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設計契約とは?設計契約書の内容と、設計の瑕疵担保責任のポイント

注文住宅の設計などを依頼される建築士事務所が、建築主との間で締結するのが設計契約です。設計契約書は、その内容を書面に示したものです。

建築主から設計業務を委託されるとき、適切な契約書を結ばなければ予想外に業務量が増える危険があります。「設計のみで施工に移らない限りは無料」と考える施主もいます。

信頼を勝ち取るために無償提供するケースはありますが、合意なしに進めてはなりません。ビジネスにおけるリスクを排除するため、契約条件は必ず書面化し、契約書を結んでおくべきです。最終的な設計契約が締結されず、報酬を受け取れないおそれもあります。自社の設計内容をそのままコピーし、他社に施工を依頼される悪質なケースもあります。

今回は、設計契約の意味と進め方、設計の瑕疵担保責任のポイントを、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 設計契約では、業務の範囲や報酬など、重要な契約条件を契約書に定める
  • 設計契約書の作成は、一定規模以上の建物の設計では法律で義務付けられる
  • 作成する流れは、契約交渉から重要事項説明まで、弁護士のサポートが有益

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目次(クリックで移動)

設計契約とは

設計契約とは、「建物の設計」という業務を委託する際に、建築主と建築士事務所との間で締結する契約のことを指します。

設計契約では、建築主が設計を依頼すると共に、その設計に基づいた監理を委託します。設計契約の締結により、両当事者間には法的な権利義務関係が生じます。具体的には、設計者となる建築士事務所は、設計図書を作成し、設計の監理を行う義務を負い、建築主は報酬を支払う義務を負います。

設計契約書とは、設計契約の条件や内容を書面にし、証拠化した書類です。より詳しく「設計業務委託契約書」と呼ぶこともあります。

建築士法22条の3の3で「延べ面積が300㎡を超える建築物に係る契約」では書面による契約締結が義務とされるため、一定以上の広さの設計を受託するには契約書を作成しなければなりません。また、義務化された延べ面積に達しなくても、トラブル回避のため設計契約書は不可欠です。

建築士法は、この際に契約書に記載すべき項目を、次のように定めています。

建築士法22条の3の3

1. 延べ面積が三百平方メートルを超える建築物の新築に係る設計受託契約又は工事監理受託契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

一 設計受託契約にあつては、作成する設計図書の種類

二 工事監理受託契約にあつては、工事と設計図書との照合の方法及び工事監理の実施の状況に関する報告の方法

三 当該設計又は工事監理に従事することとなる建築士の氏名及びその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別並びにその者が構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士である場合にあつては、その旨

四 報酬の額及び支払の時期

五 契約の解除に関する事項

六 前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項

……(略)……

建築士法(e-Gov法令検索)

設計契約は、業務委託契約の一種ですが、法的な性質は委任契約もしくは請負契約となります。いずれも民法に定められた典型契約の1つですが、次のように区別されます。

  • 委任契約
    法的な事務処理を依頼する契約(事実行為の依頼は「準委任」と呼ぶ)。受任者は善管注意義務を負い、適切に事務を処理しなければならない。
  • 請負契約
    仕事の完成を目的とした契約。仕事の完成をもって報酬を請求できる。

なお、設計を建築士事務所に依頼し、その後に施工を建設会社に依頼するケースのほか、設計と施工を合わせて1社のハウスメーカーや工務店に依頼するケースもあります。いずれの場合も、設計契約には、単に設計図を作成するのみならず、その設計通りに施工が進んでいるか、設計監理をする業務も含まれます。

設計契約書に記載すべき条項

次に、設計契約書に記載すべき主な条項について解説します。

設計契約書を適切な内容で作成しないと、ただでさえ円滑に進めるのが難しい設計業務の支障となってしまいます。特に、設計と施工を別会社が担当するケースでは、権利義務関係が複雑になるので、慎重にリーガルチェックしなければなりません。

業務の範囲

設計契約をして「設計」を受託するとき、合わせて、設計通りに建築物が施工されるか管理する「設計監理」もまた業務の範囲となります。設計契約書には、設計及び設計監理の業務について、その進め方の概要を記載しておくのが丁寧です。

設計業務の委託を受ける際は、必要となる図面の種類、予定する計画、予算のほか、修正の回数もしくは期限を定めるのが有益です。業務の範囲に限定を付けないと、業務量が予想外に増え、採算の合わない事態ともなりかねません。また、業務の範囲を明確にしておくことは、建築主からのクレームを防ぐのにも役立ちます。

報酬の額、支払の時期

設計の契約において要する報酬の額、支払の時期、支払方法を、設計契約書に定めます。設計契約書に定め、建築主に理解してもらわなければ、契約の終了時になって報酬が支払われず、トラブルとなるおそれがあるからです。

契約不適合責任

建物の建設では、事後に契約に不適合があったことが明らかになり、紛争に発展するケースがあります。このとき問題になるのが「契約不適合責任」(従来の「瑕疵担保責任」)です。

設計段階においても、契約内容と異なるときには責任追及されるおそれがあるので、設計契約書においても契約不適合責任のルールを定めておく必要があります。

なお、消費者契約法は、消費者保護のために、消費者に生じた損害を賠償する責任を免除する条項を無効とすることを定めています。そのため、設計契約において、契約不適合責任を免責する条項は、無効となるおそれがあります。したがって、設計契約で企業側の責任を限定する際は、「故意又は重大な過失がある場合を除く」といった条項とする例が多いです。

