法人が破産すると、その代表者も責任を負うことがあります。社長が、会社債務の連帯保証人であるケースが典型例。このとき、代表者個人が、その債務を弁済できないときには、自身も何らかの債務整理を行う必要があります。
よく活用される債務整理の方法は、任意整理、自己破産、個人再生の3つですが、自宅(マイホームなど)どうしても失いたくない個人資産があるケースでは個人再生が活用されます。個人再生では、裁判所の手続きにおいて債務の負担を軽減できる一方、所有する自宅不動産を売却処分せずに債務整理を進められるからです。
今回は、法人破産した場合でも代表者が個人再生する方法を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 法人破産し、代表者が連帯保証人などの責任を負う場合、代表者個人の債務整理が必要となる
- 代表者が自宅(マイホーム)を守りたい場合、個人再生の手続きを検討すべき
- 法人破産の場面で代表者の個人再生が認められるためには、厳格な要件を充足しなければならない
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法人破産した場合の代表者の個人再生
個人再生とは、個人を対象とした民事再生の手続きです。民事再生は法人の再生を想定した手続きですが、これを個人向けに簡略化したのが個人再生です。個人再生は、自己破産、任意整理と共に、債務整理で活用される代表的な方法で、支払不能の状態にある個人の債務を、5分の1〜10分の1まで減額できます。そして、減額後の債務を3年〜5年で弁済する再生計画を作成し、裁判所の監督の下、計画に従って弁済します。
個人再生は、法律に従って債務額を圧縮できる便利な制度ですが、利用できる場面は限定されています。債務額(住宅ローンは除く)が5000万円以下であり、かつ、継続的に又は反復して収入を得る見込みのある場合(小規模個人再生の場合には債権者の同意が得られる場合)にしか利用できません。
本来、法人とその代表者個人とは別人格で、法人が破産しても、代表者にその債務を支払う義務はないのが原則。ただ、中小規模の会社、ベンチャーやスタートアップの多くは、経営者が会社債務の連帯保証人となっています。延命のために、個人でも借り入れしてしまう経営者もいます。
この場合、破産により払われない会社の負債が代表者に請求されるため、代表者個人も債務整理をしなければなりません。会社破産と同時にする経営者の債務整理は、自己破産となるケースが多いですが、個人再生に適したケースもあります。
法人代表者の個人再生には次の特徴があります。
- 債務額が多額になりやすい
個人の借金、カードローンと異なり、事業用の借入は多額になりやすく、債務整理に手間がかかる。 - 安定した収入を確保しづらい
個人再生を利用するには、再生計画を履行できる安定した収入が必要だが、経営する法人が破産してしまうと収入を得る努力をしなければならない。 - 個人再生委員が選任されやすい
簡易な個人再生では個人再生委員を選任しない運用である裁判所でも、法人代表者だと選任されやすくなる。この場合、その費用として裁判所に予納金を納める必要がある。
法人の破産と同時に、経営者が個人再生するにあたり、次の要件を満たすか検討を要します。
会社が破産したときの社長の責任についても参考にしてください。
個人再生のメリット・デメリット
次に、個人再生を利用するメリット、デメリットを解説します。
法人破産の場面において、代表者が債務整理するときには、個人再生を選択するのが適切かどうか、メリットとデメリットを比較して慎重に検討する必要があります。
個人再生のメリット
個人再生を利用する最大のメリットは「財産を処分しなくてもよい」点です。自宅(マイホーム)のように家族のためにどうしても失いたくない財産のある場面で、特に利用を検討します。
再生計画において「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を定めることで、「住宅ローンは減額せずに全額支払う」のを条件として、マイホーム(自宅)を売却処分せずに手続きを進められます。また、法人破産の場面における代表者の債務整理では、個人再生を選択すれば、事業用財産を手元に残し、再起を早めることができます。
自己破産は、全ての財産が没収されますが、それとは違って債務の一部を計画的に弁済する代わりに、できる限り手元の財産を残して債務整理できるのです。
一方で、債務の全てを交渉によって延期してもらう任意整理よりも、支払額を大幅に減らすことができます。
会社が破産するデメリットについても参考にしてください。
個人再生のデメリット
