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職場の受動喫煙防止対策と、会社の安全配慮義務【弁護士解説】

「受動喫煙」が、社会的に問題視されています。

「受動喫煙」は、自分が喫煙者でないにもかかわらず、喫煙者のタバコの煙を吸うことです。喫煙者が吸っている「主流煙」より、非喫煙者が受動喫煙する「副流煙」のほうが肺がんリスクが高いとされているため、大きな問題となっています。

職場は1日の大半を過ごす場所あり、「受動喫煙」が蔓延する劣悪な職場環境だと健康状態が大きく害されます。会社は、雇用する社員を健康で安全にはたらかせる義務(安全配慮義務・職場環境配慮義務)を負っており、「受動喫煙」などの喫煙トラブルが起こらないよう、社内で対策が必要です。

今回は、会社が行うべき職場の受動喫煙対策、喫煙トラブルの予防法について、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

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職場の「受動喫煙」の問題点

「受動喫煙」とは、自分が喫煙者でなくても、喫煙者がタバコを吸っている近くにいることで、自分の意思とは無関係にタバコの煙を吸ってしまうことです。昨今の社会情勢として、タバコが身体に害であることが問題視されており、法律・条例により喫煙者と非喫煙者の分離が進んでいます。

会社には、雇用する労働者を健康で安全な職場で働かせる義務(安全配慮義務・職場環境配慮義務)があり、これに違反して社員に損害を与えれば、慰謝料、損害賠償を請求されるおそれがあります。

まず初めに、職場の「受動喫煙」の問題点について、弁護士が解説します。

職場からは逃げられない

職場環境は、雇用されている労働者が自分で選ぶことができないため、会社が責任をもって整える義務があります。

タバコが嫌だからといって、仕事を辞めて逃げるわけにはいかないからです。

「受動喫煙」の対策を全くしなかった結果、健康であった社員が「肺がん」などにり患すれば、会社が責任を負う可能性もあります。

「副流煙」は「主流煙」よりも有害

「受動喫煙」は、非喫煙者が、喫煙者の吸ったタバコの煙を吸うことによって起こる被害ですが、特に問題なのは、受動喫煙によって吸う「副流煙」が、喫煙者の吸う「主流煙」よりも有害である点です。

タバコにはフィルターがあり、有害物質を一定程度除去してくれています。しかし、タバコのフィルターは、喫煙者が吸う側にしかついていません。

「副流煙」に含まれる有害物質は、「主流煙」の2倍~4倍にもなるといわれており、職場のタバコによる被害は、「スモハラ(スモークハラスメント)」ともいわれ問題視されています。

肺がん・脳卒中・心疾患のリスク

「受動喫煙」の被害によって、副流煙を吸い続けることによって、肺がん・脳卒中・心疾患といった重大疾病のリスクが、とても高まることが明らかになっています。

特に、職場の場合にはさまざまな人が働いており、中には、「受動喫煙」による被害がとても大きくなってしまう次のような類型の人もいます。

  • 循環器系、呼吸器系の疾患をもった従業員
  • 妊娠中の女性従業員
  • 未成年の従業員

受動喫煙について、会社の法的責任は?

さきほど解説しましたとおり、会社側(使用者側)にとって、「受動喫煙」を放置しておいて大きな被害が発生した場合には、安全配慮義務違反の責任を問われるおそれがあります。

「受動喫煙」が社会的に問題視されていることから、「受動喫煙」による被害が起こってしまわないよう会社が対策をするにあたって、注意しておかなければならない法律は多くあります。

安全配慮義務違反

「安全配慮義務違反」とは、会社が、労働者を、職場において健康で安全に働かせなければならない、という義務への違反です。

これは、民法という一般的な法律に定められた、雇用契約上の「債務不履行」というお話になります。

労働者の安全に配慮せずに、「受動喫煙」による被害を放置しておくと、被害にあった労働者から、会社が慰謝料請求を受けてしまう危険があります。

健康増進法(2018年7月改正、2020年4月施行)

「健康増進法」は、国民の健康と、現代病の予防のために制定された法律です。

基本的な内容は、国民が、自身の健康増進に努めなければならない義務を定めた上で、国、地方公共団体、医療機関などがこれに協力する義務を定めています。

「健康増進法」の25条では、次のとおり、受動喫煙についての対策を行うべき国の努力義務を定めています。

健康増進法25条

国及び地方公共団体は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙に関する知識の普及、受動喫煙の防止に関する意識の啓発、受動喫煙の防止に必要な環境の整備その他の受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進するよう努めなければならない。

