労使トラブルにおいて、「合同労組」、「ユニオン」と呼ばれる団体が関与する場合があります。
例えば、不当解雇、残業代請求などの際に、労働者が外部の労働組合に加入して、会社に団体交渉を要求するケースです。
合同労組・ユニオンについての基本的な知識を理解せず、労働組合の要求を無視したり、団体交渉を拒否したりすれば、「不当労働行為」として違法行為となり、労働委員会で争うなど、更に大ごととなる危険があります。
また、合同労組・ユニオンによるビラ配り、街宣活動など、会社側(使用者側)にとって不利益の大きい活動に発展することもあります。
そこで今回は、団体交渉に対して不誠実な対応をとってしまわないよう、まずは「労働組合・ユニオンとは何か?」という基本的な知識を、弁護士が解説します。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ
合同労組・ユニオンとは?
合同労組・ユニオンとは、従来の企業別労働組合とは異なり、一定の地域ごとに結成される、労働者1名からでも加盟することのできる労働組合のことです。
合同労組・ユニオンに加盟しているのは、主に中小企業、小規模企業の従業員が多く、使用者の権力が強く、企業内労働組合が組成されないため、その権利保護のために組織されます。
日本的雇用慣行において「労働組合」というと、企業内労働組合が想像されますが、企業内労働組合の組織率はとても低く、加入しているのは、大企業など一部の企業の社員のみです。
大企業であっても、リーマンショックをはじめとした景気の後退により、企業内労働組合は「御用組合」となり、労働者の権利保護のために会社と戦うことはあまりありません。
このような背景から組成された個人でも加入できる労働組合(合同労組・ユニオン)が、労働者の解雇、ハラスメント、未払残業代などの労使トラブルの際、問題解決を求めて団体交渉を申し入れるのです。
合同労組・ユニオンの特徴
合同労組・ユニオンは、一定の地域ごとに組織されたり、業種や職種によって組織されたりします。「産業別組合」、「職業別組合」などとも呼びます。
合同労組・ユニオンは、その組織された地域や産業、業種に応じて「○○ユニオン」といった名称を称して活動します。
合同労組・ユニオンは、特定の上部団体を持つことがあり、その組成の経緯などによって、活動方針、思想も様々です。上部団体には、日本労働総合総連合会(連合)、全国労働組合総連合(全労連)などのナショナルセンターがあります。
共通した特徴としては、以下の通りです。
- 中小企業の労働者による活動が中心である。
- 労働者1人からでも加盟できる。
- 労働者であれば、雇用形態(正規社員、非正規社員)の別を問わず加盟できる。
- 労働者の個別労使紛争を団体交渉の目的とする。
合同労組・ユニオンとの団体交渉
合同労組・ユニオンを相手どった団体交渉は、同じ団体交渉でも、企業内労働組合との交渉のように円満には進みません。
これは、合同労組・ユニオンによる団体交渉が、労働組合に加入した労働者の、個別の労働条件などの労使トラブルが、団体交渉の議題となるからです。
団体交渉の席上で罵声や野次が飛び交ったり、数十人の組合員が押し寄せたりなど、激しい紛争となるケースも少なくありません。
更には、会社が労働組合の要求に応じない場合に、ビラ配布、ビラ貼り、会社敷地前や社長自宅前での街宣活動など、激しい抗議行動が行われることもあります。
団体交渉に慣れていない会社の場合、社長や担当者が委縮して、労働組合の言うがままに進んでしまうこともありますが、このような激しい紛争であっても、冷静な交渉が重要となります。
合同労組・ユニオン以外の労働組合の種類
労働組合には、合同労組・ユニオンのような団体だけでなく、さまざまな種類があります。
労働組合運動の初期には、資本主義制度の確立にともない、一定業種の労働者の労働条件の向上を目的とする、次の労働組合が一般的でした。
- 職業別労働組合
:同じ熟練職種の労働者が、地域別に集まった労働組合組織 - 産業別労働組合
:産業革命によって大量出現した非熟練者を産業別に保護することを目的とした労働組合組織 - 一般労働組合
:職種、産業の別を問わず、広い地域にわたる労働者の集まった労働組合組織
これに対して、日本的な雇用慣行の中で生まれた労働組合が、「企業別労働組合」です。これは、特定の企業に属する労働者が、職種、雇用形態を問わず組織した労働組合です。
大企業を中心とした、正社員の終身雇用制(長期雇用制)と年功序列の下に成り立った労働組合であり、労使協調路線がその特徴です。
労働組合の全国中央組織(ナショナルセンター)として、日本労働組合総連合(連合)、全国労働組合総連合(全労連)、全国労働組合連絡協議会(全労協)が存在します。
合同労組・ユニオンは「労働組合」にあたる?
