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「時差ビズ」とは?導入する会社側の法的な注意点【弁護士解説】

「時差ビズ」という言葉が、最近ニュースをにぎわせています。駅のホームなどで、「時差ビズ」の広告を目にした方も、多いのではないでしょうか。

「時差ビズ」は、政府が主導・推進する「働き方改革」の一環として、朝の通勤ラッシュを回避するために、多くのサラリーマンの朝の働き方を変えようという、新たな取り組みです。

東京都が推進している「時差ビズ」の考え方を理解し、御社にも合うようであれば、ぜひ積極的に取り入れ、生産性の向上を図ることがお勧めです。

今回は、働き方改革の一環として話題の「時差ビズ」の取り組み、導入時の法的な注意点について、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

「リモートワーク」の法律知識まとめ

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「時差ビズ」とは?

「時差ビズ」とは、朝の通勤ラッシュを回避することなどを目的として、東京都が東京都交通局と協力して進める、通勤時間をある程度自由化した働き方を推進する取組みのことです。「時差Biz」と表記されることもあります。

「時差ビズ」の働き方は、東京都が主導しています。鉄道利用者(労働者を雇用する各企業)と、鉄道事業者(鉄道会社)とが、双方で連携して進めていくことが求められます。具体的には、時差出勤やフレックスなどの労働時間の変更、テレワークや在宅勤務などのリモートワークの導入などが推奨されています。

「時差ビス」の旗振り役は、東京都知事の小池百合子氏で、都知事選で掲げた「満員電車ゼロ」という公約に端を発しています。「朝が変われば、毎日が変わる。」をキャッチフレーズに進められており、「働き方改革」の一環として話題となっています。

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「時差ビズ」に活用できる会社の制度

では、実際に「時差ビズ」の取組みは、どのように進んでいるのでしょうか。現在のところ約260の企業や自治体が、「時差ビズ」の取組みに賛同しています(2017年7月時点)。

「時差ビズ」を推奨するにあたり、会社が社員に対して「朝型出勤」を促し、始業時刻を各自の判断に任せることもできます。しかし、各社員の勝手な判断に任せるのみでは、労働時間の管理が煩雑になるなど、業務上の支障が生じるおそれもあります。

そのため、会社側(使用者側)が「時差ビズ」に取り組むためには、そのために導入し、活用できる具体的な法的制度などについて、理解していただく必要があります。

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フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、会社が定めた「コアタイム」に出社、労働をしていれば、それ以外の始業・終業時刻は、労働者が自由に決めることができる制度です。

フレックスタイム制をとることによって、朝の通勤時間を労働者が自由に設定することができることから、「時差ビズ」の取り組みと親和性の高い制度です。

既に、フレックスタイム制を導入している会社であっても、「コアタイム」をさらに短くすることで、より自由度の高い制度とし、「時差ビズ」の推進に活用することができます。

勤務間インターバル

勤務間インターバルとは、ある日の労働の終了時間から、次の日の労働の開始時間まで、一定期間のインターバルを必ず設けるという制度です。

「時差ビズ」を導入することで、労働の開始時間を早くしたり遅くしたりして通勤ラッシュの混雑を回避することができ、その分、勤務間インターバルを確実にとることができます。

なお、「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」という助成金が、長時間労働の改善のために支給されており、勤務間インターバルの導入にこの助成金を活用することが可能です。

時短勤務

時短勤務とは、その名のとおり、労働時間を短くする制度のことをいいます。

時短勤務は、育児・介護を行う社員に対して、その負担の軽減のために適用されるケースが多いですが、「時差ビズ」の取り組みにも活用できます。

「時差ビズ」で通勤ラッシュを回避するために繰り上げた始業時刻の分だけ、所定労働時間を短くして、「時短勤務」してもらう、という導入ケースです。

注意ポイント

業務量が全く減っていないにもかかわらず、「時短勤務」を強制することは、「ジタハラ」といわれるハラスメント(嫌がらせ)行為となるおそれがあります。

「時差ビズ」導入のために「時短勤務」を検討する場合には、業務量が、無理なくこなせるよう分配されているかどうかについても、十分配慮するようにしましょう。

サマータイム制

サマータイム制は、夏に日が昇るのが早くなることから、夏に限って始業時刻を早くする制度のことをいいます。

「時差ビズ」の取り組みで、朝の通勤ピークを避けて、早朝出勤をし、その分だけサマータイム制を合わせて導入することで、所定労働時間自体を早めに設定する、という導入例が考えられます。