さらに、健康増進法では、多数の人の利用するなど「受動喫煙」による被害が深刻となりやすい一部の施設について、範囲を定めた禁煙を義務化しています。

第一種施設
(子ども・患者に特に配慮が必要な「学校」・「病院」等)
敷地内禁煙
第二種施設
(上記以外の施設。ただし、既存の小規模飲食店には経過措置あり)
原則屋内禁煙
(喫煙を認める場合には、喫煙室などの設置が必要)
喫煙目的施設 施設内で喫煙可能
屋外や家庭など 喫煙する場合、州委の状況に配慮

この図表のとおり、会社の職場内というのは「第二種施設」にあたるため、原則として社内で禁煙をすることはできないこととなります。

また、経営者の判断によって、会社内での禁煙を認める場合であっても、喫煙専用室を設置するなど、非喫煙者の「受動喫煙」の被害に配慮した対策が必要となります。

労働安全衛生法

2015年(平成27年)6月より、労働安全衛生法によって、労働者の健康保持、増進のために、すべての会社(事業者)には、職場の受動喫煙防止対策を実施する「努力義務」が課せられています。

労働安全衛生法において、「受動喫煙」について定めた条項は、次のとおりです。

労働安全衛生法68条の2(受動喫煙の防止)

事業者は、労働者の受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。第七十一条第一項において同じ。)を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。

労働安全衛生法のルールについても、「努力義務」であることから、違反したからといって、罰則などの強制力があるわけではありません。

とはいえ、努力義務を怠ったことによって、労働者の健康を侵害したといった場合には、安全配慮義務違反にもとづく損害賠償請求などを行われるおそれもあるため、対策を講じる必要があります。

「努力義務」とはどのようなものか、適切な対応については、こちらもご覧ください。

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職業安定法施行規則(2020年4月施行)

厚生労働省は、職業安定法施行規則を改正して、会社(企業)に対して、どのような受動喫煙対策を講じているかを、採用・募集において明示することを義務化しました。

この際に、喫煙場所が屋内であるか、屋外であるかや、喫煙室の有無などを明示することで、「受動喫煙」による被害を抑制しようというのが狙いです。

したがって、先ほど解説した健康増進法の施行と同時に、2020年4月より、求人のときには、労働時間・賃金などの労働条件と同様、受動喫煙対策を明示しなければなりません。

会社が行うべき受動喫煙対策の方法は?

ここまでお読み頂ければ、労働法の法律上はもちろんのこと、実際にも、会社側(使用者側)が「受動喫煙対策」を行うことの重要性は、十分にご理解いただけたのではないでしょうか。

そこで、具体的には、どのような受動喫煙対策を行ったらよいのかについて、会社側の労働問題に詳しい弁護士が順に解説します。

職場の喫煙状況の調査

会社として「受動喫煙対策」をどの程度徹底して行う必要があるのかを判断するために、まずは、職場で喫煙する習慣のある社員(従業員)がどの程度いるのか、アンケートをとり、調査します。

そもそも、喫煙者が1人もいないとか、少なくとも職場でタバコを吸う人がいないのであれば、「受動喫煙対策」は不要なケースもあるからです。

具体的には、次の項目について調査が必要です。

  • 現在の従業員の喫煙状況・喫煙場所
  • 呼吸器系・循環器系疾患、妊娠している女性従業員などの受動喫煙の状況
  • 来訪者の喫煙状況・喫煙場所

屋内の全面禁煙

会社の職場の屋内で、喫煙をすると、職場内にタバコの煙が滞留し、多くの非喫煙者が「受動喫煙」の被害に遭うことが予想されます。

そこで、会社の職場内では、喫煙をしてはならないというルールを定めることが考えられます。「屋内禁煙」のルールは、全社員に適用されるものであることから、就業規則に定め、周知徹底しておくのがよいでしょう。

