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【書式】LINEスタンプ制作業務委託契約書のポイントを弁護士が解説!

「LINE」というスマートフォンアプリを知らない人はもはやいないでしょう。

個人間でのコミュニケーションの中心は、電話からメール、メールからチャットへと移行しており、現在コミュニケーションの大半を占めるのが、LINEによる連絡です。

LINEでのコミュニケーションが優れている点として、スタンプによって、自分の感情を、相手に簡単に伝えることができるというメリットがあります。

LINEスタンプは、既製品でもたくさん売っていますが、自分のお気に入りのスタンプを制作しようと思えば、スタンプ制作を事業としている会社やフリーランスのクリエイターに業務委託することとなります。

フリーランスのクリエイターやデザイナーは、LINEの隆盛をチャンスに、クリエイタースタンプを制作し、ヒットさせれば高額の売上をあげることも可能です。

特に、法人の依頼を受けて、営業用のスタンプを制作する場合、「制作業務委託契約書」を作成してリスクを回避すべきでしょう。

今回は、LINEスタンプの制作を委託する際の、「業務委託契約書」のポイントを、企業法務を得意とする弁護士が書式付きで解説します。

目次(クリックで移動)

1. 契約書が必要な理由

フリーランスのクリエイターやデザイン会社にとって、LINEスタンプ制作業務は、大きなビジネスチャンスです。

LINEスタンプを制作し、クリエイターズマーケットで販売するためには、フリーランスのクリエイターや、デザイン会社などにデザイン制作を業務委託するのが一番簡単だといえるからです。

LINEスタンプの制作を受注する際に、「LINEスタンプ制作業務委託契約書」を結んでおかなければ、思わぬ不利益をこうむるおそれがあります。

万が一契約当事者間でトラブルが発生したときに、当事者間のルールを証明し、自社側に有利な事情をなるものは、契約書が最重要であるためです。

契約書がない場合には、打合せの議事録、契約交渉の際のメールやLINEのやりとりなどの証拠から判断するしかありませんが、敗訴してしまえば、予想していたより多くの業務を強いられたり、納品をしたのに代金が得られなかったりするリスクがあります。

2. 【書式】LINEスタンプ制作業務委託契約書

LINEスタンプのデザインを受注するとき、この契約の内容は、「業務委託契約」となります。

法律上の性質は、「請負契約」と考えるのがよいでしょう。

「請負契約」とは、納品物の「完成」を目的とし、納品物が完成したあとに報酬の請求をすることができるという、民法上さだめられた契約です。

2.1. 契約のながれ

「LINEスタンプ制作業務委託契約」は、一般的に、発注者となる個人・法人と、受託者となるデザイナー、デザイン会社との間で締結されます。

この契約を証明する重要な書類が、「LINEスタンプ制作業務委託契約書」です。

契約を締結する際には、まず、後ほど詳しく解説する条項の順に、契約の内容を、当事者間で話し合って決めるようにしてください。

契約の内容が具体的に決まりましたら、これを契約書に反映し、署名・押印をします。

契約書は2部作成し、それぞれが1部ずつ保管するようにすることがオススメです。

2.2. 契約書の条項

次に、具体的な書式とともに、どのような契約書を締結すべきかを、弁護士が解説します。

ただし、ここで紹介するものはあくまでも一般的な例であって、どのような契約書が適切であるかは、ケースバイケースでの検討が不可欠です。

2.2.1. 委託業務の範囲

 第1条(委託業務の範囲) 

1.甲は、乙に対して、次の通りのLINEスタンプ制作業務を委託し、乙はこれを受託する。
①・・・
②・・・
③・・・
2.乙は、本件業務の履行に際し、善良なる管理者の注意をもって行うものとする。

まず、「委託業務の範囲」を定めるようにしてください。

「委託業務の範囲」を定めるにあたっては、一義的に明らかとなるよう、「提案、制作、修正」のいずれの段階を委託するのか、また、追加費用が生じる業務があるのかといった点に注意して定義をするようにします。

契約書内で複数回登場する単語がある場合には、「定義条項」を記載するケースもあります。

2.2.2. 報酬

 第2条(報酬) 

甲が乙に対して支払う制作料金は金〇〇〇円(税込)とし、LINEスタンプ納品時に、指定の口座に振込送金して支払う。

報酬の金額、支払方法について定めてください。

報酬の金額が確定しない場合には、その計算方法を記載します。レベニューシェア方式の場合は、報酬の割合、計算方法を契約書に記載します。

納品が「分割納品」の場合には、それぞれのスケジュールを具体的に決めてください。

そして、報酬を納品スケジュールにあわせて分割して受領するという契約書の決め方もありますので、参考にしてみてください。

追加で報酬の支払が必要な場合には、追加報酬の発生条件を明確にし、しっかり理解を求めるようにしておきましょう。

2.2.3. 知的財産権

 第3条(知的財産権) 

