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反社会的勢力に関わらないため、企業がすべき就業規則・誓約書の対策例

反社会的勢力と企業の関与が社会問題化し、久しく経ちます。2007年(平成19年)6月、政府は「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表。企業取引からの反社会的勢力の排除を進めています。このような社会情勢のもと、反社会的勢力(いわゆる「反社」)と関係を持てば、暴力団から損害を負わされるだけでなく、(仮に利益あるとしても)評判を悪化させ、信用が低下するといったレピュテーションリスクを生じます。

企業経営において、反社会的勢力にできる限り関わらない努力は、常識となっています。そのために、契約書に暴力団排除条項を記載し、取引相手の反社チェックをするといった外部対策はもちろん、社内での対策も必須です。つまり、反社と関与する社員を採用せず、密接に接触する社員を雇わないことです。社員の黒い評判は、翻って、企業の信用を傷つけます。

2019年に起こった吉本興業の闇営業問題は記憶に新しいでしょう。反社会的勢力と、少しでも関与するデメリットが非常に大きいことは明らかです。

今回は、反社会的勢力との関与を疑われて、経営に悪影響が及ばないよう、企業側でできる対策を、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 反社会的勢力に関与すると、実害はもちろん企業の信用が低下し、リスクが大きい
  • 反社会的勢力に関わらない対策として社内、社外の双方へのチェックを要する
  • 万が一、反社会的勢力との取引ないし関わりが発覚したら速やかに断絶する

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反社会的勢力とは

反社会的勢力は、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義されます(企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針)。一般には、「反社」と略されます。

反社会的勢力の定義を知ることは、どのような団体に関わるべきでないのかを理解するのに有効です。契約書や就業規則、誓約書に反社会的勢力排除規定(反社規定)を設けるに際して、対象の特定にも利用できます。

反社会的勢力の例

反社会的勢力の典型例は、暴力団、つまり、ヤクザですが、それに限りません。暴力団以外にも、振り込め詐欺をはじめとした特殊詐欺グループや、いわゆる半グレなども、企業が関与すべきでない反社会的勢力に含みます。名称に関わらず、暴力や威力、詐欺的手法、不当要求をする集団は、反社会的勢力と評価される可能性があり、関与を避けるべきです。

法務省の指針は次のとおり、暴力団だけでなく、さまざまな集団や個人が反社会的勢力となり得ると注意喚起しています。

暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。

企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針

反社会的勢力の例に挙げられる集団は、次のとおりです。

  • 暴力団、暴力団員、暴力団準構成員
    暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)で、「その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」と定義される。暴力団の構成員を「暴力団員」といい、暴力団の威力を背景に暴力的行為などを行うおそれのある「暴力団準構成員」も含め、反社会的勢力に含まれる。
  • 暴力団関係企業
    一般には、企業舎弟、フロント企業と呼ばれ、暴力団が実質的に経営に関与する企業、資金提供するなど積極的に運営に関与する企業をいう。
  • 総会屋
    株主総会で、株主としての権利行使によって、企業から利益供与を受けるなどの行為をする団体。
  • 社会運動等標ぼうゴロ
    人権問題、環境問題など、社会運動や政治運動を仮装しながら、実際は企業への不当要求をする団体。
  • 特殊知能暴力集団等
    暴力団との関係を背景にして、不正行為を行う集団。

反社会的勢力を規制する法令

暴力や脅迫など、不適切な行為によって不正な利益を得る反社会的勢力が社会問題となり、反社会的勢力を規制する様々な法令が成立しています。

1991年、反社会的勢力の取締り強化のため、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)が成立。その後も反社会的勢力の手口は巧妙化、知能犯化が進んだため、高度化する暴力犯罪の摘発のため、2003年に本人確認法、2007年に犯罪収益移転防止法が成立し、反社会的勢力に流れ込むブラックマネーの抑止が図られています。

法律だけでなく、2007年には、企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針が制定され、2009年以降、各都道府県において暴力団排除条例(暴排条例)が制定されました。

反社会的勢力に関わらないための対策

企業取引からの反社排除が推進される現在、反社会的勢力の取引はもちろん、関わりある社員を雇用するのもリスクがあります。派手好きだったり、六本木・西麻布・歌舞伎町など繁華街、女性関係が多いといった性質は、反社会的勢力に狙われやすいため、気を引き締めなければなりません。

反社会的勢力との関与を断つべきは、大企業だけでなく、中小企業やベンチャーも同じことです。近づいてからの対策では後手に回りがちです。そこで、反社会的勢力との関与を予防するための対策を、解説していきます。

採用前に調査する

企業には、採用の自由があります。つまり、どの社員を採用するか(もしくは採用しないか)や、採用条件は企業の自由です。そして、採用の自由の帰結として、採用条件となるような社員の能力、性質について、採用時に質問したり、調査したりすることができます。