なお、会社外、屋外に出てタバコを吸うとき、吸い殻が散らかることは問題ですから、「屋内禁煙」ルールを徹底するときは、屋外喫煙所を準備する必要があります。

喫煙室・換気設備の設置

屋内での喫煙を許す場合には、タバコの煙が、非喫煙者のところに届かないような工夫をする必要があります。いわゆる「分煙」です。

「分煙」といっても、喫煙者と非喫煙者のスペースを分けたり、席順を変更する程度では、エアコンや空調の流れによっては「受動喫煙」の被害は避けられません。

そこで、屋内での喫煙を許す場合には、「喫煙室」を設置し、完全にタバコの煙を遮断するのがよいでしょう。

受動喫煙対策の教育

会社が、受動喫煙対策のための職場環境を整えたとしても、実際に喫煙をする社員に「受動喫煙」についての知識がないと、対策が完璧とはいえません。

せっかく設置した喫煙室も、利用されなければ何の意味もありません。

会社側の受動喫煙対策を正しく実施してもらうために、従業員(特に管理職)に対して、喫煙をするときに必要となる配慮について、研修をして教育する必要があります。

喫煙トラブルを予防するために

「タバコ」にまつわる喫煙トラブルは、「受動喫煙」の問題だけにとどまりません。

タバコは、従来は、「嗜好品」、つまり、「個人の好みだ。」として、あまり踏み込まれてきませんでしたが、不快感、嫌悪感を抱く人の意見が強くなってきたことから、「個人の自由」とだけいって放置することは不適切です。

特に、次のような喫煙トラブルは、会社の秩序にもかかわる、非常に重要な問題です。

  • タバコ休憩は、労働時間に含まれるのか(賃金が支払われるのか。)。
  • タバコ休憩をとったことにより業務が終わらなかった場合、残業代が支払われるのか。
  • 頻繁にタバコ休憩をとって生産効率を下げる社員を罰することができるのか(懲戒処分、解雇など)。
  • タバコ休憩といつわってサボる社員に、どのような制裁を科したらよいのか。

参考解説

たかが「タバコ」の問題と、軽く見ていると、思わぬトラブルの火種となりかねないため、注意が必要です。

会社側(使用者側)が、毅然とした態度と方針を明確にし、社員(従業員)に対して周知徹底し、喫煙トラブル対策を行うことが、紛争の未然防止に役立ちます。

受動喫煙対策への支援・助成金

東京都では、健康増進の観点から、受動喫煙防止対策を、より一層推進していくために「東京都受動喫煙防止条例」の制定を検討しています。

その内容は次のとおりであり、違反に対しては過料を科すなどの制裁(ペナルティ)も検討されています。

  • 未成年者や患者が利用する医療施設、学校などは敷地内禁煙
  • 不特定多数が利用する官公庁や大学は屋内禁煙
  • ホテル・旅館・職場など事業所や飲食店、娯楽施設は原則屋内禁煙)

東京都で条例制定まで検討されているとおり、今後は、受動喫煙防止の流れがますます加速していくことが予想されますから、企業側(会社側)としても対策を考えないわけにはいきません。

簡単に「受動喫煙対策」とはいっても、会社側(使用者側)が十分に義務を果たそうとすれば、「喫煙室」の設置、「屋外喫煙所」の設置など、相当の費用がかかります。

そこで、これらの設置に必要な経費の半額を支給する「受動喫煙防止対策助成金」など、国の支援制度を利用する手があります。

受動喫煙防止対策助成金

厚生労働省では、会社(企業)が受動喫煙防止対策を行うときに必要となる費用の一部を支援するため、助成金が設定されています。これが、「受動喫煙防止対策助成金」です。

受動喫煙防止対策助成金は、上限200万円まで、受動喫煙防止の対策に必要となった費用の2分の1を助成するという制度で、その要件は、次のとおりです。

  • 中小企業事業主であること
  • 事業場室内及び準じる環境において、受動喫煙防止措置を講じた区域以外を禁煙とすること
  • 「喫煙室の設置・改修」、「屋外喫煙所(閉鎖系)の設置・改修」、「換気装置の設置(宿泊業、飲食業のみ)のいずれかの措置を講じること

申請手続きなどは、所轄の都道府県労働局に対して行うこととされています。

厚生労働省の支援事業

厚生労働省では、職場の受動喫煙防止対策に取り組む企業(会社)に対して、支援を行っています。

例えば、さきほど解説した「受動喫煙防止対策助成金」の申請書類の書き方、要件についての満たし方など、助成金の申請を検討している会社にとってありがたいものです。また、測定機器の無料貸し出しも行っています。

受動喫煙防止対策は、職場環境に応じて、風速、粉塵、換気量などについての専門的な知識も必要となるケースがあることから、支援事業の活用を検討するのがよいでしょう。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、2020年4月より改正健康増進法が施行されるなど、最近話題となっている職場の「受動喫煙対策」と喫煙トラブルの予防について、弁護士が解説しました。

「タバコ」の問題に対する考え方は、時代によって変化しています。最近では、健康被害が明らかになっており、会社が対策することは必須です。年配の経営者ほど、「タバコ」の問題について軽視しがちですが、時代の変化に敏感にならなければいけません。

職場内の労働環境について、お悩みのある会社の方は、ぜひ一度、企業法務を得意とする弁護士にご相談ください。

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