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新型コロナウイルスによる休業でも賃金・休業手当の支払いは必要?

新型コロナウイルスで緊急事態宣言が出され、業績が悪化している会社が多いかと思います。先行きがみえず不安な中、とくに心配となるのが従業員の賃金についてのことでしょう。

「新型コロナウイルスの影響で社員を休業させるとき、賃金や休業手当の支払いが必要となりますか?」という法律相談を受けることがあります。

新型コロナウイルス禍で事業の継続ができない場合でも、雇用関係にある社員の賃金を払う義務が生じるケースがあります。また、事業を継続できず「休業」する場合であっても、労働基準法(労基法)では休業手当(賃金の6割以上)の補償が必要です。

一方、賃金はもちろん大事ですが、従業員の生活のためにも、会社が存続することが重要となります。

今回は、今後会社側(企業側)に起こりうるケースごとに、賃金・休業手当を支払う義務があるのか、それともないのかを、企業法務に詳しい弁護士が解説します。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

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「新型コロナウイルスと賃金・休業手当」の基本的な考え方

はじめに、「新型コロナウイルス感染症により業績悪化などの影響を受けたときでも、賃金・休業手当が必要かどうか」を判断するため、基本的な考え方と流れを解説します。

判断の流れは、大きくわけて次のように考えられます。

  1. 社員が、正常に仕事を遂行できる健康状態であるかどうか
  2. (社員の健康状態が不良な場合)その原因はどのようなものか
  3. (社員が健康な場合)それでも休業をすべき理由はどのようなものか

何よりもまず、「社員が健康であること」が、賃金・休業手当を支払うケースの大前提となります。社員が健康でなければ、仕事をまかせることができないからです。

社員の健康状態が不良な場合には、その原因が「新型コロナウイルス」にあるのか、それともそれ以外なのかによって、賃金・休業手当の支払い義務の判断が変わります。

新型コロナウイルスは「指定感染症」とされており、かかったら休業は必須です。そのため、新型コロナウイルスにかかったために休ませなければならない場合、賃金・休業手当は不要です。これに対して、社員の健康状態の不良が「業務による」といえるケースでは、労災による補償が必要となります。

一方、社員が健康な状態で、業績悪化などが理由で休業する場合、賃金・休業手当の支払いが必要かどうかは、情勢の緊急性や業種・業態、企業の経営努力などによって個別判断が必要となります。

以下で、順番に解説していきます。

社員が健康だが、休業が必要となるケース

会社が、社員に賃金などを支払うべき場合とは、大前提としてまずは、社員が健康に働けることが必須となります。社員が健康に働けない場合には、原則として「ノーワークノーペイの原則」がはたらき、給与は発生しません。

社員が健康で、仕事ができる状態のときに、休業を命じたり、自宅待機を命じたりする場合には、その理由によっては、仕事をさせなくても賃金や休業手当を支払わなければならない場合があります。

「会社の都合による休業」なら、賃金・休業手当が必要

新型コロナウイルスの影響をまったく受けない会社はないのではないでしょうか。しかし、新型コロナウイルスの影響が理由だったとしても、「会社の都合による休業」の場合には、賃金もしくは休業手当の支払いが必要となります。

民法では、次のとおり、会社の都合による休業や自宅待機の場合、賃金全額の支払い義務があることを定めています。

民法536条2項(債務者の危険負担等)

2. 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

労働基準法では、次のとおり、「使用者の責に帰すべき事由」による休業について、平均賃金の60%以上を「休業手当」として支払うことを義務付けています。

労働基準法26条(休業手当)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

例えば、新型コロナウイルスの影響を受けていても、休業要請の対象となっておらず、休業の必要性がない場合や、経営努力によって十分事業の継続が可能な場合に、予防のために休業や自宅待機をおこなう場合、休業手当の支払いが必要となる可能性があります。

このような場合に、万一の事態に備えて休業をする場合「社員のため」とい目的も強いことでしょう。休業手当を支払うかどうかも含め、休業、自宅待機を命じる前に、社員と十分に話し合いをおこなう必要があります。