1.甲は、乙に納品するLINEスタンプが、第三者の知的財産権を侵害していないことを保証する。
2.甲の納品するLINEスタンプの知的財産権は、甲に帰属するものとする。

通常のLINEスタンプであれば、著作権は、スタンプ制作を依頼したものに帰属するという例が多いのではないのでしょうか。

ただし、製作者に著作権を帰属させる例もあり、契約交渉による調整が必要です。

知的財産権については、非常に難しい問題であるため、後ほど詳しく解説します。

2.2.4. 契約解除・損害賠償

一般的な契約書と同様に、契約違反など、契約をこれ以上継続することが困難な事情がある場合に契約を中途解約できる旨の条項を記載しておきます。

そして、契約違反などによって損害を負った場合には、その賠償請求ができる条項も確認しておきましょう。

2.2.5. 誠実協議・合意管轄

万が一、契約にともなう問題についてトラブルとなった場合であっても、まずは誠実に話し合うべきであるという内容の「誠実協議条項」を定めます。

そして、協議では解決できなかった場合の合意管轄について定めておきましょう。

3. LINEスタンプ制作業務委託契約のポイント

LINEスタンプの制作業務の委託を受ける場合には、通常の契約にもまして慎重に注意しなければならないポイントが多く存在します。

インターネットビジネスは新しい世界であり、特にLINEスタンプは最近出現した新しい商品・サービスであるため、「一般的なルールとしてこのようにすべき!」というルールが、まだあまり確立しきっていないためです。

新しいビジネスに進出するときは、たとえフリーランスの個人であったとしても、リスクの検討は十分に行わなければ、思わぬ損害を負うことにもなりかねません。

3.1. 業務の範囲を明確にする

まず、業務委託契約の一般的な注意事項でもありますが、特にLINEスタンプ制作の依頼を受ける際に注意しておいていただきたいことが、「業務の範囲を明確にする」ことです。

「業務委託契約書」に記載した「業務の範囲」は、「この範囲の業務を行わなければクリエイター、デザイナー側が責任追及をされる。」という債務不履行の範囲を定めるとともに、「これ以上の業務は行わなくてもよい(追加費用が必要である。)。」という免責の範囲を定める意味があります。

LINEスタンプは新しいサービスであり、LINEスタンプの制作を依頼したら「この程度の仕事は必ずやるべき。」ということが法律上記載されているわけではありません。

LINEスタンプの制作の中には、次のような多くの業務が含まれていますから、範囲の確定は必須であることは理解いただけるでしょう。

  • 制作サイドからのデザインの提案
  • デザインの複数回の提案
  • 発注者からの指示による修正
  • スタンプの種類に応じた変形
  • スタンプセリフの提案、アドバイス
  • 追加制作の点数
  • LINEクリエイターズマーケットへの登録

制作サイドからすると、今回の契約書に定めた報酬で、どこまでの仕事を行うのかが明確になっていなければ、後にトラブルの火種となります。

特に、次に解説します「LINEスタンプ特有の業務」は、顧客の理解が不十分であり、制作サイドの説明が不十分であったことによって大きなトラブルともなりかねませんから、慎重な対応が必要です。

3.2. LINEスタンプ特有の業務に関する説明

LINEスタンプの制作では、LINEの利用規約に従う必要があります。

スタンプのデザインを作成しただけではLINEでスタンプを使うことはできず、LINE上で利用するためには、スタンプの点数を準備し、LINEの利用規約に合せて修正し、クリエイターズマーケットに登録しなければなりません。

このことを理解していない発注者が、クリエイターズマーケットへの登録を別料金とされたことでクレーマーに変身するというおそれもあり、きちんと説明して理解を求める必要があります。

特に、「リジェクトされたスタンプ分の追加制作や修正」、「クリエイターズマーケットへの登録代行」が別途料金かどうかは、契約書で明確にしておくと共に、契約時にしっかりと説明しておきましょう。

3.3. 発注者にスタンプ作成の権利があるか?

