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職場における喫煙を、適法に禁止する方法【弁護士解説】

「分煙化」や「禁煙」の区域が増え、タバコへの制限は、年々厳しくなっています。2020年4月1日より施行される改正健康増進法では、屋内での喫煙は原則禁止となりました。

会社は、労働者の健康に配慮する義務(安全配慮義務・職場環境配慮義務)を負いますから、社員の健康を考えるのであれば、社内の受動喫煙対策をおこなうなど、社員のタバコ問題に敏感に対応する必要があります。

しかし、いっそ思い切って「社員に、喫煙を禁止する」というのは違法の可能性があります。

今回は、「会社が、社員に喫煙を禁止すること」が違法となる理由と、会社が、適法に喫煙を禁止する方法について、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

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喫煙をする権利と、その制限

一般的に、国民はみな「人権」をもっており、理由なく行動の自由を誓約されるいわれはありません。

この意味で「喫煙をする権利」が、最高裁判所の判例で認められています。最高裁判所の判例では、次のとおり、「憲法13条」を根拠として、(身柄拘束を受けている人についての判断ですが)「喫煙をする権利」があると判断しています。

憲法13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

最高裁昭和45年9月16日判決

監獄の現在の施設および管理態勢のもとにおいては、喫煙に伴う火気の使用に起因する火災発生のおそれが少なくなく、また、喫煙の自由を認めることにより通謀のおそれがあり、監獄内の秩序の維持にも支障をきたすものであるというのである。右事実によれば、喫煙を許すことにより、罪証隠滅のおそれがあり、また、火災発生の場合には被拘禁者の逃走が予想され、かくては、直接拘禁の本質的目的を達することができないことは明らかである。のみならず、被拘禁者の集団内における火災が人道上重大な結果を発生せしめることはいうまでもない。

他面、煙草は生活必需品とまでは断じがたく、ある程度普及率の高い嗜好品にすぎず、喫煙の禁止は、煙草の愛好者に対しては相当の精神的苦痛を感ぜしめるとしても、それが人体に直接障害を与えるものではないのであり、かかる観点よりすれば、 喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない。したがって、このような拘禁の目的と制限される基本的人権の内容、制限の必要性などの関係を総合考察すると、前記の喫煙禁止という程度の自由の制限は、必要かつ合理的なものである と解するのが相当であり、監獄法施行規則九六条中未決勾留により拘禁された者に 対し喫煙を禁止する規定が憲法13条に違反するものといえないことは明らかである。

ただし、この最高裁判例でもわかるとおり、「喫煙をする権利」はいつでも、どこでも認められるものではなく、「他人の迷惑」など他者の権利との調整によって、一定程度制限されます。

なお、「喫煙をする権利」もまた、他人の権利との調整が必要な場合には、制限されます。喫煙に関する法律、条例のほか、喫煙マナーを守るべきことは当然です。

「喫煙をする権利」を制限する法律・条令には、次のものがあります。

法律 禁止される喫煙 禁止の目的
健康増進法 一定の喫煙禁止場所での喫煙を禁止 受動喫煙対策
未成年者喫煙禁止法 満20歳未満の者の喫煙を禁止 未成年者の健康保持
鉄道営業法 プラットホームや電車内での喫煙を禁止 受動喫煙対策・電車内の安全
ポイ捨て防止条例 路上喫煙、吸い殻のポイ捨てを禁止 迷惑防止・環境美化

これらの法律・条例からもわかるとおり、「喫煙をする権利」といっても万能ではなく、さまざまな目的によって一定の制限を受けることがあります。

この点で、社員を雇用する会社としては、職場における喫煙を一定程度禁止する合理性がある場合があります。

職場での喫煙を、適法に禁止する方法

国民に「喫煙をする権利」が憲法13条でみとめられているとしても、他人の権利との調整などの目的で、一定程度制限を受けることがあります。

そして、特に職場での喫煙は、次の理由で、他人に迷惑をかける程度が大きいです。

  • 1日のうちの大半を職場で過ごす
  • 会社に雇用されている社員は、働く場所を選べない
  • 職場の上下関係があると、喫煙に関する迷惑について厳しく注意できない

そのため、職場でタバコを吸うことを、会社は一定程度制限をすることができる場合があります。

特に、2020年4月1日より施行された改正健康増進法により、屋内は原則禁煙となり、タバコを吸うのであれば屋外もしくは喫煙室などでおこなう必要があります。

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業務時間中の喫煙禁止

2020年4月1日より、改正健康増進法が施行されます。この法律では「受動喫煙対策」を理由に、事務所・工場・ホテル・飲食店などの屋内での喫煙を原則として禁止しています。この法律を遵守し、安全配慮義務・職場環境配慮義務を守るために、業務時間中に「自席でタバコを吸うこと」を禁止できます。

