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会社を解散した後も、団体交渉に応じる義務がある?

業績悪化や後継者難、人手不足など、さまざまな事情で、会社を解散する場合があります。また、業績悪化が続けば、破産などの法的手続きで会社をたたむこともあります。

会社を解散した後、事業だけは他社に譲渡する場合、会社そのものを他社と合併する場合や、新会社を設立して継続する場合など、想定されるケースは多種多様です。

解散した会社の従業員(すなわち、元社員)の加入した労働組合から、団体交渉の申入れを受けたとき、既に会社が解散していても、団体交渉(団交)に応じなければならないのでしょうか。

今回は、解散事由や、その後の事業の継続の有無などのケースに分けて、解散した会社の社員からの団体交渉に対する適切な対応について、弁護士が解説します。

「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ

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会社の解散は自由

会社(企業)には、憲法上、「営業の自由」が認められています。つまり、どのような営業をすることも、営業しないことも、会社が自由に決めてよいことが保障されています。

労働組合が存在するからといって、会社を解散してはいけないわけではありません。

憲法22条1項

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

会社を解散すると、従業員との雇用関係は終了します。そのため、労働組合法(労組法)にいう「使用者」でもなくなることとなり、団体交渉に応じる義務もないのが原則です。

しかし、裁判例では、労働組合法の「使用者」は、労働者を直接雇用する会社だけでなく、これに類似する程度に、現実的、具体的に労働条件を支配・決定しているものも含むこととされています。

そのため、既に会社を解散してしまったとしても、会社の事業を引き継いだ新会社、社長個人などが「使用者」とならないかどうか、団体交渉(団交)を拒否する前に、慎重な検討が必要となります。

会社解散したら、団体交渉に応じる必要はない?

会社を解散した後、新たに別会社を設立した場合には、新たに設立された会社が、解散した会社の元従業員からの団体交渉を受ける必要があるのでしょうか。

団体交渉を受ける義務があるとすれば、拒否、無視に対しては「不誠実団交(団交拒否)」の不当労働行為の制裁があるため、とても重要です。

元従業員が加入した合同労組・ユニオンなどの労働組合から団体交渉の申入れを受けた場合には、個別のケースに応じた検討が必要です。そこで、会社解散の理由とケースごとに、弁護士が解説します。

労働組合を嫌悪しての会社解散

冒頭で解説したとおり、合同労組やユニオンなど、外部の労働組合に加入してしまった組合員がいる場合、会社を解散すれば、その組合員である労働者との間の労働契約(雇用契約)は終了します。

このことを悪用して、労働組合員を嫌悪して、「組合員を解雇したい」といった理由で解散しようとする会社があります。

しかし、不当労働行為の制度趣旨が、会社による労働組合に対する団結権侵害を回避し、労使交渉を健全化することにあることからすれば、労働組合を嫌悪しての会社解散は認められません。

労働組合を排除するため、あえて会社を解散させた場合、新設した会社が労働組合法上の「使用者」の地位を引き継ぎ、団体交渉の相手方となると判断される可能性があります。

実質的に同一性のある会社解散

労働組合を排除する趣旨以外にも、例えば、既に請求されている契約上の債務、不法行為の損害賠償請求などから逃れたい、という目的で、会社解散をしようと企図する場合があります。

会社を解散して、新しく設立した会社が、

  • 事業内容
  • 経営者
  • 組合員以外の労働者
  • 資本構成
  • 本店所在地など

を比較し、実質的に同一の会社であるといえる場合には、引き続き、元社員からの団体交渉を受けるおそれがあります。

「事業譲渡」の方法によって、ある会社から事業とそれに従事する従業員を引き継ぐ場合には、引継ぎ先の会社もまた、「使用者」として団体交渉に応じる義務(団交応諾義務)があるとされます。

偽装解散

以上のように、不当な目的・動機に基づく会社解散は、そもそも、その解散自体が認められず、無効とされる可能性もあります。このような問題ある会社解散を、「偽装解散」とも呼びます。

会社を一旦解散させた後で、従前と実質的に同一の会社を再度設立する「偽装解散」の場合、解散決議そのものが無効と判断されるケースもあります。

少なくとも、元従業員の加入した労働組合が、労働委員会において不当労働行為救済申立てを行った場合、「団体交渉に応じる義務がある」して救済命令が下されるリスクはとても高いといえます。

会社合併による解散

類似の事例として、会社合併にともない、合併によって消滅する会社に雇用されていた社員からの団体交渉を、合併によって存続する会社が受けなければならない場合があります。

これは、会社合併が、合併消滅会社が、合併存続会社に統合され、その法的地位を包括的に承継することが理由です。

つまり、合併前の段階で、存続する会社は、消滅する会社の、団体交渉対応を含めた一切の労務リスクを引き継がなければならないことを視野に入れ、売却額などの検討を行う必要があります。

会社分割による解散

労働契約承継法、会社分割法という法律が、会社分割時の労働関係について、基本的なルールを定めています。

この2つの法律によれば、分割会社は、分割に際して、労働者に対して事前通知を行い、協議を行う義務があります。この義務は、理解を得て、協力を取得する義務にとどまり、同意を得ることまでは不要です。

労働契約承継法には、労働組合に対する通知を義務とする定めはないものの、労働者が労働組合に加入している場合には、団体交渉が必要となるケースもあります。

会社分割の際の事前通知義務、協議義務に違反した会社分割について無効とする説もあることから、義務違反の場合には、解散し消滅した会社の従業員からの団体交渉にも応じなければならない場合があります。

「解雇」を争う団体交渉には応じる

会社側(使用者側)が、従業員を解雇した場合には、会社の一方的な意思表示によって、労働契約(雇用契約)は終了します。

しかし、労働契約(雇用契約)がなくなったとしても、団体交渉に応じる義務がなくなるわけではないことは、ここまでの解説からもご理解いただけるのではないでしょうか。

解雇された社員が、その解雇自体を労使トラブルとして争ってきた場合には、これを議題とする団体交渉に、会社は応じなければなりません。

ただし、この団体交渉に応じなければならない義務(団交応諾義務)も、永遠に続くわけではありません。例えば、解雇した20年後に起こされた団体交渉にも応じなければならないとすれば、会社にとって酷なケースもあるからです。

この点については、やむを得ない事情のない限り、解雇・退職した労働者による団体交渉は、相当期間が経過する前に申入れをする必要があります。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、団体交渉を申し入れられる典型的なケースである、「現在雇用している社員が、労働組合に加入してしまった」というケース以外の、例外的なケースについて弁護士が解説しました。

会社を解散し、法人格が消滅すれば、労使の雇用関係も消滅します。しかし、これによっても、団体交渉に応じる義務までなくなるわけではないことに注意が必要です。

特に、労働組合を排除する目的での解散、偽装解散など、会社解散自体が不適切な場合には、「団体交渉拒否(不誠実団交)」の不当労働行為の責任追及を受けるおそれが多いにあります。

「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ

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