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仮想通貨ビジネスのM&A(事業買収)の注意点4つ【弁護士解説】

仮想通貨(暗号資産)・ブロックチェーンに関連するビジネスを営む会社が増加する一方で、仮想通貨関連企業のM&A(事業買収、事業譲渡など)も増加しています。

仮想通貨関連企業のM&Aであっても、通常の株式会社同士のM&Aと同様に、デューデリジェンス(DD)によって適法性、適正性を確認し、事業買収に至りますが、仮想通貨関連事業に特有の注意点が存在します。

仮想通貨・ブロックチェーンに関するビジネスは、新しい領域であるからこそ、事業買収に伴うリスクの評価、低減と、これに合わせた適正価格の評価が重要となります。

そこで今回は、仮想通貨(暗号資産)に関連するビジネスをM&A(事業買収、事業譲渡等)する会社が知っておくべき注意点について、弁護士が解説します。

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仮想通貨ビジネスと、M&Aのデューデリジェンス(DD)

仮想通貨(暗号資産)は、広くはブロックチェーンという技術を利用しています。ブロックチェーン技術は汎用性が高く、今後、様々なビジネス領域に転用され、イノベーションを起こすことが期待されています。

そのため、「仮想通貨ビジネスを営む会社を買収し、ブロックチェーン領域に進出したい。」というM&A(事業買収)の希望が増加しています。

既に仮想通貨(暗号資産)を取り扱っている会社が、金融庁の「仮想通貨交換業(暗号資産交換業)」の登録を有する会社を買収するケースや、仮想通貨(暗号資産)に関する知識、ノウハウの蓄積に欠ける会社が、既に仮想通貨(暗号資産)を取り扱う会社を買収するケース等があります。

一般的に、M&A(事業買収)の際に、買収対象となる企業にリスクがないかをチェック(調査)し、適正価格を算定する手法を、デューデリジェンス(DD)といいます。

M&A(事業買収)の際にデューデリジェンス(DD)が重要となることは、仮想通貨ビジネスのM&Aでも変わりありません。

仮想通貨ビジネスは、金融庁という監督官庁による許認可ビジネスであることから、M&A(事業買収)の目的通りライセンス(資格)を引き継ぐことができるかどうかが、重要な焦点となります。

合わせて、新しいビジネス領域であることから、顕在化していないリスクによって事業価値が大きく下落することがないかどうか、資金決済法、金融商品取引法の改正、金融庁ガイドラインの動向なども踏まえて、徹底的な調査が必要となります。

仮想通貨ビジネスのM&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の進め方

一般的に、M&A(事業買収)の際に行われるデューデリジェンス(DD)には、次の種類があります。このうち、弁護士が担当するのが「法務デューデリジェンス」です。

デューデリジェンスの分野 担当する専門家
ビジネスデューデリジェンス コンサルティング会社
法務デューデリジェンス 弁護士
会計デューデリジェンス 公認会計士
税務デューデリジェンス 税理士

法務デューデリジェンスで調査すべき企業リスクには、資産・負債、紛争(訴訟)、株式、契約、人事労務、許認可、知的財産など多岐にわたります。

この中でも、仮想通貨ビジネスを扱う会社のM&A(事業買収)で特に注意すべきポイントが「許認可」、すなわち、金融庁の「仮想通貨交換業(暗号資産交換業)」の登録です。無登録のまま「交換業」に該当するサービスを提供していた仮想通貨関連企業は、今後、行政処分による制裁を受けるおそれがあります。

そこで次に、仮想通貨ビジネスを扱う会社のM&Aにおいて、デューデリジェンスをどのような流れで進めるのかについて、弁護士が解説します。

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ココに注意

M&A(事業買収)を行うにあたって、その買収価格に見合った相当なデューデリジェンス(DD)実施せず、買収後にリスクが顕在化した場合、経営者(代表者)の善管注意義務違反を株主等から責任追及されるおそれがあります。

買収価格がそれほど高額にならない場合であっても、大きなリスクが予想される分野について限定的なデューデリジェンスを実施し、価格交渉に反映する必要があります。

資料開示を受ける

M&A(事業買収)を行う際には、対象企業の内部情報を買い手側企業が把握することは容易ではありません。そして、公開された情報だけからは、売り手側企業に内在するリスクを把握することは困難です。

