不況のあおりを受け、倒産する会社が増加しています。特に昨今は、コロナ禍による業績不振で倒産を余儀なくされる会社が多く、インバウンド頼りだった観光・宿泊業、自粛要請で需要が激減した飲食業などでの倒産が目立ちます。
手元の資金のさほど多くない中小企業にとって、直近の資金繰りの悪化は、倒産に直結します。しかし、全く策を講じず放置しては倒産を早めるばかり。倒産を回避するための方法を理解する必要があります。倒産を回避する方法の中でも即効性が高いのが、資金繰りの改善策です。
今回は、経営状況の悪化した会社が、倒産を回避するための方法を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 倒産を回避できるか、逆に速やかに倒産したほうが有利か、判断は慎重に行う
- 倒産を回避する方法は、資金繰りを意識しながら関係者と粘り強く交渉する
- 倒産を回避できない状況が明らかになったら、早期に弁護士に相談し、機を逸しない
\お気軽に問い合わせください/
倒産を回避できるかの判断基準
まず、倒産を回避できるか、4つの判断基準をもとに検討してください。倒産には様々な原因がありますが、決断をする上で重要な判断基準となるのは、外的な要因(環境要因)ではなく、自社の努力で改善可能な原因についてです。
企業経営が順調ではないとき、冷静な判断ができないでしょう。判断基準に当てはめることで、倒産すべきなのか、それとも倒産を回避すべきなのかを知ることができます。
内部留保があるか
倒産回避の1つ目の判断基準は、内部留保の有無。現在の固定費を払い続け、どれほどで底を尽きるかご検討ください。
内部留保が相当あれば、当面の売上がなくても焦る必要はありません。内部留保した資産で生き延び、その間に次の策を練ることで倒産を回避できます。内部留保が十分なら、ビジネスモデルの転換など、他の策を検討する時間も確保できます。内部留保を正確に把握し、事業計画を作成して倒産を回避しましょう。
固定費を削減できるか
倒産回避の2つ目の判断基準が、固定費を削減できるか。
広いオフィスやテナントの賃料、社員の人件費など、売上がなくてもかかる固定費が多いほど、倒産の回避は難しくなります。一方、宣伝広告費や接待交際費などの変動費は、売上の減少に応じて減らし、倒産を回避できます。固定費を削減すれば、前章で解説した内部留保を、より長期に渡って利用し、延命できるのです。
具体的な策は次章で解説します。倒産を回避するには、少しでも支払いを減額できないか、粘り強い延命の努力が必要です。
将来の売上が見込めるか
倒産回避の3つ目の判断基準が、将来の売上が見込めるか。
売上が全く上がらないのでは、内部留保の切り崩し、固定費の削減でどれほど延命しても、状況が良くならず、結局は倒産を回避できません。売上が少しでも見込めるなら、利益は出ずとも、固定費を支払い続け、倒産を回避する意味があります。
政府の中小企業の支援策を利用して新たに借入したり、出資者を探したりする手もありますが、どれほど有利な条件の資金調達も、得られた資金で売上を作れないなら意味がなく、倒産は時間の問題です。
資金調達の種類と、注意点は、次に解説します。
ビジネスモデルを転換できるか
倒産回避の4つ目の判断基準は、ビジネスモデルの転換が可能かどうか。
業績が悪化しているということは、少なくとも現在のビジネスモデルは通用しないおそれがあります。業種、業態によっては、ビジネスモデルを変化させることで生き残りを図り、倒産を回避できることも。事業を大きく変化させなくても、在宅勤務やリモートワークを導入したり、オンラインサービス、ECサービスを提供したりといったサービスの追加も効果的です。
ビジネスモデルの転換が困難なら、一旦倒産し、新たに立ち上げることを検討してもよいでしょう。
倒産を回避するための方法
次に、倒産を回避するための方法について解説します。
倒産の原因は、必ずしも経営者の努力不足にあるとは限りません。しかし、倒産を回避すべき状況において、業績悪化を外的な要因のせいにし、責任転嫁する態度はお勧めできません。非常事態でこそ、倒産回避のために全力を尽くすべきです。
資金繰りを改善する
倒産を回避するために、資金繰りを改善するのが有効です。倒産を検討する段階では、入金を急に増やすことはできないでしょうから、まずは支出を見直すことから初めてください。
在宅勤務やリモートワークの導入で、広いオフィスの必要性が低下。在宅の方が業務効率が高く、さほど不便さも感じない会社も多いでしょう。固定費の相当割合を占めるオフィス賃料を削減するチャンス到来といえます。倒産を回避すべく、次の支出の削減策をご検討ください。
【オフィスやテナントの賃料】
- 賃料減額を交渉する
- 賃料の支払猶予を求める
- 敷金の一部を賃料に充当してもらえないか交渉する
【社員の人件費】
- 無駄な残業を減らす
- 休業させる(雇用調整助成金を受給し、休業手当に充当する)
- 給与を減額する
- 評価基準を見直し、成果主義の賃金体系とする
- リストラにより人員整理する
いずれも、倒産が間近に迫った緊急事態を回避する方法であり、法律上必ず認められるわけではありません。一方的な賃金減額のように、労働条件の不利益な変更は、合理性のない限り違法となるのが原則です。とはいえ、不動産のオーナーも、社員も、会社が倒産しては支払いを受けられないため、交渉により譲歩してもらうことが期待できます。
