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取締役の解任の手続きと、解任した取締役からの損害賠償リスク

取締役を解任せざるを得ないケースがあります。創業期から、事業拡大に邁進してきたメンバーでも、意見の食い違い、性格の不一致が表面化する場面は少なくありません。事業規模の拡大に伴い、初期に活躍した取締役の貢献が、不要となってしまうことも。どうしても退任してもらいたいとき、解任の手続きを踏むこととなります。

取締役の解任は、社員の解雇とは異なり、株主総会の決議によっていつでも可能です。会社は株主のもの、取締役は経営を任されたに過ぎず、信頼がなくなれば解任するしかありません。ただし、正当な理由のない解任だと、解任した取締役から損害賠償を請求され、残任期分の報酬を払わなければなりません。

軽い気持ちで取締役を解任すると、思わぬ不利益を被ることがあります。取締役間の揉め事が社外に漏れると、企業イメージの低下にも繋がります。取締役に退任してもらうには、解任以外にも辞任、任期満了といった方法もあり、解任によるリスクを冒す必要あるタイミングかどうか、よく検討しなければなりません。

今回は、取締役の解任の手続きと、解任した取締役から損害賠償請求を受けるケースの注意点について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 取締役の解任には、労働者としての保護はなく、理由を問わず可能
  • 取締役の解任の手続きは、株主総会の普通決議によって行う
  • 取締役の解任に正当な理由のないときには、損害賠償請求されるおそれがある

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業法務・顧問弁護士サービスを得意とし、使用者側の人事労務の経験が豊富。

会社側の立場で、トラブル解決・リスク対策のサービスを提供。予防法務を中心に、会社側でスピーディに対応します。

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取締役の解任とは

取締役の解任とは、退任させたい取締役を、株主が一方的に辞めさせる手続きです。

株主と取締役との関係は、会社の所有者が、経営についての委託をするという委任契約。そのため取締役の解任は、会社と取締役間で結ばれた委任契約を、会社側から一方的に解除することを意味します。

取締役を解任する理由は問わない

取締役の解任と、社員の解雇は、性質が異なります。取締役の解任は、委任契約の解除なのに対し、社員の解雇は、労働契約の解約。いずれも会社から一方的にする点は共通ですが、社員には適用される労働者保護は、役員には働かず、会社と役員は対等だと考えられているからです。

解雇権濫用法理により解雇の理由は制限され、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でないと不当解雇です(労働契約法16条)。一方、取締役に労働者の保護は働かないので、取締役の解任は、理由を問わず有効となります。取締役を解任すべきケースは、これ以上役員として経営を任せておけないほどの不適切な行為があるケースが典型ですが、それに限りません。経営を任せる基礎となる信頼がなくなれば、理由を問わず解任すべき場面は多くあります。

社員と役員の地位を併せ持つ「使用人兼務取締役」に注意を要します。

使用人兼務取締役のうち、取締役として解任するのみなら労働者の保護はありません。しかし、使用人としての地位も奪って社外に追い出すなら、労働者として保護される結果、合理的な理由がないと解雇は無効です。

取締役の背任行為の責任は、次に解説します。

正当な理由のない解任は、損害賠償を請求される

取締役の解任に、正当な理由のないとき、解任された取締役は、自分の受けた損害について会社に賠償請求することができます。この際に請求できる損害は、取締役に生じた損害であり、主には、解任されると受け取ることのできなくなる、残任期分の報酬が損害となります。

このことから、理由を問わず解任そのものは有効だとはいえ、いかなる場合でもリスクなく解任できるわけではありません。損害賠償による重大なリスクを避けるには、解任に正当な理由があるか、検討しなければなりません。

正当な理由の有無は「取締役を解任したら損害賠償請求されるか」で後述。

取締役を解任する手続きの流れ

次に、取締役を解任する手続きの流れを解説します。

株主総会の招集通知

取締役の解任は、株主総会の決議によってします。そのため、まずは株主総会を開催する必要がありますが、この際、株主に対して招集通知をするのが原則です。株主に、株主総会の参考資料を交付するにあたって、解任の対象となる取締役の氏名、理由を示す必要があります。

