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「ワーケーション」とは?導入時の法的な注意点【弁護士解説】

「ワーケーション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「ワーケーション」は、働き方改革で推奨される、時間や場所に拘束されない働き方の中でも、特に性質の異なる用語です。

「ワーケーション」とは、「仕事(ワーク・work)」と「休暇(バケーション・vacation)」を組み合わせた造語であり、その意味もまた、仕事と休暇とが混ざり合った概念なのです。

多様な働き方が推奨される現在において、プロジェクト単位で仕事を辞めて転職をしたり、長期休暇をとって海外旅行にいったりと、独自のワークライフバランスを確立する労働者も増加しています。「ワーケーション」を導入することで、労働市場に参入していない有能な人材を掘り起こしたり、ホワイト企業として社会的評価を高めたりする効果も期待できます。

そこで今回は、「ワーケーション」の基本的な考え方と、「ワーケーション」を導入する際に知っておくべき会社側(使用者側)の法的な注意点を、弁護士が解説します。

「リモートワーク」の法律知識まとめ

目次(クリックで移動)

ワーケーションとは?

「ワーケーション」とは、日本国内や海外のリゾート地など、オフィスではない非日常的な場所、特に旅先で仕事をする新たな働き方です。「仕事(ワーク・work)」と「休暇(バケーション・vacation)」を組み合わせた造語です。

モバイルワークの一種であり、在宅勤務・リモートワークと同種のICT(情報通信技術)の活用が必要です。ただし、単に「会社から離れて仕事をする」とうだけでなく、仕事と休暇が「融合している」ことが特徴です。

旅先で仕事をすることで、オフィスに毎日勤務していては難しかった旅行の機会を頻繁に得ることができ、プライベートの充実はもちろん、家族と過ごす時間を増やすこともできます。

ワーケーションは、海外で始まった考え方ですが、日本でも、2017年(平成29年)7月に、日本航空株式会社(JAL)が、テレワークの一環としてワーケーションの導入を行ったことで注目を集めました。

従来の労働時間管理、社員の健康管理は、「仕事と私生活を明確に区分し、仕事が長くなりすぎないようにする」という方法でした。しかし、ワーケーションの考え方は、仕事と生活を調和的に融合させる、新しい働き方です。

日本は、従来から有給休暇の消化率が低く、仕事と私生活を区分して仕事を減らそうとしても、自主的に(もしくは会社に強制されて)働き続けてしまうことが統計的に明らかとなっています。会社側(使用者側)としても、ワーケーションの導入で、労働法関係のコンプライアンスが遵守しやすくなる可能性もあります。

ワーケーションを導入するメリット

ワーケーションを導入することには、労働者側に大きなメリットがあることはもちろんですが、会社側(使用者側)にとっても大きなメリットがあります。

従来は明確に区別されていた仕事と休暇を融合することで生まれる、ワーケーションという新しい働き方のメリットについて、弁護士が解説します。

休暇を取りやすくなる

日本では非常に有給休暇取得率が低いことが、各種の統計データから明らかになっています。

有給休暇が、労働基準法(労基法)によって労働者の権利と定められているに取得率が低いのは、「業務があるのに休暇取得をするのは会社(や他の社員)に悪い。」という罪悪感が、休暇取得をためらってしまうことが一因です。

休暇先でも働くワーケーションの導入により、有給休暇取得をためらう理由がなくなり、休暇を自由に取りやすくすることができます。有給休暇を取得しやすい雰囲気を、会社側から醸成できるのです。

管理職のケアに繋がる

従業員の中でも、特に管理職は、多忙なシーズンの緊急対応に追われることが多いです。労働基準法にいう「管理監督者」は、時間に縛られない代わりに割増賃金(残業代)が支給されませんが、これは、裏を返すと、「いつでも働いていなければならない」ことを意味しているケースも少なくありません。

ワーケーションを活用することにより、これまで急な仕事、緊急対応で家族旅行をキャンセルせざるを得なかった管理職が、十分な休暇を取得することが可能になります。

ただし、「管理職が会社にいないと決済が滞る」という状況では、ワーケーションの導入はかえって業務に支障を生じるデメリットが大きくなるため、社内体制の整備が重要です。

人手不足を解消できる

中小企業を中心に、人手不足、採用難の状況が続いています。「仕事はあるが、それを行う人がいない」という事態が続いています。

有給休暇の取得を促進し、新しい働き方であるワーケーションを導入することは、特に、時間や場所に縛られたくない能力の高い社員に対して、大きな採用競争力を持ちます。

ワーケーションの導入によって、福利厚生の充実したホワイト企業であることをアピールし、企業のブランディングにもつながります。

社員の自主性・自律性が上がる

ワーケーションを導入し、休暇先で働くということは、社員にとって、自主的、自律的な働き方が求められるということです。

会社にとっても四六時中監視することは難しいものの、成果による評価を行うことで、成果に達していない社員に対しては、ワーケーションを導入していたとしても、低い評価をしたり、最悪のケースでは解雇したりすることがあります。

