2018年(平成30年)6月29日、「働き方改革関連法」が成立し、2019年(平成31年)4月1日より施行されました。
日本の労働情勢について大きく修正するための流れは、安倍内閣が推進する「働き方改革」により、これまで「働き方改革実現会議」において「働き方改革実行計画」が定められ、2027年までの10年間の長期目標とされてきました。
この政府主導による「働き方改革」で、日本の労働者の働き方を変えるための新ルールの基本となるのが「働き方改革関連法」です。
「違法な長時間労働の抑制」、「同一労働同一賃金」など、大きな社会問題になったり、重要な裁判例が登場したりした問題点も多く、会社側(使用者側)として、「働き方改革関連法」の法改正対応は必須です。
今回は、「働き方改革関連法」と、会社側(企業側)の対応方法のすべてのまとめを、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
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「働き方改革関連法」とは?
働き方改革関連法とは、2018年(平成30年)6月29日成立、2018年(平成30年)7月6日交付された、正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といいます。
合計36本もの法律を改正する内地用となっていますが、特に中心となるのが、次の重要な法改正です。
- 労働基準法
- 雇用対策法
- 労働時間等設定改善法
- 労働安全衛生法
- 労働契約法
- パートタイム労働法
- 労働者派遣法
「働き方改革」という名称で、政府主導で議論が進められてきた、「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現」を目的とした法改正です。
数多く存在する「労働法」の中でも、労働基準法(労基法)、労働安全衛生法(労安衛法)など、特に、刑事罰(懲役刑・罰金刑)のついた規制に関する重要な法律の改正であり、会社側として対応が必須です。
「働き方改革関連法」によって基本的なルールを定められた、「働き方改革」とは、従来より続いていた日本型雇用システムの問題点を明らかにして、これを修正するためのものです。
「働き方改革」が変革の対象としている日本型雇用システムとは、「終身雇用」、「長期雇用慣行」を背景とし、勤続年数によって賃金評価を行うシステムのことをいいます。
時代の変化にともない、経済のグローバル化の進展、多様なサービスの充実により、これら日本型雇用システムのみに頼りきることなく、業務の効率化、外部労働市場の活用、成果による賃金評価など、あらたな考え方の導入を進めるのが「働き方改革」なのです。
参考
政府主導で推進される「働き方改革」ですが、会社側(企業側)としては「対応するためのハードルが高い。」、「迅速に対応することが困難。」という不満の声もあります。
しかし、「働き方改革」を無視した企業は「ブラック企業」のレッテルを貼られかねないことはもちろん、「働き方改革関連法」に違反する「違法な長時間労働」は、刑事罰の対象となります。
「働き方改革関連法」の改正点まとめ
「働き方改革関連法」に対して、会社側(使用者側)がどのように対応したらよいかを知るために、「働き方改革関連法」の主要な改正点をまとめました。
特に、「働き方改革関連法」の中でも、特に重要であり、会社経営者が真っ先に対応しなければならないポイントが、「長時間労働の是正」です。各項目について、弁護士が解説します。
「働き方改革」の基本法
雇用対策法が改正され、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)と改称され、「働き方改革」の基本法と位置付けられることになりました。
少子高齢化、労働力人口の減少など、経済情勢の急激な変化に対応するために、国が労働施策を総合的に講じることを定める法律であり、あくまでも国の政策や姿勢を表すのが、雇用対策法です。
そのため、会社側(使用者側)が直接対応することが義務付けられる性質のものではありません。
労働時間の上限規制
「長時間労働の是正」と、過重労働により貴重な労働力が失われることを防止することを目的として、「働き方改革関連法」では、「労働時間の上限規制」が、新たに法律に明文化されました。
これまでは、36協定に記載できる上限時間についての「告示」という形で定められていた時間外労働(残業)の限度時間が、労働基準法(労基法)にルール化され、違反に対しては労基法違反の刑事罰が科され得ることとなりました。
労働基準法(労基法)に定められる、「労働時間の上限規制」は、次の通りです。
- 1か月45時間
- 1年360時間
