ホームページを新しい状態に保ち、常に集客ツールとして活用できる状態としておく作業を、ホームページの「保守業務」、「管理業務」などといいます。

まずは、「保守契約書」について解説する前に、その前提として「保守契約の必要性」について解説します。

1.1. 保守業務を行わないとどうなる?

ホームページの保守業務を、すべて自社で行うことも可能ですが、ホームページを制作した制作会社に対して業務委託するケースが多いです。

というのも、保守業務を万が一忘れて、ドメインの更新を忘れた場合には、今まで折角更新してきたホームページが一瞬で無になってしまうおそれもあるためです。

ホームページから相当の集客を実現している会社であっても、自社でドメイン契約、サーバー契約等の更新を全てまかなっていた結果、代金の支払い忘れによってホームページが消えたというケースもあります。

1.2. 保守契約書が必要な理由は?

ホームページを安全に管理、運用するためにも、業者に委託をすることによって、安全に監視してもらう必要があります。

保守業者にとっても、発注者にとっても、保守契約をすると長年の取引関係となります。ホームページを長年運用、管理していくのであれば、この先ずっと付き合っていかなければなりません。

そのため、最初の保守契約締結の時点で作成する「保守契約書」は、慎重に作成しなければなりません。

「保守契約書」は、保守契約の内容を書面にまとめて証拠化した、ルールブックであると考えてください。

保守契約は、一定の期間を定め、更新を繰り返すことによって長期間の取引関係<を結ぶという内容になることが通常ですが、「自動更新条項」によって更新することも多く、更新の際に契約条件を変更するために協議をすることは、手間と労力が非常に多くかかります。

2. 【発注者側】保守契約書を作成する際のポイント

まず、保守業務を発注する側の会社が、「保守契約書」を作成、修正する際に注意しておくべきポイントを解説します。

保守業者は、同様の保守契約を多くの顧客との間で締結していることから、「保守契約書」は通常、保守業者の側から第一案(ドラフト)が提案されることが一般的です。

したがって、発注者側からすれば、今回の解説を参考に、保守業者の提案してきた「保守契約書」が、保守業者に一方的に有利な内容となっていないか、チェックし、修正をする作業が必須となります。

2.1. 「保守業務」の範囲を明確に!

ひとくちに「保守業務」「管理業務」といっても、ホームページを適切に運用していくために、やらなければいけない作業は非常に多くあります。

これらの全てをホームページ保守業者にお任せすれば、月の業務委託費用はかなりの額になることが予想されます。

最近では、Wordpressなどのウェブの素人であっても使いやすいCMSが登場したことから、更新業務の一部などは、むしろ実務経験のある社内の担当者に任せた方が良質な記事が作成できるケースもあります。

そこで、「保守契約書」を作成するときは、「業務の範囲」を明確に記載して、「どの業務を保守業者に任せているのか」、保守業者側からいえば、「どの業務を任せられているのか」を明確にしておきましょう。

「保守契約書」において、保守業者に委託される業務の例としては、次のようなものがあります。

  • ドメインの代行取得
  • サーバーの代行契約
  • ドメイン管理・更新作業
  • サーバー管理・更新作業
  • WordPressなどのCMS・プラグインなどの更新作業
  • 新しいページの作成、更新作業
  • 更新方法の電話・メールによるサポート
  • セキュリティ状況の最新化
  • 緊急時の応急対応

上記の保守業務の例を見てもわかるとおり、保守業務といってもさまざまなオプションが考えられ、任せる業務によって月額費用もさまざまです。

したがって、「保守契約書」の「業務の範囲」に関する記載が、自社の認識と一致しているかどうか、しっかりチェックしておかなければなりません。

2.2. 保守費用が適正か

以上で解説したとおり、一口に「保守業務」といっても、ホームページを運用するにあたって必要なことをすべて行うという場合から、単に名目上、契約を代行するだけという業者まで様々です。

御社の需要に合うかぎり、どのような範囲で保守業務を外注してもよいのですが、「保守業務の範囲と保守費用が適正であるかどうか?」という点を、「保守契約書」の「報酬」についての条項で確認しましょう。

保守契約の範囲が狭い順に、次のようなケースが想定され、費用の目安は次のような程度が一般的ではないでしょうか。

  • 名目上の保守契約で、ドメイン・サーバーの費用に利益を少し加えて保守費用を請求する保守契約
  •  月額数千円~2万円程度

  • 自動のバックアップとドメイン・サーバの更新作業を行い、月に一定時間の上限を設けて、簡単な修正業務や質問への回答を行う保守契約
  •  月額数千円~5万円程度

  • 以上に加えて、月に5件までなど上限を設けて記事の更新を担当する契約
  •  月額1万円~10万円程度

特に、ホームページ制作業務と保守業務を同時に契約し、初期費用としてかかる制作費用は非常に安いものの、その後の保守費用が相場よりも高額であるといったケースもあります。

この場合、全体としてかかる費用が、相場より高くはないか、ホームページ制作契約書と共に、保守契約書もチェックを忘れずに検討しましょう(2つの契約書が一緒になった「ホームページ制作・保守契約書」などというケースもあります。)。

2.3. コンサルティング込の保守契約に注意

「保守契約書」の中には、SEO(検索エンジン最適化)や、更新方法などについてのコンサルティング業務が含まれた契約内容のものがあります。

たとえば、アクセス解析、キーワード分析・提案、記事作成のコンサルティングなど、SEOに必要な多くの知識を提供する対価として、相場以上の保守費用を請求する業者のケースです。