事業継続が可能な場合には、「休業手当を支払って休業させる」という選択肢以外に、在宅勤務、リモートワークなどを活用して、感染予防をしながら会社運営をつづける道もあります。

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「不可抗力による休業」なら、賃金・休業手当は不要

これに対して、休業や自宅待機命令が「不可抗力」によるものであれば、賃金や休業手当の支払い義務は生じません。法律でいう「不可抗力」とは、「労使どちらの責任でもない」という意味です。天災など、人間の力ではどうにも左右できないものがその典型であり、新型コロナウイルス禍もこれに含まれる場合があります。

不可抗力による休業のとき、賃金を支払う必要がないことは、民法で次のとおり定められています。

民法536条1項(債務者の危険負担等)

1. 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

労働基準法でも「使用者の責に帰すべき事由」による休業でなければ、休業手当を支払う必要もありません。例えば、新型コロナウイルスの影響が甚大で、緊急事態宣言における休業要請の対象業種となって休業をせざるをえない場合などがこれに含まれます。

ただし、「不可抗力」とは、外部的な要因であり、経営者が努力をしても避けられないものである必要があります。在宅勤務やリモートワークを検討するなど、十分な経営努力を果たさずに休業を命じる場合、「使用者の責に帰すべき事由」による休業として休業手当が必要となる可能性があります。

新型コロナウイルスに関するQ&A(厚生労働省)

<休業させる場合の留意点>
問1 新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取り扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。
なお、賃金の支払いの必要性の有無などについては、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべきですが、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
また、労働基準法においては、平均賃金の100分の60までを支払うことが義務付けられていますが、労働者がより安心して休暇を取得できる体制を整えていただくためには、就業規則等により各企業において、100分の60を超えて(例えば100分の100)を支払うことを定めていただくことが望ましいものです。この場合、支給要件に合致すれば、雇用調整助成金の支給対象になります。
※不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。

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社員の健康状態が不良で、休業が必要となるケース

次に、残念ながら、社員の健康状態が不良であることを理由として、休業・自宅待機となる場合の会社側(企業側)の対応について解説します。

労働法の基本的な考え方として「ノーワークノーペイの原則」というルールがあるため、就労していない場合、賃金を支払う必要はありません。しかし、新型コロナウイルスにかかわる体調不良のなかには、会社が賃金や休業手当を補償しなければならない場合があります。

「新型コロナウイルスの感染による休業」なら、賃金・休業手当は不要

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は指定感染症であるため、り患した場合には就業が制限されます。

そのため、新型コロナウイルスにかかってしまった社員を休業させ、自宅待機を命じる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業とはならず、休業手当を支払う必要はありません。

この場合、加入する健康保険から、要件を満たせば傷病手当金を支給してもらうことができます。会社としても休業手当の支給は不要であるものの、労働者の生活を守るため、傷病手当金の支給に最大限協力すべきです。

感染力が強く、いつかかってしまうか予想できません。「社員が新型コロナウイルスに感染してしまった場合の対応」については、次の解説をごらんください。

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「新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者」の場合

ニュースでも報道されているとおり、新型コロナウイルス感染症は、すぐに陽性判定がなされるわけではありません。そのため、症状が出ていて感染を疑われるケースや、家族や友人が感染して濃厚接触者になりうるケースについても、適切な対応が求められます。

社員が感染を疑われる症状を有している場合、まずは「帰国者・接触者相談センター」に相談し、指示をあおぐ必要があります。

その上で、その指示にしたがっても勤務が可能な場合には、万一の事態にそなえて会社が自宅待機を要請するときは「使用者の責に帰すべき事由」による休業となり、休業手当として賃金の6割以上を補償する必要があります。

なお、ケースバイケースではありますが、状況にかんがみて自宅待機が適切と考える場合に、社員に理解を求め、自主的に休業してもらうことも検討してください。この場合には、通常の病欠と同様、賃金・休業手当の支払いは不要です。ただし、休業制度を適用するなどの配慮もあわせて検討してください。