反社会的勢力との関与があるなら採用を拒否するのが当然なので、反社と関わりがあるかどうかの調査は、業務上の必要性がある正当なものです。採用前に調査したり、採用面接において申告させたりして差し支えありません。端的に、採用面接にて質問し、その回答を記録しておきます。

なお、採用の自由があるとしても、差別的な質問など、許されないものもあります。

入社時に誓約書を提出させる

入社が決まったら、誓約書を提出させましょう。反社会的勢力ではないと誓約し、かつ、今後も反社に関わらないよう約束をさせることで、予防策になります。入社時の誓約書には、次のことを必ず定めてください。

  • 入社前に、反社会的勢力に関与したことがないと表明させる
  • 入社後に、反社会的勢力との関与を避けると約束させる
  • 誓約書に違反して反社会的勢力に関与したら懲戒処分となると定める
  • 反社会的勢力との関与が著しいときは解雇となると定める

入社時だけでなく、重要な役職に就く際などには、あらためて誓約書を記載し、再度、気を引き締め直すようにしてください。

誓約書とあわせ、採用時の内定通知書にも、同様の事項を定めます。また、身元保証書も取得しておきましょう。

身元保証書は、社員が会社に及ぼした損害について連帯保証させるため、家族・親族に記載してもらう書面で、反社会的勢力に関与した場合に身内にも迷惑をかけることとなるため、対策として効果的です。

就業規則の懲戒事由に定め、教育する

反社会的勢力のリスクを排除するには、企業の組織的な対応を要します。反社はその道のプロであるのに対し、社員個人は素人です。反社の手口は巧妙化し、ますますグレーなものとなりました。社員個人の対応に任せては、対策が徹底されず後手に回るおそれがあります。

組織として対応するには、就業規則の定め方が大切です。就業規則は、会社内で集団的に適用されるべきルールを定めるものだからです。就業規則にて、反社会的勢力排除の基本的な方針を定め、社員に周知した上で、社員教育を実施してください。

就業規則に定めるべき内容は、例えば次の規定です。

  • 反社会的勢力排除の基本方針
    不当な要求に屈しないこと、資金提供を受けないこと、裏取引をしないことなど
  • 懲戒事由
    反社会的勢力とのあらゆる関与が、懲戒事由になること
  • 会社の安全配慮義務
    企業が組織として社員を反社会的勢力から守り、安全を確保すること
  • 損害の賠償
    反社会的勢力に関わったことで会社に与えた損害を賠償する必要があること

反社チェックで予防する

社内に反社会的勢力を入れないだけでなく、取引もしてはいけません。反社会的勢力との取引を予防するため、取引前に調査することを、反社チェックといいます。「君子危うきに近寄らず」という言葉があるとおり、最大限の警戒心をもって臨み、疑わしいときには関与を避けるようにしてください。

自社でできる反社チェックに、次の方法があります。

  • 民間企業の反社チェックサービスを利用する
  • 警察、暴追センターに相談する
  • 過去のニュース記事を検索する(逮捕歴、前科・前歴が報道されていないか)
  • 新聞の検索システムを利用する

取引中に反社会的勢力だと明らかになるリスクに備え、契約書には暴力団排除条項(暴排条項)を定め、取引をいつでも中止できるようにする対策も必須です。契約解除、損害賠償請求といった手段を、契約書に定めて準備しておけば、事前の抑止力となるからです。

暴排条項の例は、反社会的勢力排除のためのモデル条項について(国土交通省)参照。

契約書に定めるべき暴排条項は、次に詳しく解説しています。

反社会的勢力と関与するリスク

反社会的勢力と関わらない細心の注意をするには、どんな関与があるか理解しなければなりません。避けるべき交際は、取引家計だけではありません。「暴力団と契約したことはない」という程度の意識では、反社会的勢力の寄生から逃れられません。反社会的勢力は、不正な利益を得ようと、多様な手段、態様で、接触を図ってきます。

身近に潜む、反社会的勢力と企業が関与するパターンは次の通りです。

  • 取引先として契約する
  • 儲け話を持ちかける
  • 投資、協業を持ちかける
  • ビジネスパートナーとなる
  • 株主として出資する
  • 社員として入社する
  • 人脈を紹介する
  • 紛争やトラブルを仲裁してくれる

反社会的勢力は、見た目はそうは見えず、穏やかだったり優しかったり、最初はメリットがあるケースも多いです。しかし、大きなリスクがあるのは当然です。反社会的勢力に関与するリスクには、次のものがあります。

