借金の返済が苦しく、生活が立ち行かないとき、検討すべきなのが「債務整理」です。
債務整理とは、当事者間の話し合い(任意整理)、もしくは、法律に基づいて(個人再生、自己破産、特定調停)、借金の負担を軽減し、生活再建を目指す方法です。利息制限法違反の高利の貸付があるときは、過払金返還請求も可能です。
債務整理の種類には、それぞれ特徴があり、向いているケースが異なります。メリットとデメリットがあるので、状況に応じて適切な方法を選択しなければなりません。不安だからといって債務整理を先延ばしにしていると、事態がますます深刻化する危険があります。
今回は、債務整理の種類について、各方法のメリット・デメリットを比較しながら、企業法務に強い弁護士がわかりやすく解説します。
- 債務整理の種類は、任意整理、個人再生、自己破産、特定調停の4つ
- 債務整理の種類には、いずれもメリットとデメリットがあり、一長一短である
- 債務整理を検討する際、最善の方法を選択しなければ予想外のリスクを被る
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債務整理とは
債務整理とは、借金の返済が困難になった場合に、交渉や法的手続きを通じて、借金を減額したり、支払い条件を変更したり、免責を求めたりなどして、生活再建を図る手続きの総称です。
任意の手続きと、裁判所を介した手続きがあり、主に4つの方法があります。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
- 特定調停
それぞれ進め方が異なるので使い分けが必要ですが、共通するのは、債務者を過剰な負担から救済し、立ち直らせるための制度という点です。
債務整理を選択すべきケース
債務整理は、単に「借金がある」というだけでなく、次の状況で検討されます。
- 返済額が生活費を圧迫している。
- 複数の金融機関から借金があり返済が困難な状況である。
- 自転車操業(返済のため新たな借入)。
- 滞納や延滞が続き、督促に追われている。
- 収入が乏しく返済の見通しが立たない。
このような状況に陥ると、経済的にはもちろん精神的にも追い詰められます。違法業者との取引があると、厳しい督促に見舞われる危険もあるし、そうでなくても給与や預貯金を仮差押えされたり訴訟を起こされたりなど、法的トラブルに発展します。
債務整理を検討するなら、早い段階の方が選択肢も多く、再スタートも容易です。
早期に弁護士に相談するメリット
債務整理には法律知識と交渉力が必要なので、弁護士に依頼するのがお勧めです。相談だけでも早期にしておけば、次のメリットがあります。
- 最適な手続きを選択できる
債務整理には種類があり、状況に応じた最適な手段を選ぶべきです。収入や財産、借入額などが基準ですが、着手が遅くなるほど選択肢が少なくなります(「破産するしかない」状況など)。 - 債権者との交渉を代理してもらえる
任意整理なら債権者との交渉、個人再生や自己破産では裁判所の手続きなど、煩雑な作業を弁護士に一任でき、精神的負担も軽減できます。 - 取立てや督促が止まる
弁護士が受任通知を送付した後は、取立てをはじめ直接の連絡が禁止されます。これにより、冷静に今後のことを考える時間を確保できます。 - 過払い金を回収できる
過去に消費者金融に返済していた場合、過払い金(払いすぎた利息)が生じるケースがあり、弁護士が再計算すれば返金請求できる可能性があります。
債務整理の種類と特徴
次に、債務整理の種類と特徴について解説します。
債務整理には複数の方法がありますが、主に用いられるのは以下の4種類です。選択する方法によって、借金の免除の有無、減額幅や対象者、手続きの流れなどが異なります。
任意整理
任意整理は、裁判所を介さず、債権者と直接交渉を行う方法です。
任意整理では、債権者と交渉することで、元本の減額、利息カット、支払い猶予などの返済条件の見直しを求めます。借金の元本がそのままでも、将来利息をカットしたり返済期間を延長したりして月々の負担を軽減し、無理なく返すことができます。
任意整理すべき対象者は次の通りで、「借金額は少ないが利息負担が重いケース」が典型例です。
- 一定の収入がある人(元本を3年〜5年で返済可能かどうかが目安となる)
- 利息の負担が大きく、返済計画を見直したい人
- 失いたくない財産がある人
他の債務整理と異なる特徴として、裁判所の関与がないため、費用を抑え、柔軟に進めることができます。一方で、債権者の協力が得られなければ頓挫してしまいます。
「法人の任意整理の方法」の解説

個人再生
個人再生は、裁判所を通じて債務を大幅に減額する法的手続きです。
民事再生法に基づく手続きで、再生計画が認可されれば債務を5分の1〜10分の1に減額し、原則3年(特別な事情のある場合は5年)で分割返済するのが通例です。つまり、借金額は最大で90%減額できます。
