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労働者の雇用に必要な手続と書類を、弁護士がまとめてみた

会社経営がうまくいき、マンパワーが仕事に追いつかなくなってきたら、労働者の雇用を考える適切なタイミングに来たといってよいでしょう。

労働者を雇用するタイミングこそ、会社の体制が大きく変わる重要な転機です。

この機に、労働者の雇用に必要な手続と書類を揃えるとともに、コンプライアンスの見直しを行ってください。顧問弁護士を依頼するのも、このタイミングを1つの転機とされる会社が多いように思います。

労働者を雇用する場合には、労働保険、社会保険の手続を行うほか、社内でそろえておかなければならない書類も多く存在します。

今回は、労働者を雇用するために必要な手続きと必要書類について、人事労務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 雇用前に保存・備置く必要書類

まず、労働者を雇用するよりも前に準備しておいた方がよい必要書類について解説します。

「就業規則」のように、小規模な会社では必須ではないものや、労働者を雇用してから備置けばよいものもあります。

ただ、労働者を雇用した後は、社会保険や税金の手続などであわただしく対応しなければならないことが予想されますので、事前に用意しておくとよいでしょう。

1.1. 就業規則

「就業規則」とは、会社の従業員がある程度の人数以上いる場合に、統一的に適用されるルールをまとめて定めておく「ルールブック」とお考えください。

「就業規則」は、常時10人以上の労働者を使用する会社に、「作成」と「届出」の義務があります。

そのため、まだ労働者の雇用を考え始めたばかりの小規模な会社であれば、就業規則の作成、届出は、必須と言うわけではありません。

 参考 

なお、「就業規則」の「作成」「届出」が義務付けられる、「常時10人以上の労働者」の数え方には、契約社員やアルバイトなども含まれます。

しかしながら、統一的な労務管理を行うためには、社内のルールをわかりやすく定めたほうがよく、会社内に統一的に適用されるルールは、就業規則の形で統一しておくほうが便利です。

したがって、「常時10人以上の労働者」を雇う前から準備しておくに越したことはありません。

1.2. 労働者名簿

労働者を雇用する場合には、日雇い労働者を除いて、「労働者名簿」を作成しなければなりません。

労働基準法において、「労働者名簿」に記載が義務付けられている事項は、次の事項です。

  • 氏名
  • 生年月日
  • 履歴
  • 性別
  • 住所
  • 従事する業務の種類(常時30人未満を使用する事業においては記入不要)
  • 雇入れの年月日
  • 退職の年月日及びその事由(解雇の理由も含む)
  • 死亡の年月日及びその原因

「労働者名簿」は、労働者の死亡、退職又は解雇の日から3年間の間、保存しておかなければならないと義務付けられています。

1.3. 賃金台帳

労働者を雇用するときは、「賃金台帳」を作成しなければなりません。賃金台帳は備え置いておくだけでよいのではなく、賃金支払いの都度、記録しなければなりません。

労働基準法で、「賃金台帳」に記載が義務付けられている事項は、次のとおりです。

  • 氏名
  • 性別
  • 賃金計算期間(日日雇い入れられる者(1ヶ月を超えて引き続き使用される者を除く)には記入不要)
  • 労働日数
  • 労働時間数
  • 時間外労働時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
  • 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額(通貨以外のもので支払われる賃金がある場合には、その評価総額)
  • 法令及び労使協定に基づいて、賃金の一部を控除した場合には、その額

