2019年5月31日に成立した、仮想通貨(暗号資産)に関する重要な法改正に連動して、2019年6月、仮想通貨(暗号資産)に関する金融庁のガイドラインが改訂されました。
仮想通貨(暗号資産)に関する重要な法改正は、資金決済法、金融商品取引法(金商法)等の複数の法律にまたがる改正ですが、この金融庁のガイドラインは、それらの重要な法律についての行政の解釈基準を示すものです。
法律に記載されていない詳しい解釈基準はガイドラインを考慮要素として判断されます。
特に、法改正によって仮想通貨(暗号資産)関連のビジネスに対する法的規制の対象が拡大されたため、今後は金融庁への登録が必要となる企業にとって、今回発表された金融庁のガイドラインの改定はとても重要です。
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金融庁ガイドラインの改訂内容は?(2019年6月)
この度、2019年5月31日に成立した資金決済法・金融商品取引法の改正と並行して改訂された、金融庁ガイドラインの改訂内容は、大きく分けて、以下の2点です。
- これまでの検査・モニタリングで把握した実態や問題点等の反映
- ICOへの監督的規制
第一に、仮想通貨(暗号資産)という新しい概念について、これまでも検査、モニタリングが行われてきて、多くの問題点、注意点が明らかになっています。
「コインチェック事件」が記憶に新しいように、仮想通貨交換業者(暗号資産交換業者)の経営面、管理面における課題解決を行わなければ、仮想通貨の流出などにより、利用者の資産が毀損されるおそれが指摘されています。
第二に、特に、仮想通貨交換業(暗号資産交換業)に該当するICOについて、監督的規制が必要であることが指摘され、金融庁ガイドラインにもこの点の改訂がなされました。
ICOは、新たな資金調達方法として注目を集めているものの、中には、ホワイトペーパーで公約したビジネスが実現困難であったり、そもそもビジネスの実態のなかったり等の詐欺的ICOが少なくなく、行政による監督が急務となっていました。
【ガイドライン改訂1】「仮想通貨(暗号資産)」の該当性
2019年6月に改訂された金融庁ガイドラインでは、「仮想通貨(暗号資産)」に該当するかどうかの判断基準について、解釈がより明確化されました。
このことは、次に解説する「仮想通貨交換業(暗号資産交換業)」に該当して金融庁への登録が必要となるかどうかに影響します。
具体的には、金融庁ガイドラインのうち「仮想通貨(暗号資産)」該当性の項目に、次の記載が追加されました。
1号仮想通貨の該当性に関して、「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」ことを判断するに当たり、例えば、「ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか」、「発行者による制限なく、本邦通貨又は外国通貨との交換を行うことができるか」、「本邦通貨又は外国通貨との交換市場が存在するか」等について、申請者から詳細な説明を求めることとする。
資金決済法にいう仮想通貨(暗号資産)に該当するかどうかを判断するにあたって重要なのが、「不特定の者と、購入・売買できるか。」という点ですが、この解釈が明確化されました。
従前から、「トークン」が「仮想通貨」として法規制の対象となるかが議論されてきましたが、今回上記の点が追記されたことにより、ブロックチェーン等のネットワークを通じて移転可能であれば、「トークン」もまた「仮想通貨」にあたり、資金決済法による規制の対象となることが明らかになりました。
そのため、これまでどのような規制を遵守すべきか明らかでなかった、トークンを発行する方法によるICOを行う事業者も、今後は、資金決済法の規制を受け、仮想通貨交換業(暗号資産交換業)の登録が必要となる場合があります。
【ガイドライン改訂2】「仮想通貨交換業(暗号資産交換業)」の該当性
「仮想通貨(暗号資産)」の定義がより明確化されたことと合わせて、2019年6月に発表された金融庁ガイドライン改訂案では、「仮想通貨交換業(暗号資産交換業)」に該当する事業についても、明確化されました。
具体的には、次の行為について、仮想通貨の交換、売買にあたるものとして、資金決済法に言う「仮想通貨の取引の媒介」に該当することが明らかにされました。
- 契約の締結の勧誘
- 契約の締結の勧誘を目的とした商品説明
- 契約の締結に向けた条件交渉
これまで、法的規制が適用されるかどうか曖昧であった、契約の締結を勧誘する行為や、条件交渉を行う行為についても、これを行うためには仮想通貨交換業(暗号資産交換業)の登録を要することとなります。
合わせて、仮想通貨の売買、交換の勧誘行為として次のような行為を行う場合には、その線引きが具体的に定められています。
「仮想通貨交換業」否定される方向 | 「仮想通貨交換業」肯定される方向 | |
---|---|---|
契約書の受領・回収 | 受領・回収と、形式的な不備の訂正のみ行う事業者 | 形式的な不備の訂正を超えて、内容の確認を行う事業者 |
セミナー開催 | 仮想通貨(暗号資産)に関する一般的なセミナー | 特定の仮想通貨、トークン、ICO等の勧誘セミナー |
チラシ・パンフレット | 単なる配布・交付のみ行う事業者 | 単なる配布・交付を超えて、内容の説明を行う事業者 |