個人再生のデメリットは、債務整理の一般的なデメリットと共通します。官報に掲載されたり、信用情報(いわゆるブラックリスト)に登録されたり、少なくとも3〜7年新たな借り入れができないなどのデメリットは、個人再生でも回避できません。
個人再生だからといって、自己破産よりもデメリットが少ないわけではなく、むしろ、自己破産と比べると、返済しなければならない金額は多くなります。そのため、自宅(マイホーム)のように守りたい財産がないならば、同じデメリットを負うのであれば自己破産を選択する方が有利なケースも少なくありません。
原則として、個人再生したことは周囲に発覚しづらいでしょうが、官報に掲載されたり裁判所からの郵送物が届いたりといったタイミングで、家族に知られる危険があります。弁護士に依頼して債権者に通知をしてもらい、窓口となって交渉を代理してもらえば、周囲にバレるリスクを最小限にすることができます。
会社の破産手続きの流れについても参考にしてください。
個人再生の種類
個人再生の種類には、小規模個人再生、給与所得者等個人再生の2種類があります。
2つの手続きでは、手続きの内容、要件が異なり、利用できるケースが異なります。なお、法人破産の場面における代表者の個人破産は、小規模個人再生に向いている場合が多いでしょう。
小規模個人再生
小規模個人再生とは、個人再生の原則的な形態です。元々は、個人事業主の再生を主な適用場面としていましたが、現在では、個人再生一般に広く利用されています。法人破産した際の代表者の個人再生についても、(給与等の定期収入のない場合が多いため)小規模個人再生が利用されます。
小規模個人再生は、給与所得者等再生と比較して、弁済する債務額が少ないのが特徴です。そのため、給与所得者等再生を利用できるサラリーマンでも、まずは小規模個人再生の活用を検討します。このようなメリットがある一方、再生計画を認可されるには「債権者と債権額の過半数の消極的な同意」を得ることが要件となるデメリットがあります。
給与所得者等再生
給与所得者等再生とは、サラリーマンに代表される定期的に安定した収入を得る人を対象にした個人再生です。その名の通り、給与所得者を対象とした再生と考えて良いでしょう。「債権者と債権額の過半数の消極的な同意」を得る必要がない反面、利用できる場面は厳しく制限されます。
給与所得者等再生を利用するには、定期的で、変動の幅が少ない給与を得ている必要があり、最低でも、可処分所得の2年分を弁済する必要があります。給与所得等再生は弁済額が大きくなる傾向にあり、この制度を利用できるケースでも小規模個人再生を選択する例もあります。
個人再生の申立要件
まず、個人再生を申し立てることのできる要件(個人再生の申立要件)を解説します。以下の要件を満たさない申し立ては、裁判所に受理されません。
個人再生を利用するには、個人再生の申立要件、再生計画の認可要件の2つを満たす必要があります。このことは、法人破産時に、代表者が個人再生する場合にもあてはまります。
再生開始原因があること
個人再生の申立要件の1つ目は「再生開始原因があること」。再生開始原因とは、次のものをいいます。
- 支払不能に陥っていること
- 支払不能に陥るおそれがある状態にあること
- 債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができない状態にあること
(事業遂行に必要不可欠な施設、機器などを売却しなければ債務を弁済できない状態など)
申立棄却事由がないこと
個人再生の申立要件の2つ目が「申立棄却事由がないこと」。申立棄却事由とは、個人再生に必要な予納金を支払わないこと、収入などから再生計画に従った返済が明らかにできない場合などをいいます。この場合、個人再生の利用は不適切です。
債務額(住宅ローンを除く)が5000万円以下であること
個人再生の申立要件の3つ目が「債務額(住宅ローンを除く)が5000万円以下であること」。個人再生は、自己破産と違って債務を返済するのが前提となる手続き。なので、債務の合計額(住宅ローンの額を除く)が5000万円を超えると、弁済の可能性が少なく、個人再生を利用できません。
この際の債務額には、借金、保証債務、外注費やローンなど、住宅ローンを除く全てのものが含まれます。
法人破産の場面における代表者の個人再生では、会社債務の連帯保証は高額になる傾向にあります。
そのため、会社の連帯保証人として負う債務が5000万円を超える場合も、個人資産から弁済すれば債務額を5000万円以下に減らせる場合、個人再生を利用できることとされています。
前回の手続きから7年経過していること
