M&Aが、最近増加しています。経営者層の高齢化が、大きな理由となっています。
うまく後継者を見つけ、事業承継を円滑に進められる会社は多くはありません。残念ながら、高齢化した経営者の跡継ぎが見つからず、業績好調にもかからわず廃業を余儀なくされる例もあります。また、すでに成熟した分野で、市場規模そのものの拡大が期待できないとき、M&Aによるシェア拡大が、売上を増やす有効な戦略として機能します。
「M&Aは大企業の戦略」という時代は過去のこと。現在は、数千万円〜数億円レベルの中小規模のM&A、アプリやウェブサイトの売買といった事業単位のM&Aも活発に行われています。経営戦略としてM&Aを考えるとき、大切なのが弁護士選びです。M&Aにおける弁護士の役割はとても重要で、失敗すれば大きな法的リスクを負います。
M&Aに強い弁護士を選ばなければ、企業買収は成功は危ういと言わざるをえません。この際、狙う企業買収の内容や、規模などに応じても、最適な弁護士の選び方が変わってきます。
今回は、M&Aに強い弁護士の選び方や、依頼の方法を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- リスクを減らすため、M&A前の早い段階から弁護士の果たす役割が重要となる
- M&Aに強い弁護士といえるには、企業法務の多分野についての豊富な経験が必要
- 検討しているM&Aを依頼するに足る弁護士かどうか、初回の相談で見極める
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M&Aにおける弁護士の役割
M&Aのリスクを減らすには、多くの専門家の関与が必須となります。そのなかで、弁護士の役割は、M&Aの法律面に関するサポートです。M&Aで弁護士が果たす役割は、主に次のものです。
M&Aには多くの法的なリスクがあります。これらの法的リスクを最小限にするのが、M&Aにおける弁護士の役割です。いかに小規模なM&Aでもリスクは存在し、顕在化すれば大きなトラブルに発展することもあるので、甘く見てはいけません。低額のM&Aも、早く終わらせたいからといってリスクを無視して進めると、かえって危険なこともあります。
M&Aの法律構成を決める
M&Aに用いることのできる法律構成は、複数あります。そのディールに最適な法律構成を選択しなければ、M&Aは成功できません。よく用いられる代表的な法律構成は、次のものです。
- 事業譲渡
- 株式譲渡
- 株式移転
- 合併(吸収合併、新設合併)
- 分割(吸収分割、新設分割)
上記のうち、事業譲渡は、事業のみを売買とするという特殊性があります。これに対して、それ以外の株式譲渡、株式移転、合併、分割は「株式」、つまり、会社そのものを取引の対象とする点が特色です。会社自体を取引の対象とするとき、その会社が背負うリスクやデメリットを、そのまま引き継ぐことになります。
企業買収では、ビジネス上の目標を果たしうる複数の方策のうち、最も適した法律構成を選択する必要があります。法律構成によってメリット・デメリットがあり、リスクや注意点も異なります。多様なM&Aの手法のなかから、企業の目標をヒアリングし、利益に叶う方法を選択するのが、M&Aの専門家である弁護士の役割の1つ目です。
M&Aのスケジュールを決める
M&Aを進めるには、相応の期間がかかります。進め方を決め、スケジュールを構築し、M&A全体の進行をハンドリングするのも、弁護士の重要な役割です。M&Aのスケジュールの組み方1つをとっても、経験が豊富にあり、M&Aに強い弁護士のアドバイスが必要になります。
規模が大きいディールほど、下準備や調査に時間をかけねばなりません。丁寧に進めなければ、M&Aの終了後に、予想していなかった簿外債務が発覚するなど、狙った目的の達成が困難となってしまう危険もあります。
M&Aは、弁護士だけでなく、財務デューデリジェンスを担う公認会計士、労務デューデリジェンスを担う社会保険労務士など、多くの専門家と連携して進める必要があります。M&Aにおける各分野の問題は、分断されているわけではなく、それぞれ密接に絡み合います。そのため、専門家同士の緊密な連携が不可欠です。
そして、財務も労務も、最終的には法律に関わる問題なので、M&A全体を、弁護士が中心になって進めるケースが多いです。したがって、専門家のネットワークを駆使し、連携をとれる弁護士こそ、M&Aに強い弁護士といえるでしょう。
M&Aの争点を整理する
一言でM&Aといっても、さまざまなケースがあります。友好的なM&Aもある一方、ハードな交渉を必要とするケースもあります。力関係が明確で、貴社の希望する条件で進められる企業買収なら、これほど楽なことはありません。しかし、多くのケースは、買主候補、売主候補の間で、激しい交渉が繰り広げられます。