損害賠償条項」の解説

著作権

設計図や建築物に創作性が認められるなら、著作権が生じる可能性があります。このとき、設計契約書で、その著作権が建築主、建築事務所のいずれに帰属するのかを定めておきましょう。

契約の解除

設計契約においても、契約の解除に関する定めを置く必要があります。

設計契約書では、債務不履行を理由とする解除のほか、中途解約の条項を定め、無用に契約に拘束され続けるのを防ぐのがお勧めです。

契約終了時の処理

設計契約書においては、契約終了時の処理のルールについても定めておきます。

特に、中途解約となった場合に、設計図や提案資料などを返却してもらうのが重要です。設計契約の途中で依頼先を変更され、提案した内容を流用されないよう注意しなければなりません。

設計契約書を作成する方法と、その流れ

次に、設計契約書を作成する方法と、その流れについて解説します。

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ヒアリングと企画提案

はじめに、建築主のヒアリングを元に、企画提案を実施します。

設計図などの資料を精査し、間取りや予算といった要望を踏まえて、平面図・断面図などを示して提案をする段階です。

企画提案の段階で、どのタイミングから費用を要するかを明確に説明し、建築主に理解してもらうことが大切です。説明のない費用を請求したり、業務範囲が明らかでないのに多額の報酬を求めたりすれば、クレームの原因となります。

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建築主と契約条件を交渉する

次に、設計契約の内容となる契約条件について建築主と交渉します。

建築主側は、設計業務の重要性や専門性を理解していないこともあります。施工前の設計について、何度提案し、修正させても、採用するまでは無料だと誤解している人もいます。作業量を理解してもらい、無理して無償の提案をしすぎないよう心掛けましょう。

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本契約前の覚書を結ぶ

提案などの作業に一定の報酬を要する場合、設計契約の本契約を締結する前に、覚書を作成すべきです。本契約前の覚書は、簡潔な内容でも差し支えありません。覚書が簡易なほど建築主に受け入れてもらいやすく円滑です。

覚書で費用を明確にすれば、未払いを防ぐことができます。少なくとも、次の事項を定めておきましょう。

  • 業務の範囲
    設計の提案など、覚書で委託する業務の範囲を明示する。
  • 報酬の金額、支払方法
    上記業務について報酬が発生する場合、その金額と支払方法を明記する。
  • 本契約の報酬への充当
    設計の本契約を締結した場合に、覚書で払った報酬が充当されるかを明確にする必要がある。
  • 契約期間
    設計の提案に期限を設ける。契約期間後は、新たな設計契約がない限り業務を進めない。

なお、本契約の報酬が予測できる場合は、相場の目安や計算方法を記載して、建築主にあらかじめ伝えておくのが有益です。事後に一括して請求すると、建築主の予想よりも高額なときにクレームになりかねません。

STEP

重要事項説明書の内容を説明する

建築士法は、一定規模以上の建築物の設計について契約する際、都道府県知事に登録された建築士事務所が、建築士をして重要事項を説明することを義務付けています。

建築士法24条の7(重要事項の説明等)

建築士事務所の開設者は、設計受託契約又は工事監理受託契約を建築主と締結しようとするときは、あらかじめ、当該建築主に対し、管理建築士その他の当該建築士事務所に属する建築士(次項及び第三項において「管理建築士等」という。)をして、設計受託契約又は工事監理受託契約の内容及びその履行に関する次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない。

一 設計受託契約にあつては、作成する設計図書の種類

二 工事監理受託契約にあつては、工事と設計図書との照合の方法及び工事監理の実施の状況に関する報告の方法

三 当該設計又は工事監理に従事することとなる建築士の氏名及びその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別並びにその者が構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士である場合にあつては、その旨

四 報酬の額及び支払の時期

五 契約の解除に関する事項

六 前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項

……(略)……

建築士法(e-Gov法令検索)

この際に用いられるのが重要事項説明書であり、四会推奨標準書式(日本建築史事務所協会連合会)が公表されていますが、自社独自の書式でも可能です。重要事項の説明は、契約締結の前にする必要があります。

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契約書を締結し、設計業務の委託を受ける

企画提案の後、建築主の追加の要望を踏まえて修正したり、再提案したりします。

この際に、詳しい予算や工程、スケジュールも合わせて検討します。最終的な設計に着手する際は、提案内容の設計が可能かどうか、現地調査や、建築基準法などの法律面のチェックも欠かせません。

業務量のかかる作業は、設計契約書を締結してから着手するのが重要です。設計契約書の締結時に、かかる費用の説明をするため、報酬を予定する業務を契約書より先にしてはなりません。口約束でも設計契約は成立しますが、報酬額に争いが生じたとき、設計契約書がないと証拠がなくなってしまいます。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、設計を担当する建築士事務所などが、設計契約で注意すべき法的ポイントを解説しました。

設計提案をするときは、必ず契約書を締結して有償で行わなければ、かえってビジネスチャンスを逃してしまいます。設計業務を遂行しても、得られるはずの報酬が払われなければ「タダ働き」です。リスクを軽減するには、設計契約書の書式・ひな形を作成し、事前に弁護士のリーガルチェックを受けるようにしてください。

設計契約は、事後に瑕疵が明らかになった際の責任問題でも重要な証拠となります。設計契約書の作成にお困りなら、ぜひ弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • 設計契約では、業務の範囲や報酬など、重要な契約条件を契約書に定める
  • 設計契約書の作成は、一定規模以上の建物の設計では法律で義務付けられる
  • 作成する流れは、契約交渉から重要事項説明まで、弁護士のサポートが有益

\お気軽に問い合わせください/

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