これに対して、屋外や喫煙室など、法律上もタバコを吸ってよい場所での喫煙であれば、「喫煙をする権利」があることから、会社は社員の喫煙を完全には禁止できません。

しかし、タバコ休憩の多すぎる社員に対する「不公平感」をとりはらい、企業秩序を遵守するためには、一定の時間を超える喫煙休憩については賃金を控除するなど、喫煙者と禁煙者とで労働条件に一定の格差を設けることが考えられます。

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休憩時間中の喫煙禁止

労働基準法(労基法)では、会社は社員に対して、一定時間働かせる都度休憩をとらせなければならないとされています。この休憩は「労働時間の途中で」とらせなければなりません。

労働基準法で定められた休憩のルールは次のとおりです。これは労働者の心身を休めるための最低限のルールです。

労働時間 休憩時間
労働時間が6時間を超え、8時間まで 休憩時間45分
労働時間が8時間以上 休憩時間1時間

休憩時間は「自由に利用できるようにしなけばならない」とされています。これを「休憩時間自由利用の原則」といいます。

「休憩時間」にもかかわらず業務を指示されれば、その時間は「休憩時間」でなく「労働時間」です。業務を指示されなくとも、利用のしかたを強制されている場合には心身を休めることができず、「休憩時間」ではないものといえます。

そのため、「休憩時間にはタバコを吸わないこと」「休憩時間中は禁煙」というルールを強制した場合には、「休憩時間自由利用の原則」に反し、労働基準法(労基法)違反として違法のおそれがあります。

一方で、会社は、社員(従業員)の行動を規制することで企業秩序を守ることが必要です。そのため、他の社員に悪影響を及ぼす喫煙であれば、たとえ(自由利用が保証される)「休憩時間」でも禁止をすることができます。休憩時間中の喫煙禁止が適法となる場合があることは、次の通達からも明らかです。

昭和22年9月13日次官通達17号

「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を損なわない限り許される」

会社が社員に対して、「休憩時間中の喫煙禁止」を命じることを検討すべきケースは、例えば次のとおりです。

  • 会社のルールとして「職場内完全禁煙」としており、非喫煙者の社員が多くいるケース
  • 採用時に、非喫煙者のみを採用しているケース
  • 飲食店や店舗などの接客業であることを理由に、喫煙を禁止しているケース

職場内禁煙とし、採用時に非喫煙者のみを採用したにもかかわらず、休憩時間の喫煙は許すとすれば、受動喫煙対策が不十分であるとして、非喫煙者から会社が責任追及を受けるおそれがあります。

また、接客業の場合には、タバコを嫌うお客様がいた場合、既存のお客様を失ってしまったり、会社の信用が低下してしまったりする可能性があります。

勤務時間外の喫煙禁止

以上の通り、企業秩序や受動喫煙対策を理由として、業務時間中・休憩時間に喫煙を禁止することができますが、これに対し、勤務時間外にまで喫煙を禁止することはできません。

会社と社員の「雇用関係」は、あくまでも雇用契約書(労働契約書)に定められた労働時間(と適法に命じられた残業時間)にのみ及ぶもので、勤務時間外の私生活(プライベート)を制限することはできません。

むしろ、会社として禁煙が絶対に必要だと考えるのであれば、会社には「採用の自由」がありますから、「喫煙者はそもそも採用しない」というのも1つの手です。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、会社の「タバコ対策」として、休憩時間中の「禁煙」を命じる方法について、労働基準法などの労働法、その他の法律に違反しないかどうかを、弁護士が解説しました。

職場のタバコ問題は、「受動喫煙対策」に関して2020年4月1日より施行された改正健康増進法が注目され、重要なテーマとなっています。会社が安全配慮義務・職場環境配慮義務をきちんと果たすためにも、社員の喫煙に無関心ではいられません。

このような情勢で、会社が「タバコ対策」を一切ほどこさなかった結果、社員が肺がんなど重大な疾患にかかってしまった場合、安全配慮義務違反・職場環境配慮義務違反の責任を追及され、多額の慰謝料・損害賠償を請求されるおそれがあります。

職場内の喫煙問題について、対策をお考えの会社は、ぜひ一度、企業法務を得意とする弁護士にご相談ください。

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