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仕事で終電を逃した社員に、タクシー代、宿泊費を払う必要がある?

仕事が忙しい時期、どうしても終電で帰ることができない社員(従業員)が出てきます。特に、成果物の締切があったり、月末、年末などの繁忙期には注意が必要です。

社員の中には、会社の近くに住んで、いつでも徹夜で仕事をできる人もいるかもしれませんが、家庭の都合や個人の価値観から、会社から離れたところに住んでいて、「終電が早い。」という社員もいます。

社員が、会社の仕事が忙しかったことで終電を逃し、家に帰れなくなってしまったとき、会社は、タクシー代や宿泊費を支払う必要があるのでしょうか。

今回は、終電間際まで働かせることのある会社の経営者の方に向けて、終電を逃した社員の扱いを、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

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1. 労働者の終電に注意すべき理由

会社側として、労働者の終電に配慮をしなければならないことには、理由があります。

会社側(使用者側)は、労働者を健康で安全な労働環境で働かせなければなりません(安全配慮義務)。業務が多忙なときに終電を超えることは仕方ない場合もありますが、「連日連夜」となると、違法な長時間労働です。

特に、終電を越えた作業が毎日つづき、自宅にろくに帰宅できないとなると、社員としても身体を休める時間、睡眠時間がとれなくなります。

 重要 

労働者が、連日連夜、終電を越えて業務を続けた場合には、何らの対策も打たなかった会社側(使用者側)には、次のようなリスクがあります。

  • 会社側(使用者側)が把握している以上の労働時間に対する残業代を請求されるリスク
  • 過労死、過労自殺、メンタルヘルスなど、違法な長時間労働による労災事故が起こるリスク
  • 労働基準監督署(労基署)の立入検査を受け、刑事罰が科されるリスク
  • 「ブラック企業」との評判が立ち、企業イメージが低下するリスク

そこで、締切や繁忙期、納期などで多忙であって、終電を越えての作業をしなければならない場合であっても、会社は労働者に配慮し、終電前には帰宅させたり、タクシー代、宿泊費を払うべきではないか、という疑問が生まれるわけです。

2. 特に注意すべき業種、時期

ここまでお読みいただければ、労働者が終電間際まで働いている場合には、会社も十分に注意が必要であることは十分ご理解いただけたことでしょう。

そこで、自社の労働環境、労働時間についてご不安な会社経営者の方に向けて、特に終電を超える業務に注意が必要となる「時期」、「業種」について、弁護士がまとめておきます。

① IT企業のケース

IT企業の中でも、アプリやシステムを開発している会社には、「納期」があることが通常です。

そして、納期直前での仕様変更や、追加発注などが生じた場合、徹夜業務が連日連夜続く、ということも少なくありませんので、注意が必要です。

② メディア系企業のケース

メディア系の企業、例えば、雑誌の編集者、テレビ局のADなどもまた、「締切」に追われることの多い仕事です。

予想外の事態や、緊急対応などが相次ぐ場合には、終電を越えて作業を指示することも多くあると思いますので、注意が必要です。

3. 終電を逃した社員への具体的な対応は?

では、早速今回のテーマにもある、終電を逃した社員(従業員)に対して、会社側(使用者側)が行うべき具体的な対応について、労働法的に正しい対応を検討していきましょう。

なお、労働法的に正しい対応を越えて、頑張ってはたらいてくれた社員(従業員)に対して、より手厚く処遇することは全く問題ありません。

3.1. タクシー代は必要?

終電に間に合わなかった場合であっても、会社に泊まり込みが続けば、心身を休める時間をとることができず、衛生面の問題もあります。

そこで、終電を逃してしまった社員としては、タクシーで帰宅することが考えられますが、会社側(使用者側)としては、社員のタクシー代を負担する必要があるのでしょうか。

結論からいうと、労働法上、終電を越えて会社の仕事を行った場合であっても、必ずしもタクシー代を会社が負担する必要はありません。というのも、労働法には、タクシー代金をはじめ、交通費についてのルールは記載していないからです。

とはいえ、会社としても、労災事故などを防ぐ必要があり、先程あげたIT企業やテレビ局の例などのように、終電を越えた作業がよくある会社では、タクシー代について就業規則などでルールを作ることがお勧めです。

3.2. 宿泊費は必要?

会社から自宅までの距離がかなり遠い場合には、終電に間に合わなかった場合、会社近くのホテルに宿泊することも考えられます。

しかし、交通費と同様、この社員が負担した宿泊費についても、会社が負担する必要は必ずしもありません。労働法には、交通費と同様、終電を逃した場合の宿泊費についても、ルールがないからです。

泊まり込みの作業が頻繁に発生する会社では、ソファで寝泊まりしたり、仮眠室が用意されていたりといったケースもあるとは思いますが、過労死、過労自殺、メンタルヘルスなどには十分注意が必要です。

業務量をコントロールし、従業員間で配分の調整をするなどして、宿泊しての業務が連日連夜続くようなことがないよう、会社側(使用者側)で監督する必要があります。

4. 終電を超えるとき注意すべき3ポイント

最後に、終電を超える業務が多く発生している会社において、会社経営者の方が特に注意しておくべきポイントについて、3つに絞ってお話します。

特に、政府が主導的に推進している「働き方改革」で、「違法な長時間労働の是正」というキーワードがあげられているように、緊急対応などの例外的なケースを除いて、労働時間の短縮が急務となるでしょう。

4.1. 会社近くに住ませることはできない

会社から徒歩で帰れる距離に住んでいれば、終電を気にすることはないのではないか?と考える経営者の方もいるでしょうが、法律上、社員の居住場所を強制することはできません。

社員(従業員)には、憲法上、「居住・移転の自由」があり、「どこに住むか?」は、社員が自由に決めることができるからです。

同様に、会社の近くに住んでいない社員に対して、評価を低くしたり給与を下げたり、重要な仕事を与えなかったり、解雇をしたりといった不利益な格差を与えることも違法となります。

4.2. 手当を与えることはできる

前項で解説したとおり「会社から徒歩●分圏内に住むように。」というルールを、会社側が一方的に定めることはできません。

これに対して、「できるだけ会社の近くに住んでほしい。」という希望を実現するため、「会社から徒歩●分もしくは●駅以内に住む場合には、手当として●円を支給する。」というルールを定めることは、違法ではありません。

終電を超える残業が発生する場合に、過労死、メンタルヘルスなどの労災が起こらないよう、(法律上必須ではないものの)ある程度タクシー代の負担が生じることを考えると、近くに住む社員に手当を支給することも合理的な経営判断といえるでしょう。

4.3. 業務の根本的改善が必要

ここまで解説してきた、「終電を越えた社員に対して、追加の支給をするべきか。」という問題は、あくまでも、たまたま終電を逃してしまった社員に対する、「応急処置」でしかありません。

常に終電を越えて仕事をしなければ終わらないほどの業務量がある場合には、会社(使用者)による根本的な業務改善、生産性の向上が必須の課題となります。

思わぬ高額の残業代請求や、社員の過労死による労災、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求など、問題が重大となる前に、弁護士までご相談ください。

5. まとめ

今回は、終電を逃した社員(従業員)に対して、会社側(使用者側)がどのような配慮をすべきかについて、弁護士が解説しました。

結論として、たとえ終電に間に合わなかったとしても、会社がタクシー代や宿泊費など追加の支払をする必要はないものの、あまりに終電以降の業務が頻繁に発生する場合には、根本的な対策が必要となります。

会社の労務管理や残業代について、ご不安のある会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早目にご相談ください。

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