会社の経営者が、なんの準備も、労働法の知識もないまま、労働組合との「団体交渉」に臨むのは、あまりに¥危険で、リスクの高い行為と言わざるを得ません。
しかし、逆に労働組合との「団体交渉」を避け、「団体交渉」の要求を放置し続ければ、「不誠実団交(団交拒否)」という不当労働行為として「損害賠償」などの責任追及を受けることとなります。
特に最近では、労働者1人からでも加入が可能「合同労組」「ユニオン」があるため、社内に労働組合の存在しない会社であっても「団体交渉」を行わなければならないおそれが発生します。
今回は、労働組合との「団体交渉」を、弁護士に依頼すべき理由を、人事労務を得意とする弁護士が解説していきます。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ
労働組合は労働者側の味方
労働組合は、労働者側の味方です。決して、労使間の話し合いについて、会社側(使用者側)に都合よく円滑に進めるために、中立的に間に立ってくれるわけではありません。
労働組合の主張は、100%労働者側に有利なもので、逆に言えば、会社側にとっては100%不利な内容と考えてもよいでしょう。
「団体交渉」は、裁判ではないため、裁判官のように、中立の立場に立って客観的な判断をしてくれる立場が存在しません。
そのため、弁護士に「団体交渉」、労働組合対応を依頼することによって、100%会社経営者側の味方をしてくれる専門家を、「団体交渉」に参加させる必要があるわけです。
労働問題の相談先を整理できる
労働問題といっても、その内容は様々です。会社経営者の中には、労働問題を、弁護士ではなく、税理士や社会保険労務士に相談されている方も少なくないのではないでしょうか。これは、一面では間違いではありません。
弁護士ではなく、社会保険労務士などに相談をした方が適切な労働問題もあるためです。
とはいえ、経営者の方は、「団体交渉」で問題となった労働問題について、どこに相談したらよいのかすらわからない状況がほとんどでしょう。
弁護士は、「団体交渉」や労働組合対応において、経営者の代理人となることによって労働問題を洗い出し、適切な相談先をアドバイスすることができます。
団体交渉を「代理」できる
労働問題を専門とする士業には、弁護士以外に社会保険労務士もいます。一番の違いは、会社経営者の「代理人」となることができるかどうか、という点です。
社会保険労務士は、会社の代理人となって交渉をすることはできず、「団体交渉」に参加することが適切であるかについては、議論の余地のあるところです。
これに対し、弁護士は、「団体交渉」、労働組合対応において、会社を代理し、「団体交渉」に積極的に関与することができます。
弁護士に代理人として「団体交渉」に参加してもらうことによって、「団体交渉」に、労働問題に精通した専門家を積極的に関与させることができます。
労働組合対応はスピードが重要
労働問題に、労働組合が関与する場合、労働組合の行動は非常にスピーディです。
労働者から相談を受けると即座に、電話、FAXなどの方法によって連絡をしてきます。ケースによっては、会社に直接来社するケースも少なくありません。
そして、次のような書類を会社に提出し、即座の対応を強く求めてきます。
- 労働組合結成通知書
- 要求書
- 団体交渉申入書
- 労働組合資格証明書
これに対し、適切な対応を即座にしなければなりません。もちろん、その場で回答することは困難ですから、持ち帰って検討する必要があるわけですが、労働組合の要求を拒否することは適切な対応とはいえません。
いざという時の対応を迅速に行うためにも、「団体交渉」をはじめとする労働組合への対応を弁護士に依頼する必要があります。
労働組合には上部団体がある
労働組合は、上部団体が存在することが一般的です。すなわち、どこかの大きな労働組合に所属しているというわけです。
そのため、一般的な労働問題について、「団体交渉」の戦い方のノウハウや、法律知識を十分に有しています。
労働組合は、上部団体と情報共有することによって、はじめての労働問題であっても、知識と経験を豊富に利用することができるわけです。
経営者側でも、労働組合の上部団体の豊富な知識、経験に対抗するために、「団体交渉」を弁護士に依頼する必要があります。
労働組合の支部設立のおそれがある
「当社には労働組合がない。」という意識をお持ちの経営者の方は多いのではないでしょうか。しかし、最近の「団体交渉」の担い手は、企業の外部にあり、労働者1名であっても参加が可能な「合同労組」「ユニオン」です。
合同労組の「団体交渉」に応じる必要があるかについては議論の余地のあるところではありますが、応じないことによって「不当労働行為」の責任を負うリスクがあります。