M&Aにおける弁護士の主な役割は、まさにこの交渉のサポートです。
企業法務に精通した弁護士は、常に多くのタフな交渉を担っています。弁護士に依頼し、M&Aの争点を整理し、調査すべき点を明確にすることが、交渉をうまく進める大切なポイントです。このようなM&Aに関するリスクの調査過程を、法律用語でデューデリジェンスと呼びます。
M&Aにおけるデューデリジェンスについて、次の解説をご覧ください。
M&Aに必要な契約書を作成する
M&Aの調査が終わり、条件交渉がまとまると、契約書の締結が必要となります。大規模なM&Aをクローズさせるためには、スタートからゴールまでの間に複数の契約書を必要とすることも少なくありません。
これらの大切な契約書を作成するのも、M&Aにおける弁護士の役割の1つです。適切な契約書を作成することで、M&Aのリスクを回避しておかなければ、終了後にトラブルとなってしまいます。
M&Aに必要となる書類には、基本合意書、秘密保持契約書(NDA)などがあります。それぞれ解説していますので、参考にしてください。
M&Aを取り扱う弁護士、法律事務所とは
弁護士の業務には、さまざまな専門領域があります。M&Aをはじめとした企業法務を、あまり多くは扱っていない弁護士、法律事務所もあるので注意が必要です。M&A案件を継続的に経験していない弁護士は、最新知識のアップデートが不足しているおそれがあります。そのため、十分な実績ある、専門性の高い弁護士に依頼するのがお勧めです。
M&Aを取り扱う弁護士は、例えば次のような法律事務所に所属しています。いずれもメリット・デメリットがあり一長一短なので、そのM&A案件に合わせて、最適な弁護士に依頼する必要があります。
大規模な法律事務所
大規模な法律事務所は、その取扱分野にM&Aを含んでいます。そのため、M&Aを得意とする弁護士が、必ず所属しています。このような法律事務所では、M&Aが業務の大半を占める、専門特化した弁護士が対応することも多いでしょう。特に、大型のM&A案件など、マンパワーを要する業務を得意とします。
企業法務を扱う法律事務所のなかで、規模の大きい事務所を四大法律事務所(または五大法律事務所)と呼ぶことがあり、著名なM&A案件を多く取り扱っています。
外資系法律事務所
外資系法律事務所も、M&Aを取扱分野に含むことが多いです。
海外の法人を含む、いわゆるクロスボーダーM&Aの案件は、外資系法律事務所を利用すべきケースがあります。ただし、外資系特有の経験、ネットワークを必要とする案件は、大型案件と同じく弁護士費用が高額となる傾向にあります。
M&A専門の法律事務所
M&Aを専門的に扱う法律事務所もあります。ただ、M&A案件のみしか扱わない法律事務所は稀であり、多くは、企業法務を扱う一環としてM&Aの業務も担当しています。
M&Aにおいて弁護士は、企業で起こるさまざまなリスクを想定し、速やかに対処しなければなりません。企業法務における多分野の経験がなければ、起こりうるリスクを予想し、未然に防ぐことができません。
M&Aに強い弁護士の選び方
以上のとおり、M&Aを取扱分野とする事務所には種類があり、それぞれ性質が異なります。現在検討しているM&A案件を、どの弁護士に依頼するのが適切か迷うときは、M&Aに強い弁護士の特色を知るのが有益です。
次に、M&Aに強い弁護士の選び方について解説します。
M&Aの解決実績が豊富
まず、M&Aの解決実績が豊富な弁護士に依頼すべきです。M&Aは、複数の弁護士で担当することが多いため、その弁護士の所属する法律事務所の実績や、横のネットワークの豊富さなども選択の基準になります。
M&Aの法的構成や手法には、多くの工夫が凝らされ、改良が進んでいます。配慮すべきリスクも、そのM&Aの案件ごとに異なります。「買い手、売り手の数だけM&Aの種類がある」といっても過言ではありません。リスク少なく進めるには、会社ごとの固有の事情を検討することは必須です。
解決実績が豊富にあれば、類似の事例を参考にしてリスクを調査できます。そのため、M&Aの解決実績が豊富な弁護士に依頼すべきです。
M&Aの全体像を把握できる
規模の大きい法律事務所ほど、M&Aの全体像を把握している弁護士はごくわずかとなります。規模の大きい案件ほど担当する弁護士数は増え、自分の担当する一部の分野以外を把握していないおそれがあります。
一方で、中小規模のM&Aでは、全体像を把握し、弁護士が主導して進めなければなりません。少人数の弁護士で行う分、大局を見据えて進めなければ、リスクの見逃しにつながるおそれがあります。この点で、検討しているM&Aの規模によっても、依頼すべき弁護士の選び方が変わります。
M&Aの専門家ネットワークがある
