企業が取り組むべきセクハラ(セクシュアル・ハラスメント)への対策を定めた指針の、新たな改正案が、平成29年1月より施行されました。いわゆる「セクハラ指針」です。
「セクハラ」というと、「男性が女性に対して」という固定観念を抱きがちですが、そうではありません。
被害者の性別を問わず、また、「LGBT」など性自認が異なる場合であってもセクハラ対策が必要であることを明らかにすることが、今回施行された改正「セクハラ指針」のポイントです。
これまでのセクハラ対策では防ぎ切れなかった「LGBT」に対する差別問題が起こらないように、会社側(使用者側)が適切な対応を取ることが、改正「セクハラ指針」にしたがって強く求められています。
今回は、改正されるセクハラ指針の主な内容と、会社が行うべきLGBTのセクハラへの対応について、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
1. セクハラ指針とは?
まず、今回解説します「LGBTとセクハラ」の問題を理解するために、セクハラ問題で、会社側(使用者側)が注意しておくべき法律上の義務について、弁護士が解説します。
ここで解説するセクハラを防止すべき義務は、LGBTに対するセクハラの場合であっても当然注意しなければなりません。
1.1. 男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、正式名称を「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」といいます。
この男女雇用機会均等法は、憲法14条が規定する法の下の平等の精神にのっとって、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」ことを目的としています。
「男女」とありますが、「LGBT」が含まれることもまた、当然のことです。
1.2. セクハラ対策措置を講じる義務
男女雇用機会均等法11条1項は、会社に対して、セクハラの被害者が不利益を受けることのないよう対策を講じる義務があることを定めています。
すなわち、セクハラの被害者が不利益を受けたりすることがないよう、「適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じることを義務付けています。
この義務もまた、LGBTのセクハラにも同様にあてはまります。
1.3. セクハラ対策指針に具体化!
会社が、社内のセクハラ対策を行うために、どのような措置を講じるべきかについては、男女雇用機会均等法に基づいて作られた指針に定められています。
この指針が、いわゆる「セクハラ指針」、すなわち「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」です。
2. セクハラは男女を問わない!
男女雇用機会均等法は、元々は、女性へのセクハラ対策について定めていました。
しかし、セクハラ問題の被害者は、女性だけに限らないことから、平成18年に法改正がなされ、「男性に対するセクハラ」への対策もまた、会社の義務であると定められました。
平成25年には、セクハラ指針が改正され、同性間のセクハラ対策も、会社が行うべき対応に含まれることが明記されました。
平成27年には、同性婚を認める米国連邦最高裁判所の判決が下されたことなどから、「LGBT」に対する配慮はますます注目されるようになりました。
そのため、平成29年1月より施行されたセクハラ指針では、「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず」という文言が加えられ、「LGBT」がセクハラの対象となることが明らかにされました。
男女という性別にとらわれず、被害者に対するセクハラ対策を講じることが企業の義務になりました。
3. セクハラ指針の改正で何が変わった?
