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建設業に適用される法律と、建設会社の注意点を弁護士がまとめて解説

建設業とは、建設工事についての請負契約を締結し、建設の仕事をすることで報酬を得る業務のこと。建設業を営む会社を、建設会社と呼びます。

建設業にも、多くの法律が適用されます。建設業特有の業法はもちろんですが、民法や労働法といった一般的な法律についても、建設会社を経営する際に注意しておかなければなりません。建設業は、建設業許可を取得しあければ行えない建設工事の多く存在する、いわゆる許認可事業のビジネス。そのため、法律を遵守する姿勢が非常に重要です。

また、建設業には、労働者の生命に危険を及ぼす業務も多く存在します。そのため、行政による監督の目も厳しく、法違反の問題があるとメディアに報道されやすいのも、建設業界の特性です。そのため、企業の社会的評価を低下させないためにも、法律を理解し、遵守しなければなりません。

今回は、建設業を営む企業が注意すべき法律と、その違反への制裁について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 建設業は許認可ビジネスのため、法令違反のリスクが特に高い
  • 建設業に固有の業法である建設業法のほか、民法、労働法など一般法が適用される
  • 建設業が法律に違反すると、許可の取り消しなど重い処分を受けるおそれがある

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民法

まず、民法は、どのような業種の事業者にも適用される、すべての取引の基本となる法律です。当然ながら、建設業でも、民法の規定を遵守しなければなりません。

建設会社の行う建設工事は、民法にいう「請負契約」です。請負契約は、民法に定められた典型契約の1つで、発注者が受注者に対して、仕事の完成を目的として業務を委託する契約類型のこと。建物を建築することを目的として工事を委託するのは、まさにこれにあたります。

民法632条に規定されている通り、請負契約では、工事を完成させなければ報酬を請求できない(完成品の受け渡しと報酬の支払いが同時履行)とされるのが原則です。

民法632条(請負)

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法633条(請負の支払時期)

報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定を準用する。

民法(e-Gov法令検索)

また、取引上の債務の履行を怠った場合は、民法における債務不履行のルールが適用されます。したがって、損害賠償請求を受けたり、契約を解除されたりすることとなります。

労働法

建設業では、労働者を雇用ないし請負といった契約で働かせることで、建設工事を行います。労働力なしには、建設業は成り立ちません。材料費と並んで人件費が大きなコストとなる、いわゆる労働集約型のビジネスモデルといえます。

そのため、建設業には、労使関係のルールとなる労働法が適用されます。労働者との間で雇用契約を締結する場合、労働法のルールに従う必要があります。労働法には数多くの法律がありますが、ここでは、建設業で特に問題となりやすい労働法について解説します。

労働基準法

まず、労働者保護のために、最低限の労働条件を定めるのが、労働基準法です。

建設業というとブラック企業のイメージが強い業界でもあります。労働環境を少しでも良くしなければ、悪評の的となってしまう会社は跡を絶ちません。最低限の労働条件を上回るよう、労働基準法を遵守してください。

特に、建設業では、残業代を支払っていなかったことが問題となるケースが多くあります。労働集約型のビジネスの宿命ではありますが、人件費をカットしようと無理をすれば、法律違反となってしまいます。労働基準法は「1日8時間、1週40時間」を法定労働時間と定めており、これを超えて働かせる場合には、月額の給料に加えて残業代を払う必要があります。

残業代の未払いが継続すると、請求された際に多額の支払義務を負うおそれがあります。

労働安全衛生法

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を作ることを目的とした法律です。労働基準法と同様に、労働者保護を目的とした最低限度を決めるものであり、そのなかでも安全、健康という非常に重要な領域を守っています。

労働安全衛生法は、建設業が特に気をつけなければならない安全に関するルールを多く定めています。例えば、労働安全衛生法に基づいて建設会社が講ずるべき措置には、次のものがあります。

  • 安全衛生体制の確立
    統括安全衛生管理者、産業医、安全衛生委員会の設置など
  • 爆発、発火、ガスなど危険物の取扱いにおけるルール
  • 安全衛生に関する労働者教育、指導
  • 作業環境測定
  • 健康診断の実施
  • 労働災害防止計画

これらの措置は、会社の規模によって義務化されているものもあります。労働安全衛生法は、最低限のルールを定めるものなので、違反した場合には、刑事罰による制裁が科されるおそれもあります。

建設業法

建設業法では、建設業を行う会社が守るべきルールについて定めています。

一定の建設工事を行うには、建設業の許可を受ける必要があります。これは、元請けでも、下請けでも、いずれの立場でも、建設工事を行うすべての建設会社にあてはまります。

参考:建設業法(e-Gov法令検索)

建設業許可制度

建設業法は、建設業許可に関するルールを定めています。

建設業には、専門的な知識、経験が要求されます。そのため、建設会社の質を担保するために、建設業許可制度が設けられています。建設業を行うには、許可を取得する必要があるということです。

建設業の許可は、都道府県知事、もしくは、国土交通大臣に申請して行います(建設業の営業所が1つの都道府県のみに存在する場合は都道府県知事の許可、2つ以上の都道府県にわたる場合は国土交通大臣の許可を取得します)。