M&Aは、弁護士だけで行うものではありません。法的リスクをデューデリジェンスによって回避するのは当然ですが、M&Aには、法律面以外にも多くのリスクが存在します。
- 税務のリスク
適切な納税が行われているか、不適切な租税回避がないかなど
→税理士 - 会計・財務のリスク
会計処理に不適切な点はないかなど
→公認会計士 - 人事労務のリスク
未払いの労働債権(残業代など)がないか、労働基準法違反がないかなど
→社会保険労務士 - 許認可のリスク
事業に必要となる許認可が適切に取得されているかなど
→行政書士 - ビジネスのリスク
ビジネスモデルが破綻していないか、炎上リスクがないかなど
→中小企業診断士、コンサルタントなど
これら多くの側面から、M&Aが適法かつ適切に進められるか、事前にチェックしなければなりません。
多数のM&Aを解決した実績ある弁護士の周りには、M&Aを専門的に扱う他士業など、多くのネットワークがあります。M&Aに強い弁護士に依頼すれば、必要に応じて紹介を受けることができます。
企業法務の豊富な知識経験を有する
M&Aで弁護士が担当するデューデリジェンスは、企業の健康診断のようなものです。一部のリスクに注視するのでなく、会社全体の状態を観察して、M&Aをする目的が達成できるか、判断しなければなりません。その意味で、M&Aは「企業法務の総合格闘技」とも呼ばれています。
多くの会社の顧問弁護士となるなど、企業法務を常日頃から扱っている弁護士でなければ、M&Aを成功に導くことはできません。そのため、M&A業務のほかにも、日頃から企業法務を多く経験し、実績ある弁護士こそ、M&Aに強い弁護士といえます。
担当する弁護士の人柄
法律知識や経験が十分なとき、最後に、人柄もまた、弁護士選びの基準とすべきです。能力は十分でも、丁寧に、かつ、誠実に対応しなければ、M&Aで思わぬリスクを負ってしまうかもしれません。M&Aでは、交渉事が多く、多くの人間関係を円滑に進めなければなりません。
初回の相談時から、法律用語を多用せず、わかりやすい説明をしてくれるか、社会人としてのビジネスマナーを有しているかといった点も、判断基準の1つとしましょう。
弁護士にM&Aを依頼すると、とても密な付き合いとなります。
依頼者となる会社の担当者と弁護士は、頻繁に打ち合わせをする必要があります。M&Aの最終局面ともなれば、泊まり込みで作業することもあります。人間的に合わない弁護士が担当だと、大きなストレスになり、M&Aの円滑な進行の支障となります。
M&Aを弁護士に依頼する費用の相場
M&Aを弁護士に依頼する際には、弁護士費用がかかります。
M&Aのような複雑な法分野を、弁護士に依頼せず進めることは考えがたいため、弁護士費用は、M&Aに必須の経費と考えてよいでしょう。買収価格を決めるに際しても、弁護士をはじめとした士業、専門家にかかる費用、成約の際の仲介手数料を、あらかじめ盛り込んで検討することが多いです。
相談料
M&Aについて、弁護士はスポットの法律相談に応じることができます。この際にかかるのが、相談料です。
相談料の相場は、1時間1万円ほどが目安です。M&Aをはじめ、企業法務に関する相談は、顧問弁護士の検討などの例外を除き、無料相談は少ないと考えてよいでしょう。実績の豊富な弁護士に、十分な時間をとって相談しなければ、良いアドバイスは望めません。
タイムチャージ(時間制報酬)
M&Aに関する業務を実際に遂行するにあたり、デューデリジェンスなどの業務は、タイムチャージ(時間制報酬)が発生するケースが多いです。業務にかかった時間を算出し、単価を乗じて、締日ごとに請求する方式です。
タイムチャージは、弁護士の年次や経験に応じて、1時間あたり3万円〜5万円が、相場となります。
なお、タイムチャージは、業務の全体像が見えない段階だと上限が予想できないデメリットがあります。このような不都合を回避し、予算を把握するため、タイムチャージに一定の上限(キャップ)を設ける例もあります。
着手金・報酬金
かかる弁護士費用を固定とする方法に、着手金・報酬金の方式があります。着手金とは、業務に着手する際にかかる弁護士費用、報酬金とは、業務を終了する際にかかる弁護士費用のことで、いずれも、得られる経済的利益に応じて、一定の割合で定めるケースが多いです。
現在、弁護士費用は自由化されていますが、かつて存在した(旧)日弁連報酬基準を目安にし、次のように定めるのが一般的です。
請求額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円未満 | 経済的利益×8% | 経済的利益×16% |
300万円以上3000万円未満 | 経済的利益×5%+9万円 | 経済的利益×10%+18万円 |