反面で、ワーケーションを利用する社員には、「自分で考え、自発的に仕事をする」という能力が磨かれます。

ワーケーションに関連する法規制

ワーケーションを導入する場合には、休暇と仕事が混ざり合うことから、会社にとっての労務管理が困難になる場合があります。

旅先で行うとはいえ、仕事なわけですから、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法など、重要な労働法は当然ながらワーケーションにも適用されます。「社員の自己責任」と放置するのではなく、会社として管理・監督が必要です。

そこで、ワーケーションの導入に関連して、会社側が注意すべき法律の規制を、弁護士が解説します。

有給休暇の取得

ワーケーションのメリットの1つとして、「ワーケーション導入によって有給休暇取得のハードルが下がる」と説明しました。

しかしこれは、「ワーケーションを導入すると、有給休暇中も仕事をさせることができる」と勘違いしてはなりません。法律で労働者の権利とされている有給休暇とは、賃金を支給されながら、完全に労働から離れることが保障された日のことをいうからです。

有給休暇の前後をワーケーションとし、長期旅行をする、という活用方法は可能ですが、「ワーケーション」と「有給休暇」を明確に区別し、それぞれの日数をカウントし、有給休暇を労働者にきちんと取得させることが必要です。

特に「働き方改革関連法」による改正で、会社側(使用者側)は、10日以上の有給休暇を有する労働者に対し、5日について時季を指定して取得させることが義務化されました。

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実労働時間の把握・管理

ワーケーションのように、オフィスから離れた場所で勤務する場合に、最も難点となるのが「労働時間の把握・管理」です。会社は、労働者の労働時間を適切に把握し、時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金等の、いわゆる「残業代」を支払わなければならないからです。

労働基準法には、時間把握が困難な労働者に適用できる「事業場外労働のみなし労働時間制」という制度を用意しています。この制度によれば、「一定の時間だけ働いたことと『みなす』」ことができます。

しかし、この制度の導入には、単に「事業場外で労働している」というだけでは足りず、会社の指揮監督が及んでおらず、労働時間の把握が困難であるという状況でなければなりません。

ワーケーションで働く時間について、事業場外労働のみなし労働時間制を適用するためには、次の点をチェックする必要があります。

  • チャットツールと常に起動し続けることを指示すると、会社の指揮監督が及んでいると判断される可能性が高い。
  • スカイプ、ZOOMなどでのテレビ会議を行うと、会社が労働時間を把握できたと判断される可能性が高い。

事業場外労働のみなし労働時間制を適用しない場合には、原則に戻って、ワーケーションであっても、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録(ログ)等の方法により、会社が労働時間を把握しなければなりません。

やむを得ない場合には、労働者の自己申告による労働時間の把握も可能とされていますが、実労働時間通りの申告をするよう教育、指示する等、適正把握に努める必要があります。

労働者の健康・安全

仕事の場所がオフィスではなく、帰省先や旅先である場合、仕事による精神的ストレスは軽減されるかもしれません。とはいえ、労働者の健康・安全面に配慮しなければならないことは、ワーケーションでも変わりません。

ワーケーション中に、怪我をしたり病気になったり、精神疾患(メンタルヘルス)にり患したりした場合、業務上の災害となるのか、それとも、私的行為による私傷病となるのかの区別が、通常よりも曖昧になりがちです。

ワーケーション中であっても、業務上の行動と、業務外の行動とを明確に区別できるよう、会社、業種、職種ごとに、明確なルールを作成すべきです。

ワーケーションを導入する場合、ワーケーションに関する就業規則の別規定を作成して、ルール作りをし、労働者にあらかじめ周知しておくことがお勧めです。

ワーケーションを導入する企業の注意点

最後に、ワーケーションを導入するにあたって会社が知っておくべき注意点を、弁護士が解説します。

ワーケーションのメリットは大きいものの、急激に導入すると、これまでの働き方とのギャップに戸惑いを覚える社員が発生したり、うまく活用できない(もしくは適用対象外の)社員の中で不公平感が生まれたりしてしまいます。

最初は試験的に導入しながら、徐々にワーケーション実施期間を長くしたり、ワーケーション対象社員を増やしたりと、浸透させていく過程が重要となります。

対象者・対象時期のルール作り

ワーケーションを導入するにあたっては、役職、部署、業種、業務内容など、対象の定め方は様々です。全社員に一律導入すると業務上の支障が生じ、デメリットが大きい場合、一部の職種に限定して導入することもできます。