個人再生の申立要件の4つ目が「前回の手続きから7年経過していること」。具体的には、個人再生や自己破産における免責許可決定から、7年が経過していなければなりません。この要件は、給与所得者等再生のみに適用されます。過去に個人再生をしたにもかかわらず、再度借り入れなどをする状況になった場合、厳しく扱われるということです。
また、小規模個人再生なら2回目までの期間の制限はないものの、2回目の個人再生では、裁判所の監督が厳しくなる傾向にあるので注意を要します。既に一度個人再生をしたのにうまく再起を図れないと、裁判所としてもより慎重に判断しようとするからです。そして、債権者もまた、同意をしづらくなってしまいます。
自己破産から復活し、再起する方法についても参考にしてください。
再生計画の認可要件
次に、個人再生において再生計画の認可決定がされる要件(再生計画の認可要件)を解説します。以下の要件を満たさない計画は認可されず、債権の減額を受けられない結果、そのような計画しか立てられないケースは個人再生に向きません。
個人再生を利用するには、個人再生の申立要件、再生計画の認可要件の2つを満たす必要があります。このことは、法人破産時に、代表者が個人再生する場合にもあてはまります。
再生計画不認可の要件がないこと
再生計画の認可要件の1つ目は「再生計画不認可の要件がないこと」。不認可要件は、裁判所が個人再生を認可してはならないとする類型であり、主に次のものです(民事再生法174条)。
- 再生手続や再生計画に重い法律違反があり、不備の補正ができないとき
- 再生計画が遂行される見込みがないとき
- 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき
- 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき
民事再生法174条(再生計画の認可又は不認可の決定)
民事再生法174条(再生計画の認可又は不認可の決定)
1. 再生計画案が可決された場合には、裁判所は、次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。
2. 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
一 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができないものであるとき。ただし、再生手続が法律の規定に違反する場合において、当該違反の程度が軽微であるときは、この限りでない。
二 再生計画が遂行される見込みがないとき。
三 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。
(3〜5項 略)
民事再生法(e-Gov法令検索)
最低弁済額を上回ること
再生計画の認可要件の2つ目が「最低弁済額を下回ること」。個人再生を利用するには、債務額に応じた最低弁済額が定められており、これ以上の弁済ができないときは、再生計画の認可を受けられません。最低弁済額は次の通りです。
債務額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 債務額の全額 |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円を超え1500万円以下 | 債務額の5分の1 |
1500万円を超え3000万円以下 | 300万円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 債務額の10分の1 |
上記表から分かる通り、債務額が100万円以下のときには、個人再生を利用しても債務は減額できません。
債権者の同意が得られること
再生計画の認可要件の3つ目が「債権者の同意が得られること」。小規模個人再生のみに適用される要件で、小規模個人再生では、債権者が同意しなければ再生計画が認可されません。なお、この同意は「消極的な同意」と言われ、「不同意かどうか」を確認し、債権者の過半数、債権額の過半数が反対の意思を示した場合のみ、計画の認可が受けられなくなります。
金融機関などの債務者は、個人再生に反対するケースは少ないですが、取引先や顧客、個人の方が、感情的になって個人再生に反対する可能性があります。個人再生を目指すなら、債権者との交渉を弁護士に任せるのが有益です。
定期収入の見込みがあること
再生計画の認可要件の4つ目が「定期収入の見込みがあること」。給与所得者等再生のみに適用される要件で、給与所得者等再生では「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、その収入の変動の幅が小さいこと」が要件とされます。この要件は、給与所得者等再生の申立て時と、再生認可時、いずれの段階でも検討されます。
