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採用面接で聞いてはいけない不適切・違法な質問【弁護士解説】

採用面接のときには会社に「採用の自由」があるため、原則として、どの求職者を採用するか(もしくは採用しないか)は会社側(企業側)が自由に決めることができます。

「採用の自由」の前提として、会社が採否の判断をするにあたって重要と考えることについては、自由に聞くことができる「調査の自由」もあります。

しかし、採用面接で会社側(企業側)の面接官が、「ぜひ聞きたい」「気になる」と思う事項の中には、聞いてはいけない不適切・違法な質問もあります。このような不適切・違法な質問をしてしまったとき、労働者側から争われてトラブルとなるおそれがあります。

今回は、採用面接で聞いてはいけない不適切・違法な質問について、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

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「採用の自由」と「調査の自由」

労働者には、憲法上「職業選択の自由」が認められており、どの会社で働くかは自由です。しかし一方で、会社側(企業側)にも「採用の自由」が認められており、誰を雇うかは会社の自由です。

特に「解雇権濫用法理」のルールによって解雇が制限されていることから、「問題社員」や会社に合わない人を採用してしまうと、なかなか会社を辞めてもらうことが難しいです。そのため、原則としてこれらの人は採用しないことが重要です。

「採用の自由」を実現するため、会社が採否に重要と考える事実は、すべて聞く必要があります。これを「調査の自由」といいます。むしろ、しっかり聞かなければ、労働者が隠していたことを理由に「経歴詐称」として解雇することはできません。

しかし、個人情報保護法が改正され、個人情報の取り扱いが厳しくなる中、採用面接のときに個人情報を聴取することには、慎重な配慮が必要となります。

採用面接における質問を制約する法律

採用面接で違法、不適切と判断される質問は多くありますが、一言一句同じでなくても、要は内容が同じであれば、その質問は許されない質問であるおそれがあります。

そのため、「採用面接で聞いてはいけない質問がどのようなものなのか」を理解するためには、まずは、採用面接で聞いてはいけない質問を制約する法律について理解する必要があります。

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法では、男女の性別を理由とした募集、採用差別が禁止されています。

ただ、採用時には、男女の別は明らかですから、違法な質問とはなりません。

これに対して、男女で差があるような能力、例えば、身長、体重、体力などについて、業務に必要な程度を越えて、採用面接で質問することは不適切です。

労働組合法

労働組合法では、労働組合から脱退する、もしくは、加入しないことを約束しなければ雇用しないとすることが禁止されています。

そのため、憲法や労働組合法の趣旨から、採用の段階であっても、労働組合に加入しているかどうかの回答を求める質問は、すべきではないと言わざるを得ません。

聞いてはいけない質問とは?

ここまでお読み頂ければ、「採用の自由」とはいっても完全に自由ではなく、法律による一定の制限があることが、十分ご理解いただけたことでしょう。

というのも、会社側に「採用」をする権利がある一方で、労働者にも「基本的人権」があり、「基本的人権」は守られなければならないからです。

【基本的な考え方】

会社が、「採用の自由」、「調査の自由」を有しているのは、それが会社の業務に必要であるからです。

つまり、採否の判断に不必要な、業務とは全く無関係な個人情報を収集することは、たとえ採用面接であっても許されません。

「聞いてよい質問なのだろうか。」と採用面接中に迷ったら、この原則に立ち返り、「この質問は、当社の業務に必要なのだろうか。」と検討すればよいこととなります。

例えば、次の点に関する質問は、差別にもつながりかねないことから、業務の目的を達成するのに必要な範囲であるとは到底いえず、聞いてはいけない質問であるといえます。

  • 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
  • 思想及び信条
  • 労働組合への加入状況

本籍、住所に関する質問

本籍、住所に関する質問は、差別につながる可能性があるため、採用面接で聞いてはいけない質問といってよいでしょう。

例えば、「被差別部落」、「在日韓国朝鮮人」の排除などに繋がるからです。

本籍や住所は、自分で変更することは不可能ではないものの、上記のような、生まれ持って変えがたい事項についての差別につながることが、採用面接で質問をひかえるべき理由となります。

家族、財産に関する質問

その人の努力ではどうにも変えられないものについて、採用面接で質問をすることは、原則として不適切であるといわざるをえません。

家族やその財産に関する質問も、その1つです。

特に「家柄」を重視することは、前近代的な身分制による差別を継続することとなるため、採用面接では厳に控えるべきです。

思想、信条、宗教に関する質問

憲法で、思想や信条、考え方、世界観などは、「思想の自由」という基本的な人権として保障されています。

そのため、求職者がどのような考え方であるかによって、採否の判断を変えることは適切ではありませんから、内心に関する質問を採用面接で行うことは不適切であり、ひかえるべきです。

健康情報(HIV、B型肝炎など)

健康情報の中でも、HIVやB型、C型肝炎にり患しているかどうかといった情報は、採用面接で聞くべきではない質問です。

というのも、HIVや肝炎は、業務を行う際にうつる可能性のない病気であって、採否の判断に影響を与えるべきではなく、一方で、労働者にとって非常に隠したい情報の1つだからです。

これに対して、うつ病などのメンタルヘルス疾患にり患しているかどうかという情報は、業務に与える影響が大きいため、採用面接で質問すべきであるといえます。

どうしても質問したいときの注意点

上記のような質問にあたり、聞くべきでないものや、直接は該当しないものの「不適切かも?」と思える質問であっても、どうしても聞きたいというときがあります。

採否に重要な影響をするのであれば、聞くしかないケースも少なくありません。一旦雇用した後ですと、「解雇権濫用法理」によって解雇が難しくなってしまうからです。

そこで、どうしても聞きたい質問があって、違法か不適切か悩む場合には、「当社の業務にどうしても必要不可欠」といえる理由があるかどうかを検討してください。

「必要不可欠」な理由がある場合には、その質問へ回答することがなぜ「必要不可欠」なのかを労働者に説明の上、回答を求めることができます。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、新規採用を考えている会社経営者の方や、採用面接を実際に担当する人事担当者の方に向けて、採用面接で聞いてはいけない違法、不適切な質問について、弁護士がまとめました。

「採用」は基本的には会社の自由であるものの、採用面接で不適切な行為をすると、労働問題の火種となることはもちろん、「ブラック企業」というイメージ低下にもつながります。

採用面接で苦慮されている会社の経営者、担当者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。

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