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仮想通貨(暗号資産)ウォレット事業は交換業登録が必要【2019年改正】

仮想通貨(暗号資産)について新たな規制を定める、仮想通貨に関する法律の改正が、2019年5月31日に成立しました。この改正法によって、資金決済法、金融商品取引法が改正され、仮想通貨(暗号資産)について規制が強化されます。

これに伴い、従来は「仮想通貨交換業」の対象ではなく、金融庁への登録なく行うことのできたビジネスモデルであるウォレット事業が、改正法施行後の「暗号資産交換業」の対象となります。そのため、ウォレット事業を行う事業者は、金融庁への登録が必要となります。

仮想通貨ウォレット事業を行う会社や、これからウォレットサービスを行う予定の会社は、今後の法改正の動向、金融庁のガイドラインなどに注意が必要です。

そこで、仮想通貨(暗号資産)のウォレット事業者を取り巻く法規制が、法改正によってどのように変更されるのか、弁護士が解説します。

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仮想通貨(暗号資産)のウォレット事業とは?

ウォレットとは、「財布」のことをいいます。仮想通貨(暗号資産)のウォレット事業も、仮想通貨(暗号資産)を管理するための財布のような機能を提供するものです。

具体的には、仮想通貨(暗号資産)の管理・保管や、仮想通貨(暗号資産)を他人のウォレットに移動させるなどのサービスを提供するものです。

仮想通貨(暗号資産)のウォレット事業には、いくつかの種類があります。

例えば、事業者が利用者のためにウェブサイト上でアカウントを開設して仮想通貨を管理する「ウェブ型」もあれば、事業者は仮想通貨を管理するためのアプリケーションを利用者に提供するだけで、実際の管理は利用者が行う「アプリ型」などもあります。

ウォレット事業について、法改正以前のルール

まずは、仮想通貨(暗号資産)のウォレット事業が、これまでの法律でどのように扱われていたのかについて、弁護士が解説します。

法改正前の「仮想通貨交換業」の範囲

2019年5月に改正される前の資金決済法では、仮想通貨の売買や他の仮想通貨との交換など、また、これらの行為の媒介、取次ぎまたは代理に「関して」、利用者の金銭・仮想通貨の管理をすることは、仮想通貨交換業にあたるとされていました(資金決済法2条7項3号)。

一方で、仮想通貨の売買・交換などを行わずに、単に利用者の仮想通貨を管理するだけの行為や、利用者の指図に基づいて指定された先に仮想通貨を移転させる業務は、仮想通貨交換業に該当しないこととされていました。

そのため、仮想通貨の売買・交換などの機能がないウォレットを使って利用者の仮想通貨を管理するサービスは、仮想通貨交換業にはあたりませんでした。

したがって、ウォレット事業を行っている会社の中には、仮想通貨交換業の登録を受けずに行っていた会社も多く存在していました。

金融庁により「規制の必要性」が指摘された

しかしながら、金融庁が設置した研究会の報告書において、このような、仮想通貨(暗号資産)の管理や移転を行う業務についても、サイバー攻撃による顧客の仮想通貨の流出リスク、業者の破たんリスク、マネーロンダリング・テロ資金供与など、仮想通貨交換業と共通のリスクがあると指摘されました。

仮想通貨(暗号資産)のウォレット事業に内在する危険が、監督官庁である金融庁によって指摘され、今回の法改正につながったのです。

そのため、これまでは規制対象外であったウォレット事業を行う事業者についても、顧客の仮想通貨を管理するという部分では、仮想通貨交換業者(暗号資産交換業者)と同様のルールを課すべきであると指摘されました。

法改正により、ウォレット事業の規制はどう変わった?

以上で解説をしたウォレット事業の規制について、この度の資金決済法の改正により、規制対象が拡大されることとなりました。

法改正によって、仮想通貨交換業、あらため、暗号資産交換業の範囲がどのように変わったのかについて、弁護士が解説します。

法改正後の「暗号資産交換業」の範囲

法改正によって、暗号資産交換業(仮想通貨交換業)の範囲は、端的にいって拡大されることとなりました。

改正後の資金決済法では、「他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)」も暗号資産交換業(改正前の仮想通貨交換業)に該当することとされました。

これにより、これまでは規制対象ではなかった、暗号資産の売買などをともなわずに利用者の暗号資産を管理する業務も、「暗号資産交換業」に該当することが明確になりました。

例外的に「暗号資産交換業」に当たらないウォレット事業とは?

