経営状況が悪化しても、直ちに破産すべきケースばかりではありません。まだ事業が継続し、赤字ながら売上もあるならば、債権者との交渉によって計画的に持ち直せる可能性もあります。このとき活用できるのが、任意整理による方法です。
任意整理というと、個人の借金の整理に利用されるイメージの強い手続きですが、会社もまた任意整理を利用できます。借入の返済期限を伸ばしたり、返済計画を立てたり、利息カットなど一定の債務の減額ができれば支払えるという場合には、すぐに破産、倒産してあきらめてはいけません。
今回は、会社が任意整理をする方法について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 業績悪化により債務を直ちに返済できないとき、会社も、任意整理の方法を利用できる
- 会社を任意整理するには、債権者(特にメインバンクなどの主要債権者)の協力を要する
- 会社を任意整理しようとするとき、破産・再生との違いを理解し、手続きの選択を誤らない
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会社の任意整理とは
任意整理とは、返済が困難となった債務について、債権者と交渉して整理する方法のこと。個人の借金でも任意整理できますが、会社の経営が行き詰まった場合には、法人もまた、任意整理を利用できます。会社の任意整理のことを、破産・再生といった裁判所を用いた手続きと区別して「私的整理」と呼ぶことがあります。
会社を任意整理するのに適したケースは、次の条件を満たす例です。
- 債権者が少数
- 敵対的な債権者がいない
- 任意整理により計画的に支払う事業計画が立てられる
債権者との話し合いは、具体的には、借入額を調査し、現在までの返済を利息制限法の利率に従って引き直し計算し、将来利息をカットする交渉などで債務を減額した上、元本の残額について分割支払いを交渉する、という順で進むのが通例です。
任意整理は、破産や再生などの他の債務整理と異なり、裁判所の介在する手続きではないため、費用を抑えることができ、決まったルールや要件はなく個別の事情に即して柔軟に解決できます。また、任意整理なら、家族や周囲の人(会社の任意整理では、対象とする債権者以外の取引先や社員)にも知られず債務整理を進められます。
会社の任意整理では、債権者の同意が大きなハードルとなることがあります。裁判所で進める破産や再生と異なり、透明性、公平性に疑問が呈されるためです。この点は、柔軟な手続きが許される点がかえってデメリットを招くといえます。
この弊害を避けるため、一定の公正な方法について「私的整理に関するガイドライン」(全国銀行協会、日本経団連)が策定されました。私的整理ガイドラインは、メインバンクが手動で行う再建において参考とされる手続きですが、その他にも、債権者との対立が予想され任意整理が頓挫するおそれのある事例では、債権者との交渉に活用できます。
任意整理のメリット・デメリット
次に、任意整理のメリット、デメリットについて解説します。
任意整理のメリット
任意整理には、次の通り、多くのメリットがあります。
- 財産を手元に残して債務整理できる
任意整理は、破産と異なり、手元の財産は弁済に充当されない。そのため、会社の任意整理では、事業継続に要する財産を手元に残すことで、債務整理後の再起を早められる。 - 手続きにかかる費用を抑えられる
裁判所への申し立てを要せず、手続きにかかる費用(申立手数料、予納金など)は不要。弁護士費用も破産に比べて低額に抑えられる。 - 個別の事情に即して柔軟に解決できる
法律に定められた裁判手続き(破産・再生など)と異なり、決まったルールや要件がなく、債権者との話し合いにより柔軟に解決できる。 - 社会的信用を守れる
会社の任意整理では、社外、社内いずれも発覚せぬよう秘密裏に進め、風評被害を避けることができ、会社の社会的信用を守ることができる。 - 事業価値を毀損しない
重要顧客、事業継続に必須の取引先、仕入先を任意整理の対象から外すことで、事業価値を維持できる。 - 債務を減額できる
任意整理をせず、無理して債務を支払い続けると、返済までに長期間かかり、遅延損害金、利息などが嵩む。任意整理によりこれ以上の債務の増額を止め、返済する債務額を減らすことができる。
このようなメリットを活かせる事案では、任意整理の手法がお勧めです。
任意整理のデメリット
任意整理には、次のデメリットがあります。
- 債務整理に共通のデメリットがある
信用情報(いわゆるブラックリスト)に掲載され、新たな借入ができなくなるといった債務整理に共通のデメリットは、たとえ任意整理であっても生じる。 - 債務の大半の返済が必要となる
任意整理では債務の減額が可能な場合もあるものの、あくまで元本の大半は返済することを前提としており、債務が消滅するわけではない。一定の減額、分割交渉ができるに留まる。 - 債権者の協力が必要となる
あくまで話し合いのため、任意整理の和解案に同意せず、頑なに拒む債権者とは任意整理ができない。裁判所の手続きではないため、公平性・透明性が疑われ、賛同を得られないこともある。
以上のことから、債権者が全く話し合いに応じてくれなかったり、そもそも計画的に返済していくことが難しかったりといったケースは、破産(法人破産・自己破産)を選択せざるを得ません。
会社が破産するデメリットの解説も参考にしてください。
任意整理と、他の債務整理の方法との違い
任意整理の特徴をよく理解するため、他に用いられる債務整理との違いを解説します。
特に、会社の再建方法として任意整理を考えるとき、法人破産、民事再生との違いに注意してください。
債務整理の種類は、次の解説をご覧ください。
破産手続きとの違い