平成29年1月より施行された改正「セクハラ指針」では、どのような点が変わったのでしょうか。
セクハラ指針の改正ポイントを、弁護士が解説します。
3.1. LGBTへの配慮の必要を明示
改正「セクハラ指針」では、セクハラの内容について、次の一文が付け加えられました。
LGBTに関するセクハラ問題が非常に重要なものとなっていることを示すものです。
「被害者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアル・ハラスメントも、本指針の対象となるものである。」
セクハラ指針は、さきほど解説しましたとおり、男女雇用機会均等法という法律に基づいて作られたものですから、全ての企業には今回の改正に従う義務があります。
3.2. 一元的な相談窓口の設置
今回改正されたセクハラ指針では、「LGBTとセクハラ」に関する問題に加えて、マタハラ問題についての対応もあわせて行われることとなりました。
セクハラの被害者が、複数のハラスメントの被害にあってしまうことがあります。
複数のハラスメントの被害にあった結果、相談先がわからないといった不都合を避けるため、今回のセクハラ指針の改正では、一元的な相談窓口を設けることが会社の行うべき措置として追加されました。
4. LGBTへのセクハラに対する具体的な対応
ここまでお読み頂ければ、平成29年1月より施行された改正「セクハラ指針」によって、LGBTへの配慮が、会社にとって非常に重要な課題となることは、十分ご理解いただけたのではないでしょうか。
そこで次に、会社が実際に行うべき、LGBTへのセクハラに対する具体的な対応、特に、社内の体制づくりについて、弁護士が解説します。
4.1. LGBTへのセクハラ禁止を周知する
まず、就業規則などの会社規程で、セクハラ行為が禁止であることを、従業員(社員)に対して周知、啓発することが必要です。
就業規則の中に定めてしまうと見づらくなる場合には、就業規則とは別に「セクハラ防止規程」を作ることを検討してください。研修や講習なども行いながら、啓発を進めます。
この際、「セクハラは男性が女性に対して行うものだ。」という固定観念を持っている従業員(社員)もいることを考え、次の点を特に強く周知するようにしましょう。
- 被害者が「男性」のセクハラも存在すること
- 性的指向、性自認の異なる「LGBT」へのセクハラに配慮すべきであること
特に、「LGBT」へのセクハラは、自分とは性的指向、性自認の異なる者に対する配慮を必要とするため、労働者に対して、意識的な行動を求める必要があります。
4.2. 禁止違反へのペナルティを周知する
LGBTへのセクハラが禁止であることを周知したら、合わせて、禁止違反に対するペナルティがあることも周知しておきましょう。
その方法としては、就業規則に、懲戒処分となる理由、懲戒処分の種類を定めておくことが一般的です。
会社内に就業規則やセクハラ防止規程などがある場合には、「LGBTへのセクハラ」についても、懲戒処分の対象とすることができるよう、修正が必要なケースがあります。
4.3. 相談窓口を一元化する
会社内のセクハラを、大きな労働トラブルに発展させないためには、会社側(使用者側)のスピーディな対応が重要です。
そのためには、相談窓口を設けることはもちろんですが、相談窓口が分かりにくくならないよう一元化することがポイントです。
特に、LGBTへのセクハラの場合、「セクハラとは男性が女性に対してするもの。」という固定観念を持っていては、「セクハラ相談窓口」で拒絶されてしまうおそれもありますが、不適切といわざるをえません。
LGBTへのセクハラも含めた、あらゆるハラスメントに対応できる窓口を設置し、スピーディな対応を心がけてください。
4.4. LGBTを理解する
LGBTは、次の4つの性的指向、性自認を総称する単語です。
- レズビアン(Lesbian:女性同士の同性愛)
- ゲイ(Gay:男性同士の同性愛)
- バイセクシュアル(Bisexual:両性愛)
- トランスジェンダー(Transgender:性同一性障害等、心身の性別が一致しない場合)
しかしながら、LGBTの種類は非常に多様であり、これらの定義に収まらない方も多くいます。
そして、LGBTではない人にとって、LGBTを理解し、LGBTに対する差別とならないように行動するためには、意識的に行う必要があり、会社による教育が必須となります。
5. まとめ
今回は、平成29年1月より施行された改正「セクハラ指針」の内容と、LGBTへのセクハラに対して、会社が講じておくべき対策について、弁護士が解説しました。
近年、LGBTへのセクハラの他にも、「マタハラ」など、新たなハラスメント問題が注目され、セクハラに対する社会の目も、より厳しいものになっています。
とりわけLGBT問題は、渋谷区が同性愛者のパートナー登録を認める条例を制定したり、同性愛をカミングアウトした結果自殺にいたるといったニュースがあるなど、注目度の高い問題であるため、慎重な対応が必要です。
会社内のセクハラ対策にご不安な会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。