するIT企業が増えてきました。
有名なもので「クックパッド」、「note」などの投稿型サイトの運営がこれに該当するでしょう。広い意味では「Facebook」、「Twitter」、「Instagram」などのSNSも、投稿型サービスの1つといってよいでしょう。
「ユーザー投稿型サービス」では、企業が一方的に情報やサービスを発信するわけではなく、利用者の投稿も、サービスを構成する1つの重要な要素となります。
そのため、「ユーザー投稿型サービス」の利用規約を作成するときは、事業者側は、特に「免責条項」、「投稿の知的財産権」に慎重な配慮が必要となります。
今回は、「ユーザー投稿型サービス」を運営するIT企業が、利用規約に記載すべきポイントを、IT法務を得意とする弁護士が解説します。
1. なぜ投稿型サービスに利用規約が必要なの?
IT企業の提供するインターネット上のサービスであっても、サービス提供をする運営会社とユーザーとの間には、法的には「契約」が成立しています。
とはいえ、インターネットの場合、いちいち契約書を持参し、印鑑を押さなければサービスを利用できないというのでは、インターネットのメリットを生かすことができません。
そこで、不都合を回避するために活用されているのが「利用規約」です。
1.1. 利用規約とは?
インターネットサービスにおける「利用規約」とは、そのサービス、ホームページにおけるルールを定めるもので、同意をすることによって、ユーザーと運営会社との間の契約の内容となる文章をいいます。
ユーザーは、利用規約に同意してサービスを利用することによって、利用規約に法的に拘束されます。
インターネットで提供されるオンラインサービスは、「1対多数」すなわち、運営会社1社に対して多くのユーザーが利用するというケースがほとんどです。
そのため、1人1人契約を締結していることは不都合が大きいため、利用規約によって統一的にルールを決めるというわけです。
1.2. 投稿型サービスの特徴
加えて、「ユーザー投稿型サービス」の場合には、ユーザーの投稿自体が、サービスを支える重要な構成要素の1つになるという大きな特徴があります。
そのため、ユーザーはそれぞれが自分の投稿に対して思い入れをもっており、権利関係に敏感となりやすい性質のサービスです。
運営会社が、利用規約によってあらかじめルールを定め、合理的なルールにしたがって適切な運営を進めない場合には、クレームが続出し、炎上してしまうリスクも、他のインターネットサービスに加えて高いといえるのではないでしょうか。
今回は、以上の特徴をもつ「ユーザー投稿型サービス」で、どのような利用規約を作成したらよいのかについて、弁護士が解説します。
2. 投稿の権利は誰にあるの?
「ユーザー投稿型サービス」では、ユーザーの投稿した記載が、そのサービスにおける大きな財産であるといっても過言ではありません。
そのため、この財産について、「誰がどのような権利を持っているのか?」が、重要なポイントとなります。
2.1. 著作権が誰にあるか利用規約で明記
「ユーザー投稿型サービス」をはじめ、ネットビジネス自体が新しいサービスですので、法律上、「このようなサービスの場合には著作権はユーザー」というルールが明確に決まっているわけではありません。
また、著作権のうち、次に解説する著作者人格権以外の権利については、譲渡をすることが可能です。
したがって、契約で定めておけば、投稿の著作権について、ユーザー、運営会社のいずれに最終的に帰属させることも可能です。
著作権の帰属については、利用規約に明確に定めておかなければ、トラブルの火種となります。
2.2. 著作者人格権の不行使
著作権のうち、著作者人格権は、「人格権」であるため著作者に専属し、譲渡をすることができないとされています。
そのため、運営会社が、著作権譲渡の方法によって投稿の著作権を得る場合には、著作者人格権を行使しないという内容の利用規約を定めておかなければ、著作者から著作者人格権を行使されてしまうこととなります。
著作者人格権には、次のものがあります。
- 公表権
- 氏名表示権
- 同一性保持権
2.3. 投稿を書籍化・映画化できるの?
