建設会社の「談合」が、よくニュースで話題となります。
「談合」という単語の意味だけを見ると、「話し合い」のことであり、話し合いを重視する日本では、むしろ話合いで物事を決めたほうがスムーズに進んでよいことのようにも思えます。
実際には違法であっても、当事者はそう考えずに知らず知らずのうちに「談合」を行ってしまっている場合があるかと思います。
しかし、談合などの不正な取引を防止することを目的とした「独占禁止法」が制定されており、公正取引委員会には、不正を捜査するための強力な権限が与えられています。
公正な競争を保護し、不当な利益を許さないためです。
今回は、建設会社が独占禁止法違反にならないようにするための、受注と下請のポイントについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
1. 入札談合をしないこと
建設工事を受注する際に、受注を予定している建設会社同士が入札価格などについてあらかじめ話し合って合意することを、「入札談合」といいます。
お互いに話合いをして、物事を円滑に進めることは、日本の「和をもって貴しとなす。」の精神のあらわれではないかと思うかもしれませんが、入札談合は独禁法違反です。
>刑事責任を科せられる可能性のある危険な行為です。
1.1. 入札談合はなぜダメなのか
入札談合行為は、独占禁止法における「不当な取引制限」にあたります。
独占禁止法における「不当な取引制限」の定義は、次の通りです。
独占禁止法2条6号この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
「不当な取引制限」は、事業者の不当な利益確保を助長し、取引相手の利益など、公共の利益に反することから、独占禁止法で禁止されています。
すなわち、事業者間で自由な競争がされ、適正な価格でのサービスが提供されることによって、ひいては、消費者全体の利益が確保されるというわけです。
「価格カルテル」によって価格のつりあげが行われれば、末端消費者の利益を害することは、簡単に理解していただけるでしょう。
1.2. 入札談合に対する制裁
入札談合が「不当な取引制限」にあたると判断されると、公正取引委員会による行政上の制裁として、次の2つの制裁を命じられるおそれがあります。
- 排除措置命令
- 課徴金の納付
また、刑事罰として、5億円以下の罰金、さらに、行為を行った者に対しては、3年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。
不当な取引制限に関する捜査は、公正取引委員会による告発からはじまることが一般的です。
行政処分、刑事罰による制裁がなされると、会社自体の信用、企業イメージの低下にもつながり、売上低下に対する大きな影響は避けられませんので、注意が必要です。
1.3. 入札談合を行ってしまった場合の対応
とはいえ、知らず知らずのうちに、業者間のお付き合いで話し合っているうちに、入札談合の片棒をかついでしまったケースも少なくありません。
悪意なく違法な行為を行ってしまった場合には、気付いた際に即座に対応することが重要となります。
まず、入札談合行為をすぐにやめること、今後二度とやらないことは当然です。
その上で、次に解説します、リニエンシー(課徴金減免制度)を活用し、経済的な損失を少しでも回避するようにしましょう。
軽い気持ちで入札談合を行ってしまった場合、反省する気持ちがあるならば、できる限り早めにリニエンシーを申請することがオススメです。
1.4. リニエンシー(課徴金減免制度)の活用
入札談合を行ってしまった後であっても、リニエンシー(課徴金減免制度)を利用して、課徴金の納付を回避することが可能です。
この制度は、入札談合が密室で誰にも見つからずに行われているところ、違法行為の発見に協力した事業者を優遇することによって、違法行為の告発のモチベーションを上げようという目的があります。
具体的には、公正取引委員会による立入調査よりも前に、リニエンシーの制度による申請を行えば、次の課徴金の減免を受けることができます。
- 1番目に申告した事業者:課徴金を全額免除
- 2番目に申告した事業者:課徴金を50%免除
- 3~5番目に申告した事業者:課徴金を30%免除
したがって、やましいことをしてしまったという自覚があるのであれば、できる限り早く申告した方が、より有利な扱いを受けることができます。
すでに立入調査が開始していたとしても、あきらめてはいけません。
立入調査が開始した後であっても、3番目の申告事業者までは、課徴金を30%免除してもらうことができるからです。
2. ダンピング受注をしないこと
以上で解説しました「入札談合」は、事業者が、価格をつりあげることを目的として行うケースが典型です。