そのため、弁護士がデューデリジェンス(DD)を行うにあたっては、まず初めに、対象企業の内部情報の開示を受けます。

インタビューを行う

対象企業から開示を受けた書類を弁護士が精査し、内在する問題点、リスクを把握し、報告書を作成します。しかし、書面だけでは不明な問題点もあります。

専門家調査によるリスクの洗い出しを行った後、対象企業の経営者(社長)や役員、幹部従業員等へのインタビューを実施することで、問題点を更に明らかにします。

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買収価格の交渉に反映する

デューデリジェンス(DD)を行った結果、契約時に把握していなかったリスクが明らかとなった場合、クロージング期限までの解消を目指します。

しかし、問題点が解消できなかった場合であっても、買い手企業がリスクを受容してM&A(事業買収)自体は進め、これを価格に反映して交渉することが考えられます。

例えば、当初契約時には知り得なかったシステムの脆弱性が明らかとなり、システム改修に多額の費用を要するおそれがあるとき、その費用やリスクの分だけ買取価格を減額するよう交渉します。

発見されたリスクがあまりにも大きく、買い手企業で将来的にリスクを負いきれないおそれがあるとき、この段階でM&A(事業買収)を取りやめる場合もあります。

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仮想通貨ビジネスのM&Aにおけるデューデリジェンスのチェックポイント

ここまでお読みいただければ、仮想通貨ビジネスのM&A(事業買収)における注意点と、それを明らかにするためのデューデリジェンス(DD)の重要性を理解いただけたのではないでしょうか。

最後に、一般的な株式会社の事業買収に比べて、仮想通貨(暗号資産)を取り扱うがゆえに生じるM&Aにおけるリスクについて、弁護士が解説します。

これらの仮想通貨(暗号資産)ビジネス特有のリスクについても、デューデリジェンス(DD)で把握した上で、M&Aを進めるかどうかの最終判断を行う必要があります。

デューデリジェンスを行う際には、資金決済法、金融商品取引法(金商法)という法律の他、金融庁のガイドライン、更には、過去に同種の仮想通貨(暗号資産)関連ビジネスを扱う会社に対して出された業務改善命令で指摘された内容等を参考にします。

対象となる仮想通貨ビジネスに価値があるか

仮想通貨ビジネスのM&A(事業買収)を行うにあたって、対象となる仮想通貨ビジネスに、買い手企業が期待する価値があるかどうかはとても重要な問題です。

金融庁の発表したガイドラインによって、トークンも「仮想通貨(暗号資産)」に該当することが明らかにされました。

仮想通貨(暗号資産)は、顧客保護の観点、犯罪防止の観点等から適正に管理、運営されなければならず、経営体制の整備、システム面の整備等が不足する場合に、その仮想通貨(暗号資産)に十分な価値が認められないおそれがあります。

なお、近年では、M&A(事業買収)の対価として現金ではなく仮想通貨を現物出資する手法が用いられることもありますが、他の株主保護の観点から、現物出資した仮想通貨が過大評価されないよう、現物出資額が500万円を超える場合には、検査役の選任もしくは弁護士・税理士等による評価証明が必要となる場合があることに注意が必要です。

金融庁の行政処分を受けていないか

仮想通貨(暗号資産)・ブロックチェーン等の関連事業は、「Fintech」の1分野とされ、非常に新しいビジネス領域です。そのため、監督官庁である金融庁も、どのような行政処分を下すか、手探りな状態にあります。

しかし一方で、詐欺的なICOを行う企業等も登場し、利用者が害される事態に直面し、問題ある会社に対しては厳しい行政処分が下される可能性もあります。

実際に、仮想通貨の流出騒動を起こしたコインチェックに対しては、経営体制の見直し、顧客保護体制の整備等を内容とする業務改善命令が下され、かつ、月1回の業務改善計画の提出が指示されています。

M&A(事業買収)による買収対象となった企業が、過去に行政処分を受けていた場合、定期的な報告等は、M&A(事業買収)の実施後も行わなければなりません。また、コインチェックのように行政処分を受けたことが大きなニュースとなっている場合、保持している技術力やブランドに比して、風評被害の影響を大きく受けるおそれもあります。

仮想通貨関連の法規制を遵守しているか

仮想通貨(暗号資産)領域に対する法的規制は、日本においてまだ始まったばかりで未熟なものです。そのため、今後も、状況に応じて規制強化、規制緩和が起こる可能性があり、注視が必要です。