また、解決を進めることには会社にもメリットがあることから、相手が合同労組であっても「団体交渉」を受けるのが通常です。
労働組合の活動が御社内で活発になった場合、合同労組の支部を、会社内に設立されるおそれがあります。
したがって、弁護士に依頼することによって「団体交渉」に迅速に対応し、労働問題の拡散を防止する必要があります。
団体交渉は継続的に行われる
「団体交渉」をはじめとした労働組合と会社との闘いは、「苦しいときを一瞬乗り切れば大丈夫!」というものではありません。
というのも、「団体交渉」は、団体交渉で話し合うべき労働問題が解決しない限り、何度も行われます。労働組合との関係は、長期的に継続します。
その上、「団体交渉」をしている間に、新たな労働問題が発生し、議題が追加されるケースも少なくありません。
労働組合との継続的な戦いを、顧問弁護士としてサポートし、会社経営者の味方になる存在こそ、弁護士なのです。
労働協約の締結を求められる
「団体交渉」では、労働組合は、会社経営者に対して、「労働協約」の締結を求めてきます。
しかし、労働組合の出してきた書類に、安易にサインをすることはお勧めできません。というのも、会社にとってデメリットの多い内容であることがほとんどだからです。
労働組合が締結を求めてきた労働協約について、弁護士のアドバイスをお願いしながら、次の点を検討しなければなりません。
- そもそも、労働組合が締結を求めてきた書面が、労働協約に当たる可能性があるのか。
- 労働協約の内容が、会社にとって適切な内容となっているか。
- 労働協約の内容が、会社にとって一方的に不利な内容ではないか。
したがって、労働協約を提示されたときに、その場で検討可能な状態にしておくためにも、弁護士に依頼して「団体交渉」に参加してもらう意味があるといえます。
不当労働行為の危険と隣り合わせである
会社が労働組合と行う「団体交渉」では、会社は、常に不当労働行為の危険と隣り合わせです。
というのも、憲法上、労働組合には強い権利が認められており、会社がその権利を侵害することは、労働組合法によって、「不当労働行為」として禁止されているからです。
しかし、「団体交渉」は「交渉」ですから、ついヒートアップするあまりに、会社経営者が、禁止されている不当労働行為を行ってしまいがちです。
「団体交渉」で弱気な態度にはならないように気を付けつつも、行き過ぎて不当労働行為を行わないためにも、弁護士が適切なタイミングで会社経営者の行為にストップをかける必要があります。
特に、「団体交渉」中の発言は、労働組合側に録音をされている可能性が高いため、慎重な吟味が必要となります。
経営権を奪取されかねない
会社を経営する権利は、当然ながら会社経営者のもの(専権)です。
この中には、次のような重要な権利(経営権)が含まれています。
- 業務命令権
:従業員に対して業務命令を行う権限 - 人事権
:従業員の人事的な取扱を決定する権限 - 施設管理権
:社内の施設の安全を守り、管理する権限
会社が「団体交渉」において労働組合の言うなりとなれば、これらの重要な「経営権」についても、労働組合の同意が必要であるとする書面にサインしてしまうおそれもあります。
弁護士に「団体交渉」を依頼することにより、どこまでの労働組合の要求を拒絶してもよいのか、その場で適切な判断を得ることができます(すべて拒絶する、という対応が不当労働行為として違法となることは、既に解説したとおりです。)。
インターネット情報は労働者に有利
インターネット上で法律知識を調べて対応しようとする場合、気を付けなければならないのが、その情報が労使いずれの立場で記載されているか、ということです。
多くのインターネット上の労働に関する情報は、労働者側の立場を前提として書かれています。
労働者側の権利を強く主張し、会社を攻撃するための方法は、インターネット上に多く記載されていますが、会社がどのようにしてディフェンスをすべきかについてはあまり詳しく記載されていません。
そのため、会社経営者として労働組合対応、「団体交渉」を行う場合、インターネット上の情報を根拠とすることは、危険であると言わざるを得ません。
したがって、会社経営者側の100%味方となってくれる弁護士に依頼し、会社側の立場に立った弁護活動を展開すべきです。
労働組合の権利は憲法で保障される
日本で適用される法律の中で、最も優先されるのが「憲法」です。そして、労働組合の権利は、憲法上保障された権利です。したがって、労働組合の権利保障は、非常に強力です。
労働組合が、「団体交渉」において会社に対してかけてくる圧力は、全て法的な権利保障を背景としているからこそ強いのです。これに対して、会社や経営者を守るための法律はありません。
あるとすれば、会社内で適用されるルールである「就業規則」が、唯一会社を守るための武器となるといえるでしょう。
