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子会社社員の労働組合からの団体交渉!応じる義務あり?

子会社の社員が、合同労組・ユニオンなどの労働組合に加入して、親会社に対して団体交渉を申し入れてきたとき、親会社は、これに対応する必要があるのでしょうか。

団体交渉に応じる法律上の義務がある場合には、申入れを拒否したり、無視したりなど不誠実な対応をすれば、「不誠実団交(団交拒否)」という不当労働行為にあたり、違法であるため、慎重な検討が必要です。

労働組合法の趣旨から考えて、親会社が、子会社の従業員の労働条件を左右できるのであれば、団体交渉による労使トラブルの解決が有効です。

今回は、親会社の立場から、子会社従業員の加入した労働組合の団体交渉への適切な対応方法について、弁護士が解説します。

「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ

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親会社と子会社の関係

親会社と子会社とは、一定の資本関係を有する会社のことをいいます。2つの会社の関係を「親子関係」ともいいます。

親会社、子会社の定義は、会社法に、次の通り定められています。

ポイント

親会社は、「株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。」(会社法2条4号)と定められ、この「法務省令で定めるもの」とは、「会社等が同号に規定する株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該会社等」(会社法施行規則3条2項)とされています。

子会社は、「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。」(会社法2条3号)と定められ、この「法務省令で定めるもの」とは、「同号に規定する会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等とする。」(会社法施行規則3条1項)とされています。

以上の定義からもわかるとおり、親会社と子会社は、一定の資本関係をもとに、会社の所有権(議決権)をあらわす株式を保有する関係にあります。

そして、「一定の資本関係」は、「総株主の議決権の過半数」を基本とするものの、過半数以下であったとしても、経営を支配している関係にあると評価できる場合には、「親子関係」となる場合があります。

株式を取得することにより、親会社は、子会社の重要事項について、決定権に影響を及ぼすことができます。

しかし、親会社と子会社とは、それぞれが別の法人格を持っており、法律上の権利義務関係は、全く別物です。子会社の社員はあくまでも子会社との間でしか雇用関係を有しないのであり、決して、親会社の社員にはなりません。

親会社は、子会社社員の「使用者」にあたる?

親会社と子会社とは別の法人格であり、子会社と雇用契約(労働契約)を結んだとしても、親会社の社員になるわけではないことは、前項で解説したとおりです。

そのため、原則として、子会社の社員との関係では、親会社は、労働組合法(労組法)7条にいう「使用者」にはあたりません。そのため、労組法上の団体交渉に応じる義務も負わず、不当労働行為の責任も負いません。

しかし、労働組合法(労組法)にいう「使用者」は、直接の雇用関係がある会社だけでなく、その類似の会社であって、労働条件について現実的かつ具体的に支配・決定する会社も含まれることが、次の裁判例で明らかにされています。

朝日放送事件(最高裁平成7年2月28日)

雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的にとはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。

親会社・持株会社の団交応諾義務が否定された裁判例

親子関係にある会社の、団体交渉応諾義務について、重要な裁判例を紹介します。

「高見沢電機製作所ほか2社事件」(東京高裁平成24年10月30日判決)では、次の通り、親会社、持株会社の「使用者性」が、それぞれ否定されました。

高見沢電機製作所ほか2社事件(東京高裁平成24年10月30日判決)

あくまでも企業グループにおける経営戦略的な観点から、親会社ないし持株会社が子会社等に対して行う管理監督の域を超えるものではないというべきであり、日常的な労働条件に関する問題についても、また、本件事業再建策等に伴う労働条件に関する問題についても、・・・(中略)・・・労働者の基本的な労働条件について雇用主と同視できる程度の現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったというだけの根拠は存在しない。

つまり、親子会社の関係にある場合には、一定の支配、決定をする権利が親会社にあることは当然であると認め、その程度が、一定程度を超える強度のものであることが必要と考えるべきです。

企業グループを形成している場合、頂点に立つ親会社が、方針や経営計画をある程度主導しているのは当然ですが、それだけでは労働組合法7条の「使用者」にはあたりません。

親会社が、子会社を監督している、という程度では、労働条件を実質的に支配、決定しているとはいえず、子会社の社員からの団体交渉を拒絶してよい場合もあります。

参考

この裁判例では、労働委員会の判断(原処分)、東京地方裁判所(第一審)の判断では「使用者性」を認め団体交渉に応じるべきという判断をしています。

審級によって判断が分かれたことからもわかるとおり、「子会社の社員からの団体交渉に応じるべきか」という問題は、とても微妙な判断を伴うものであり、安易な団交拒否は禁物です。

親会社による子会社社員との団体交渉の適切な対応

最後に、子会社社員が加入している労働組合から、団体交渉の申入れを受けたときの、親会社における適切な対応について、順を追って弁護士が解説します。

「雇用関係がない」だけで拒絶しない

ここまでお読みいただければご理解いただけるとおり、「直接の雇用関係がない」というだけでは、労働組合法にいう「使用者」にあたらない理由とはなりません。

直接の雇用主でなくても、労働組合からの団体交渉に応じなければならない場合があるからです。

そのため、見ず知らずの合同労組・ユニオンから団体交渉を求められたとしても、「対象となっている労働者と、雇用関係にないから」というだけで拒絶しないよう注意が必要です。

団体交渉事項を精査する

次に、労働組合から提出された「団体交渉申入書」などの書面をチェックし、その団体交渉の議題が、どのような事項かを精査します。

団体交渉は、労働組合の求める議題について交渉をする場であり、その議題が、子会社の従業員に関する事項であったとして、親会社が交渉に応じるべき議題なのか、という点が重要だからです。

親会社の決定権を調査する

最後に、団体交渉の議題となる事項ごとに、その労働条件などを、親会社が決めているのか、子会社が決めているのかを調査してください。

労働条件の決定過程が複雑であったり、決定権者、決裁者が複数いる場合には、誰に実質的な権限があるかの判断が必要です。強い影響を及ぼしている場合「決定権の有無」だけでなく「影響力の程度」も調査してください。

子会社社員の労働条件であっても、実質的には親会社が決定していると判断される事項が議題に含まれていた場合には、親会社が団体交渉に応じるべきです。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、子会社の社員が加入した合同労組・ユニオンなど労働組合から団体交渉を受けた、親会社における適切な対応について、弁護士が解説しました。

裁判例をご覧いただければわかる通り、親会社が、子会社社員と直接の雇用関係にないからというだけでは、団体交渉を無視、拒絶してよい理由にはなりません。

自社の影響力、決定権を精査し、労働条件を左右することができるかどうかによって、団体交渉を受けるべきかどうかは変わってきます。ご不安なときは、ぜひ一度、人事労務に詳しい弁護士にご相談ください。

「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ

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