臨時の場合に、これを超えて働かせることのできる「特別条項」についても、「告示」から「法律」へと格上げされ、「特別条項」を利用することが許される「特別の事情」についても厳格に定められることとなりました。
働き方改革関連法の「労働時間の上限規制」は、大企業について2019年4月1日、中小企業について2020年4月1日より施行されます。
月60時間超の特別割増率の適用猶予廃止
労働基準法(労基法)において、月の時間外労働時間が60時間を超える場合には、特別割増率(50%以上)による割増賃金(残業代)を支払わなければならないこととされています。
中小事業主については、これまで、この特別割増率について、適用の猶予が続けられてきましたが、この度の働き方改革関連法により、適用猶予が廃止されることが決まりました。
働き方改革関連法の「月60時間超の特別割増率の適用猶予廃止」は、中小事業主について、2023年4月1日より施行されます。
フレックスタイム制の清算期間上限の延長
「働き方改革」においては、生産性向上と、働き方の柔軟化が、大きな課題となっていました。「テレワーク」や「副業・兼業」などが推進されていたことも、記憶に新しいのではないでしょうか。
働き方改革関連法では、フレックスタイム制の清算期間の上限を、従来の「1か月」から「3か月」に延長することとなりました。
これにより、これまで利用があまり進んでいなかったフレックスタイム制を浸透させ、育児や介護との両立を志向するなど、女性・高齢者・外国人といった多様な労働職の掘り起こしが期待できます。
日本的雇用慣行を排し、硬直的な労働者像から脱却して、より柔軟な働き方を認めるための改正です。
働き方改革関連法の「フレックスタイム制」の改正は、2019年4月1日より全企業に施行されます。
高度プロフェッショナル制度(高プロ)
「働き方改革」では、「長時間労働」に頼らない生産性の向上が、課題とされています。業務効率を改善するとともに、評価体制を整備しなければなりません。
この中で、「労働時間」によって仕事の成果を評価するのにふさわしくない労働者に対しては、労働時間規制の適用を除外することが必要となり、導入されるのが「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」です。
一定の年収要件(年1075万円以上)を満たし、高度の専門知識を要する業務に従事する労働者について、労働時間・休憩・休日・深夜割増の規制を適用しないこととする制度です。
働き方改革関連法の「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」は、2019年4月1日より全企業に施行されます。
年次有給休暇の時季指定義務
労働者の健康確保のため、これまで消化率が決して高いとはいえなかった有給休暇を、できるだけ取得させる努力をさせようと、「働き方改革関連法」で導入されたのが「年次有給休暇の時季指定義務」です。
会社に対して、年休取得促進のため、年間の有給付与日数が10日以上の労働者に対して、5日の有給休暇を時季を定めて取得させる義務を負わせるものです。
なお、この義務を適切に果たしているかチェックするためには、社内の有給休暇の取得状況を把握する必要があるため、「年次有給休暇管理簿」の作成も義務化されました。
働き方改革関連法の「有給休暇の時季指定義務」は、2019年4月1日より全企業に施行されます。
同一労働同一賃金
「同一労働同一賃金」とは、正社員であるか、パート・アルバイト・派遣・契約社員などの非正規社員であるかにかかわらず、同じ労働をしている人に対して、同じだけの賃金を保証するルールのことです。
正規社員と非正規社員の、不合理な待遇格差を是正するための改正です。
従来は、非正規労働者のうち、有期雇用労働者は労働契約法、パートタイム労働者はパートタイム労働法、派遣労働者は労働者派遣法で保護されていましたが、「働き方改革関連y法」では、「パートタイム・有期雇用労働法」に統一され、有期雇用者とパートタイム労働者を、1つの法律で統一的に保護することとなりました。
この中で、「均衡待遇」が必要となり不合理な待遇差が禁止されるとともに、「均等待遇」が必要となり差別的取り扱いが禁止されることとなりました。
働き方改革関連法の「同一賃金同一労働」は、大企業について2020年4月1日、中小企業について2021年4月1日より施行されます。
その他の改正
以上、「働き方改革関連法」の重要な改正について、弁護士がまとめました。これ以外にも、「働き方改革関連法」では、会社側として対応が必要となる、さまざまな改正が行われています。
- 産業医の権限強化
- 医師による面接指導の拡充
- 電子的手法による労働条件明示
- 労働時間設定改善法の改正(勤務間インターバル導入の努力義務)
働き方改革関連法のうち、労働安全衛生法、労働時間設定改善法の改正は、2019年4月1日より全企業に施行されます。
「働き方改革関連法」への対応はいつ?施行日は?