シェアオフィス・在宅ワーク

「時差ビス」と同時に、働く場所について柔軟に配慮する方策が、合わせて検討されます。シェアオフィス、サービスオフィス、レンタルオフィスなどが、「時差ビズ」の推進に活用されているケースもあります。

「時差ビズ」を実現するため、より自由度の高い働き方を労働者にしてもらうために、複数のオフィスを契約し、社員(従業員)が、自分の近いオフィスに出社してもらうことのできるようにする、という導入例です。

「時差ビズ」の取り組みの際に、シェアオフィスが、会社のサテライトオフィス、支店、営業所としての役割を果たすわけです。

鉄道会社による「時差ビズ」支援

鉄道を利用する会社だけでなく、鉄道事業者側でも、「時差ビズ」を推進するために、さまざまな取り組みをしています。

JRや私鉄など、12の鉄道会社が協力、賛同して、「時差ビズ」を支援するため、次のような取り組みを行っています。

  • 混雑の見える化
  • ポイント付与
    :オフピーク通勤利用者へ、ポイントを付与する。
  • 臨時電車の運行
    :早朝に運転する臨時電車を運行させる

特に「混雑の見える化」として、電車の運行状況と混雑状況をアプリによって見える化する動きが、東京メトロやJR東日本などで進められています。

この混雑アプリを利用することによって、自分が通勤のために乗ろうとしている電車がどの程度混雑しているかをリアルタイムで知ることができ、混雑している電車への乗車を見合わせたり、通勤時間を変更したりすることができます。

「時差ビズ」を支援するその他の施策

今回、「時差ビズ」を主導的に進めている東京都の取り組みを中心に、「時差ビズ」を支援するその他の制度について、弁護士がまとめました。

今後ますます本格化する、政府の進める「働き方改革」ですが、御社で取り入れることの可能な取り組みがあれば、積極的に実施、準備していくとよいでしょう。

「時差ビズ」を、単に「朝早く来る」という制度に留めず、会社の業務効率化、作業能率の上昇といった大きなメリットにつなげるために、「時差ビズ」と合わせて、人事労務管理全般についての改善が重要です。

表彰制度

多くの人に、この夏から快適な通勤を体験してもらい、「時差ビズ」の効果を実施してもらうため、東京都は、ムーブメント「時差Biz」を実施しました。ムーブメント「時差Biz」の実施期間は、平成29年(2017年)7月11日から、平成29年(2017年)7月25日までです。

ムーブメント「時差Biz」の終了後、優れた取り組み実施した企業(会社)には、「時差Biz推進賞」という表彰がされます。平成30年度の、「時差Biz推進賞」受賞企業は、次の通りです。

時差Biz推進賞 ワークスタイル部門 受賞企業一覧
  • コクヨ株式会社
  • CJジャパン株式会社
  • 株式会社JR東日本マネジメントサービス
  • 株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル(松本零士特別賞)
  • シックス・アパート株式会社
  • 損害保険ジャパン日本興亜株式会社
  • 東京急行電鉄株式会社
  • 豊島区
  • 日本航空株式会社
  • 株式会社パソナテック
  • ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社
時差Biz推進賞 プロモーション部門 受賞企業一覧
  • コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社(松本零士特別賞)
  • 東京地下鉄株式会社
  • 東日本旅客鉄道株式会社