企業の公式スタンプの作成を依頼されたり、有名人やタレントのスタンプ、アニメやゲームなどのスタンプを依頼された場合には、「発注者にスタンプ作成の権利があるか?」の検討が必要となります。

というのも、これらの写真、イラストには、別に権利者がいて、依頼者の権利だけではスタンプを作成できない場合があるからです。

このことは、その有名人、タレント自身であっても、所属事務所との間の契約内容によっては作成できないこともありますから、十分注意してください。

スタンプ作成の依頼を受けるデザイナー、クリエイターが注意しておかなければならない権利は、次のようなものです。

  • 著作権
    :有名なキャラクター、イラスト、絵画、写真など
  • 肖像権
    :有名人、芸能人など
  • 商標権
    :企業ロゴなど

権利が第三者にありそうなデザインのスタンプを制作する際には、スタンプを制作する権利があるかどうか、事前に確認しておいてください。

芸能人を雇用する際の注意点は、次の解説をご覧ください。

3.4. スタンプの著作権や利用条件

LINEスタンプの制作を発注した側からすると、自分が制作を委託したスタンプは、「無条件に利用できるのが当然だ。」と考えていると思います。

注意しておかなければならないのが、「スタンプの著作権」と、「利用条件」です。

スタンプの著作権について、制作を委託した側に帰属すると契約書に定めておくのが通常でしょう。

というのも、デザイナー、クリエイター側が著作権を持つこととなると、委託者は自由にスタンプを使用することが制限されてしまうからです。

著作者には「著作人格権」という、利用を差止めすることのできる強い権利がありますが、これをクリエイター、デザイナーが行使できることとなると、スタンプの自由な利用の支障となるため、オススメできません。

加えて、「利用条件」についても「業務委託契約書」内に明記しておきましょう。この「利用条件」を契約書に定めることには、2つの目的があります。

  • 公序良俗違反の不適切な利用がされた場合に、スタンプ制作者の責任を回避するため。
  • 二次使用、転売により、デザイナーの利益を侵害されないため。

デザイン性の高いスタンプの場合、一部を修正、変形して、二次使用や転売されてしまえば、デザイナー、クリエイターの利益が減ることとなります。

特に二次使用を予定していた場合でなければ、「業務委託契約書」で禁止しておくのがよいでしょう。

4. 契約書作成を弁護士に依頼するメリット

以上の通り、契約書を作成するにあたっては、多くのことを検討しなければなりません。

そのため、ご自身で作成することも可能ではありますが、法律の専門家である弁護士に依頼する方が、より確実であるといえるでしょう。

4.1. 事案に応じた柔軟な調整が可能

弁護士に依頼した場合には、個別の取引事例に応じた、柔軟な調整が可能です。

インターネット上には、契約書の雛形、書式例が多く掲載されていますが、これらはいずれも、あくまでも1事例を参考に作成されたものに過ぎません。

契約というのは、対立する当事者間で結ぶため、当事者間の利益がかならずしも同じ方向を向いているとは限らず、契約交渉による利益調整が必要な場合もあります。

このことを理解せずに雛形、書式例を使用した場合、自身の側に明らかに不利な契約書を使用してしまう危険性があります。

4.2. 将来のトラブルを回避できる

契約書を作成する目的は、将来のトラブルを回避することです。

将来、万が一法的なトラブルとなったときに、契約書に定めたルールに基づいて解決するためのものです。

法律の争いになった場合、どのようなところを気を付けておけばよいかについて精通した弁護士に契約書を作成してもらうことには、大きなメリットがあります。

特に、企業法務に関するトラブルを多く取り扱ったことのある弁護士に依頼するのがよいでしょう。

契約書を作成した弁護士に、顧問弁護士としてついてもらえば、その弁護士にトラブル解決を依頼することができるため、さらに安心です。

4.3. 料金はあまり高額ではない

弁護士に依頼する場合の最大のデメリットが、弁護士報酬がかかることではないでしょうか。

「弁護士報酬」というと、法外なほど高いのではないかと考える方もいるようですが、実際にはそうではありません。

特に、契約書作成・チェック業務は、リスク回避の実益が高いわりに、[弁護士費用は低額におさえたプランが準備されています。

5. まとめ

今回は、最近流行のLINEスタンプについて、制作業務の委託を受けたデザイナー、クリエイター、会社が、「LINEスタンプ制作委託契約書」を作成するときのポイントを、具体的な書式とともに解説しました。

インターネットビジネスでは、新しいビジネスであるため、確たるルールが定まっているわけではありません。

その分だけ、契約書によってルールを定め、事前にリスク回避をしておく必要性が高いといえます。

新しいビジネスの分野で、チャンスの拡大を狙いたい会社の経営者の方は、ぜひ顧問弁護士への依頼をご検討ください。

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