会社側(使用者側)で、「働き方改革関連法」の法改正に対応するにあたって、「いつまでに対応したらよいのか」を知る必要があります。法律の「施行日」に合わせて対応をしなければなりません。
働き方改革関連法の施行日は、次の表をご覧ください。
改正内容 | 施行日(大企業) | 施行日(中小企業) |
---|---|---|
労働時間の上限規制 | 2019年4月1日 | 2020年4月1日 |
月60時間超残業の特別割増率の適用猶予廃止 | - | 2023年4月1日 |
フレックスタイム制の清算期間の上限延長 | 2019年4月1日 | 2019年4月1日 |
高度プロフェッショナル制 | 2019年4月1日 | 2019年4月1日 | 年次有給休暇の時季指定義務 | 2019年4月1日 | 2019年4月1日 |
同一労働同一賃金 | 2020年4月1日 | 2021年4月1日 |
労働安全衛生法・労働時間設定改善法の改正 | 2019年4月1日 | 2019年4月1日 |
施行日が、中小企業とそれ以外の大企業とで別れているものがあります。この中小企業とは、「中小企業基本法」で定義されるものと同様とされており、次のとおりです。
業種 | 資本金または出資総額 | 常時使用する労働者数 |
---|---|---|
小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
「資本金額または出資総額」と「常時使用する労働者数」は、いずれか片方の要件を満たせば、中小企業に該当します。
会社が「働き方改革」に対応する方法
今後「働き方改革関連法」について、会社側がどのように準備し、対応していけばよいのか、おおまかな施行予定とスケジュールをご理解いただけたでしょうか。
「働き方改革関連法」への対応方法の詳細は、今後も、政省令、ガイドラインなどが整備されていく可能性があり、その都度、対応方法に修正が必要な可能性があります。
また、「働き方改革関連法」によって改正された部分について、裁判例の先例の蓄積がまだ十分ではなく、議論されつくしていない点も多くありますので、今後の同行にも注目が必要です。
刑事罰のある改正への対応を優先する
会社が「働き方改革」に対応するにあたっては、社会問題化し、特に重要視されている「長時間労働の是正」に関する改正項目について、優先的に対応するようにしてください。
特に、「長時間労働の是正」のうち、時間外労働の上限規制については、これを超える労働をさせた場合、逮捕・送検されて刑事罰を科されるなど、厳しい制裁(ペナルティ)が予想されます。
対応の専門部署を設置する
「働き方改革」に、適切かつスピーディに対応していくためには、会社規程の変更、会社内の制度の見直しなど、多くの業務が発生することが予想されます。
「働き方改革関連法」の改正項目に適切に対応するためには、従来の体制では間に合わないおそれもあります。
「働き方改革」対応の専門部署を設置するか、もしくは、人事、総務といった管理部門の人員を増員するといった対策をご検討ください。
弁護士のサポートを受ける
「働き方改革」のために専門部署を設置したり、増員したりすることを予定していないとしても、外部の専門家(弁護士、社労士など)のサポートを受けながら対応することもできます。
「働き方改革関連法」の改正内容には、複雑なルールも多く存在し、これを読み解き、正しく理解するためには、法律についての知識・経験が必要となります。
また、あわせて、改正に形式的に対応するだけでなく「働き方改革」の本質を理解し、長時間労働の必要ない「業務の効率化」、「生産性の向上」についても、弁護士のサポートが有益です。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、政府主導で推進される「働き方改革」の一環として、2018年6月28日に成立した「働き方改革関連法」と会社側(使用者側)の対応方法について、弁護士がまとめました。
「働き方改革関連法」は、長時間労働の是正、同一労働同一賃金など、社会問題化し、重要な裁判例も登場している点についての改正を含むもので、会社にとって対応が急務となります。
社内における「働き方改革関連法」への対応状況に不安がある会社は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早目に法律相談ください。
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