注意すべきは、招集通知は、その株主総会で解任する予定の取締役であってもする必要がある点です。感情的な対立から解任に進む場合など、解任する取締役にだけあえて招集通知を送らないケースがあります。しかし、せっかく行った解任決議が、後に無効であるとして争われる原因ともなりかねません。

なお、株主全員の同意があれば、招集通知を省略できます。

株主総会の決議

取締役を解任するための株主総会の決議は、普通決議です。つまり、議決権を行使できる株主の議決権の過半数が参加し、出席した株主の議決権の過半数によって決議できます。この取締役解任の決議要件は、取締役選任の決議要件と同じです(参考:取締役の選任の手続き)。

株主総会における解任決議には、特別な理由は必要ありません(ただし、解任に正当な理由がないとき、取締役から損害賠償請求をされてしまいます)。定款によってこれらの定めを変更できますが、取締役の解任は、企業経営に重大な影響を及ぼすため、解任決議の定足数を3分の1を下回る定めはできません。

なお、株主の利益を保護するため、次の特別なケースでは、決議要件が異なります。

  • 累積投票で選任された取締役の解任
    取締役選任時における少数株主の保護のために、解任の際には特別決議を要する
  • 種類株主総会で選任された取締役の解任
    解任の際にも種類株主総会の決議を要する

取締役解任の訴え

取締役の退任を求める株主が、少数の株式しか有していないと、解任決議が否決されるおそれがあります。このとき、多数派に支持された取締役は、問題があっても辞めさせられなくなってしまいます。そこで、株主総会で解任決議が否定されても、一定の要件を満たす場合には、取締役解任の訴えを起こすことができます。

取締役解任の訴えを起こすには、次のルールをご理解ください。

  • 取締役解任の訴えの条件
    取締役の職務執行に、不正又は重大な法令もしくは定款違反があった場合
  • 取締役解任の訴えを起こせる株主
    議決権の3%以上もしくは発行済株式の3%以上の株式を、6ヶ月前から引き続き保有する株主(議決権を行使できない株主と、解任対象の取締役である株主を除いて算出する)
  • 取締役解任の訴えを起こせる期間
    解任決議を否決した株主総会から30日以内(招集通知をしたが定足数に満たなかった場合も含む)

取締役解任の訴えの被告は、「会社及び解任を求める取締役」の双方とされます。勝訴した場合、判決確定によって当然に取締役の解任の効力が生じ、裁判所の職権で、解任された旨が登記されます。

登記の変更

取締役が解任されたら、登記の変更による公示を要します。商業登記に「解任」と明記されるため、取締役が解任されたと社外に明らかされるリスクがあります。解任された取締役にとっても「問題ある人物だった」というイメージを抱かれやすいデメリットがあります。

取締役の解任は登記から明らかなので、M&AやIPO、追加出資などのタイミングで、デューデリジェンスの対象となります。

解任した取締役から株式を買い戻す必要があるか

取締役が、株主でもあるケースでは、特に注意を要します。解任される取締役が、会社の株式を保有している場合、解任によって取締役を辞めさせることができても、株主でなくすることはできないからです。

会社を離れた元役員が、株主であり続けることは、会社にとって大きなリスクとなります。IPOやM&A、追加出資など、あらゆるタイミングで、株主構成が問題視されるおそれがあり、注意が必要です。

対策として、取締役に株式を与える際に、株主間契約を締結し、「取締役を退任するときには株式を譲渡する」という内容の合意をしておく方法があります。ただ、事前の準備が必要である上に、その取締役が株式を保有した経緯によっては、そのような対策を講じるタイミングがない場合もあります。また、いざ株式を買い戻すタイミングで、会社が自己株式を買い取ろうとするならば、自己株式取得の規制に従う必要があります。