特に、契約書の締結や説明などよりも、より気軽に行われがちな、インターネット上の勧誘行為や、パンフレットを配布する行為等についても、具体的な仮想通貨、トークンの勧誘行為を含む場合には、仮想通貨交換業者(暗号資産交換業者)としての登録を必要とし、金融庁ガイドラインの定める行為規制を遵守しなければならない点が重要なポイントです。
【ガイドライン改訂3】ICOへの対応
金融庁ガイドラインの改訂では、これまで消費者問題が多く起こっており、規制の必要性が叫ばれていたICOについて、監督的観点からの改訂がなされています。
トークンを発行する方法により、法定通貨や仮想通貨による資金調達を行う手法を「ICO」といいます。トークンを売却したり、他の仮想通貨と交換したりすることが「仮想通貨交換業(暗号資産交換業)」にあたり、金融庁の登録が必要であることが明らかにされました。
加えて、ICOを扱う事業者の事業計画の健全性を担保することで、利用者の保護を図るため、次のような規制が金融庁ガイドラインで明記されました。
したがって、今後は、トークンを含む仮想通貨を発行する企業はもちろんのこと、発行者の代わりに販売する者も、ガイドラインに定められた次の行為規制を守って行う必要があります。
発行者自身がトークンを販売する場合
- 仮想通貨事業の適格性、実現可能性や、取り扱うトークンの適法性を審査し、検証しなければなりません。
- 仮想通貨(トークンを含む。)の発行者の情報を顧客に提供するとともに、トークンを保有した者に対してどのような債務を負うかや、トークン販売価格の算定根拠、事業計画、事業の実現可能性について、客観性、適切性のある情報を提供しなければなりません。
- 仮想通貨(トークンを含む。)の発行者の財務状況、トークンの販売状況、事業の進捗状況その他のトークンの売買等の判断に影響を及ぼす情報を、継続的に提供する必要があります。
- トークン販売によって調達した資金を、他の資金と分別して管理し、あらかじめ利用者に対して示した事業の用途にしか用いないようにしなければなりません。
- トークンに利用されるブロックチェーン、スーマートコントラクト、保管するウォレット等、トークンの品質に影響するシステムの安全性を定期的に検証しなければなりません。
- 著しく不適当と認められる数量、価格、その他の条件によるトークン販売を防止するため、日本仮想通貨交換業協会の定める自主規制等、販売価格の妥当性を審査しなければなりません。
発行者に代わってトークンを販売する場合
上記の点に加えて、以下の規制を遵守しなければなりません。- 事業の適格性、実現可能性、トークンの適切性、発行者の財務状況等の審査が、実質的に適格に行われているかを検証する体制を整備しなければなりません。
- 審査を行う部署と営業部門の独立性を担保し、社内の他部署との利益相反を防止する体制を整備しなければなりません。
- 仮想通貨(トークンを含む。)の発行者による情報開示をモニタリングし、利用者に対して用意にアクセスできる体制を整備しなければなりません。
- モニタリングの結果、発行者が利用者保護に必要となる措置を講じていないことが明らかになった場合に、トークンの販売を中止するなど適切な措置を講じなければなりません。
以上の行為規制によって、仮想通貨を発行する企業はもちろん、これを販売、営業する企業もまた、仮想通貨の適切性やICOで約束したビジネスの実現について、無責任なままでは許されません。
そして、規制は、仮想通貨・トークンを販売するときにだけ守ればよいわけではなく、販売後も継続的に実施していかなければならない内容を含んでいます。
今後、仮想通貨交換業者(暗号資産交換業者)に対し、ガイドラインを踏まえた金融庁による定期的な監督、報告の要求が予定されているためです。
【ガイドライン改訂4】監督的視点から導入された改訂点
以上、金融庁ガイドラインの主要な改正点について解説してきましたが、これ以外にも、今回改訂された点は、仮想通貨(暗号資産)の健全性を守り利用者を保護するため、監督的視点から多くの記載が追加されています。
監督的視点から導入された改訂点は、次のような事項です。
- 仮想通貨(暗号資産)が、テロ資金供与やマネー・ローンダリング等に利用可能なものではない適切性を有することの判断基準
- 仮想通貨(暗号資産)を発行する経営陣による経営計画、営業部門・内部管理部門・内部監査部門の統制、各種リスクの管理と、内部監査部門の構築
- 利用者保護のため、利用者の年齢、資産状況等に合わせた取引開始基準、取引限度額等の自主規制
- 分別管理やシステムリスク管理等の内部管理体制の構築を通じた流出リスクへの対応
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今回は、2019年5月31日に成立した資金決済法・金融商品取引法の改正による、仮想通貨(暗号資産)の規制強化にあわせて改訂された、金融庁ガイドラインのポイントについて、弁護士が解説しました。
改訂されたガイドラインには、「トークンが仮想通貨に該当するか。」、「ICO事業者が、仮想通貨交換業の登録を行う必要があるか。」といった、これまで不明確であり議論のあった論点について明確化された部分が多くあります。
今後、仮想通貨(暗号資産)をビジネスに活用する企業は増加することが予想されますが、法規制を遵守せずにビジネスを中止せざるを得ない事態とならないよう、あらかじめ法的検討が必要となります。
仮想通貨(暗号資産)に関する事業を経営する会社は、ぜひ一度、企業法務を得意とする弁護士にご相談ください。
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