個人再生の特徴は、住宅ローンを抱えていてもマイホームを維持できる制度(住宅資金特別条項)が適用されることです。これにより、住宅ローンを全額支払うことで、自宅を維持しながら債務整理を進めることができます。保証会社の代位弁済後でも、6ヶ月以内に個人再生を申し立てれば住宅を維持できる可能性があります。
個人再生すべき対象者は次の通りで、「住宅ローンのある会社員」が典型例です。
- 住宅ローン付きの持ち家を手放したくない人
- 一定の安定した収入がある会社員・自営業者
- 借金の額が大きく、任意整理では返済が困難な人
ただし、自己破産とは違って債務が完全に免責されることはありません。そのため、「自己破産はどうしても嫌だ」という感情で個人再生を希望する人の中には、破産のデメリットを誤解している人も多く、破産を選択すべきケースもあります。
「個人再生」の解説

自己破産
自己破産は、裁判所を通じて借金の支払い義務を免除してもらう制度です。
自己破産では、債務者の財産が全て換価(処分)され、それを原資にして債務者に配当する代わりに、それでも支払いきれない債務は免責されます。したがって、破産手続きが終了すれば、全ての借金が帳消しになり、返済は不要となります。
ただし、負債がなくなる一方、自由財産を除く財産は全て失います。破産法に従い、裁判所と破産管財人の監督を受けて債務整理を進めるため、公平性・透明性が重視されます。
自己破産すべき対象者は次の通りで、「借金が高額で返済の見込みが全くない人」が典型例です。
- 収入や所得がない人
- 相当の長期に渡らない限り、借金の返済がおよそ不可能な人
- 財産よりも借金の方が明らかに多い人
- 他の債務整理の方法で再建が難しい人
自己破産は「最終手段」という印象が強く、実際にも、任意整理が可能であればそちらの方がダメージが少ないです。しかし、感情的に「自己破産はしたくない」と避けて無理な延命をすると、状況を悪化させ、更に窮地に追い込まれる危険もあります。
「会社の破産手続きの流れ」の解説

特定調停
特定調停は、簡易裁判所と通じて債権者と返済条件を見直す調停手続きです。
特定調停は任意整理に近く、簡易裁判所で実施されるものの「話し合い」を前提とした手続きです。債務者の申立てにより開始され、裁判所の働きかけによって主に将来利息のカットや返済期間の延長について話し合いを行います。
裁判所が間に入るため中立性は保たれますが、強制力はなく、債権者が非協力的だと債務整理は実現できません。また、書類作成や期日への出廷が必要となります。
なお、特定調停は、債務者自身で行うには準備の手間が多い一方、弁護士や司法書士に依頼するなら任意整理の方が柔軟で簡便なため、あまり利用されない傾向にあります。
債務整理の種類別のメリット・デメリット
次に、債務整理の種類別に、メリット・デメリットを解説します。
債務整理の種類ごとに方法や手続きは異なり、一長一短です。そのため、自身の状況に合った方法を選ぶために、各制度の特徴を正確に把握すべきです。
なお、全ての債務整理の方法に共通して、信用情報に記録される(いわゆる「ブラックリスト」)というデメリットがあります。
任意整理のメリット・デメリット
第一に、任意整理のメリット・デメリットを解説します。
任意整理のメリット
- 手間や時間が比較的少なくて済む
裁判所を通さずに手続きができるため、申立手数料や予納金といった費用がかからず、提出書類の作成や証拠の準備も不要です。 - 整理する債権者を選べる
法律のルールに従わなくても債権者との同意によって債務整理を行うので、柔軟な解決が可能です(例:一部の債権を優先して返済する、住宅ローンや親族からの借入を除外するなど)。 - 周囲に発覚しづらい
官報には掲載されず、職業や資格の制限もないため、自分から公表しない限り発覚しづらく、社会的な信用を守ることができます。
任意整理のデメリット
- 債務の減額幅が小さい
利息制限法に従った引き直し計算、将来利息のカットの交渉が中心で、元本の減額は難しいのが現状です。 - 安定収入がないと利用できない
和解した内容に従って継続的に返済する必要があるので、将来の収入の見通しが立たないままでは任意整理できません。 - 債権者の同意が必要
あくまで任意の話し合いなので、債権者の同意が必要です。法的な強制力はなく、強硬に反対する債権者がいるケースでは任意整理できません。
個人再生のメリット・デメリット
第二に、個人再生のメリット・デメリットを解説します。
個人再生のメリット
- 債務を大幅に減額できる
債務額に応じた最低弁済額が定められていますが、5分の1〜10分の1に債務を圧縮できます。 - 自宅(マイホーム)を手放さずに債務整理できる
