会社の経営が厳しくなると、経営者は破産を検討せざるを得ません。
しかし、法人破産はデメリットやリスクがあり、正しい知識なく手続きを進めると、会社はもちろんのこと、経営者本人にも深刻な影響を及ぼしてしまいます。「破産」「倒産」という言葉はネガティブな印象が強く、悲惨な未来を想像して、即断できない経営者も少なくありません。
とはいえ、破産は「失敗」ではなく、事業を整理し「再出発」するために法律が認めた手段でもあります。デメリットの多くは、適切に対処すれば回避できます。重要なのは、破産以外に選択肢がないのか、どの段階で決断すべきかの見極めを誤らないことです。
今回は、法人破産のデメリットと、リスクを回避して倒産する方法について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 破産すると法人は消滅するので、資産や社員を失うデメリットがある
- 法人破産のデメリットを正確に理解し、その影響を限定する努力をすべき
- 法人破産は、適切なタイミングで実施すればメリットも大きい
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法人破産とは
法人破産とは、負債を返済できなくなった会社を、裁判所を通じて清算する手続きです。
裁判所が破産手続開始の決定をすると、破産管財人が選任され、財産の処分や債権者への配当が行われ、法人格が消滅します。資産は全て換価(売却)され、債権者に公平に分配されます。
個人破産が生活再建を目的として借金返済を免除する手続きなのに対し、法人破産では、会社そのものが消滅します。ただし、法人が破産しても、代表者個人が連帯保証人となっていた場合には保証債務は残ることとなります。
法人破産に至る原因は、売上減少や資金繰りの悪化、取引停止や信用不安など様々ですが、これらの理由が複合的に進行し、破産を決断せざるを得なくなるケースが多いです。
「会社の破産手続きの流れ」の解説

法人破産のデメリットとは
次に、法人破産のデメリットについて解説します。
法人破産には大きな負担や影響がありますが、重要なのは「会社が破産したら、企業のその後はどうなるか」。デメリットを過度に恐れず、タイミングを見誤らないことです。
法人格が消滅する
法人破産が認められると、会社は清算手続きを経て法的に消滅します。
法人格がなくなるとは、「法人の存在自体がなくなる」ことを意味し、会社名義の契約・資産・口座などの一切の権利義務が終了します。法人の存在を前提とした事業も継続できなくなります。これまで築き上げた信用やブランド力など、企業名に紐づいた無形の資産も失われるでしょう。
資産や事業が失われる
破産手続きでは、会社が保有する全ての資産が破産管財人の管理化におかれ、換価(売却)されて債権者に分配されます。具体的には、不動産(土地・建物など)、預貯金、売掛金、在庫、設備など、破産する会社の資産は全て失われます。
その結果、事業に必要な基盤は、基本的に全て無くなります(個人破産と異なり、自由財産もありません)。事業譲渡や民事再生などと異なり、倒産では、事業の存続は前提とされません。
「自由財産」の解説

従業員の解雇が必要となる
法人破産に伴い、従業員は全員解雇する必要があります。
社員は、法人との間で労働契約を締結しているので、当事者である法人が破産して消滅すれば、契約関係が解消されるからです(例外的に、破産手続きの終了まで、管財業務の遂行に必要な人員の雇用は継続できます)。
退職手続きを進める際は、給与や退職金の支払いが問題となります。破産手続き内でも、給与債権は優先的に回収できますが、未払分については、未払賃金立替払制度を利用すれば、一部を国が立て替え払いして補填します。
「倒産するときの従業員への告知」の解説

取引先や債権者の信用を失う
破産によって、会社やその経営者が信用を失うデメリットもあります。
破産は官報で公告され、社会的にも「倒産企業」として認知されます。突然に破産し、債権や売掛金が未払いとなれば、取引先や金融機関など関係者の信用を喪失するのは当然です。取引先にも連鎖的な経営悪化を招く懸念もあります。誠実に対応しなければ、既存契約の打切りだけでなく、将来の再起にも影響するでしょう。
一方で、再出発のためにも、過去に会社を倒産させた汚名を少しでも小さくするためにも、無理な延命は避け、破産のタイミングを見誤らないように注意が必要です。
「自己破産から再起する方法」の解説