就業規則の解釈と適用は、法律の専門家である弁護士の最も得意とする分野です。
正当な組合活動は罪に問われない
労働組合>による正当な組合活動は、罪に問われません。刑法上の刑事罰の対象とならないだけでなく、民法上の違法性もなく、損害賠償請求もできません。
そのため、労働組合は、「団体交渉」において、このような強い権利保障があることから、会社に対して非常に強く圧力をかけることができるのです。
労働組合の「団体交渉」における圧力に対し、会社側が対抗するためには、「どこまでが正当な組合活動であるか。」をその場で判断できるようにしておくことが必須です。
例えば、次のような行為は、一般人が行えば違法となるおそれがある行為ですが、労働組合が行う場合、「正当な組合活動の範囲」内であれば適法です。
- 会社の前で拡声器を使って会社を非難する。
- 団体交渉で大声で社長を批判する。
- 会社内でビラを配ったり貼ったりする。
- 会社の情報を上部団体の労働組合に知らせる。
- 街宣活動やストライキを行う。
正当な組合活動の範囲を超えた行為であれば、刑法上も民法上も違法となり、責任追及をすることが可能です。
しかし、その場で責任追及ができなければあまり意味がなく、事後的に弁護士に相談したとしても「やられ損」となりかねません。
そのため、弁護士に依頼し、「団体交渉」への参加をしてもらう意味があるわけです。
組合費は安く、成功報酬制が多い
労働者から相談を受け、「団体交渉」を行う「合同労組」や「ユニオン」では、組合費は非常に安く設定されている場合が一般的です。
「団体交渉」を手伝う際の費用も、着手金などは存在しないか非常に安く、成功報酬制が多いです。
そのため、労働組合は「団体交渉」に勝利するために非常に熱意を燃やしますし、資金難によって「団体交渉」がストップすること期待できません。
したがって、「団体交渉」を適切に進行するための手配は、会社が積極的に行わなければならず、その際には「団体交渉」に関する法律知識や、過去に「団体交渉」を進めた経験が必要です。
「団体交渉」に関する一般的な進行についても、労働組合任せにしないために、経験豊富な弁護士に依頼して主導的に進めることができるようにしておきましょう。
会社の説明義務を果たす必要あり
「団体交渉」では、労働組合の要求に、必ずしもすべて応じる必要はありません。ただ、労働組合の要求に応じる場合であっても、応じない場合であっても、会社は労働組合に対して、十分な説明を果たさなければなりません。
言い換えると、「団体交渉」において会社は、労働組合に対して説明義務を負っているというわけです。とはいえ、会社にも営業上の秘密、機密事項がありますから、全ての情報を開示するというわけにはいきません。
どの程度の情報を開示して説明をすることで、説明義務を果たすことができるのかについて、「団体交渉」のその場で判断をすることが求められ、「団体交渉」の場における弁護士のアドバイスが必須となります。
「団体交渉」における労働組合からの質問に対し、会社の回答がすべて「持ち帰って検討する。」という内容では、「不誠実団交」という不当労働行為であるとされ、違法となるおそれもあります。
団体交渉の中断・中止の判断は適切に
「団体交渉」の最中、「団体交渉」を中断、中止しなければならないときがあります。
労働組合が、憲法、労働組合法によってその権利(労働三権)を強く保障されているとはいえ、次のようなケースでは、「団体交渉」の中断、中止が可能です。
- 労働組合側の参加者が多人数であり、団体交渉における適切な議論が期待できないとき
- 労働組合側が会社側の参加者に暴行を加えたり、監禁したりしたとき
- 団体交渉の議題が不適切であるとき(抽象的であったり、会社と話し合うべき事項でなかったりした場合等)
どの程度の状況となったら「団体交渉」を中断、中止してもよいのかを、その場で判断可能な状態にしておくために、「団体交渉」の場における弁護士のアドバイスが必須となります。
金銭解決の落としどころ
個別の労働者との間の労働問題が「団体交渉」の議題となっている場合には、最終的な解決は、労働審判や訴訟などと同様、和解によるケースが一般的です。
この場合、労働者側の方針次第でもありますが、退職を前提とした金銭解決で「団体交渉」が終結することも少なくありません。
そのため、労働審判や訴訟であればどの程度の解決となるかを参考に、「労働組合が提案する金銭解決が妥当な内容であるか。」を判断する必要があります。
すなわち、「金銭解決の落としどころは適切か?」ということです。
労働問題を得意とする弁護士は、労働審判や労働訴訟の経験を豊富に有しており、金銭的解決の落としどころについて、妥当なラインを判断することができます。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