「賃金台帳」は、「労働者名簿」と一部記載内容が重複する部分もあり、2つの書類を合わせて作成することも可能です。

「労働者名簿」は、最後の記入をした日から3年間の間、保存しなければならないと義務付けられています。

3. 雇用保険

「雇用保」険は、労働者が失業したときのための収入を確保することが最大の目的となる保険です。

「雇用保険」は、一人でも従業員を雇用する会社であれば、原則として加入する必要があります。

したがって、新しく従業員を雇用するという場合には、原則として「雇用保険」の手続を行う必要が生じます。

3.1. 雇用保険の対象

常用の正社員が「雇用保険」の対象となるのは当然ですが、それ以外であったとしても雇用保険の対象となる場合があります。

雇用保険の対象となる社員の類型は、次の4種類です。

  • 一般被保険者
    :1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上雇用される見込みがある労働者
  • 高年齢継続被保険者
  • 短期雇用特例被保険者
    :4か月を超えて季節的に雇用される者
  • 日雇労働被保険者
    :30日以内の期間を定めて日々雇用される者
 参考 

1週間の労働時間が20時間未満の者や、31日以上引き続いて雇用される見込みのない者など、一定の労働者については、雇用保険の対象外とされています。

3.2. 雇用保険の手続

従業員を採用したときの雇用保険の手続は、公共職業安定所(ハローワーク)に対して「雇用保険被保険者資格取得届」という書類を提出することによって行います。

採用した日の翌月10日までの期限に、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ届出ます。

このときの必要書類には、次のようなものが一般的です。

詳細な手続きは、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ事前に問合せを行っておくのがよいでしょう。

  • 労働者名簿
  • 出勤簿・タイムカード
  • 賃金台帳
  • 労働条件通知書
  • 雇用保険被保険者証

4. 労災保険

「労災保険」は、会社の業務によって傷病を負った場合に、会社が負うべき「安全配慮義務違反」の責任を担保することを目的とした保険です。

「労災保険」は、従業員が、業務中や通勤中に、災害などによってケガをしたり、死亡したりした場合に、療養費や遺族年金などの給付を行う制度です。

「労災保険」は、事業所に1人でも労働者を雇用している場合には、原則として「適用事業所」となり、労災保険への加入が義務付けられます。

そして、「労災保険」の「適用事業所」となった事業所に勤務する労働者は、すべて労災保険の対象となります。このことは、短期間のアルバイトであっても同じです。

5. 健康保険・厚生年金保険

「健康保険」と「厚生年金保険」をあわせて、「社会保険」といいます。

「健康保険は、主に医療費をまかなうことを目的とした保険、「厚生年金保険」は、老後の生活を安定させることを目的とした保険です。

5.1. 社会保険の対象

「健康保険」と「厚生年金保険」に加入できるのは、形式的に「正社員」である者に限定されず、「常用雇用されている」と判断されるものはみな、「健康保険」、「厚生年金保険」の対象となります。

常用雇用されているかどうかの判断基準は、次のとおりとされます。

  • 週20時間以上の労働時間
  • 月額賃金8万8000円以上(年収106万円以上)
  • 勤務期間1年以上

この基準は、平成28年10月から施行される改正法によって定められたものです。

 参考 

日々雇われる短期雇用者の場合には、一般被保険者とは異なる基準とはなるものの、適用事業所ではたらいている場合には、「日雇特例被保険者」として、健康保険の対象となります。

5.2. 社会保険の手続き

「健康保険」と「厚生年金保険」の加入手続は、同時行います。

新しい労働者を雇用した場合には、「健康保険厚生年金保険被保険者資格届」を、所轄の年金事務所に提出します。

また、「健康保険」には、健康保険組合と協会けんぽがありますが、健康保険組合がある会社の場合には、そちらに提出することとなります。

対象となる労働者に、被扶養者がいる場合、健康保険被扶養者(異動)届」を提出することが必要となります。

これによって、被扶養者分の保険証を交付してもらうことができます。

6. まとめ

今回は、新たに従業員を雇い入れたときに、入社の前後で行わなければならない重要な手続きと、必要な書類について、人事労務に詳しい弁護士がまとめてみました。

特に、保険の加入手続は記載事項も多く、手間がかかることが多いため、社員を雇用する前から事前にきちんと理解しておくとよいでしょう。

また、定期的に社員の雇用を行う場合には、顧問弁護士、顧問社労士による手続きの代行をご検討ください。

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