仮想通貨関連のビジネスを行うにあたって、資金決済法、金融商品取引法の法規制に該当するかどうか、という観点の検討は必須となります。

そして、資金決済法、金融商品取引法等の適用を受ける場合には、これに見合った行為規制や「仮想通貨交換業(暗号資産交換業)」の登録を取得しているかどうかも、デューデリジェンス(DD)における重要なチェックポイントです。

資金決済法、金融商品取引法といった法律だけでなく、金融庁が発出するガイドラインもチェックし、仮想通貨の適正性、反社会的勢力の関連排除(テロ対策・マネーロンダリング対策)、顧客保護、システムの整備、資産の分別管理等、多くの行為規制を遵守しなければなりません。

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許認可(ライセンス)を引き継げるか

仮想通貨(暗号資産)を取り扱うビジネスモデルでは、「仮想通貨交換業者」、「前払式支払手段発行者」、「資金移動業者」等、行政の許認可(ライセンス)が必要となる場合が少なくありません。

これらの許認可(ライセンス)を取得する手間、費用を省くことが、仮想通貨ビジネスのM&A(事業買収)の主要な目的の1つとなることもあるくらいです。

しかし、行政上の許認可(ライセンス)を承継できるかどうかは、M&A(事業買収)において用いられる手法によって異なります。

  • 株式譲渡
    M&A(事業買収)で最もよく用いられる手法が、株式譲渡です。法人格はそのままに、その法人の持ち主(株主)を変更するという方法です。

    株式譲渡の手法によるM&A(事業買収)では、法人格が同一であるため、原則として行政の許認可(ライセンス)はM&A(事業買収)後もそのまま引き継ぐことができます。

    ただし、株主構成、役員構成が一変し、別法人にも等しいような状況の場合に、必ずしも行政の許認可が引き継がれるのか明らかではないため、念のため事前に金融庁への確認を行うべきです。

    なお、許認可が承継される場合であっても、株式譲渡後に商号変更、役員変更、主要株主の変更等がある場合、金融庁への届出が必要です。


  • 事業譲渡
    事業譲渡とは、会社内にある事業を切り出し、その事業に関する債権債務関係を一括して買い手企業に譲渡する手法です。

    事業譲渡で譲渡対象となるのは、あくまでも対象となった事業に付随する債権債務関係のみであることから、行政上の許認可(ライセンス)は承継されません。

    なお、「前払式決済手段発行者」の許認可については、資金決済法上の一定の要件を満たす場合に限り、事業譲渡の際であっても買い手企業に引き継ぐことが可能です。「仮想通貨交換業者」、「資金移動業者」の資格(ライセンス)は、再取得が必要です。


  • 合併・分割
    会社分割、合併の場合も同様に、買い手企業となる会社と、組織再編後にビジネスを継続する会社(吸収合併の場合の「合併存続会社」、新設合併の場合の「新設会社」、吸収分割の場合の「承継会社」、新設分割の場合の「新設会社」)の法人格が異なるため、先ほど解説した「前払式決済手段発行者」の承継を除き、許認可は引き継がれず再取得が必要です。

  • 新会社設立(JV等)
    新会社を設立する場合には、当然ながら、既存の会社から「仮想通貨交換業者」、「前払式支払手段発行者」、「資金移動業者」等の行政の許認可(ライセンス)を受け継ぐことはできません。

    新会社設立がM&A(事業買収)で行われる場合とは、例えば、複数の会社が共同出資によって仮想通貨ビジネスを行うためのJV(ジョイントベンチャー)を立ち上げる場合等がこれに該当します。

「M&A法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、仮想通貨(暗号資産)等のビジネスを行う会社間のM&A(事業買収)についての注意点を、弁護士が解説しました。

仮想通貨・ブロックチェーン等の領域は、新たなビジネス分野であることから、M&A(事業買収)の際に一般的に必要となるデューデリジェンス(DD)に加えて、特別なチェックが必要となります。

一方で、これまで自社にとって欠けていた得意分野を短期間で補うことができるという大きなメリットがM&Aにはあり、仮想通貨領域への参入を検討する企業にとって重要な手立てとなります。

仮想通貨(暗号資産)ビジネスを初め、M&A(事業買収)による事業拡大を狙う会社は、是非一度、企業法務を得意とする弁護士にご相談ください。

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