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「つながらない権利」とは?勤務時間外の連絡の注意点【会社側】

「つながらない権利」という言葉をご存知でしょうか。

海外では、広く議論されるようになった「つながらない権利」ですが、日本ではまだそれほど権利意識が一般化していません。

しかし、近年日本でも、「残業代請求」との関係で、勤務時間外の会社からの連絡が問題となっていることからもわかるとおり、会社経営において「つながらない権利」を理解しなければ、労働者からの責任追及を受けるおそれがあります。

今回は、「つながらない権利」と、この権利を尊重した勤務時間外連絡の際の、会社側(企業側)の注意点について、弁護士が解説します。

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つながらない権利とは?

「つながらない権利」とは、労働者が、勤務時間外に、仕事上の電話・メール・LINEなどの一切の連絡を拒否することができる権利のことをいいます。

勤務時間外とは、いわゆる「残業」といったときに想像される「終業時刻後」だけでなく、「始業時刻前」、「休日」、「休憩」、「休暇」など、労働義務を負っていないすべての時間のことをいいます。

つながらない権利は、次のとおり、海外で先行して議論されています。「つながらない権利」という言葉ではないものの、日本でも同様のことが労使トラブルの原因として注目を集めています。

海外の「つながらない権利」の例

  • アメリカ
  • :ニューヨーク州で現在、勤務時間外のメール等への返信を労働者に強制することを禁止する条例案が審議されています。

  • フランス
  • :2017年、従業員50人以上の企業に対して、時間外のメールの取扱いを労使で協議する義務を設ける法令が制定されました。

  • イタリア
  • :2017年、スマートワーカー(時間的・場所的拘束を受けない労働者)保護のため、つながらな権利を雇用契約に明記する義務を設ける法令が制定されました。

つながらない権利に違反した時の会社のリスク

法律になっていなくても「つながらない権利」に配慮が必要となるのは、この権利を無視していると、労使トラブルを引き起こしてしまうリスクが、会社側(企業側)に存在するためです。

つながらない権利に違反して、業務時間外にもつながり続けた場合に起こる、会社のリスク、トラブルについて、弁護士が具体的な事例を紹介します。

「労働時間」とみなされ、残業代請求を受ける

会社側(企業側)が、「勤務時間外も電話に出ること」、「勤務時間外も、チャット・メールに1時間以内に返信すること」などのルールを定め、つながり続けることを求めた場合、その時間がすべて「労働時間」となる可能性があります。

「労働時間」とは、「会社の指揮命令下にある時間」であるとされます。このように労働からの解放が保障されていない待機時間を「手待ち時間」といい、「労働時間」と評価される典型例です。

「労働時間」が「1日8時間、1週40時間」を超えると、会社は労働者に対して残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。

明確な社内ルールや指示によって「つながる」ことを強要しなくても、「つながり続けている」ことを理解しながら放置した場合、やはり「黙認」したものとして「労働時間」と評価されます。

このように、労働時間が長くなりすぎることでの人件費増大を避けるためにも、「つながらない権利」を尊重する方針を、会社として明確に表明することが有効です。

プライベートへの干渉がパワハラとなる

労働者を雇用しているとしても、労働者のプライベートの時間は尊重してあげなければなりません。会社経営者の中には「仕事だけが人生」という人もいますが、全ての従業員がそうではありません。

終業時刻後や休日・休暇など、プライベートの時間に干渉をしすぎた場合には、「パラハラ」と評価されて慰謝料を請求されてしまう危険もあります。

さきほど解説した「長時間労働」と「パワハラ」が合わさって原因となって、うつ病などの精神疾患(メンタルヘルス)にり患してしまった場合、会社は「労災」、「安全配慮義務違反」の責任も負います。

「労災かどうか」を決めるのは労基署の認定によりますが、「労働時間」と評価される時間が長いと、労災と認定されやすくなります。

つながらない権利で起こる労使トラブル予防のポイント

「つながらない権利」は、日本ではまだ法律上の義務とはなっていません。しかし、法律にないからといって、「つながらない権利」を軽視してよいわけではなく、労使トラブルの原因としてとても重要です。