経営者の責任を追及される
法人破産のデメリットは、経営者個人にも影響することがあります。
会社と経営者は別人格であり、法人破産は会社の手続きです。しかし、多くの中小企業では、代表者個人が、会社の債務の連帯保証人となっています。経営者所有の不動産を会社に賃貸し、事業に利用していることもあります。このようなケースでは、法人破産によって、経営者自身も個人破産(自己破産)を選択せざるを得ない状況に追い込まれることがあります。
経営者の破産情報は、信用情報(いわゆるブラックリスト)に記録され、5年〜7年の間、新規の融資が受けられないなど、個人の活動に制限がかかるデメリットがあります。
「会社が倒産したときの社長の責任」の解説

連帯保証人に迷惑をかける
会社の債務について連帯保証人がいる場合、保証人にも迷惑がかかります。
法人が破産して債務の支払いができなくなると、保証人に対して全額が請求されるからです。連帯保証人は、主たる債務者(会社)と同等の責任を負うため、多額の債務を背負わせることにもなりかねません。例えば、代表者以外にも、共同創業者や役員、幹部社員、小規模な会社では社長の家族などが連帯保証しているケースがあります。
ただし、連帯保証人への迷惑を恐れるあまり、保証人の付いた債務だけを返済すると「偏頗弁済」となり、破産管財人に否認権を行使され、返金を要求されてしまいます。
倒産するための費用がかかる
法人破産には、予想以上の費用がかかることがあります。
法人破産にかかる主な費用は、次の通りです。
- 裁判所への予納金
管財事件では50万円〜100万円程度が通常。東京地方裁判所などの一部の裁判所では、少額管財制度を利用して最低20万円に収めることも可能。 - 官報公告費
- 郵券代・印紙代
- 弁護士費用
法人破産の弁護士費用は、債務額や予想される業務量に応じて、50万円〜100万円程度が目安となる。
債務が支払えず苦しくても、「全くお金がない状態」では破産すらできず放置するしかありません。資金が残っているうちに、弁護士への相談が不可欠です。
事業が継続しているなら、費用の準備をする余裕があります。具体的には、弁護士が受任通知を送って一旦返済を止め、売上を蓄積して破産に要する費用を捻出する方法です。
「会社破産の費用が払えないとき」の解説

法人破産のデメリットを回避する方法
次に、法人破産のデメリットを回避する手段について解説します。
「できれば破産は避けたい」と考えるのは当然です。しかし、法人破産に伴う各種のデメリットを最小限に留めるには、早期の決断が必要となります。
デメリットの影響を限定する
法人破産のデメリットの影響を限定することが大切です。
法人破産がどのような影響を及ぼすかを正確に把握すれば、そのダメージを最小限に抑えることが可能です。そのためには、早めに次のような準備に着手してください。
- 債権者への支払いの優先順位を検討する。
- 従業員に対して、会社の経営状況を正確に伝える。
- 経営者個人の連帯保証を行わない。
- 採算の取れる事業を別法人に引き継ぐ。
- M&A(事業売却)を検討する。
準備なく、突然に破産に至れば、法人だけでなく経営者個人も信用を失い、再起の支障となるおそれもあります。窮地に陥ったときこそ、誠実な説明が何より大切です。
ただし、上記の方法は、判断を誤ると「偏頗弁済」や「財産隠し」といった不適切な行為であると評価されるおそれもあるので、状況を見極めて慎重に進めなければなりません。
無理な延命をしない
法人破産が避けられない状況になったら、無理な延命は逆効果です。
経営者が「できれば破産は避けたい」と思うのは当然です。限界まで事業を継続したり、個人の財産を失ったり借金をしたりしても会社を守ろうとする人も少なくありません。「いつか回復するはず」「あと一手で持ち直せる」といった希望的観測にすがって無理を続けると、状況を悪化させ、結果的に多くの人に迷惑をかけてしまいます。
延命策にこだわることで、次のような状況に陥ることもあります。
- 自己資金や私財を流出させてしまう。
- 個人の借入を重ね、自己破産せざるを得なくなる。
- 無理な融資、違法業者のサポートを受けてしまう。
- 破産費用すら捻出できなくなる。
最後は「夜逃げ」しかなくなってしまいます。経営者として冷静に状況を分析し、ときには「損切り」も検討しながら、破産するタイミングを見誤らないようにしてください。
任意整理を検討する
任意整理とは、裁判所を通さず、債権者と直接交渉して返済条件を見直す方法です。
例えば、元本の一部や利息の免除、返済期間の延長、支払猶予(リスケジュール)などを提案し、合意が得られれば、事業を継続しながら債務を支払っていくことが可能です。任意整理がうまく進めば法人破産は避けられるので、早めのタイミングなら検討の余地があります。
ただし、任意整理では、債権者と信頼を維持しながら交渉を進めなければならないので、弁護士のサポートを受けるのが望ましいです。
「債務整理の種類」の解説