自己株式の取得とその制限について、次に解説します。

取締役を解任したら損害賠償請求されるか

正当な理由のない解任は、損害賠償を請求されると解説しました。そのため、軽い気持ちで解任を進めるべきではなく、事前に、正当な理由があるかどうか、よく検討しておく必要があります。

正当な理由があるケース

損害賠償請求を回避できる「正当な理由」は、次のものがあります。

  • 取締役の職務遂行に法令違反があった場合
    (例:横領、背任行為、セクハラ問題など)
  • 心身の故障などにより、客観的に職務遂行ができない場合
    (例:入院、うつ病、長期の療養を要する場合など)

裁判例では、病気の療養に専念する必要があり、業務遂行ができない状態であった事例(最高裁昭和57年1月21日判決)、監査役が明らかな税務処理の過誤を犯し、著しい能力不足があった事例(東京高裁昭和58年4月28日判決)などで、正当な理由が認められています。

正当な理由がないケース

一方、取締役間での対立などは、正当な理由とはなりません。仲違いや感情的な対立はもちろん、経営方針の違いなども、解任は可能であっても正当な理由はなく、損害賠償を請求されてしまいます。また、取締役の資質や能力についても客観的な判断基準を決め難く、正当な理由とはなりづらい傾向にあります。

むしろ人物の評価は、取締役になる際に十分行うのが通常で、選任時に明らかでなかった事情でなければ、解任の正当な理由とはいえません。また、経営判断の原則により、結果的に会社が損失を負うとしても、その判断過程に誤りがなかったなら、取締役の経営を責めることはできません。

損害賠償請求される金額

正当な理由のない取締役の解任では、取締役は、その損害を請求できます。このとき、請求される金額は、残りの任期分の報酬額(賞与や退職慰労金などがある場合には、それも含む)が1つの基準です。

したがって、任期がまだ長く残るタイミングでの解任では、正当な理由が認められないと、請求される損害賠償が相当高額となるおそれがあります。

取締役を解任する前に、辞任を要求する

取締役の解任が法的には可能な場面でも、強硬に進めれば、損害賠償請求などのリスクも大きいもの。たとえ過半数を有する株主でも、正当な理由が明らかにあるケースでない限り、直ちに解任へ踏み切るのは慎重になったほうがよいでしょう。

そこで、取締役の解任前に、辞任してもらえないか、働きかけをしましょう。強要はできませんが、問題点があると自認しているなら、条件次第では自主的に退任してくれるケースも少なくありません(横領やセクハラなど、役員の側でも大事にしたくないケースもあります)。

取締役でも、自主的に退任でき、自身の意思で身を引くわけですから、法的トラブルが発生するリスクは格段に減らすことができます。場合によっては、退職慰労金の増額など、一定のメリットを与えて交渉する手も有効です。

また、取締役には任期があり、任期満了後に再任の決議をしなければ、取締役から退任させることができます。任期満了による退任もまた、解任の場合とは異なり、損害賠償請求されるおそれはありません。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、取締役を解任するための手続きと、その際の注意点を解説しました。

一度は取締役として選任しても、信頼関係が崩れてしまえば任せ続けられません。取締役は、企業経営における重要なポジションであり、退任すべき理由があるのに解任せず放置すると、会社に損失が及ぶおそれもあります。特に取締役の背任行為が発覚したら、すぐにでも解任すべきです。

とはいえ、正当な理由のない解任は、解任された取締役から損害賠償請求を受けるリスクがあります。リスクも大きい解任は、すぐさま進めるのでなく、まずは自主的な退任を促したり、任期満了まで待って退任させたりするのでは間に合わないか、検討してください。それでもなお早期に解任せざるを得ないとき、事前に弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 取締役の解任には、労働者としての保護はなく、理由を問わず可能
  • 取締役の解任の手続きは、株主総会の普通決議によって行う
  • 取締役の解任に正当な理由のないときには、損害賠償請求されるおそれがある

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