キャッシュフローの悪化による黒字倒産の回避ついても参考にしてください。
事業を再編成する
倒産を回避するために、事業を再編成する方法も有効です。
生き方、働き方は時代によって移り変わります。現代は特に変容スピードが早く、時代に取り残されたビジネスは存在意義を失います。昔流行したビジネスの成功に固執しては倒産を回避できません。一方で、新しいチャンスをもとに飛躍を遂げる企業もあります。オンラインのサービスやアプリが増加している中、業種、業態によってはITの活用は不可避です。
魅力的な事業計画なら、VCや個人投資家からの出資を受けたり、クラウドファンディングを活用したりして資金調達することも期待できます。
事業を再編成し、新たなビジネスに挑戦するなら、適法性のチェックが重要。詳しくは、次に解説します。
金融機関と交渉する
倒産を回避するには、金融期間との交渉も欠かせません。返済期限の延期など、リスケジュールの交渉を開始するとその後の融資を受けづらいので、追加融資で資金繰りが改善するなら、まずは融資を打診します。
ただし、倒産間近だと、融資を拒否されることもあります。手元のキャッシュが乏しいと、借入の返済を措いても、事業を継続する資金に回さざるを得ません。できる限り早めに、借入のある全ての金融機関にリスケジュールを交渉します。この際、倒産を回避できなかった場合と比べ、リスケジュールに応じる方が経済的合理性があるとアピールしましょう。事業の将来性、返済可能性が大切なポイントとなるので、資金繰り表、事業計画書を念入りに作成する必要があります。
事業再生を活用する
事業再生は、債務を清算して倒産に向かうのではなく、経営を健全化し、不採算事業を立て直す方法です。将来の収益の期待できる事業なら、事業再生を活用し、倒産を回避できます。
事業再生には、次のメリットがあります。
- 法人代表者の責任を追及されない
会社の債務を連帯保証していたり、会社に金銭を貸し付けたりしているとき、倒産せず、事業再生する方法なら、個人の資産には影響しない。 - 社員の雇用を維持できる
倒産を回避し、事業再生を活用すれば、優秀な社員の流出を防ぐことができる。 - 連鎖倒産を防げる
事業を存続することで、取引先に迷惑を掛けなくて済む。
事業再生は、法的整理と私的整理に区別されます。債権者の協力を得られれば、債務の一部免除や弁済期の延長、減額の交渉などの私的整理の方法で、事業の再構築を目指せます。一方、債権者が非協力的なときは、法律に基づく裁判所の手続き、すなわち、民事再生、特定調停、会社更生といった制度を利用します。
私的整理なら、裁判所の関与はなく厳密なルールはないため、当事者間の話し合いによって柔軟な対応が可能です。これに対して法的整理は、裁判所の監督の下に進めるので、公平な判断を期待できます。債権者の協力が得られるかは、倒産の可能性がどれほど高いかによっても異なるため、早期に対策を開始するのが重要です。
倒産を回避できない状況とは
以上の検討を踏まえ、倒産を回避できない状況というのも存在します。むしろ、そのような状況が明らかになったら、早期に倒産を決断する方が有利であるとも言えます。
前章の通り、倒産の判断基準のいずれも満たさないとき、倒産は回避できないでしょう。
- 内部留保が乏しい
- 固定費を削減できない
- 将来の売上が見込めない
- ビジネスモデルを転換できない
このようなケースでは、たとえ現在の不振が、経済全体の不況などの外的要因によるものだったとしても、生き延びることは難しいといえます。少額の借入によって延命しても「焼け石に水」であり、かえって将来の返済額を増やしてしまいます。更には、法人代表者個人の借入による方法をとっても、リスクばかり拡大しかねません。
一方で、倒産するにも裁判費用、弁護士費用などを要するため、タイミングには注意しなければなりません。
弁護士の受任によって督促を止め、その後の売上を費用に充当する方法もありますが、事業が既に停止した状態では売上も期待できません。倒産は大きな決断ですが、タイミングを誤ると倒産すらできず、単なる夜逃げとなるおそれもあります。
資産が全くないと、倒産に要する費用も支出できません。詳しくは次に解説します。
まとめ
今回は、経営状況が悪化し、倒産が間近に迫る会社が検討すべき、倒産を回避する方法について解説しました。
倒産すべきかどうかは、速やかに決定する必要があります。倒産のタイミングを逃し、延命しようと不適切な努力を重ねるとますます傷を広げて再起の支障となります。冷静な判断の働かない中、真っ当な方法で倒産を回避できるか、生き残れるかを判断するのは非常に困難なこと。回避策を打つことなく速やかに倒産するほうがよいケースもあります。
資金繰りを改善し、倒産を回避できるかについて、弁護士による客観的な視点からのアドバイスが役立ちます。
- 倒産を回避できるか、逆に速やかに倒産したほうが有利か、判断は慎重に行う
- 倒産を回避する方法は、資金繰りを意識しながら関係者と粘り強く交渉する
- 倒産を回避できない状況が明らかになったら、早期に弁護士に相談し、機を逸しない
\お気軽に問い合わせください/