「時差Biz推進賞」の表彰を受けることは、社員(従業員)に配慮した、新しい制度に取り組んでいる「ホワイト企業」であるという、企業イメージの向上につながります。

合わせて、社内でも、「時差ビズ」の取り組み方針を理解し、積極的に活用した社員に対する表彰制度を用意することが考えられます。

テレワーク・デイ

ムーブメント「時差Biz」は、平成29年(2017年)7月24日からはじまるテレワーク・デイとも連携しています。

テレワーク・デイもまた「働き方改革の一環で、平成29年(2017年)から平成32年(2020年)までの間、毎年、東京オリンピック開会式に相当する「7月24日」をテレワーク・デイとして、テレワークの一斉実施を呼びかける、政府主導の取り組みです。

交通機関や道路が混雑する始業から10時半までの時間帯の間、一斉テレワークを実施する企業を募集するはたらきかけです。

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時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)

「時差ビズ」の取り組みと、とても親和性の高い制度として、「勤務間インターバル」の制度があります。

「勤務間インターバル」とは、労働の終了から次の労働の始まりまでの間に、一定時間のインターバルを必ず確保する制度をいいますが、政府主導で、助成金の対象とされています。

つまり、「勤務間インターバル」をきちんととり、そのための対策として「時差ビズ」を導入することとすれば、制度導入に要した費用のうち一定額を、助成金として受給することができるわけです。

進まぬ「時差ビズ」の現状

毎日の満員電車による通勤に大きなストレスを感じている労働者は多くいることでしょう。通勤による大きなストレスは、労働生産性を低下させ、業務効率を低下させるだけでなく、さらに進むと、うつ病などの精神疾患(メンタルヘルス)にり患させ、労働者の心身の健康を損なうこととなります。

睡眠不足や体調不良を解消するためにも、「時差ビズ」の導入には大きなメリットがあるわけですが、一方で、「時差ビズ」は実際にはそれほど進んでいません。

「時差ビズ」のメリットには、次のものがあります。

労働者側のメリット
  • 満員電車を回避することができ、精神的ストレスを減らすことができる。
  • 満員電車を回避することができ、通勤時間を有効活用することができる。
  • 決まった時間に通勤する必要がなくなり、多様な働き方を選択することができる。
会社側のメリット
  • 労働生産性を向上させ、業務効率を上げることができる。
  • 満員電車を回避することができ、労働者のストレスをためず、安全配慮義務を果たすことができる。
  • 労災(通勤災害)のリスクを減少させることができる。
  • 企業イメージの向上につながる。

では、労使いずれの立場でもメリットのある「時差ビズ」ですが、導入がそれほどスムーズに進まないのはなぜでしょうか。今回、「時差ビズ」のために利用できる制度について解説をしたとおり「時差ビズ」を導入するためには労働者側の声だけでは足りず、会社全体が組織的に協力することが必要となります。

実際、「時差ビズ」を導入することが難しい労働者側からの不満として、次のような声を聞くことができます。

  • 「上司の目が気になり、残業せずに早く帰ることは難しい」
  • 「本来の始業時刻より遅く出勤すると遅刻のような扱われ方をして後ろめたい」
  • 「業務量が多く、労働時間を減らすことができない」

このような不満が労働者側からあがってしまうと、「ブラック企業」との信用低下につながるおそれがあります。「時差ビズ」が会社側にとってもメリットが大きいことを考えると、会社が積極的に「時差ビズ」を活用できる制度を導入して、「時差ビズ」を組織的に後押しすることが必要です。

これまで、労務管理に力を入れてこなかった会社や、労働時間を正確に把握していなかった会社では、これを機に、クラウドシステムによるタイムカードなどを導入し、法令を遵守した労務管理をこころがけるべきです。

あわせて、「時差ビズ」を導入しても業務に支障が出ないよう、業務の効率化を図ったり、IT化やペーパレス化を進めたりして、時間・場所にとらわれない働き方改革を実現することが、かえって会社の生産性向上につながります。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、「働き方改革」と連携して、東京都が主導して進める「時差ビズ」の取り組みと、会社がどのように対応したらよいかについての法的ポイントを、弁護士が解説しました。

「働き方改革」、「時差ビズ」など、話題の取り組みも、適切かつ有効に取り入れるためには、労働法の法律、裁判例の知識経験が、非常に重要です。

会社内の労働時間を見直したい会社経営者の方や、「時差ビズ」を取り入れたい会社は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽にご相談ください。

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