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用すれば、マイホームを残したまま債務整理できます(住宅ローンは全額払う)。 - 職業資格の制限がない
自己破産と異なり、個人再生では職業資格の制限がありません。
個人再生のデメリット
- 債務額が5,000万円を超えると利用できない
個人再生は、法律上、債務額が5,000万円を超えると利用できません(この債務額に住宅ローンは含まない)。 - 安定収入がないと利用できない
債務が大幅に減額されるとはいえ、再生計画に従った継続的な弁済を要するため、安定した収入があることが条件となります。無職や収入が不安定な方の利用は難しいのが実情です。 - 手続きが煩雑で必要書類が多い
個人再生は複雑な手続きであり、任意整理はもちろん、自己破産に比べても条件が厳しく、必要書類も多いです。申立書類の作成や家計の見直しなど、専門的な準備が求められます。
自己破産のメリット・デメリット
第三に、自己破産のメリット・デメリットを解説します。
自己破産のメリット
- 債務が全て免除される
自己破産の最大のメリットが、借金の支払いが不要になることです。裁判所で免責決定を得られれば、破産開始決定までの全負債が消滅し、支払いは不要となります(税金、故意の不法行為債務などの非免責債権を除く)。 - 破産後に得た収入を活用できる
破産開始決定を速やかに得られれば、決定後の収入は借入の返済に充当されません。 - 生活の立て直しに必要な財産は残すことができる
生活に必要不可欠な財産など、破産法の定める自由財産は破産してもなくならず、生活の糧にすることができます。
自己破産のデメリット
- 財産が処分の対象となる
免責を受ける代わりに、価値ある財産は原則として処分の対象となります(不動産、預貯金、車など)。 - 職業や資格の制限がある
破産手続き中は、士業などの一部の職業に就くことができません(免責後に解除される)。取締役などの委任契約についても終了事由に該当します。 - 社会的なイメージが悪い
自己破産すると官報で公告され、信用情報に記録されます。「破産」「倒産」には悪いイメージがつきまとうため、心理的な抵抗を感じる人も多いでしょう。
ただ一方で、自己破産は、リスクやデメリットが過剰に強調される傾向があります。実際には、不安や恐怖心、誤解に基づくものも少なくありません。
例えば、次のようなデメリットは、自己破産をしても生じません。
- 「会社を解雇される」という誤解
- 「携帯を解約しなければならない」という誤解
- 「家族や会社に必ずバレる」という誤解
- 「戸籍、住民票に記録される」という誤解
- 「銀行口座が作れない」という誤解
- 「選挙権などの公民権がなくなる」という誤解
- 「海外旅行ができなくなる」という誤解
これらはいずれもよくある誤解であり、間違いであるか、少なくとも手続き前に注意すれば避けられるリスクです。
自己破産は、収入や資産に関係なく、返済の見込みが立たない場合に最後の救済手段として選ばれます。再出発のためにも、早めに検討すべきです。
「法人破産のデメリット」の解説

特定調停のメリット・デメリット
第四に、特定調停のメリット・デメリットを解説します。
特定調停のメリット
- 債権者との直接交渉が不要
簡易裁判所が間に入り、公平な立場で調停を行ってくれるので、債権者との直接交渉をする必要がなく、安心感があります。 - 費用が比較的安価で済む
裁判所で行われる手続きですが、個人再生や自己破産に比べて安価なのが特徴で、収入の少ない人でも利用しやすいです。
特定調停のデメリット
- 実質的に任意整理と変わらない
裁判所で行うものの、個人再生や自己破産のような強制力はなく、実質は任意整理と変わらない「話し合い」の手続きです。そのため、債権者が非協力的だと、債務整理を進められません。 - 裁判所への出廷を要する
任意整理なら債権者との連絡は書面の郵送で行いますが、特定調停だと裁判所に出頭しなければならず、手続きに時間がかかることが多いです。 - 書面作成や資料提出の手間
裁判所における手続きは債務者自身が行う必要があり、結果的に負担が増えてしまいます。
※ これらのデメリットを踏まえ、弁護士に依頼する場合には任意整理を選択することが多いため、特定調停の利用者は減少傾向にあります。
状況に応じた債務整理の種類の選び方
4種類の債務整理のメリット・デメリットを踏まえ、どの手段を選べばよいでしょうか。
債務整理の方法に「正解」はありません。重要なのは、生活状況や目的に合わせ、最も効果的な方法を選ぶことです。その際の判断の指標には、次のものがあります。
収入の有無と金額
最も重要な判断基準が、「安定した収入があるかどうか」です。