給与所得者等再生は債権者の同意を要しないので、安定した弁済を確保するため、毎月の給料のように収入の変動幅が小さいことが特に要件とされます。
可処分所得の2年分を弁済すること
再生計画の認可要件の5つ目が「可処分所得の2年分を弁済すること」。給与所得者等再生のみに適用される要件で、給与所得者等再生では、最低弁済額に加え、可処分所得の2年分の金額を弁済することが求められます(その結果、小規模個人再生よりも弁済額が高額となります)。可処分所得額は、扶養者の数が少なく、収入が多いほど高額になります。
個人再生の手続きの流れ
最後に、個人再生の手続きの流れを解説します。
個人再生は、複雑な裁判手続で、必要書類も多く存在します。弁護士が代理して進める例が多いですが、依頼者が概要を理解しておけば、よりスムーズに進められます。
弁護士に相談する
個人再生には厳しい要件があり、手続きも複雑です。有効活用するには、弁護士に相談し、手続きを依頼するのが有益です。弁護士は依頼を受けるとまず債権調査を行い、債権者一覧表を作成します。利息制限法違反の貸付があれば、過払い金の返還請求を行います。また、申立書を作成し、個人再生の要件について疎明資料を準備します。
受任通知を送付し、取り立てを止める
必要な準備が整ったら、債権者に受任通知を送付し、個人再生を開始する旨を伝えます。受任通知の送付時から、債権者は直接の請求を禁じられるため、取り立てを止めることができます。
個人再生の申し立てをする
裁判所に対し、申立書と必要書類を提出して、個人再生の申し立てを行います。
申し立てを受けた裁判所は、個人再生委員を選任します。個人再生委員は、手続きの進行が適切かを監督するため、裁判所が選任する弁護士です(再生債権の評価を要する場合を除き、選任は裁判所の裁量なので、選任されない例もありますが、東京地方裁判所では全件選任される運用となっています)。
個人再生手続開始決定が下る
申立後、個人再生委員と面談を行います。この際、個人再生の要件を満たすかを確認するため、質問に答える必要があります。弁護士に依頼して申し立てた場合、代理人弁護士が同席してアドバイスできます。裁判所が、個人再生委員の意見を参考にし、個人再生の要件を満たすと判断すると、個人再生手続開始決定が下ります。
履行トレーニングを行う
個人再生は、自己破産と違って債務の弁済を要するため、債務者が計画的に弁済できるか試すため、履行トレーニングを行います。トレーニング期間に指定された債務履行ができないと、計画的な弁済ができないと判断され、個人再生が不認可又は廃止となるおそれがあります。
再生計画が決定される
個人再生において減額された債権額について、再生計画案を作成し、裁判所に提出します。計画された弁済は、最低弁済額を上回ると共に、自己破産の配当を超える必要があります。3年で返済する計画を立てるのが原則ですが、特別な事情がある場合は5年まで延長できます。
小規模個人再生では、債権者の過半数と、債権額の過半数が反対しない限り、再生計画が決定されます。給与所得者等再生では、可処分要件を満たした再生計画案なら、債権者の決議なしに決定されます。
再生計画の認可決定が下る
決定された再生計画が、認可要件を満たす場合、裁判所が再生計画を認可します。計画の認可決定後は、その計画に従って弁済を進めます。計画通りに弁済されないと、再生計画が取り消されるおそれがあります。やむを得ない事由がある場合には、再生計画の変更が認められる場合があります。
まとめ
今回は、法人が破産した場面における、代表者の個人再生について解説しました。
個人再生は、自宅不動産をはじめとした財産を失わずに済む一方で、継続的に返済する能力を要求されます(経営していた会社が破産している場合、収入源は失われているでしょう)。また、債務額が5000万円を超えると利用できないなど、厳格な要件を満たす必要があります。以上の点から、法人の代表者が個人再生を活用するには、十分な準備が必要です。
個人再生の利用可能性はもちろん、他の債務整理の手段の検討、法人を破産させる適切なタイミングなども含めて、弁護士に早めに相談するのが有益です。
- 法人破産し、代表者が連帯保証人などの責任を負う場合、代表者個人の債務整理が必要となる
- 代表者が自宅(マイホーム)を守りたい場合、個人再生の手続きを検討すべき
- 法人破産の場面で代表者の個人再生が認められるためには、厳格な要件を充足しなければならない
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