事業譲渡やM&Aを検討する
会社の資産や事業価値に魅力があるなら、事業譲渡やM&Aも選択肢に入ります。
事業譲渡であれば採算性のある事業を、M&Aであれば法人そのものを次の経営者に引き継ぐことで、法人破産を回避できます。この場合、優良な取引先や従業員を残すことができ、経営者個人にとっては資金の回収ができることもあります。
ただし、事業譲渡やM&Aによって破産を回避したいなら、早期に検討しなければ機会を逃してしまいます。破産直前の企業には買い手が付かない可能性が高いためです。
弁護士に相談する
最後に、法人破産のデメリットを回避するため、弁護士に相談しましょう。
どのような選択肢が最適かは、会社の財務状況、債務の内容、取引関係や事業の価値などを、法律知識も踏まえながら正確に把握しなければならないからです。そのため、経営が行き詰まりそうになった段階で、早期に倒産分野に強い弁護士に相談すべきです。
弁護士に相談すれば、現実的な選択肢を整理して「破産するか否か」の判断が可能です。また、いざ「破産しか選択肢がない」となった際にも、速やかに手続きに着手することができます。
「ベンチャー企業向けの顧問弁護士」の解説

法人破産はメリットも大きい
法人破産にデメリットがあるのは事実ですが、全てを失うだけではありません。
むしろ、早期に破産を決断することにはメリットも多くあります。デメリットの回避だけでなく、メリットを知れば、法人破産を活用して将来の道を開くことができます。早期に弁護士に相談して、「法人破産のデメリットに比べ、メリットが大きいかどうか」を検討しましょう。
会社を破産させる最大のメリットは、債務から解放されることです。
経営が行き詰まるとプレッシャーは非常に大きく、支払いの督促、資金繰りへの不安、社員や家族への責任感など、経営者は押しつぶされそうになるでしょう。
破産を決断すれば、法人格そのものが消滅するので、取引先への支払い、売掛金、顧客への返金、従業員の給与のほか、法人税から社会保険料まで、全ての支払いが無くなります。債権者対応に追われることもなくなり精神的に区切りを付けられます。
また、速やかに破産を決断することは、再起を図るにも役立ちます。
破産は「終わり」ではありません。多くの経営者は、法人破産後に個人事業主として再出発したり、新法人を設立して再挑戦したりしています。無理に事業を続けて連鎖倒産を招いたり、延命のために不適切な資金繰りに手を染めたりすると、立ち直りが遅くなります。
法人破産で早期に幕を引くことで、被害の拡大を防ぎ、社会的な責任を全うすることもまた、経営者として立派な姿だといえます。経営に行き詰まりを感じたら、「破産」という制度の持つ意味を前向きに捉え、まずは弁護士に相談してください。
まとめ

今回は、法人破産のデメリットについて、法的に解説しました。
法人破産は、経営者にとって苦渋の決断です。「破産」「倒産」のイメージは悪く、デメリットは過大に評価されがちです。確かに、信用の低下や事業資産の喪失、保証債務の問題など、知識なく進めれば大きなデメリットやリスクを伴います。
しかし、破産すれば負債は消滅し、経営者は再起を図れるなど、デメリットもある分、メリットも大きい制度です。そして、適切な手続きを踏めば、そのリスクは最小限に抑える努力ができます。
重要なのは、「破産しか選択肢がない」と思い込まず、早い段階で債務整理を検討することです。不安や恐怖から破産のタイミングが遅れると、かえってデメリットが拡大するので、早期に弁護士に相談することが重要です。
- 破産すると法人は消滅するので、資産や社員を失うデメリットがある
- 法人破産のデメリットを正確に理解し、その影響を限定する努力をすべき
- 法人破産は、適切なタイミングで実施すればメリットも大きい
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