御社がウェブの知識にとぼしい場合や、社内の担当者に教育をしてもらって今後は保守業務を内製化したいといった需要がある場合に、適切なコンサルティングが提供されるのであれば、お得な契約といえるでしょう。

他方で、コンサルティング業務というのは名ばかりで、記事制作のマンパワーと運頼み、保守費用を増額してもらうための口実といった業者もあります。

次の観点から、「保守契約書」のチェックを怠らないようにしてください。

  • コンサルティング業務の具体的な内容が明らかか
  • コンサルティング業務のノルマが月ごとに決まっているか
  • コンサルティング業務の結果に対する保証があるか

少なくとも、具体的内容と月ごとに行ってもらえる行動が特定されていなければ、話し合いの中で契約書を具体化すべきでしょう。

特に、制作の初期費用が安く、月額の運用費用で回収しようとしている業者のケースでは要注意です。

3. 【保守業者側】保守契約を作成する際のポイント

次に、保守業者側が、「保守契約書」を作成する際に注意しておくべきポイントを解説します。

ホームページ制作や保守などを事業としているIT企業としては、「保守契約書」の雛形を、社内に準備していることが多いのではないでしょうか。

今回の解説を参考に、もう一度、社内の「保守契約書」が適切なものであるかチェックしてみてください。

3.1. 有利にしすぎは禁物

「保守契約書」を締結するときは、保守業者側が、「保守契約書」の第一案(ドラフト)を提案することが多いのではないでしょうか。

基本的には、自社に有利な内容で、また、自社の負う責任が限定されている「保守契約書」が望ましいといえます。

ただし、あまりに顧客に対して不利な条項を入れたり、不当な内容となっていたりすると、企業イメージが低下したり、インターネット上での炎上問題の原因になったりするおそれもありますので、やりすぎは禁物です。

3.2. 禁止行為を保守契約に明記する

「保守契約書」を結ぶとき、お客様をモンスタークレーマーに育てないためにも、お客様に一定程度のウェブ知識を持ってもらう必要があります。

「保守契約書」を締結する顧客の中には、ドメインやサーバーの契約などの作業が自社でできない、もしくは行いたくないという会社もあります。

そのため、ウェブに関する知識、経験が全くない会社もあります。インターネットの普及により、このような会社であっても、ホームページを持つことが当たり前となったためです。

そのため、IT業界では当たり前の常識的な禁止行為でも、してはならないことだとは全く知らずに行ってしまったというケースもあります。

このような場合に自社の責任を限定しておくためにも、お客様に対して、禁止となる行為は明確に伝えておかなければなりません。

保守契約に記載しておく禁止行為の例は、次のようなものが考えられます。

  • サーバーに負荷を掛ける行為
  •  (スパムメール、迷惑メールの過剰送信、重すぎるファイルのアップロードなど)

  • 他社の知的財産権(著作権、知的財産権、商標権)を侵害する記事の掲載
  • 他社の名誉、プライバシーを侵害する記事の掲載

ウェブに携わってきたIT企業であれば当たり前のことであっても、ウェブの知識経験がなくホームページ作成が初めての会社の中には、全く理解していない方も多くいます。

3.3. 免責を保守契約に明記する

ITの知識があまりないお客様のケースですと、ウェブ制作業者、保守業者、サーバー会社、プロバイダなどは、すべて「IT会社」としてひとくくりに見える場合があります。

そのため、「どこまでがどの会社の責任範囲であるのか?」を明確に理解してはいないと考えた方がよいでしょう。

保守業務を委託された保守会社としては、保守契約の責任範囲がどこまでであるのかを明確にしておかなければ、自社の責任ではない部分にまで「保守ができていなかったからだ。」という責任追及を受けることにもなりかねません。

例えば「ホームページが見られなくなった。」という非常事態の責任が誰にあるのか?という問題を考えてみてください。次のように検討していくのが通常ではないでしょうか。

  • サーバーが一時的にメンテナンス状態となっていたことが原因であったケース
     ⇒サーバー会社に原因がありますが、誰の責任ともなりません。
  • サーバーの利用規約に違反した記事を掲載したため、サーバーから削除されていたケース
     ⇒記事作成者の責任といえるでしょう。記事作成が保守業務に含まれる場合、保守業者の責任となるケースもあります。
  • 顧客のPC利用環境が、CMSの利用環境に足りていなかったケース
     ⇒最初に説明をしていなければ、制作会社の責任となる可能性が高いでしょう。
  • サーバー、ドメインの更新契約を忘れていたケース
     ⇒サーバー、ドメインの更新契約が保守業務の範囲であれば、保守業者の責任となります。

以上の例を見ていただければわかるとおり、「ホームページが見られなくなった。」という1つのトラブルだけをとってみても、どの会社に責任があるかは、ケースバイケースです。

ウェブの知識経験があまりないお客様に対しても、保守業務の範囲ではない部分、保守会社の責任とはならないトラブルの内容が明確になるように、「保守契約書」における「免責条項」で明らかにしておきましょう。

4. まとめ

今回は、発注者となる会社、保守業務を委託される会社の、それぞれの立場から、「保守契約書」を作成、修正、締結する際のポイントについて、注意すべき事項を解説しましたので、参考にしてみてください。

「保守契約書」の内容はざまざまであり、委託する業務の内容によって、追加すべき契約書の項目を検討しなければなりません。

雛形を社内に用意している保守業者や、保守契約をはじめて締結するために契約書を提示された経営者の方は、弁護士への法律相談で、契約書の不利な点の修正を検討してみてください。

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