法律上にいう「労働組合」とは、労働組合法(労組法)に定められた定義に該当する、労働者保護のための団体のことです。
労働組合法(労組法)では、「労働組合」と認められる団体の定義について、次のとおり定めています。
労働組合法2条
この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
1. 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてヽ いヽ触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
2. 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
3. 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
4. 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの
労働組合法に定められた定義を満たす限りは、企業内組合だけでなく、産業別組合、職業別組合などの団体も、「労働組合」にあたります。
したがって、合同労組・ユニオンなど社外の労働組合とも、会社は交渉する義務を負う場合があります。
自主性の要件を満たすか
労働組合法(労組法)における「労働組合」の定義には、「自主的に」と書いてあります。
つまり、「自主性の要件」を満たさない団体は、たとえ、合同労組・ユニオンなどの名称を用いていたとしても、労組法上の「労働組合」ではありません。
労働組合の「自主性」は、組織面での自主性と、財政面での自主性が必要とされています。
組織面での自主性においては、役員や管理職など、監督的な地位にある労働者が加入していないことが条件とされています。これらの地位の高い労働者が加入していると、会社の言うがままになってしまい、労働者が「自主的に」活動している団体といえないおそれがあるためです。
財政面での自主性の点では、団体の運営のための経費支出などについて、会社の援助を受けていないことが条件とされます。ただし、以下の経費援助が、例外的に認められています。
- 労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すこと
- 厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附
- 最小限の広さの事務所の供与
参考
管理監督者など、監督的な地位にある労働者が加入していると、「自主性」の要件を満たさず、労組法上の「労働組合」にはあたりません。
しかし、「名ばかり管理職」のように、「部長」などの役職を与えられていても、実際は平社員と何ら変わらないようなケースでは、加入をしていても、「自主性」の要件を満たす場合があります。
労組法上の「労働組合」への会社側の対応は?
労働組合法にいう「労働組合」にあたる場合であって、資格審査をクリアしている場合には、労組法に規定する手続きに参加することができます。
資格審査とは、労働組合が、労働委員会に証拠提出をして、「労働組合」に該当し、かつ、一定の必要事項を記載した規約を有することを認められることをいいます。
また、あわせて、会社側(使用者側)が団体交渉を拒否したり、不誠実な対応をした場合に、不当労働行為となり、労働委員会に対して救済の申立てをすることがでます。
知らない名前の団体であるからといって、合同労組・ユニオンが問題解決のために起こす団体交渉に対して無視や不誠実な対応をすることは、労働組合法違反となる危険があります。
以上のことからわかるとおり、相手にしている合同労組・ユニオンなどの団体が、労働組合法上の「労働組合」にあたるかどうかは、会社側(使用者側)にとっても重要なことなのです。
労組法上の「労働組合」にあたらない場合の会社側の対応は?
では、労組法上の「労働組合」にあたらない場合、団体交渉を拒否したり、不誠実な対応をしたりしてもよいのでしょうか。
例えば、役員などの管理職が加入している団体や、会社から運営のための経費援助を受けている団体などは、労組法上の「労働組合」にあたらない可能性が高いです。
しかし、労組法上の「労働組合」にあたらないとしても、それは労組法上の特別な保護を受けられないというだけで、その合同労組やユニオンの存在が否定されるわけではありません。
労組法上の「労働組合」にあたらなくても、労働条件の維持改善を目的とする団体の場合には、憲法上の「労働基本権」である「団結権」によって保護されることがあります。
この場合、労組法に定められた労働委員会による不当労働行為救済申立てによっては保護されないものの、団体交渉拒否(不誠実団交)を理由として損害賠償請求などの責任追及を受ける可能性があります。
労働組合の「資格審査」とは?
労働組合の「資格審査」とは、労働委員会が行う、その団体が、労働組合法(労組法)にいう「労働組合」の要件を備えているかどうかをチェックする手続きです。
労働組合は、あくまでも労働者による「自主的」な団体のため、届出義務などはありませんが、労働委員会での手続に参加するためには、「資格審査」を受けなければなりません。
不当労働行為救済申立て以外にも、労働組合法にある次の手続に参加する場合には、資格審査が必要です。
- 労働組合の法人登記の手続
- 労働協約の地域的拡張の申立ての手続
- 労働委員会の委員の推薦手続
- 不当労働行為救済申立て
労働組合の資格審査では、労働組合法2条と、労働組合法5条2項に定められた、次の要件を備えているかどうかについてのチェックが行われます。
自主的な団体であること
- 労働者が主体となって自主的に組織されていること
- 主目的が労働条件の維持改善、掲載的地位の向上にあること
- 使用者の利益代表者(管理職など)の参加を認めないこと
- 使用者から経費援助を受けないこと
- 共済事業その他福利事業のみを目的とするものでないこと
- 政治運動又は社会運動を主目的とするものでないこと
必要事項が記載された規約
- 労働組合の名称
- 労働組合の主たる事務所の所在地
- 連合団体である労働組合以外の労働組合(単位労働組合)の組合員は、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること
- 何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと
- 単位労働組合にあっては、その役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されること、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その役員は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること
- 総会は、少くとも毎年一回開催すること
- すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少くとも毎年一回組合員に公表されること
- 同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと
- 単位労働組合にあつては、その規約は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その規約は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと
資格審査を受けようとする合同労組・ユニオンなどは、管轄の労働委員会に対して、申請書その他の必要書類を提出します。
申請書などが提出された場合には、まず労働委員会より指名を受けた事務局職員による事務局調査が実施され、その後、公益委員会において法定要件を満たしているかどうかのチェックがなされます。
申請された団体が、労働組合法上の「労働組合」にあたるときは、労働委員会は、資格審査決定書の写しまたは資格証明書を交付します。
法適合組合でない場合には、「不適合決定」が出されます。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、労働組合対応・団体交渉対応を行う際に会社側(使用者側)が知っておくべき、合同労組・ユニオンの基本的な知識について、弁護士が解説しました。
合同労組・ユニオンは、日本に昔から存在する「企業内組合」とは異質のもので、戸惑う会社も多いかもしれませんが、団体交渉を申し入れられた場合には、慎重な対応が必要となります。
また、合同労組・ユニオンが、労働組合法(労組法)にいう「労働組合」にあたる場合には、労働委員会で行われる「不当労働行為救済申立手続」による特別の保護を受け、手厚く保護されます。
合同労組・ユニオンなどの労働組合への対応にお困りの会社は、ぜひ、人事労務に強い弁護士まで、お早めにご相談ください。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