最初にワーケーションを導入するに最適な業種は、デスクワークを中心とし、メール、チャット、ビデオ会議などでコミュニケーションを代替できる社員です。これに対して、顧客訪問、電話対応、来客対応などが必要な窓口部署には、ワーケーションは向きません。

また、ワーケーションは、労働者の自主性、自律性に任せる部分が大きく、会社への忠誠心の醸成が進んでいないと考えられる、勤続年数の短い新入社員には、ワーケーションの導入はお勧めできません。

これに対し、勤続年数の短い社員であっても、ワーケーションを前提として中途採用した高度な専門職種の場合、ワーケーションのメリットの1つである採用力の強化を生かすことができます。

ワーケーションの期間・時期は、繁閑の差が明確な会社の場合には、従来から有給休暇の取得の多い閑散期に限ってワーケーションの取得が可能な制度とすることがお勧めです。

管理・監督方法

ワーケーションを導入しても、会社が労働者を管理・監督し、仕事の進捗を確認・把握しておかなければならないことに変わりはありません。

特に、みなし労働時間制を適用しない場合の労働時間管理について、きちんと整備しておかなければ、労働者のやる気を減退させ、モチベーションの低下につながりかねません。ワーケーションの労働時間の管理方法には、次の方法を検討してください。

  • 業務の開始・終了時に、電話・メール・チャット等の方法で上司に報告を入れさせる方法
  • 業務日報を作成させ、1日の始業時刻、終業時刻を記載し、提出させる方法
  • GPSと連動した、クラウド型の労働時間管理システムを導入する方法

労働者の労働時間を把握し、長時間労働となる場合には割増賃金(残業代)を支払うほか、心身の健康を害するほどの長時間労働とならないよう注意すべきことは、ワーケーションの導入をしなくても変わりません。

これを機会に、会社の労働時間把握が適正になされているか、見直してみてはいかがでしょうか。

就業規則の作成・変更

ワーケーションのルールは、就業規則に定め、労働者に周知しておく必要があります。「休日・休暇」に関する事項は、就業規則の絶対的必要的記載事項です。

既存の就業規則では、ワーケーションの導入に対応できない場合には、就業規則を変更したり、ワーケーションの権利を有する労働者にのみ適用される新しい就業規則を作成したりといった対策が必要となります。

就業規則においてワーケーションのルールを定めるにあたっては、ここまで解説してきた労働時間把握、みなし労働時間制の有無の他、次のような細かいことも決定しておく必要があります。

  • ワーケーション時の労働時間把握(特に、事業場外労働のみなし労働時間制の有無)
  • ワーケーションの対象労働者、対象期間、対象地域の制限
  • ワーケーションを許可制とするときの申込方法、決裁権者
  • ワーケーションを取得する単位(1日単位、半日単位、時間単位など)
  • ワーケーション時の通信機器、通信費の負担者
  • 緊急対応時のワーケーションの中止の有無、方法

就業規則を作成したら、全社員に周知する必要があります。これは、ワーケーション用の就業規則の作成・変更であったとしても、全社員に行うべきです。

就業規則を作成するだけでは足りず、正しく運用しなければなりません。ワーケーション対象者はもちろん、その上司も、ワーケーションの趣旨を理解し、配慮し合うために、会社側(使用者側)からの説明会や、教育・指導が重要です。

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情報セキュリティの強化

ワーケーションを行う際には、ICT(情報通信機器)の活用が重要であり、ノートPC、タブレット、スマートフォン等によって仕事をすることになります。

会社のモバイル端末を貸し与える場合はもちろん、社員の私物を活用する場合には特に、情報セキュリティの対策が非常に重要です。特に、私用のパソコン、スマートフォン等を使うとき、情報の流出やウィルス感染を避けるため、セキュリティソフトのインストールは必須です。

また、旅先や帰省先でワーケーションによって仕事をすると、気が緩みがちで、これら重要な機密情報の詰まった情報通信機器の紛失・盗難・破損などが起こりがちです。

ワーケーション中の事故であっても業務上の行為によるものであれば「業務上災害(労災)」ことからもわかる通り、逆に、ワーケーション中であっても、業務に影響を与える行為は、懲戒処分などの処罰対象となることがあります。

ワーケーションを利用する社員に対しては、特に情報セキュリティに関する意識を高く持つよう教育が必要です。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、日本航空株式会社(JAL)が導入するなどして、新しい働き方として注目を集めている「ワーケーション」について、弁護士が解説しました。

ワーケーションによる「旅先で働く」という考え方は、新しい発想としてとても新鮮ですが、労働法の規制は他の働き方と変わらず、従来の法規制が適用されます。労働法を遵守しながら、ワーケーションのメリットを生かせるよう、導入する会社側の事前準備が重要となります。

ワーケーションの導入をはじめ、会社の働き方を適法に見直したい方は、ぜひ一度、企業の労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。

「リモートワーク」の法律知識まとめ

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