業務によって体調不良となった場合

残念ながら現在の情勢では、「院内感染」が増加しています。そのため、医療従事者などが、業務をおこなう際に新型コロナウイルスに感染した場合には、「労災(業務上災害)」として扱わなければならないケースがあります

この場合、業務に起因する理由によって労働者が疾病にかかった場合には、会社は労災保険法によって定められる以上の休業補償をおこなう必要があります。また、労災の療養中は、解雇をすることが禁じられています。

会社が、必要な安全配慮義務をおこたった結果として社員を新型コロナウイルスに感染させてしまった場合には、安全配慮義務違反によるさらに重い責任を負います。

なお、理論的には、医療従事者以外にも、接客業などの社員が顧客から新型コロナウイルスをうつされてしまった場合や、通勤中の満員電車で感染してしまった場合にも労災(業務上災害もしくは通勤災害)となりますが、原因と結果の立証が難しいケースも多いでしょう。

休業手当の支払方法と注意点

最後に、新型コロナウイルスに関連する休業・自宅待機で、会社側(企業側)が休業手当を支払う必要があるときに、注意しておくべきポイントについて弁護士が解説します。

休業の補償を正しくおこなうことで、労使間の紛争を最小限におさえることができます。

雇用契約の内容を確認する

ここまで解説したとおり、労働基準法26条により「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合、会社は社員に対して平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う義務があります。

しかしこれは、雇用契約などで労使間の合意をなにも定めていない場合の、法律による最低限の補償です。

就業規則や雇用契約書(労働契約書)など、契約の内容に「休業手当」についての定めがある場合には、まずはそちらを確認する必要があります。就業規則において、法律以上の補償(平均賃金の60%を超える補償)を定めている会社では、その規定にしたがった対応が必要となります。

休業手当の計算方法

休業手当を支払うときには、その計算方法を正しく理解する必要があります。休業手当は、簡単にいうと「平均賃金の60%以上」とされています。

平均賃金は、月額の賃金(額面総額)に近い金額になりますが、まったく同じではありません。「3か月分の賃金の6割以上」という誤解のないようにしてください。平均賃金は、次のように計算します。

労働基準法12条(平均賃金)

この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。

  1. 発生事由(この場合には休業の日)の直近の賃金支払日から、3か月前までの賃金総額を合計する
    (入社後3か月に満たない人は、入社後の賃金総額を合計する)
  2. 3か月分の賃金総額を、その総日数で割る
    (例えば、3月~5月の3か月間の場合「31日+30日+31日=92日」で割り算をする)

社員との話し合いが必要

休業手当の支払いの要否はもちろんのこと、休業の要否や、回避をする策がないかどうかなど、労使間での十分な話し合いが必要となります。

法律上、休業手当の支払いが不要で休業・自宅待機を命じることができる場合であっても、社員側の理解が不十分である場合には、会社に対する不信感・敵意が生まれてしまいかねません。緊急時ほど、誠意ある対応が求められます。

特に「なぜ休業が必要なのか」「どのような経営努力をしたのか」といった情報は、会社側(企業側)にしかみえないことがほとんどです。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

新型コロナウイルスによる業績悪化で、社員に負担をしいらざるをえないとき、会社側、経営者側もとても心が痛いのではないでしょうか。この緊急時に、できる限り適切な対応をおこなうためにも、法律知識と、厚生労働省の考え方を正しく理解しておく必要があります。

賃金・休業手当などは、労働者の生活を支える命綱となります。支払い義務が生じる場合に支払いをおこたると、のちに労働問題に発展する可能性が高いです。

一方で、新型コロナウイルスのような未曽有の事態で、賃金・休業手当の支払いが必要かどうかは、ケースに応じた個別判断が必要となります。

新型コロナウイルスの影響を大きく受け、休業・自宅待機命令などが必要となる会社では、事前の準備についてぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士のアドバイスをお聞きください。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

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