建設業を行うためには、「許可」を取得することが必要だということです。

「建設業の許可」は、都道府県知事、もしくは、国土交通大臣に対して行います。

建設業の許可については次の解説をご覧ください。

請負取引に関するルール

建設工事は、元請けと下請けによる、重層的な請負関係となっていることが通例です。このとき、仕事を発注する元請けのほうが、下請けよりも大きな力を持っています。力関係の差があるため、通常の取引ルールのみに任せていては、下請けの権利が不当に侵害される危険があります。

そこで、建設業法では、請負取引に関するルールを定め、下請けの保護を図っています。建設業法に定められた請負取引に関するルールは、例えば次のものがあります。

  • 一括下請けの禁止
    元請けが、受注した工事のすべてを下請けに丸投げすることを禁止する
  • 下請け代金の支払いルール

施工品質の確保

建設会社の施工技術を確保するためのルールが、建設業法には定められています。

建設工事の品質確保のため、次の事項につき、建設業法に違反しないよう注意してください。

  • 技術者制度
  • 技術検定
  • 施工体制台帳の作成
  • 体系図の作成

経営事項審査

経営事項審査とは、公共事業を行おうとする建設会社の経営に関する事項を、客観的に審査するための制度です。

経営事項審査で審査される項目は、経営規模、経営状況、技術力などで、国土交通大臣、もしくは都道府県知事の審査を受けます。

監督処分

建設業法では、建設業者に対する監督処分として、指示、営業の停止、許可の取り消しを定めています。詳細は、次章「建設業法違反に対する制裁」にまとめて解説します。

紛争処理

建設業法は、建設工事の請負契約に関する紛争処理の方法として、あっせん、調停、仲裁などの制度を定めます。

特に、建設工事の請負契約では、トラブルが多く発生するため、建設工事紛争審査会を設置することを定めています。建設工事紛争審査会は、国土交通省と都道府県に設置されており、それぞれ会社が許可を得た行政庁に対して審査を申請することとされています。

建設業法を理解しやすくするため、ガイドラインも発出されています。

建設業法違反に対する制裁

建設業の場合には、法令遵守の必要性が特に高いと説明しました。建設業法では、業務の適正化に関するルールが定められ、違反すると厳しい制裁が下されるおそれがあるからです。

建設業は許認可ビジネスなので、その制裁が最も重い場合、許可の取り消しに及びます。許可が取り消され、これまでの業務が遂行できないと、売上が減少し、雇用を維持できなくなり、企業経営が頓挫してしまいます。

監督処分

建設業を営む企業が、法律に違反する不正な行為をした場合、監督行政庁から監督処分が下されます。監督処分は、法違反の企業に対する行政からの是正を意味します。

建設業法の定める監督処分は、次の3種類です。

  • 指示処分
  • 営業停止処分
  • 許可取り消し処分

指示処分は、監督行政庁が建設会社に対し、不正を是正するよう指示する処分です。指示処分に従わないと、営業停止処分となります。また、一括下請けの禁止への違反など、悪質な違反行為に対しては、指示処分なしに営業停止処分となるケースもあります。

そして、さらに従わない場合には許可取り消し処分となるおそれがあります(同様に、悪質な場合には、指示処分、営業停止処分のいずれもなくても許可取り消し処分が下されることがあります)。

監督処分がなされた事実は、インターネットや公報を通じて、社名公表されます。

刑事罰

監督処分は、違法行為の是正を目的としますが、これに対して刑事罰は、違法行為に対する制裁が目的です。建設業法に違反する行為は、悪質な場合には刑事罰が科されるおそれがある犯罪となるため、注意が必要です。

また、建設業法違反に対する刑事罰は、違反行為を行った直接の当事者に対する罰則以外に、法人に対する罰金も併用して科されます。このことを法律用語で「両罰規定」と呼びます。

指名停止措置

指名停止措置とは、公共事業の競争入札が行われる場合に、発注者が不適当と考える建設業者を排除する処分です。建設業法に違反した行為をすると、指名停止措置を講じる国・自治体も多くあります。公共工事を事業の中心としている建設業者にとって、業務が全くなくなることを意味しており、まさに死活問題です。

なお、どのような違法行為を行ったら指名停止措置となるのかは、公共団体の定める要綱に従って判断されるため、国・自治体ごとに判断が異なることがあります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、建設業を営む会社が、特に注意しておくべき法律をまとめて解説しました。

建設業には多くの法律が適用されます。建設業は、労働者の生命、身体の健康に、特に配慮しなければなりません。そのため、業界特有の建設業法が細かく定められており、法律違反には厳しい制裁が下るおそれもあります。

最悪の場合には、建設業許可の取り消しという厳しい制裁もあり得ます。許認可を取り消されれば、企業経営の存亡に関わる危機的状況となるため、法律への最大限の注意を要します。法律違反のリスクの大きい建設業を営む企業だからこそ、顧問弁護士による法令遵守(コンプライアンス)のサポートを検討ください。

この解説のポイント
  • 建設業は許認可ビジネスのため、法令違反のリスクが特に高い
  • 建設業に固有の業法である建設業法のほか、民法、労働法など一般法が適用される
  • 建設業が法律に違反すると、許可の取り消しなど重い処分を受けるおそれがある

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