債務整理の方法の1つである破産手続きは、会社なら法人破産、個人ならば自己破産となります。いずれも、手元にある財産を債権者に配当し、支払いきれない債務は裁判所の手続きに従って免責されるという特徴があり、この点が任意整理とは異なります。任意整理は、債務の減額を交渉するものの、元本の大半の返済を前提とする場合が多いからです。
そのため、どれほど減額交渉しても到底支払いきれない債務が存在する場合や、将来の収入が不安定なケースなどでは、任意整理よりも破産手続きを選択すべきです。
会社の破産と、その際の代表者個人の自己破産について、次に解説しています。
再生手続きとの違い
債務整理の方法の1つである再生手続きは、会社なら民事再生、個人なら個人再生となります。いずれも、裁判所の手続きにより債務を減額し、再生計画に従って支払うことで再起を目指す制度。債務が消滅するわけではない点は任意整理と共通ですが、大きく異なるのは、裁判所のルールに従って債務の元本を大幅に減らすことができる点(約5分の1〜10分の1)。
その代わりに、再生手続きは裁判所に申し立ててするもので、厳格な要件を満たさなければなりません。
なお、任意整理は、反対する債権者が1社でもあると、その債権者との間では交渉が進みませんが、会社の民事再生では、債権者の過半数が反対しない限り、多数決によって手続きを進めることができます。
会社が破産した際の代表者の個人再生について、次に解説しています。
会社の任意整理の手続きの流れ
以下では、一般的な任意整理の流れについて順に解説します。
任意整理はあくまで債権者との交渉、つまり、話し合いで進める債務整理。このことは、会社の任意整理でも変わりません。
破産(法人破産・自己破産)、個人再生のように法律の定める制度ではなく、手続きのルールや認められる要件も、法律に厳格に決められてはいません。なので、任意整理を円滑に進めるには、個別の状況に応じた適切な手法を検討すべきです。
弁護士に相談する
任意整理を検討するにあたり、早期の段階で一度弁護士に相談すべきです。というのも、任意整理を進めて、債務を返済しきれるのか、それとも、破産などの他の債務整理の方法を利用すべきなのかは、微妙な判断となるからです。
- 債務の総額
- 債権者数
- 反対する可能性のある債権者がいるか
- 債権者の種類(金融機関か、個人かなど)
といった様々な事情により、どの債務整理の方法が有利かは変わります。
破産が適切なのに、無理に延命して任意整理しても、結局は破産せざるを得なくなったときに後悔します。
受任通知の送付し、取引履歴を開示させる
債務整理は、できる限り早く着手し、返済を止めるのが重要です。任意整理の依頼を受けるとすぐに、弁護士は債権者に受任通知を発します。弁護士の介入後、債権者は直接の請求をできず、取り立てを止めることができます。
受任通知では、合わせて、取引履歴の開示を請求します。銀行やクレジットカード会社、ローン会社などの開示する取引履歴には、いつ、いくら借りたのか、どれだけ返済したかが明記されているため、現在の正確な債務額を知ることができます。
引き直し計算をする
開示された取引履歴を精査し、利息制限法に基づいて再計算をします。これを「引き直し計算」といいます。
利息制限法に違反した高利の借入は、法律通りに計算することで債務を減額できます。違法な高金利の借入を返済し続けていた場合は、過払い金が発生し、逆に債権者に対して返還請求をすることができるケースもあります。
返済計画を立てる
適法に計算した債務の総額が明らかになったら、債務の全額をどのように払い切るか、返済計画を立てます。このとき、債権者1社ごとに考えるのではなく、全体を見据えて計画的に検討する必要があります。
債権額に応じて、割合的に弁済することが多いですが、会社の任意整理の場合、大口の債権者や事業継続に必須の取引先に優先的に返済したり、小口債権者の返済率を上げたりと、スケジュールに工夫を施す例もあります。
和解の交渉を行う
返済計画が完成したら、それを元に、債権者と交渉を行います。このような任意整理の交渉の中で、債権者から勝ち取るべき情報には、例えば次のものがあります。
- 返済期日を延期する
- 1回の返済額を減額する
- 将来分の利息を免除する
- 連帯保証人を外す
おおよそ3年(36回払い)から5年(60回払い)程度の分割で払いきれるような計画で交渉するのが通常です。これを超える計画も、債権者が同意すれば可能ですが、金融機関の多くは、長くとも5年以内には支払いきれる計画でなければ任意整理に合意しないケースがあります。
支払計画が決まったら、合意内容に基づいて和解契約書を作成します。和解契約書を締結すると、その計画に従って弁済し、残りの債務は免除されます。
なお、債権者が頑なに任意整理を拒むときには、交渉のみでは進められません。
このとき、特定調停やADRの方法を利用して、債務整理を進めることが可能です。また、過払い金の返還請求に応じないケースでは、債務者側から訴訟を提起する必要があります。
まとめ
今回は、会社の任意整理について解説しました。
会社の経営がうまくいかなくても、破産させてしまう前に、任意整理の可能性を探ってください。任意整理で会社を延命することができれば、債務を減額し、事業に必要な財産を残すことができます。債務全額を約束通りに返済するのが難しいときも、支払スケジュールの変更、利息の減免などで債務を解消できそうなら、ぜひ任意整理の方法を検討してください。
任意整理が可能な状況かどうか、破産などを検討すべきかについては、専門的な知見を要します。法人の破産に詳しい弁護士のアドバイスを受けるのが有益なので、お早めにご相談ください。
- 業績悪化により債務を直ちに返済できないとき、会社も、任意整理の方法を利用できる
- 会社を任意整理するには、債権者(特にメインバンクなどの主要債権者)の協力を要する
- 会社を任意整理しようとするとき、破産・再生との違いを理解し、手続きの選択を誤らない
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