3000万円以上3億円未満 | 経済的利益×3%+69万円 | 経済的利益×6%+138万円 |
3億円以上 | 経済的利益×2%+369万円 | 経済的利益×4%+738万円 |
ただし、M&A業務の場合、必ずしもこの基準によるケースばかりではありません。というのも、紛争対応のように弁護士の業務によって経済的利益の獲得のみを目指すものではなく、むしろリスクを減らすことに主眼が置かれるからです。固定報酬とする場合、M&Aの規模感に応じて個別に見積りをしますが、100万円〜300万円程度の弁護士費用とするケースが多いです。
弁護士が仲介する際の報酬
経験豊富な弁護士は、M&Aの買い手と売り手をつなぐ、仲介業務を担うこともあります。このときの弁護士の業務は、士業としてのものではなく、仲介業者のそれと同じ役割です。
仲介業者を利用すると、数千万単位の報酬がかかることもありますが、弁護士が仲介する際はそれより安いことが多いです。具体的には、レーマン方式により、次の報酬が発生するものと定めるケースがあります。
譲渡価格 | 手数料 |
---|---|
5億円以下の部分 | 譲渡価格の5% |
5億円を超え10億円以下の部分 | 譲渡価格の4% |
10億円を超え50億円以下の部分 | 譲渡価格の3% |
50億円を超え100億円以下の部分 | 譲渡価格の2% |
100億円を超える部分 | 譲渡価格の1% |
M&Aに強い弁護士に依頼する方法
最後に、M&Aを弁護士に依頼する方法について解説します。
M&Aの規模が大きくなるほど、弁護士費用も高額になりがちです。弁護士選びに失敗しても、途中で弁護士を変更するコストが大きく、後戻りが難しいこともあります。そのため、一般的な企業法務にも増して、相談から依頼する流れでは、慎重な配慮を要します。
初回の相談を予約する
まず、初回相談の予約をします。予約の方法は、電話やメール、問い合わせフォームなどの方法があります。
M&Aは、守秘性の高い案件なので、電話やメールで、案件の詳細まで伝えるのは適切ではありません。まずは、M&Aについての法律相談を希望する旨を伝え、対応可能であるかを確認し、概要を伝えるに留めましょう。詳しい法律相談は、弁護士に対面で伝えるのが安全です。
利益相反をチェックする
弁護士は、利益相反のある案件の依頼を受けることができません。そのため、法律相談に来所する前に、利益相反がないかどうかをチェックする必要があります(なお、利益相反は、弁護士単位ではなく事務所単位で検討します)。
M&Aでは、買い手と売り手の依頼を同時には受けられないのが、利益相反の典型例です。M&Aを得意とし、解決実績の豊富な法律事務所ほど多くのM&Aを担当しており、利益相反の可能性が存在します。
法律相談
予約日になったら、法律事務所に来所し、弁護士との初回相談をします。初回相談の費用は、1時間1万円程度が相場です。
M&A案件では、弁護士に検討してもらいたい資料は膨大にあることもあります。データにしてパソコンやUSBで持参するなど、できるだけ多くの資料を参考にアドバイスをもらえる工夫をしましょう。弁護士によっては、事前に資料送付を受け付けてくれる場合もあります。
委任契約書を締結する
相談を経て、依頼を決定したら、委任契約書を締結します。そして、契約書に定められた着手金などの費用を支払ったら、弁護士によるサポートが開始されます。
委任契約書は詳しく説明してもらい、方針や弁護士費用に不安のあるまま契約を締結しないよう注意してください。
弁護士は、弁護士法によって厳しい守秘義務を負っています。そのため、委任の際に秘密保持契約書(NDA)をあえて交わさなくても、企業のM&Aに関する秘密が漏洩する心配はありません。
まとめ
今回は、M&Aに強い弁護士の選び方と、その依頼方法を解説しました。
弁護士は、M&Aにおいて、とても重要な役割を果たします。その分だけ、弁護士選びの重要性が、M&Aにおいて占める割合は高いものといってよいでしょう。弁護士選びに失敗すれば、M&Aの成功は到底望めません。果たす役割やこれまでの解決実績、かかる弁護士費用など、多くの観点から、最適な弁護士を選ぶよう心がけてください。
M&A案件を検討しているならば、できるかぎり早期の段階から、弁護士を関与させて進めなければなりません。検討中のM&A案件がある企業は、ぜひお気軽に相談ください。
- リスクを減らすため、M&A前の早い段階から弁護士の果たす役割が重要となる
- M&Aに強い弁護士といえるには、企業法務の多分野についての豊富な経験が必要
- 検討しているM&Aを依頼するに足る弁護士かどうか、初回の相談で見極める
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