これに対して、価格を安くすれば安くするほどよいのかというと、安くする場合にも、独占禁止法による一定の制限があります。
それが、ダンピング行為に対する規制です。
2.1. ダンピング行為はなぜダメなのか
「ダンピング行為」は、独占禁止法における「不公正な取引方法」にあたります。
独占禁止法における「不公正な取引方法」の定義は、次の通りです。
独占禁止法2条9項3号この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
③ 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
正当な理由がないのに、原価を著しく下回る価格で建設工事を受注する場合には、価格競争に追いつけない弱小な事業者を競争から追い出すことにつながります。
そこで、公正な競争が阻害されるとして、「ダンピング行為」は、「不公正な取引方法」として禁止されています。
2.2. ダンピングに対する制裁
「ダンピング行為」が「不公正な取引方法」にあたると判断されると、公正取引委員会による行政上の制裁として、「排除措置命令」がなされます。
「排除措置命令」とは、公正取引委員会が建設会社に対して、不公正なダンピング行為をやめるように命令することをいいます。
加えて、10年以内に違反行為を繰り返した場合、「課徴金納付命令」がなされます。
公正取引委員会が公表している考え方によれば、ダンピング行為が違法となるかどうかは、次の2つの要素によって判断されます。
- 価格要件:工事原価を下回るかどうか
- 影響要件:事業者の市場における地位、規模など
したがって、大規模な事業主ほど、また、価格が安ければ安いほど、「ダンピング行為」は違法と判断されやすいといえます。
3. 適切な元請・下請間の取引のために
建設会社の取引の場合には、1つの工事の中でも、]元請・下請による重層的な構造が一般的です。
「独占禁止法」では、元請・下請間の取引が、公正な競争のさまたげとならないように、さまざまな禁止事項を定めていますので、独禁法違反とならないよう、きちんと理解しておきましょう。
また、下請との間の取引では、独禁法以外にも、「下請法」による規制に注意が必要です。
独禁法で定められている、元請・下請取引における禁止行為について、代表的なものを順に解説します。
3.1. 優越的地位の濫用
元請と下請との間の取引関係では、一般的に、元請の方が強い力を持っています。というのも、元請が下請を選択し、仕事を振る、という関係ができあがっているためです。
そのため、取引上の有利な地位を利用して、元請が下請に対して、一定の行為を強要したり、不利益を課したりするおそれがあります。
独占禁止法は、そのような行為を「優越的地位の濫用」といい、禁止しています。
例えば、次のような行為が、「優越的地位の濫用」として禁止対象となります。
- 多忙時に従業員を融通するよう強制すること
- 酒食の接待を強要すること
- 協賛金を支出するよう強要すること
- 特定の会社から資材を購入するよう命令すること
本来、元請・下請の関係は、自由な取引でありますが、これらの行為によって競争がゆがめられることを防止するための禁止事項です。
違法行為にあたると、「排除措置命令」や「課徴金納付命令」がなされます。
3.2. 共同ボイコット
建設会社が、共同である事業者からの取引を拒絶する場合には、その事業者を排除することができ、競争がさまたげられることとなります。
というのも、既に解説していますとおり、建設会社の仕事では、受発注の取引が、下請け関係による重層的なものとなるのが一般的であるためです。
新規参入をさまたげたり、特定の事業者を排除したりするために、「共同ボイコット行為」を行うことは、独占禁止法における「不公正な取引方法」として禁止されています。
違法な「共同ボイコット行為」によって取引拒絶を行った場合には、「排除措置命令」の対象となります。また、10年以内に違反行為を繰り返した場合には、「課徴金納付命令」のおそれがあります。
4. まとめ
建設会社が、建設工事を受注し、元請から下請へ、下請から二次下請けへと取引を行う場合、独占禁止法の正しい理解は、違法行為を行わないために必須であるといえます。
独占禁止法違反と判断されると、公正取引委員会から「排除措置命令」、「課徴金納付命令」などの行政処分を受けるほか、行為の内容によっては、刑事罰となるおそれも十分にあります。
これらの不利益を回避するためには、あらかじめ「どのような行為が違法であるか。」を理解しておくしかありません。
御社の取引関係について、違法性があるかどうかご不安な場合には、企業法務に詳しい弁護士に、お気軽に法律相談ください。