ちなみに、条文上、「当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合」には、暗号資産交換業にはあたらないとされています。

これは例えば、信託銀行が暗号資産を信託財産とする信託を受託するような場合などです。

信託銀行は、信託業法等の別の法律によって、より厳しく管理されていますので、資金決済法でさらに規制を課す必要はないというのが、例外が認められている理由です。

違反すると罰則がある

ウォレット事業の規制が拡大されたことにより、これまでは無登録でも行うことのできていたウォレット事業について、暗号資産交換業の登録が必要となるケースが増えます。

規制対象となる暗号資産交換業を、無登録で行ってしまうと、3年以下の懲役もしくは300万円の罰金、またはこれらの両方が科されます。刑事罰による制裁がありますので、注意が必要です。

ウォレットサービスは「交換業」に該当する場合、しない場合

ここまで解説した通り、「他人のために暗号資産の管理をすること」を業として行う場合には、暗号資産交換業(改正前の仮想通貨交換業)に該当することになります。

暗号資産交換業の登録をしなければ行えないウォレットサービスが拡大されたことにより、「どのようなビジネスモデルであれば、『交換業』の登録が必要となるのか(もしくは、不要となるのか)。」という相談が増加しています。

そこで次に、様々なビジネスモデルのあるウォレットサービスについて、暗号資産交換業に当たる場合、当たらない場合の区別、判断基準を、弁護士が解説します。

「交換業」登録が必要なウォレットサービス

利用者が、気に入ったSNSの投稿やブログの記事に対してチップを送ることができる、いわゆる「投げ銭」サービスには、仮想通貨を送ることができるものがあります。

この場合、投げ銭サービスでは、チップとして送るための仮想通貨を保管しておくためのウォレット機能を提供していることがあります。

改正法では、このような機能は、「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当し、暗号資産交換業者に該当する可能性が高いといえます。

「交換業」登録が不要なウォレットサービス

事業者が暗号資産を管理するためのウォレット機能を有するアプリだけを提供し、秘密鍵は利用者が自分で管理するという場合には、事業者が利用者の暗号資産を「管理」しているとはいえません。

したがって、事業者がこのようなアプリを提供しても、「他人のために暗号資産の管理をすること」という要件には該当しないため、暗号資産交換業にはあたりません。

この点は、今回の資金決済法の改正後であっても変更はありません。

暗号資産交換業(仮想通貨交換業)に該当する事業者が守るべき規制

ウォレット事業が暗号資産交換業に該当する場合には、そのサービスを提供する事業者は、まず、暗号資産交換業者としての登録を受けなければなりません。

しかし、登録さえ受ければそれで良いのではなく、登録を受けるということは、その登録に見合った指導、監督を受けることを意味しています。

暗号資産交換業(仮想通貨交換業)に該当する事業者が、交換業者として守るべき規制について、弁護士が解説します。

財務規制

暗号資産交換業(仮想通貨交換業)の登録をした場合には、資本金が1000万円以上であること、および、純資産額がマイナスでないことが求められます。

これを「財務規制」といいます。

暗号資産交換業(仮想通貨交換業)に該当するウォレットサービスを行うためには、一定の社会的信用が必要であることを意味しています。

分別管理等の行為義務

暗号資産交換業者は、利用者からあずかった暗号資産(仮想通貨)を、自らが保有する暗号資産と区別して管理しなければなりません。

さらに、暗号資産交換業者は、あずかっている利用者の暗号資産と同種同量の暗号資産を自己の暗号資産として保有し、かつ、それ以外の自己の暗号資産と分別して管理しなければなりません。

また、利用者に対する説明義務や、利用者の個人情報などを安全に管理するためのセキュリティ体制も整備しなければなりません。

マネー・ローンダリング防止

マネーロンダリングは、「マネロン」とも略され、「資金洗浄」のことをいいます。つまり、違法に取得した金銭を、その取得方法等を隠すことによって公に利用することのできる資金へと変化させる手口のことです。