外資系企業や、ヘルスケア系の企業の中には、独自の施策として、つながらない権利を制度化している例もあります。

ジョンソン・エンド・ジョンソン、ダイムラー、三菱ふそうトラック・バスなどで、一定時刻以降や休暇中のメールを禁じたり、自動削除したりする施策が話題になっています。

つながらない権利を事前に明示する

つながらない権利を保障するために、まずは事前に、社内全体に周知しておいてください。

会社の公式見解として「つながらない権利を保障する」という方針を明示することによって、従業員の共通理解を図るためです。

「つながらない権利」という用語を使用するかはさておき、「業務時間外の連絡と、残業代についての考え方」は、就業規則などに明記し、労働者に周知徹底します。

労働時間を適切に把握する

つながらない権利の尊重といっても、業務の必要性から、どうしても連絡をせざるを得ない、ということも少なくありません。

緊急の必要から、どうしても連絡をしてしまったというケースにおいて、指示をする側の十分な配慮が必要であるとともに、その時間を「労働時間」と評価することによって、賃金面でも保証を与えなければなりません。

会社としては、勤務時間外に連絡をとり、業務に対応することとなった時間についても、勤務時間内と同様に労働時間を把握し、賃金計算を行う必要があります。

管理職に教育・研修する

つながらない権利を侵害するのは、社長や役員をはじめとした上司の立場にある人です。そもそも、上司の立場にある人が連絡をしなければ、つながらない権利の侵害は、起きづらくなります。

少なくとも、どのような場合であっても、勤務時間外に連絡がつかないことについて注意したり怒ったりしてはいけません。

そのため、労働者のつながらない権利を保障するためには、労働者に指揮命令を実際におこなう管理職(管理監督者)が、権利の内容と保障のしかたについて勉強する必要があります。

この点は、人事労務を多く取り扱う弁護士などの専門家に、管理職研修、社内セミナーを開催してもらうのが最適です。

物理的につながらない状態を作る

IT技術の進歩、クラウドサービスの拡充などにより、現代では、つながり続けることは、昔より容易になっています。

いつでもどこでも、つながることのできる便利なツールを手に入れたことが、業務効率の向上に貢献している一方で、つながらない権利侵害によるストレスの温床となっているのです。

在宅ワーク・ノマドワークで、自宅作業をしている従業員であっても、PCの小型カメラ、ビデオチャットなどを利用することによって、会社内にいる従業員と同様に監視することもできてしまいます。

だからこそ、「つながらない権利」を確実に保証するためには、勤務時間外については、物理的につながらない状態を作ることが大切です。

他社のケースで紹介したように、「休暇中は、メールを自動削除する」など、システム面において、物理的に、連絡をとることができない状態を保証してあげることがお勧めです。

つながる必要のない体制を作る

最後に、つながる権利を保障するためには、つながらなければならない「業務上の必要性」をなくす努力を、会社が行うのがよいです。

具体的には、会社の業務を標準化、しくみ化することで、業務時間外にまで頻繁に社内のコミュニケーションをとらなくても、それぞれの担当従業員が判断して業務を進めることができる体制を作るということです。

共有ファイルやクラウドサービスを利用して、プライベートの時間を邪魔せず情報共有を進める方法もあります。

これらの対策によって、つながらない権利の保障だけでなく、業務効率、労働生産性の向上にも寄与できます。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、現代の多様な働き方の中で、特に尊重するべき「つながらない権利」について、弁護士が解説しました。

実際の実態としては、勤務時間外や休日であっても、メールや電話、LINEやチャットなどの連絡に応じなければならず、「つながり続けている」状態の社員も珍しくありません。

テレワーク、在宅ワークなどの多様な働き方の浸透により、会社(企業)はますます従業員のワークライフバランスを尊重しなければならず、「つながらない権利」対策は、その初めの一歩となります。

会社と従業員との間の「つながり方」にお悩みのある会社は、ぜひ一度、企業法務を得意とする弁護士にご相談ください。

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