借金はあるが、収入が安定している場合、任意整理や個人再生など、「借金を分割して返済する」手続きを選ぶことができます。しかし、収入が不安定だったり無収入だったりすると、返済自体が困難と判断され、自己破産が現実的な選択肢となります。
また、収入の金額によっても判断が分かれます。金融機関からは、3年〜5年の分割返済のスケジュールを提案され、返済に充当できる原資は、余裕をもって「手取り月収から固定の生活費(家賃など)を除いた額の3分の1程度」とすることが多いです。したがって、この計算で返済の目処が立たない程度の収入しかない人は、任意整理は難しいと判断される可能性があります。
無理をして返済を続けても、結局自己破産になってしまっては元も子もありません。収入によって、将来の見通しを慎重に検討する必要があります。
借入額と件数
借入の総額が少なく、前述のように安定した収入がある人は、任意整理が可能な場合も多いでしょう。利息のカットと返済計画の見直しをすれば十分に債務整理が可能です。
一方で、借入総額が大きく、複数社から借入があると、任意整理では対応しきれない可能性があります。5年以上の分割スケジュールとしなければ返済しきれないほどの金額なら、個人再生や自己破産を検討した方がよいケースもあります。
借入件数が多いと手続きも煩雑になるので、弁護士のサポートを受けるべきです。
持ち家の有無
持ち家があって家族の生活への影響を避けたい場合、個人再生を検討しましょう。
住宅ローン付きのマイホームを手放したくない場合、住宅資金特別条項のある個人再生が有効です。ただし、個人再生にも、自己破産と同程度のデメリットがあるので、「イメージが悪い」「どうしても破産だけは避けたい」といった感情的な理由で個人再生を選ぶのはお勧めしません。
むしろ、個人再生を選んでも途中で支払いきれずに結局破産せざるを得なくなる人もいます。また、個人再生だとしても信用情報(いわゆる「ブラックリスト」)には登録され、クレジットカードが作れなくなる、新たな借入ができなくなるといったデメリットは共通します。
職業や資格
職業や資格によっても、選択すべき債務整理の種類が異なることがあります。
例えば、会社員(給与所得者)であり、毎月安定した収入がある人は、任意整理や個人再生を選びやすいです。これに対して、個人事業主やフリーランスで収入に波があったり、無職や失業中など、返済が不可能とみなされたりする場合は、自己破産が選ばれる傾向にあります。
また、資格制限のある職種に就いている方は、仕事を継続することでどれだけの収入が得られるかのバランスで、方法の選択が変わってきます。
消滅時効に注意すべき
最後に、債務整理を検討する際は、消滅時効にも注意してください。
消滅時効とは、一定期間が経過した債権が法的に消滅する制度です。借金の返済については、次のように債権の消滅時効が適用されます(民法166条)。
- 権利を行使することができることを知った時から5年
- 権利を行使することができる時から10年
この間、債権者から裁判や督促などの手段を取られていなかった場合、借金は時効によって返済義務がなくなっている可能性があります。
重要なのは、消滅時効は、期間経過によって自動的に借金が消えるわけではないということです。消滅時効によって借金の返済を免れるには、債務者(借金をしている側)が「時効の援用」の意思表示をする必要があります。具体的には、内容証明などの証拠に残る形で、「借金は時効によって消滅した」と債権者に通知します。
時効直前でも、一部返済をすると債務を承認したと評価され、「時効の更新」となって新たな時効期間が進行します(民法152条)。つまり、不用意な支払いは、時効をリセットしてしまう危険があるので注意が必要です。また、時効完成後だったとしても、支払いを承認した場合、信義則上、時効の援用が制限されるおそれがあります。
まとめ

今回は、債務整理の種類と、各方法のメリット・デメリットについて解説しました。
債務整理は、借金問題を法的に解決する有効な手段です。任意整理・個人再生・自己破産・特定調停といった方法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、状況に応じた選択が重要です。法人破産でも、会社債務を連帯保証していた経営者は、同時に債務整理を検討しなければなりません。
「借金を減らしたい」「返済の見通しが立たない」「家族に迷惑をかけたくない」といった悩みを一人で抱えるのは辛いでしょう。法律知識に基づいて適切な方法を選択するために、早い段階で弁護士に相談するのが、解決への近道となります。
- 債務整理の種類は、任意整理、個人再生、自己破産、特定調停の4つ
- 債務整理の種類には、いずれもメリットとデメリットがあり、一長一短である
- 債務整理を検討する際、最善の方法を選択しなければ予想外のリスクを被る
\お気軽に問い合わせください/