仮想通貨(暗号資産)のウォレットは、マネーロンダリングの手法として利用されがちであるため、これを防止するため、暗号資産交換業(仮想通貨交換業)に登録した企業は、マネーロンダリング防止の行為義務を負います。

すなわち、ウォレットサービスの利用者と取引する際に、本人確認が必要となります。また、疑わしい取引があったときは、当局に届け出なければなりません。

金融庁による調査・監督

暗号資産交換業者(仮想通貨交換業者)の場合には、帳簿書類の作成・保存義務や、報告書の提出義務が課されます。

また、有事の際には、監督官庁である金融庁の立入検査や、業務改善命令の対象になることもあります。

ウォレット事業者が法改正後に注意すべきポイント

以上の資金決済法の改正を踏まえて、最後に、ウォレットサービスを提供する会社(事業者)が注意すべきポイントについて、弁護士が解説します。

既にウォレット事業を行う会社の注意点

既にウォレット事業を行っている会社は、今回の資金決済法の改正で、自ら行うビジネスが暗号資産交換業に該当することになるかをチェックする必要があります。

暗号資産交換業に該当することとなる場合は、ビジネスモデルを変更して、暗号資産交換業に該当しないサービスを提供するか、暗号資産交換業者として登録を受ける必要があります。

ウォレット事業に参入する会社の注意点

新たにウォレット事業に参入する会社は、これから自社で提供しようとしているサービスが、現在の資金決済法、あるいは改正後の資金決済法において、仮想通貨交換業ないし暗号資産交換業に該当するか否かを検討すべきです。

現在の仮想通貨交換業、または改正後の暗号資産交換業に該当することとなる場合は、ビジネスモデルを変更して、これらに該当しないサービスを提供することも可能です。

現在の仮想通貨交換業には該当しないが、改正後の暗号資産交換業に該当するという場合は、改正法の施行日までにサービスを終了するというのも一つの方法です。

資金移動業の登録も必要?

ウォレットサービスを提供する場合には、「暗号資産交換業(仮想通貨交換業)」の登録と合わせて、「資金移動業」に該当し、こちらの登録も必要となる場合があります。

「資金移動業」もまた、資金決済法に定められた事業類型の一つです。典型的には送金業者がこれにあたります。

ウォレットサービスは、仮想通貨(暗号資産)を移転させることを目的とするものですので、資金移動業には該当しないのが原則です。ただ、金銭を仮想通貨(暗号資産)に変えた上で送金し、受領した者が金銭に換金できるサービスを提供すると、実質的には金銭を送るのと同様の効果が生じます。

ウォレットサービスをうたいながら、実質的に送金サービスを提供しているような場合は資金移動業に該当する可能性が高いので、注意が必要です。

弁護士へ法律相談すべき理由

暗号資産交換業(仮想通貨交換業)に該当するか否かは、法律的な判断が必要になるところです。

ウォレットサービスとの関係では、「他人のために暗号資産の管理をすること」という要件に該当するかどうかがカギですが、この判断も、常に明確にできるわけではありません。

たとえば、複数の事業者が、利用者の秘密鍵を分散して管理し、それぞれの事業者が単独では暗号資産を移転させることができない場合に、それぞれの事業者の行為が「管理」にあたるのか、管理にあたるとして、全事業者が「暗号資産交換業」を行うとみられるのか、といった点などは明らかではありません。

「資金移動業」にあたるかどうかも同様に専門的な判断となります。

もし、ご自身のサービスが「暗号資産交換業(仮想通貨交換業)」や「資金移動業」に該当するのか不明な場合は、仮想通貨(暗号資産)の分野に詳しい弁護士にご相談ください。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、ウォレットサービスが「暗号資産交換業(仮想通貨交換業)」や「資金移動業」に該当するか否かについて、資金決済法の改正点もふくめて解説しました。

「暗号資産交換業(仮想通貨交換業)」や「資金移動業」に該当するかは、法律的な判断が関わります。また、コインチェック事件をみても分かるように、その時々の状況で、当局の判断の厳しさも変わってくるところです。

「暗号資産交換業(仮想通貨交換業)」や「資金移動業」に関するご相談は、企業法務(金融法務)に強い弁護士にお任せください。

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