著作権のうち、著作権法27条、28条で定められた権利(翻案権・二次的著作物に関する権利)は、特に記載しない限り、譲渡の対象とならないとされています。
したがって、投稿を一部変更して二次的著作物を作成する権利を誰に帰属させるかについては、特に利用規約でしっかり明記しておくよう注意しなければなりません。
また、著作権を譲渡する方法以外に、「利用許諾」の契約をする方法もあります。
いずれの方法によるとしても、書籍化などを検討する場合には、投稿したユーザーの1人1人とあとから契約を締結することは困難ですから、利用規約に記載することで対応しておくのがよいでしょう。
3. 禁止される行為を利用規約に記載しよう
「ユーザー投稿型サービス」を行う場合には、ユーザーの行為がトラブルの火種とならないよう、事前にルールを定めておきましょう。
このルールを定める際にも、既に解説した利用規約が活用できます。
ユーザー同士のトラブルに関するクレームも、運営会社に連絡がくるケースが少なくありません。
運営会社の「ユーザー同士で起こったことは知らない。」という態度は、法律的に認められたとしても、無用なトラブル拡大を生むこともあり得ますから、慎重に対応しましょう。
そのため、事前にルール作りをし、禁止される行為を運営会社が利用規約に明記しておくことで、運営会社の意思を明確に表示しておくことが望ましいといえます。
「ユーザー投稿型サービス」の利用規約で、禁止行為として記載することを検討すべき行為について、順に検討していきましょう。
3.1. 法令で禁止される投稿
法律に違反する投稿や、法的に保護された他人の権利を侵害する内容の投稿は、法令違反ですから許されません。
まずは、利用規約において、これら民事上・刑事上違法となるような投稿が禁止行為であることを明記し、
- 「うっかり書いてしまった。」
- 「違法だとは知らずに投稿した。」
- 「つい軽い気持ちで・・・。」
といった不用意な違法投稿を禁止するようにしましょう。
法令で禁止される投稿には、次のようなものが考えられます。
- 個人・法人の名誉権を侵害する投稿
- 個人・法人のプライバシー権を侵害する投稿
- 個人の個人情報を無断で開示する投稿
- 他人の著作権を侵害する行為
- 会社の営業妨害になるような投稿
- 脅迫的な投稿、殺害予告
- 無修正画像、児童ポルノ画像
- わいせつなアダルト投稿
なお、権利を侵害された法人・個人から、「削除請求」や「発信者情報開示請求」をされることもあり、その場合、プロバイダ責任制限法における「特定電気通信役務提供者」としての適切な対応を求められるケースも少なくありません。
3.2. その他の禁止行為
明らかに法律に違反する投稿に該当する場合でなかったとしても、「禁止しておいた方がよい行為」があります。
「禁止しておいた方がよい行為」についても、利用規約で「禁止行為」として列挙することを検討しましょう。
例えば、法律に違反しないけども禁止しておいた方がよい行為の例として、次のようなものがあります。
- 他の利用者の迷惑となる投稿行為
- 本サービスの運営に支障を生じさせる投稿行為
- 本サービスの趣旨にそぐわない投稿行為
- 同一または類似の投稿を複数回行う行為
- 政治的・思想的・宗教的な投稿行為
- 差別的な投稿行為
ただし、「他の利用者の迷惑になるかどうか?」、「サービスの運営に支障があるかどうか?」というのは、その「ユーザー投稿型サービス」の種類、性質、内容によって、ケースバイケースの判断となります。
サービスの内容によっては、禁止にすべきかどうかの判断に迷うこともあるでしょう。
より具体的に、問題行為を特定できる場合には、できる限り具体的に記載した方が、ユーザーへの抑止力として効果的です。
3.3. 禁止行為を行った場合の処分
利用規約に定めたこれらの禁止行為に該当する行為をユーザーが行った場合には、どのような処分とするかもまた、利用規約に明記しておきましょう。
処分の程度は、様々で、重い処分から軽い処分まで、次のような例が考えられます。
- 問題となった投稿の削除
- 将来の投稿の禁止
- 一定期間の利用停止
- アカウント削除
- 民事訴訟による損害賠償請求
- 警察への告訴・告発
一律にすべての処分を行えるような利用規約の記載としておくと、軽い禁止行為であっても、一番重い処分すらできてしまうと勘違いされかねません。
「ユーザー投稿型サービス」の場合、このようなユーザーの勘違いが、サービスの炎上をまねくおそれもあります。
そこで、これらの処分について、禁止行為の程度に応じて、グラデーションをつけて適用するような利用規約がよいかもしれません。
3.4. 禁止行為を発覚しやすいようにしておく
「ユーザー投稿型サービス」の場合、その規模が大きくなればなるほど、運営会社がすべてを監視しておくことは非常に困難となります。
そのため、禁止行為をしているユーザーを発見しやすくするための情報も、利用規約に記載しておくことを検討してください。
例えば、次のような情報を利用規約に記載しておくと、禁止行為を監視しやすくなります。
- 通報窓口(フォーム・メールなど)
- 削除窓口(フォーム・メールなど)