  • レピュテーションリスク
    反社会的勢力と関与する企業として、自社の信用が低下する。インターネットが普及する現代、SNSなどを通じて拡散スピードが早いため注意を要する。
  • 新規取引の停止
    取引先からの反社チェックにより、新規取引が不能となる危険がある。
  • 新規採用ができなくなる
    採用においても反社会的勢力との関与は敬遠され、優秀な人材を採用できなくなる。
  • 社員の離職率が上がる
    社内の業務で、反社会的勢力との関与が明らかになり、不正に手を貸したくない社員が離職する。
  • 上場できなくなる
    ベンチャーの上場審査において、反社会的勢力の資本の入った企業の上場は許されない。

反社会的勢力の手口は、対策が進むほどに巧妙化します。一見すると、起業資金を出してくれたり、多額の借金を肩代わりしてくれたり、誰にも言えないトラブルを裏で解決してくれたりと、企業にとって利益あるように見えるケースもあるので、注意を要します。知らずに関われば、会社経営だけでなく、個人の資金や友人、家族など、生活も台無しにされるおそれがあります。

反社会的勢力との関わりが発覚したときの対応

最後に、十分に注意してもなお、反社会的勢力とは知らずに関わりを持ってしまうことがあります。気づけなかったのは残念ですが、判明したら即座に対処しなければなりません。事後的に発覚したとき、企業がとるべき対応について解説します。

事後対応をする際にも、ここまで解説した就業規則、誓約書、契約書などの条項をその根拠とします。そのため、事前の対策や準備をしていないと、十分な対処ができなくなってしまう危険があります。

反社会的勢力との取引を中止する

取引相手が反社会的勢力だと明らかになったら、すぐに取引を止めなければなりません。取引前に発覚したのなら、すぐに取引を中止してください。また、継続的な取引の最中に、反社会的勢力との関わりが判明したときにも、すぐにその継続的取引を停止するようにします。

企業間の取引は、契約自由の原則がルール。つまり、「反社会的勢力とは契約しない」と決めるのは、各社の自由です。取引を中止し、停止しても、決してマナー違反ではありません。反社会的勢力から「誠意がない」「失礼だ」といった批判を受けたとしても、譲歩してはいけません。顧客として関与されてしまったときにも、相手が反社会的勢力であれば、「お客様扱い」は不要です。

ビジネス上の売買や委託などの取引はもとより、暴力団事務所の賃貸借契約も解除できます。

契約書の暴力団排除条項(暴排条項)にしたがい、即座に契約を解除し、損害賠償や違約金を請求できます。

反社と関与した社員を解雇する

入社時の誓約書や就業規則に反して、企業秩序を乱す社員は、服務規律に違反しています。このとき、社内の秩序を守るため、懲戒処分をはじめとした制裁を下す必要があります。

入社時に誓約したにもかかわらず、反社会的勢力だったと明らかになれば「経歴詐称」といえます。また、入社後に反社会的勢力との関わりを持ったなら、就業規則に定められた服務規律に違反します。懲戒処分や解雇は、権利濫用が許されず、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性がなければなりませんが、反社会的勢力と関与した事実は、これらの条件を十分に満たします。

日頃から、反社会的勢力の排除を基本方針とし、十分な社員教育をしていたならば、これに反する社員の落ち度を責め、強く責任追及することができるからです。

不当解雇については、次の解説をご覧ください。

警察・暴追センターに相談する

反社会的勢力への対応は、企業だけでは困難なケースもあります。一度関与を持つと逃げられなくなり、度重なる不当な要求に応じざるを得ない事態となることもあります。企業による不適切な対策は、逆に、反社会的勢力からの更なる報復のきっかけとなるおそれもあります。

このとき、専門家の助けを借りる必要があります。警察や暴追センター(全国暴力追放運動推進センター)に相談し、その助けを借りて対策しましょう。また、反社扱いして解雇した社員から労使紛争を起こされるなど、法的トラブルに発展してしまうときには、弁護士に相談ください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、反社会的勢力と関わらないために企業ができる対策について、例をあげて解説しました。

反社会的勢力は、メディア報道でもよく取り上げられ、関与するデメリットは十分理解できるでしょう。実際に取引関係にないとしても、少しでも関与すれば、密接な交際を疑われ、企業経営にとってマイナスしかありません。反社会的勢力の側でも、巧妙に騙し、企業に入り込み、甘い汁を吸おうと虎視眈々と狙っていますから、対策が必須です。

暴対法、暴排条例などによる排除が進んでもなお、密接交際や不当要求は根絶されていません。一度でも関与すれば、攻撃対象とされ、底なし沼のごとく抜け出せなくなり、反社に取り込まれてしまいかねません。反社会的勢力に関わらないための予防策にお悩みのとき、ぜひ一度弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 反社会的勢力に関与すると、実害はもちろん企業の信用が低下し、リスクが大きい
  • 反社会的勢力に関わらない対策として社内、社外の双方へのチェックを要する
  • 万が一、反社会的勢力との取引ないし関わりが発覚したら速やかに断絶する

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