- 通報・削除要請があった場合の対応フローの説明
4. 免責条項のポイント
「ユーザー投稿型サービス」のユーザーが、いざという事態にクレーマーに変身しないようにするためにも、事業者が責任を負えない部分をあらかじめ明らかにしておきます。
「免責条項」は、万が一のことを考えて、甘い考えは捨てましょう。
運営会社として対応ができない部分については、「責任を負わない。」旨を、利用規約に明記するべきです。
「ユーザー投稿型サービス」の「免責条項」として検討すべき代表的なものを列挙しておきますので、順に検討してみてください。
4.1. ユーザー側の事情(利用環境など)
当社は、ユーザーのPC利用環境について一切の責任を負いません。
事業者としてサービスを提供しているとしても、ユーザー側の事情には責任を負えない場合が多いといえるでしょう。
その代表的なものに、「利用環境」があります。
例えば、「ユーザーのパソコンのスペックが低すぎてサービスの表示ができない。」という場合、事業者の負うべき責任は存在しません。
サーバーの負荷などが原因で一時的にサービス提供がストップした場合であっても、その責任を負わない旨を明記しておくべきでしょう。
4.2. ユーザー間の私的問題
当社は、利用者間での通信・活動について一切関知せず、紛争が生じた場合には利用者間で解決するものとします。
ユーザー間の私的なトラブルについても、事業者が責任を負うことは妥当でない場合が多いといえます。
特に、「ユーザー投稿型サービス」の場合には、ユーザー同士が投稿をしあった結果、サービス内で私的なトラブル・喧嘩となるおそれは、他のサービスに比べて高いといえるでしょう。
ただ、「ユーザー間の通信・活動には関知しません。」という免責条項を利用規約に設けただけで、運営会社がすべての責任を免れることができるとは考えられません。
ユーザーの投稿が他人の権利を侵害していた場合、既に解説したとおり、「削除請求」や「発信者情報開示」に対して、適切な対応をすることが必要であるためです。
4.3. サービスの将来的な事情
当社は、本サービスの停止、中断、変更、終了によって生じた損害について、一切の責任を負いません。
事業者としてサービスを提供しているとしても、そのサービスが将来どうなるかについては、確定的な予想をすることは不可能でしょうし、その責任もありません。
しかし、「ユーザー投稿型サービス」の場合には、ユーザーが行った投稿も、サービスを支える重要な要素の1つですから、「投稿は永続的に残る。」と期待しているユーザーも少なくないのではないでしょうか。
あらかじめこのような期待を否定しておかなければ、後にトラブルの火種となりかねません。
利用規約に記載しておいたとしても、サービス終了時は慎重な対応が必要となります。
4.4. 投稿情報の信頼性・正確性
当社は、本サービス内にあるすべての投稿及びリンクされているすべてのホームページの内容について、その信頼性、正確性、真実性を一切担保しません。
次の検討事項は、投稿をするユーザーではなく、閲覧をするユーザーに対する免責条項です。
「ユーザー投稿型サービス」を閲覧するユーザーの中には、あまり自分からは参加せず、他人の投稿を見ることを楽しみにしたり、また、サービスの内容によっては、その投稿を自分の役に立てるために利用したりするユーザーも出てきます。
このとき問題になるのが、「投稿情報の価値」の問題です。
投稿情報の信頼性、正確性、真実性などといった点について、運営会社がすべてチェックするのは不可能に近いでしょう。そのため、この点の責任を負えないことを、あらかじめ明記しておきましょう。
「投稿のとおりに行動したら大きな被害を受けた。」というクレームが多く発生することが予想されるからです。
5. ユーザーの疑問・不安に答える利用規約を目指す
「利用規約」とは、法律で必要な記載事項が決められているわけではありません。
「利用規約」は「法律上作成しなければならないから仕方なく作成する。」というよりは、「利用規約」を作るのは、サービスの円滑な運営、ユーザーの満足度向上、トラブルの回避といったことが主な目的となります。
そのため、できる限りユーザーの疑問、不安に答える利用規約を作成するよう心掛けるべきでしょう。
「ユーザー投稿型サービス」の利用規約では、次のようなユーザーの疑問・不安に配慮すると、より良い利用規約となるのではないでしょうか。
- 「投稿後、その投稿をユーザーがどの程度コントロールできるの(修正、保存、削除)?」
- 「投稿が、運営会社に無断で使用されることがあるの?」
- 「投稿を他のユーザーが無断使用することを、運営会社はどの程度禁止してくれるの?」
6. まとめ
今回は、数多く提供されるインターネット上のオンラインサービスの中でも、ユーザーが投稿することによってサービスを利用できる、「ユーザー投稿型サービス」について解説しました。
「ユーザー投稿型サービス」では、「利用規約」を作ることはサービスの円滑な運用にとって必須であるといってよいでしょう。
特に今回解説したポイントでは、ありきたりの利用規約を流用すれば済むわけではなく、サービスごとに適切な利用規約を検討する必要があります。